兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します! 作:八重歯
ついにクィディッチシーズンが始まった。
第一試合はグリフィンドール対スリザリンで、グリフィンドールチームは最高級の箒を持つスリザリンチームと戦わなければならない。
ハリーは緊張しつつも何度か試合を経験してるからか、死にそうな顔色にはなっていない。大広間の長机でグリフィンドールチームの人たちと一箇所になって座り、何やら作戦を立てているのか真剣な顔で話し合っていた。
今日、試合前で一番やばいのは。
「ドーラコ」
ドラコである。
ただでさえ青白い肌がもはや亡者のような土気色になり、今にも気絶しそうだ。うまく寝れなかったのか、目の下に隈まであるし。
他のスリザリンの選手達は最高級の箒を持っているからか、「絶対勝てる」と信じリラックスしているようだった。
ドラコはいつも一緒にいるクラッブとゴイルからも少し距離をあけ、目の前の皿には何も入れず置物のように縮こまっている。ま、クラッブとゴイルは朝食を食べる事に夢中でドラコを励まそうだなんて考えもしないか。
「ノア……」
俺が話しかければドラコは嬉しそうにはするものの、その笑顔はどこか引き攣っている。
いきなり現れた俺にスリザリン生が黄色い悲鳴を上げているのを後ろで聞きながら、ドラコの隣の空いてるスペースに座った。
「緊張してるのか?」
「……し、ていない」
周りの目があり、虚勢を張るドラコ。
確かにこれだけスリザリン生からの視線が突き刺さり、誰もが俺とドラコの会話に聞き耳を立てていたら弱音なんて吐けないだろう。スリザリン生だけでなく、近くにいる他の寮の生徒達も首を伸ばしてこちらを見ているし。
「ちょっとついてこいよ」
「あ……ああ、わかった」
この場から離れられる。という事にドラコはあからさまにほっとすると、いそいそと俺の後ろをついてきた。
すかさず俺の親衛隊が立ち上がったのを視界の端に捉えつつ、大広間近くの小部屋に入る。誰にも邪魔されないように扉を魔法で閉じ、防音魔法もかける。
ドラコはおぼつかない足取りで近くの椅子に座ると、大きくため息をついた。俺は机の上に腰掛け、項垂れるドラコを見下ろす。
「大丈夫か?」
「……この箒で、勝てなかったら……そう思うと、怖いんだ」
「練習は、きちんとしたんだろ?」
「それは……そうだが……」
「あんまり気負うと、うまく動けなくなるぜ」
この試合が原作通り負けるのか、勝つのかは俺にはわからない。今年のクィディッチは別に原作の大きな流れに関わっていない、と思うし。多分。おそらく。
ハリーが勝って欲しい気持ちもありつつ、やっぱドラコにも勝って欲しいな。
ま、セドリックとフレッドとジョージが言うにはスリザリンチームは箒の性能が良すぎるあまり、練習がいい加減になってるらしいからなぁ。ドラコが頑張っても周りがテキトーなら勝てないだろうし。──俺みたいに優秀なキーパーがいるならともかく。
「ノア……その……」
ドラコはもごもごと口の中で呟いていたが、何かを決心したかのように勢いよく立ち上がると、俺の前に必死な顔で向かいあう。その勢いに少し驚いていると──椅子がガタって倒れたし──ドラコは震える声で「ノア」と俺の名前を呼んだ。
「ノア……今だけでいい。嘘でも良いから、僕だけを応援すると言ってくれないか?」
「え?」
「恥ずかしい願いだとはわかっている。でも、──ハリーじゃなく、僕に勝って欲しいと、言って欲しいんだ」
きっと、ドラコはスリザリン生達に激励はされてきたのだろう。最高の箒をもっているのだから、勝って当然だよな、なんて軽く言われたのかもしれない。周りの期待が肩に重くのしかかり、プレッシャーに押しつぶされそうな中、そんなささやかで可愛らしい願いだけで頑張れるなんてなぁ。背伸びしていてもまだまだ子ども、なんだろうな。
「ドラコ」
「……つ……ノア……」
机の上からぴょんと降り、自分のローブを強く掴み白くなっているドラコの手に触れる。びくりとドラコは肩を振るわせ、縋るような今にも泣き出しそうな目で俺を見た。
「応援してるよ、ドラコ。今日は君だけを応援する。ハリーじゃなく、ドラコ、君に勝って欲しい」
「っ……ああ、ノア……ありがとう」
ドラコは眉を下げて、微笑む。
土気色だった顔はなんとかうっすら桃色くらいには変わっただろう。
「んじゃ、証拠に」
ドラコの首に掛かっているスリザリンカラーのネクタイを外す。ドラコは一体何をするのか、と──俺の指が首元を掠めた時にくすぐったそうに目を細め顔を赤くさせていた──俺の手にあるネクタイを見て首を傾げた。
「ドラコのネクタイをつけて観に行くよ」
「え……い、いいのか?」
「ああ、代わりに俺のネクタイでも、つけるか?」
「ほしい!」
自分のハッフルパフカラーのネクタイを外しながら冗談まじりに言えば、ドラコは食い気味に答えてハッフルパフカラーのネクタイを奪った。
……ドラコにその色のネクタイ死ぬほど似合わねえな……。
スリザリンカラーのネクタイを締め、手をくるりと回し目の前に大きな姿見を出す。うん、もともとスリザリンキャラ好きだし、スリザリンカラーのネクタイってやっぱり良いな……。
ドラコがネクタイを締めた俺を見て聞こえないほど小さな声で「ノアがスリザリンだったら良かったのに」と呟いたのが聞こえた。でもそんな事不可能だと、ドラコ自身もわかっているのか自分の手の中にあるハッフルパフカラーのネクタイをじっと見つめ、両手で祈るように握った。
「ノア……僕は今日、勝ってみせる」
「ん、頑張れ」
「ありがとうノア、本当に……」
「いいって。──さ、そろそろ選手は更衣室に行かなきゃならないんじゃないか?」
「ああ……」
ドラコは俺のネクタイをつける事はなかった。
丁寧に折りたたみ、もう一度祈るように顔の前に近づけ目を閉じる。
数秒すると目を開け、「いってくる」とはっきりと言いネクタイをローブのポケットの中に大切そうにそっと入れた。
指を振り扉にかけていた魔法を解除すれば、ドラコはかなり励まされたらしく軽い足取りで部屋から出て行った。
一人残った俺は姿見をもう一度見る。
スリザリン生のような俺の姿をじっくりと見て少し笑った。もし俺がスリザリンなら、原作は大きく変わっただろうなぁ。
兄世代じゃなくて、子世代なら。ハリーやドラコと同学年だったら、俺はどこの寮を望んだだろうか?騎士団陣営でエンジョイするのも楽しいし、闇側も良いキャラ多いし──どっちの陣営に、ついただろうか?
「なーんてな、所詮戯言か」
一人呟き、部屋を出た。
大広間に戻り、セドリックが居るハッフルパフ生が集まる長机に向かう。
俺を見た生徒達はみんな驚いて俺の顔と、俺がつけているネクタイを何度も見比べていた。そんな視線を感じながら何も言わずにセドリックの隣に座れば、セドリックはちらりと俺を見て視線を戻し──また俺を見た。
「そのネクタイ、どうしたの?」
「今日、俺はドラコを応援するから。ドラコから奪ってきた」
「……はぁ……。ハリーとフレッドとジョージが五月蝿そうだ」
フレッドとジョージはまぁ冗談っぽく嘆くだけだろうが、ハリーはまじでやばそう。
しかし幸運にもハリー達グリフィンドールチームはすでにウッドに引き連れられて更衣室に向かっているのかいなくなっていた。試合中は──ま、バレないだろう。
そうこうしているうちに試合開始間近の時間になり、俺とセドリックは他の生徒達と同じように競技場に向かった。雲はどんよりと分厚く広がっていて、生ぬるい風が吹いている。数分もすれば雨が降り出しそうな雰囲気に、生徒達は不安そうに空を見上げた。
試合内容は、それほど驚きもなく、至って想像通りに終わった。
スリザリンチームは確かに速かったが、それだけでチームとしての戦術もまとまりもないようで箒を使いこなせていなかった。
ドラコはシーカーとして真剣にスニッチを探していたが、たまたまハリーがドラコの後方に飛んでいるスニッチを先に見つけてしまい、ハリーがスニッチを掴み試合終了。
いつもの試合と異なるところは、競技場を飛び回ってるブラッジャーが異様なまでにハリーだけを狙っていた点だろう。ブラッジャーの一撃を喰らい、ハリーは腕が折れてしまったり、試合終了後目立とうとしたロックハートがハリーの折れた腕を治そうとして骨を抜いてしまったり一悶着あったが、どれも俺の想像から大きく外れる事はなかった。
もしかして、ドビーは原作に無い妨害をするかもしれないと考えたが、考えすぎだったようだ。
「結局、グリフィンドールの勝ちだったね」
「スリザリンチームもこれに懲りて練習きちんとやればいいな」
「それは無理かな。彼らは試合外での工作の腕ばかり磨いてるようだし」
セドリックは呆れ口調で言いながら立ち上がる。
観客達は口々にグリフィンドールの勝利を讃え、ハリーのシーカーとしての素晴らしい動きに興奮したように話し合っていた。
何人かがブラッジャーの動きがおかしかった事を話してはいたが、ブラッジャーと衝突して骨折なんてクィディッチではよくある話だ。たまたま変な動きに見えただけだろう、とそれ程深刻に考えてはいないようだった。
後ほど、夕食の時に大広間でドラコががっくりと肩を落としながら俺のネクタイを返しに来たからとりあえず励ましておいたが、ドラコはかなり落ち込み俺の励ましも──驚く事に──あまり効果はなかった。