兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します! 作:八重歯
クリスマス休暇が明け、一月、二月が過ぎた。学校中が継承者の事で神経を尖らせ、互いに互いを見張っているからか、あれから誰かが石になる事件は起こっていない。
廊下を歩く生徒たちは、少しずつ緊張や不安を解き笑顔で歩くようになっていた。スプラウト先生があと数ヶ月もすればマンドレイクが成熟し薬ができると言っていたのも、彼らの不安を和らげたのだろう。
そういえば、ハーマイオニーがクリスマス休暇を明けても現れないことに、はじめの方は「クリスマス休暇中に襲われたんだ」という噂が回ったが、それはハリーやロンが「ただ風邪をこじらせたんだ」ときっぱりと否定し、先生たちも犠牲者が出たと言わなかったからすぐにその噂は流れていった。
ハリーは俺にも「ハーマイオニーはちょっと風邪をひいたんだ」と説明しにきたが──それは嘘だと、開心術をかけてわかった。ま、深く聞くことはしなかったけど。
開心術で見た感じだと、原作通りハリーとロンとハーマイオニーがポリジュース薬を飲んで、ハーマイオニーだけ猫化してしまっていた。違うのはドラコと一緒にスリザリン生を調べた事だろう。
ハリーたちは一番怪しいのは、ハーマイオニーを穢れた血だと言ったマーカス・フリントだと考えていたようだが勿論それは間違いだった。
見た感じ、原作通りスリザリン内でも継承者らしい奴がいなくて困ってるっぽいな。
てっきり俺に頼ってくると思ったけど、何も言ってこないのは不思議だなぁ。
ま、平和なのはそれはそれでいいか。ヴォルが何を考えているのかは気になるところだけど。
と思いつついつものようにセドリックと一緒に朝食をとりに大広間に向かう。扉を押し開けた瞬間、目の前にドぎついショッキングピンクが飛び込んできて一瞬固まる。セドリックもあっけに取られた顔でピンクの世界を見つめていた。
「何、これ」
「あー……」
あったあった!
そういやロックハートがバレンタインになんかイベントしてた!
イギリスのバレンタインは確かに街中がバレンタイン一色になるし、イルミネーションもピンクのキラキラで溢れている。けどそれはどっちかというとマグル寄りの文化で、魔法界にはあんまり浸透してないんだよな。
ホグワーツに来てからはバレンタインの文化を感じることがなかったから、すっかり忘れてた!──そういや、ロックハートって親のどっちかがマグルだった気がする。
「バレンタインだからだな」
「ああ……たしかマグルの文化だよね?確かに最近は魔法界でもやる人はいるけど、こんなに大規模なのは初めて見たよ……」
「この日は親が片方マグルの子からプレゼントもらいやすいけど、それだけだしな……忘れてた」
大広間の壁という壁がでかいピンクの花で覆われていて、天井からはハート型の紙吹雪がふっていた。それは魔法の紙吹雪ではなく、本当の紙吹雪らしく消えることなく料理にふりかけのようにかかってる。……いや、邪魔じゃね?
俺とセドリックが大広間についたのはそこそこ遅い時間だったからか、ほとんどの生徒が嫌そうな顔をしながら椅子に座り、料理にかかる紙吹雪を払いのけていた。
俺たちが席に着いて少しして、壁と同化してしまうほど派手なピンクのローブを着たロックハートが自信ありげに両手をあげて「静粛に」と合図しつつ立ち上がった。愚痴をこそこそと囁いていた大多数と、ロックハートのファンでくすくす楽しげに笑っていた女生徒も静かになりロックハートの方を見る。
にこやかで自信ありげ、楽しそうなロックハートとは異なり、彼の両隣に座る先生たちは……多分ここにバジリスクが通ったのだろう。石化している。
石化してると思ってしまうほど、斜め下を見たまままじで無表情で動かなかった。
かなり嫌そうだけど、意外と先生達ってこういうの無理に止めたりしないんだよなぁ。……ダンブルドアの許可さえ貰ってればやりたい放題なのかな?流石に無許可でこのイベントはしないだろうし。
「バレンタインおめでとう!いままでのところ、二十六人の皆さんが私にカードをくださいました。ありがとう!そうです。みなさんをちょっと驚かせようと、私がこのようにさせていただきました。──しかも、これが全てではありませんよ!」
ロックハートが手を叩くと玄関ホールに続くドアから無愛想な顔をした小人が十二人ぞろぞろと歩いてきた。全員が金色の羽をつけて、ハープを持っていて……かなり不細工な天使になってる。
「私の愛すべき配達キューピッドです!今日は学校中を巡回して、皆さんのバレンタイン・カードを配達します。そしてお楽しみはまだまだこれからですよ!先生方もこのお祝いムードにはまりたいと思ってらっしゃるはずです!さあ、スネイプ先生に愛の妙薬の作り方を見せてもらってはどうです?ついでにフリットウィック先生ですが、魅惑の呪文について私が知っているどの魔法使いよりもよくご存知です。素知らぬ顔して憎いですね!」
ロックハートはバチコンとフリットウィック先生にウインクをする。
しかし、フリットウィック先生は「姿眩ましが使えたらどれほどいいだろうか」という顔をして低い背をさらに縮こませながら顔を手で覆い、セブルスは「今すぐこのバカに毒薬を飲ませたい」と鋭い目でロックハートを睨んでいた。
「さらに、私からもう一つ素晴らしいサプライズを用意してあります!このサプライズは、きっとこのバレンタイン・デーをさらに盛り上げるでしょう!──ノア、前に来てください!」
「へぁ?」
大演説と先生達の百面相を面白おかしく見ていた俺はまさかロックハートに指名されるとは思わず、間抜けな声をあげてしまった。
生徒中が俺を見つめる視線──は、勿論慣れっこで、その視線に緊張して動けない訳ではない。
「何も聞いてないし行きたくねぇ」
「……頑張って」
ぽそりと呟けば、セドリックは心から気の毒そうな目をして俺の背中を叩く。
いや別にイベントに参加するのは良いんだけどさ、ろくなイベントじゃないだろ。
……おい!どこのウィーズリーだ囃し立てるようにピーピー指笛鳴らしてる奴は!
ロックハートは白い歯を見せ「さあ!」と俺を再度促す。仕方がなく、立ち上がってロックハートの元に向かった。
ロックハートはいつのまにか教師陣が座る席から移動し机の前に来ていて、俺が隣に並ぶと無遠慮にがしりと肩を組んだ。どこの女子だきゃーきゃー言ってるのは!
くそっロックハートはツラが良いから許してしまう……やっぱ普通にイケメンではあるよなこの人。冬ドラに出てきそうな甘いハンサム顔。
周りの女生徒がキャアキャア言い出したのを聞いてロックハートはご満悦顔で笑った。
「今日はノアにメッセージカードやプレゼントをいつもよりわずかに多く送る人がいる事でしょう!しかし、ノアはいつもお返しのプレゼントを用意しない、そうですね?」
「あー……事務所の意向なんで」
「そうでしょうとも!その苦しみがわかるのは、きっと私だけでしょうとも。私もたくさんのメッセージカードやプレゼントを送ってくれたみなさんにお返しを送りたい……けれども止められていましてね。何せ膨大な量になりますから!」
ロックハートはうんうんと頷きながら、俺の肩を叩く。
何を言いたいのか分からず怪訝な目で見上げれば、ロックハートはにこっ!と笑ってポケットから巻かれた紙を取り出した。それは羊皮紙のようなサイズで……なかなかに大きいな。よくポケットにはいったなそれ。
「ですが、今回はその枷を外しましょう!──ノアにプレゼントを送った皆さんに、このポスターと同じブロマイドをプレゼントします!」
腕を高くあげ広げたポスターは、数ヶ月前に俺とロックハートが撮った写真を引き伸ばしたものだ。
一瞬で大広間の生徒中が盛り上がり、拍手が湧き起こり何人かが嬉しさで足を踏み鳴らす。
ま、あの写真配るくらいならいいか。
「さあノア。これを渡しておきますね」
「ありがとうございます。……ん、これ、先生のサインいり?」
「ええ、それしか用意できなくてね。しかし、その方がみなさんは大喜びでしょう?」
大量に用意されたブロマイドをよく見たらロックハートのサインが金色に光る文字で書かれていた。自分の株をあげて、ロックハート主体のサイン入りブロマイドを配るあたり、本当こいつちゃっかりしてるよなぁ。
ロックハートはご満悦顔でまだながながと話そうとしたが他の先生達が流石に苛つき出してきて、「それでは皆さん良いバレンタイン・デーを!」と締めくくり、俺を解放した。
その日は休日ではなく、普通に平日で授業がある。
しかし、授業中にも関わらず小人たちは授業に乱入し先生達の怒りのボルテージはどんどんあがった。
といっても、俺に来る小人は一匹もいなかったため、まだ平和だと言えるだろう。
セドリックは沢山の熱いバレンタインカードをもらっていて、嬉しいやら授業を中断させて申し訳ないやら、複雑な表情をしていた。
俺には小人が来ない代わりに、たくさんの生徒がブロマイド目当てに休み時間に殺到してしまい、俺は俺でめんどくさかったが──久しぶりに楽しそうな表情の生徒達を見ると、まあいいかとも思いながらファンレターやプレゼントとブロマイドを交換していた。
ロックハートは、本当空気読めないし打算的だし自信家だし虚言癖あるとはいえ、まあそこそこ──表面的に見ると楽しい奴ではある。
「僕も何かお返しした方がいいのかなぁ」
昼休み、あまりに人が殺到するから試練の隠し部屋で休んでいると、複数枚のカードを見ながらセドリックが呟いた。
「うーん、どっちでもいいんじゃね?」
「カード、名前がないものも多いんだよね……」
「セドってさ、彼女つくらねーの?」
「え?……好きな子いないし……ノアは?」
「俺もなーもう少し大人のお姉さんみたいな子がいたらなぁ……この美貌で女を取っ替え引っ替えできないとは思わなかった……」
「ははは……」
セドリックと恋バナとか不思議な感じだ。
世界一の美少年の俺は勿論ファンが山のようにいるし、俺に抱かれたい少女も抱きたい男子も多いだろう。
だが──やっぱ可愛い子ってハリポタの主役級ばっかりで知ってるキャラなんだよなぁ。知ってるキャラって事は、後々他の主役級キャラと恋人になるわけだ。って事はもし俺がヤっちゃったりしたら穴兄弟に……ヤった事がバレたら気まずくなりそうだし……流石に萎える。
って事は、原作外の美人な子を探さなきゃいけない。つまり俺がハーレム築けるのは卒業してからかぁ……ま、卒業して本格的にモデルとか俳優して、魔法界のモデルの子といちゃつくのもあり!事務所的にはNGだとしてもいいや。
「ノアは、世界的に大人気だし……もし恋人ができたら凄いことになりそうだね。過激なファンが黙ってなさそうだ」
「ま、学生の間は我慢するしかないかな」
「そうだね。……僕も、今は恋人を作るより、ノアとこうしてる方が楽しいからいいかな」
セドリックはさらりとそう言い、笑った。
「ははっ!そうだな」
確かに仲間とバカやれるのって学生のうちだけだしな。
セドリックのとても爽やかな笑顔に俺もつられて笑ってしまった。