兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します! 作:八重歯
「どうした?」
ノアは息を切らせて自分に掴み掛かってきたジョージに問いかけた。いつもより少し低く、優しく微笑みながらゆっくりと。
そのまま自分の肩を痛いほど強く掴むジョージの手に、自分の手を添える。
ジョージとフレッドは、なぜか無性に縋り付いて泣き出したい気持ちになったが、なんとか堪えて「ノア」ともう一度ノアの名を呼んだ。
「ジニーが──俺たちの家族が、継承者に連れて行かれた」
「助けたい。ノア、ノアならどうにかできるだろ?な?」
「世界最強の魔法使いなんだろう?」
どうかできると、そう言ってくれ。
二人の声は情けないほど震えていて、少し離れた場所でセドリックが顔を苦しそうにしかめ、目を逸らした。
継承者が書いた文には「彼女の白骨」という部分がある。ジニーはすでに死んでいる可能性が高いだろう。セドリックはそう思っていたが──悲しいことに、フレッドとジョージも同じ事を思っていたが──言葉には出せなかった。
ノアはじっとフレッドとジョージを見る。
その瞳はいつもの明るく溌剌とした太陽を閉じ込めたようなものではなく、夜の海のように静かなもので、少しも揺れる事なく二人をじっと見つめた。
「やってみるよ」
「ノア!」
「ありがとう、ノア!本当に──」
ノアの言葉にフレッドとジョージは感極まり言葉を詰まらせながら喜びの声を上げたが、ノアは「ただし」と二人の言葉を遮った。
「ただし、賭けみたいなもんだ。それでもいいか?」
「うん、勿論だ!何か手伝う事はあるか?」
「なんだって言ってくれ!」
ノアは暫くじっと三人を見ていたが、ついに決心したかのように頷いた。
「ジニーの私物を一つ持ってきて欲しい。長く身につけていたものがいい、それとあの鏡も持ってきてくれ」
「わかった!持ってくるよ!」
「すぐに準備する!」
ノアの言葉にフレッドとジョージは弾かれたように扉へ向かうと、矢のように早く出て行った。
セドリックは散らかった本に魔法をかけ元の位置に片付けながら、「一体、どうするんだい?」とノアに尋ねる。
「うーん……ま、後で説明する」
ノアはそう言うと近くのソファに座り、音の無い長い息をこぼす。
原作通りなら、ハリーとロンが寮を抜け出してロックハートの元に行き、マートルのいる女子トイレに向かう。そして秘密の部屋への道を発見し、リドルとハリーが戦う──そうなるはずだ。
本当は姿を消してこっそりとハリーの後についていき、リドルとの戦いを見守る予定だった。
今年は去年よりも原作に深く関わってしまった。今の所大きな変化は穢れた血に対する扱い程度しか──ノアは些細な変化だと軽く見ているが魔法界でその認識の変化は大きな問題である──変わらないが、リドルとハリーの戦いに不具合が生じるのはまずい。
ある程度世界は原作に沿って進むとはいえ、それも確約されたことではないと考えているノアはもし何かがあればハリーを手助けするつもりだった。
バジリスクは将来のことを考えなんとか生存させたいと思っていたが、最悪死んでしまっても構わない。
しかしこのままだとかなり違う結末を迎えそうな予感がして、少し不安に思っているのだ。
何度かシミュレーションをしたものの、セドリック達がついてきた未来に何が起こるのか未知数で予測が立たない。
だとしても、ここであれほど傷つき悲しんでいるフレッドとジョージを見捨てることは、今のノアにはできない。
どんな未来になるのか──きっとその場にならないと、決断できないのだろう。大きな過ちを犯さなければ良いが、とノアはドキドキと煩い鼓動を感じながら思う。これほど緊張し不安なのは、いつぶりだろうか。
珍しく真剣な顔をして黙り込んでいるノアに、セドリックはなんと声をかけていいのかわからなかった。家に帰される明日までにスリザリンの秘密の部屋を探し出すなんて、やはり不可能なんだ。大人よりも凄い魔法を使うノアでも、今までだれも見つけ出す事ができなかった場所を見つけることなんてできないんだ。
それとも、継承者と会うのを恐れているのか?──ノアは強いけど、僕たちが、足手纏いになってしまうから?
「ノア、足手纏いにならないようにするから」
セドリックの言葉に、ノアはぱっと顔を上げ僅かに目を見開く。セドリックは継承者と戦うつもりなのか、とノアが聞こうと思った時、扉が勢いよく開きフレッドとジョージが転がるように飛び込んできた。
「これ!同室の子に持ってきてもらったんだ。ジニーが使ってる髪留めと──」
「夜に羽織ってたカーディガン!どう?これで大丈夫?」
ソファに座っているノアに詰め寄るようにして二人は手に持っていた髪留めとカーディガンが突き出す。「大丈夫だ」と受け取ったノアは、二人の手が小さく震えているのを見た。
「……ジニーが居る場所は、スリザリンの秘密の部屋だ。継承者がいる可能性がある。それに、伝説では恐ろしい何かが隠されているらしい」
ノアは受け取った品を丁寧に持ちながら立ち上がり、彼らをゆっくりと見渡す。フレッドは真剣な表情で頷き、ジョージはごくりと生唾を飲み、セドリックは強く拳を握った。
「だから、俺が一人で探しに行く。お前たちはここに残れ、いいな?」
「そ──そんなことできない!」
ノアの言葉を聞いてフレッドが強く叫んだ。
一瞬、ノアに任せよう。その方が良い。と、何故かそう思ったがすぐに考え直し否定する。
ノアはフレッドの答えに驚いたように目を見開く。ノアは明確な意思を持ってフレッド達に「ここに残れ」と命令・・していた。
その絶対的な言葉を、まさかフレッドが拒絶できるとは思っていなかったのだ。
「俺も行く、当然だ」
「こんなところで一人待てないよ」
続いた二人の言葉にノアは目を瞬かせる。
そうか、彼らにとって、ジニーの安否を早く知りたい、自分たちが助けたいという気持ちは俺の命令よりも強いのか。
ノアは少しだけ今の緊張感を軽減させるように苦笑しながら「そりゃそうか」と呟いた。
彼らは継承者を軽く見ているわけでない、どんな恐ろしい危険が待っているのか、それを考えるだけで体の芯がスッと冷える気がする。
今まで歴代の校長や有識者が探しても見つける事ができなかったスリザリンの秘密の部屋を見つけ出し、この一年間誰にも知られる事なく事件を起こしていた継承者。きっと恐ろしく優秀で非道な人なのだろう。
ノアは強い。学生では持ち得ない力──いや、大人の魔法使いよりも強く、聞いた事もない魔法を使う。そんな自信に溢れるノアが苦しみ恐怖する姿なんて想像もできない。きっと、継承者と対峙しても簡単に勝利を掴む事ができるのだろう。自分たちがついて行っても、なんの力にもならない。それはわかっている。
「……死ぬ可能性もあるかもしれないんだぜ?」
「それでも、ジニーは俺の妹だ」
「俺たちが行かないでどうする?」
「僕たちは弱い。でも、敵の目を逸らす事はできるかもしれない」
「……」
ノアは数秒押し黙り、ふうと息を吐いた。
本当なら一人で行きたかった。それならこっそりと透明化魔法をつけて秘密の部屋に降り、元々の予定通りハリーとリドルの戦いを見守る事ができた。
今、ノアの立場は自業自得とはいえかなり複雑なものになっているのだ。
ノアは操られた少女がジニー・ウィーズリーという名前だと知らない。──と、リドルは思い込んでいる。
知らない生徒としてヴォルだなんて誰かを連想させる名前で呼んではいるが、それでも互いに顔は晒しているのだ。
ノアはリドルと交流するために、彼が好むような思想を持っていると偽っている。
いや、そもそもリドルの中ではノアと自分はある意味共犯者であると思っているだろう。
スリザリンの秘密の部屋の場所と継承者が誰だか知っていて、犠牲者が出ているにも関わらず止めることなく過ごしていたのだから、リドルの考えも当然の事だ。
もし、彼らと共にリドルと対面して「共犯者だ」と言われてしまったら──今後のために、ノアは彼らを呪わなければいけなくなってしまう。記憶を奪い、偽の記憶を植え付けなければならない。
それだけは避けたい。
いや、リドルと交流しようと気軽に考えた俺が悪い。でもまさかこんな未来が待っているなんて思ってなかったんだ!
ノアは真剣な顔をしながらも、どうやってこの場面やこの先の最悪な未来を乗り切るか必死に考えていた。
ノアとセドリック達の間で数秒の沈黙が落ちたが、ノアは諦めたように「ふぅ」と小さく息を吐いた。
「……わかった」
「ノア……!」
「──ただし!」
ノアは彼にしては大きな声でジョージの感極まった声を掻き消し、真剣な顔で三人を見た。
「ただし、俺の言うことを絶対に聞いてくれ。とりあえずジニーの救出が第一。すぐに撤退する事。継承者と一対一なら負けないけど、お前らを人質に取られたら……犠牲者が出るかもしれないからな。いいか?」
「わかった」
「うん、絶対守る」
「俺たちは引くべき時はわきまえてるつもりさ」
セドリック、ジョージ、フレッドの言葉に、ノアは「まじで頼むぜ?」と言いながら立ち上がる。
「んじゃ、ジニー救出作戦開始だ」
ノアは杖をつい、と軽く振るう。
本棚の中に収まっていた古びた一冊の本が引き寄せられ、ノアの左手に収まった。
杖先で表紙を撫でれば、本は三倍ほど大きくなる。ノアはそっと手を離したが、本は不思議と空にぴたりと浮かび、持ち主が開くのを心待ちにしているかのようだった。セドリック達はそれがロウェナ・レイブンクローから授けられた叡智の魔導書であると気づく。
本を開けば、本はノアの心を読んだかのようにぱらぱらと勝手に捲れていき真ん中ほどで止まった。
「
そっとノアが呟き、胸の前まで上げた腕を左から右へ切り裂くように素早く薙いだ。
その途端、空間に亀裂が生じ、裂け目から闇の夜よりも深い漆黒の物が現れて床にぼたぼたと落ちた。それは光を反射する事なく吸収しており、ぶるぶると震えながら水溜りのように静かに広がっていく。
セドリック達は驚き咄嗟にソファの上に飛び乗った。音もなくその黒々とした物は部屋のふかふかとしたカーペットを飲み込み、一面へと広がる。「ノア?これは一体……」見たこともない魔法に、セドリックがつい訪ねたが、ノアは気だるげに腕を右に上げ目を伏せたまま何度も先程の魔法を唱えていた。
闇が部屋の床一面まで広がった時、セドリック達はこのまま床が抜けてしまうんじゃないかと思った。突然黒い穴がぽっかりと空いたようになり、セドリック達はソファの上から動く事ができず固唾を飲んでノアの動きを待つしかできない。
「
囁き声でその魔法が放たれた時、床を覆っていた闇はごぽりと脈動し、至る所で高く隆起し、様々な魔物の形をとった。
闇のようにくらい魔物の数は数十──いや、数百はいるだろう。
セドリック達はこの魔法が試練の部屋で使われていた物だと気付いたが、なぜその魔法を使うのかがわからなかった。
魔物達は静かに主人の命令を待っている。床はいつの間にかいつも通りふかふかとしたカーペットが敷かれていて、先程の悪夢のような闇があったとは思えないほどだ。
「よし、じゃあこの匂いの主の居場所を探してくれ。見つけたらすぐに報告に来い」
ノアはフレッドとジョージから受け取った髪留めとカーディガンを前に突き出す。
魔物達はしばしじっとそれを見ていたが、恭しく首を垂れると煙のようにふわりと消えてしまった。
「い、今の、試練のときの魔法だよね?」
「ああ、あの魔物達は見た目は闇だけど性能は本物と変わりなかっただろ?嗅覚も良さそうだったから、ジニー捜索に役立つかなって思ってさ。あとは結果待ちだな」
ノアは疲れの混じった声で言うと肘掛け椅子にぽすんと座り、胡座を組みながら説明した。セドリック達は説明されてようやく理解できて納得したが、フレッドとジョージは自分の手で探しに行けないことに焦ったそうにそわそわと部屋の中を歩き回った。
闇雲に探すより、嗅覚の良い魔物に頼んだ方が効率が良いのは確かで、これ以上に方法はないのだろう。フレッドとジョージは落ち着きなくうろうろとしたり扉を開けて魔物が帰ってこないか見回したりしていたが、二人の気持ちがわかっているセドリックとノアは何も言わず好きなようにさせていた。
ノアは何もこんな大袈裟な魔法を使わなくとも、ジニーを見つけ出す方法は幾つかあった。
それでもその中で一番派手でインパクトのある魔法を使用したのは、ただ単に「最終手段だ」と彼らに勘違いさせるためのパフォーマンスにすぎない。あまりに簡単に魔法を使えば、きっと賢いセドリックはなぜその魔法で継承者を見つけ出さなかったのかと疑問に思うだろう。
裏で色々なキャラクターの行動を管理しようとすると、最強でチートすぎるのもまた厄介なんだな、とノアは目を閉じながらぼんやりと考えていた。
魔物達が消えて三十分程経過した時、一匹の蛇と獣が混じったようなシルエットをした魔物が突然地面から湧き上がってきた。
「来た!」と叫んだフレッドとジョージが魔物に駆け寄り、拳を白くなるまで握り固唾を飲んで結果を待つ。
ノアはソファから立ち上がり、自分の体の二倍はありそうな魔物に近寄る。魔物は嗄れたノイズのような声で鳴き、ノアの口からも似たような声が出た。
ノアは首を垂れ従順な様子の魔物に手を伸ばし、優しく撫でる。魔物は嬉しそうに鳴きながらパッと姿を消した。
くるり、とノアは振り返りフレッドとジョージとセドリックを順番に見た。そして、そのまま誰よりも美しい顔で悪戯っぽく笑った。
「──怪しい場所が見つかった。さあ、約百もの校則を粉々に破りに行こうか」
その言葉を聞いて、彼らは緊張とかすかな興奮と恐怖心から身体をぶるりと震わせ、ノアに釣られて口先だけで笑い返した。