兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します! 作:八重歯
「ジョージ、離してくれ!ノアを助けに行かないと!」
「おいおい、落ち着けって!」
「俺たちが行っても足手纏いだ。そうだろ?だからノアは俺たちを先に逃したんだ!」
「わかってないのは君たちだ、アイツはヴォルデモートなんだ!」
崩れた岩山の前で争う声が響く。今にも岩の扉に飛び掛かりそうなハリーとセドリックを、フレッドとジョージが必死に宥め、ロンはまだ眠ったままのジニーを抱きしめたまま命がある奇跡に胸がいっぱいになり彼らの喧嘩など全く気にしていなかった。
ロンはジニーの頬に泥がついている事に気づき、優しくローブの袖で拭った。ぴくり、とジニーの瞼が震え──ロンがハッと息を呑んだ──微かな呻き声を出す。
「ジニー!」
ロンの感極まった声に、フレッドとジョージも慌てて駆け寄り、セドリックとハリーは顔を見合わせて無人になった扉を見たが──流石にジニーのことも心配であり、駆け寄った。
ジニーはとろんとした不思議そうな顔でロンを見て、その次にフレッドとジョージ、そしてハリーとセドリックを見てこてんと首を傾げた。
「私……私……?」
何故兄達は笑いながらも目に涙をためているのか、そもそもハリー達まで何故ここにいるのか、ここがどこかもわからず、まだ覚醒しきっていない頭で皆の顔を見回す。
その時、遠くから何かを引き摺るような異音が聞こえ、喜びもそこそこにハリー達は岩扉の向こうを見た。ノアが帰ってきたとは思えない、何が巨大な物がずりずりと這い寄ってくる音に、ハリーとロンは同時に「バジリスク!」と叫んだ。
「バジリスク?」とセドリック達が顔を見合わせる中、ハリーとロンは口々に「化け物はバジリスクなんだ!」「目を見たら死んじゃう!」「早く逃げないと!」と目を極限まで細めながら叫ぶ、セドリックはローブを裏返して着直すと口をぎゅっと引き締め、杖を岩扉へ向けた。
獄炎獣のローブは、裏返して羽織れば一時的に獄炎獣の力を借りる事ができると聞いている。その力がどれほどの物なのかセドリックにはわからなかったが、ノアがいない今、友人や下級生を守るのは自分の役目だと思っていた。
引き摺る音が近づき、それは岩山の前でぴたりと止まった。ごくり、と誰かが固唾を飲んだのが聞こえるほどの静寂。
フレッドとジョージはロンとジニーを後ろで庇いながら、ポケットに入れていたクソ爆弾を取り出し投げつける準備をした。
───トントントン。
「だ……誰だ?」
微かなノックの音。
向こう側にいるのがバジリスクならば、わざわざご丁寧にノックなんてしないだろう。──そもそも、ノックができる手はないのだから。
「俺だ、開けてくれないか?」
いつものノアの飄々とした美しい声に、ハリー達はわっと歓声を上げる。心配していたがやはりノアは継承者が過去のヴォルデモートだとしても簡単に倒すことができたのだ。セドリックもほっと息を吐き杖を下ろす。
すぐにフレッドが扉に近づき、取手を掴んだ。「すぐに開けるからな!」そう言いながら。
扉が開かれていく。その時、セドリックは何故か嫌な予感がした。
──何故、ノアは自分で扉を開けないんだろう。確か向こう側にも取手はあったのに。
「ありがとう」
「フレッド──」
ノアの声が何故か遠い場所から聞こえる。フレッドを止めようとセドリックが手を伸ばしたがすでに扉は開け放たれ、ぬっと黒いものが滑り入ってきた。
「わああああーー!!」
「きゃあああっ!!」
樫の木のように太い胴体を高々と宙にくねらせた巨大な蛇──バジリスクが現れた。
それを知覚した瞬間、全員が叫び、ハリーは反射的に目を閉じ、ロンはジニーを抱きしめ、フレッドとジョージはクソ爆弾を投げつけ、セドリックは切り裂き魔法を唱えた。
「うわっ!?な──何だ?くっせー!」
吐き気を誘う悪臭がもくもくと立ち込め、一番初めに叫んだのは間違いなくノアだった。
どこに?まさかバジリスクの腹の中?いやいや、臭いがわかったということは近くにいるはず。セドリックはノアの魔法で空気がクリアになりもやがかかっていた視界が晴れていく中、視線だけでノアを探した。
げほげほと咳が聞こえてくるのは、自分の頭よりももっと高い場所であり、セドリックは──いや、全員がバジリスクと対峙していることも忘れ上を見上げる。
「なんだよ!ひでぇなぁ」
「ノ、ノア。なんて場所に……」
「え?歩くのだるかったし」
バジリスクの頭の上でノアは何でもないことのように答える。
ハリーとロンは呆気に取られぽかんと口を大きく開き言葉が出なかった。ノアの破天荒さや想像もしないことをすると知っていたセドリックとフレッドとジョージでさえも、まさかバジリスクの頭に乗って帰還するとは思わず言葉をなくしていた。
「ああ、もしかしてバジリスクがきたからか?大丈夫、殺傷能力のある目は隠してるし、リドル──継承者に操られていただけで、居なくなったら俺に懐いてさー」
確かに、バジリスクの目は黒い布のような物で覆われていたし、獰猛な牙を見せることもない。バジリスクはピンク色の舌をチロチロとさせながら──ロンがヒィと悲鳴を上げた──ノアの『降ろしてくれ』の言葉に従い、頭を垂れる。
ノアは軽い足取りで地面の上に降り立つと、「ただいま」と改めて伝え笑った。
ノアの軽い言葉に、セドリックは顔を怒りで歪め叫んだ。
「し──心配したんだぞ!なんで一人で残ったんだ?」
大きな怪我はしていないようだが、セドリックは安堵よりも怒りや置いていかれた悲しみが大きくノアに詰め寄り胸ぐらを掴む。セドリックの方がノアよりも背が高く、ノアは上に引っ張られながら意外そうに目を瞬かせた。
「あの場では、あれが最善だった」
「そうだとしてもっ──僕の気持ちも考えろよ!本当に、心配して……!」
声を震わせ詰まりながらセドリックは思いを吐き捨てる。いつも穏やかで優しいセドリックは喧嘩や誰かと衝突する事も無い、こうも荒れた口調で話すことはなく──むしろ初めての事で、ノアはぼんやりと「セドリックも男なんだなぁ」と的外れなことを考えていた。
「ごめん。あの場ではみんな逃がしてからの方が戦いやすかった」
「……」
「俺は世界最強の魔法使いだぜ?過去のヴォルデモート如きに負けるわけないだろ」
「……」
「わかった。今度も──きっと同じことをするかもしれないけどさ、絶対帰ってくるって約束するから」
「……うん」
セドリックはノアの胸ぐらを掴んでいた手を緩め、そのままノアの肩を掴む、自分の額を彼の肩に預け、その暖かさといつものような柔らかく甘い匂いを感じ、強く目を閉じた。──よかった、生きている。
ノアは自分よりも背の高いセドリックの曲がった背中をぽんぽんと叩き、軽くハグをした。
「僕だって心配してたし、セドリックと一緒に駆けつけようとしたんだ!」
ハリーはそう叫びながらセドリックとノアの隙間に自分の半身を突っ込み無理やりノアを抱きしめる。セドリックは驚いて顔を上げ、拗ねたような顔をしているハリーを見て、ノアと視線を合わせ小さく苦笑し合った。
余談だがロンは「過去のヴォルデモート如きに」と言ったノアの言葉に大きく身震いし、本当にこの人は次元が違うと改めて考えていた。
「ハリーも心配かけたな。でも大丈夫!ほら、リドルの日記はこの通り──」
「あぁ!そ、それ!──わ、私──私がやったの!朝食の時に、ハリーに打ち明けようとしたの、でも言えなくて──」
ノアがポケットの中から黒焦げた日記をひょいと出した途端、恐怖に慄いた悲鳴を上げたジニーは一気に目に涙を溜め、今何が起こっているのかようやく理解した。
体をガタガタと震わせ怯えるジニーをロンが「一体どうしたんだ?」と困惑しながら支え、フレッドとジョージも「大丈夫、落ち着け!」と心配そうに駆け寄る。
ジニーは家族に自分の悪事を──操られていたとはいえ──知られることを恐れ、よろめきながら立ち上がりロンの支えから抜け出すとわっと泣きながら顔を覆った。
「わ、私がやったの。でもそんなつもりじゃなかったわ。嘘じゃないわ──リドルがやらせたの、私に乗り移ったの──いったい、どうやってやっつけたの?リ、リドルはどこ?日記帳から出てきて、そ、その後の事は、お、覚えてないわ──」
「ジニー、大丈夫。リドルは俺がやっつけたからな。ハリー達もお前を助けるためにここまできたんだぜ?」
ノアはあまりに怯えるジニーを不憫に思い、安心させるために近寄り縮こまるジニーを覗き込み微笑みかける。
手で顔を覆っていたジニーはそろりと指を開き至近距離で自分を覗き込むノアを見てしまい、蒼白な顔をみるみるうちに真っ赤に染めて口を金魚のように開閉した。
「あ、あなたが?ノ、ノア様も、わ、私を──」
「勿論」
ジニーは髪色と同じほど顔を赤く染めていたが、電流が走ったかのようにブルリと震えると胸の前で手を合わせ「ノア様」と祈り、はらはらと涙を流しながら懺悔をするように「私が悪いんです、わ、私が──」と繰り返し呟き、ロンが慌ててジニーの肩を揺さぶり「大丈夫だから!」と励ました。
「よし。上に戻らないとな、皆心配してるだろうし」
ノアは手をパチンと叩き、皆をぐるりと見渡す。人数は自分を含め八人。まぁ浮遊魔法でゆっくりと飛べるだろう。
「でも、もうどうやって?」
「あ、バジリスクに乗っていくか?」
ハリーはノアが全員に浮遊魔法をかけることができると知らないため心配そうに聞く。ノアはそういえばバジリスクに乗せてもらえば楽だな、とバジリスクの胴体を撫でながら言うが、即座にロンが「絶対嫌だ」と拒絶した。
ハリーは何故かバジリスクの事は嫌いではなかったが、本当に無害だとは信じられず、毒々しいまでの鮮緑色の鱗に流石に乗って帰るのはなぁと苦い顔をした。もしそれしか手段がないのなら仕方がないが、ノアの後ろについてしがみきたい。
誰もがバジリスクに乗って帰るという提案に難色を示していると、ふいに遠くから音楽が聞こえてきた。皆が振り返り、遠くまで続くパイプの先を見渡す。妖しく、背筋がぞくりと粟立つようなこの世のものとは思えぬ旋律に、ハリー達は新たな敵かと身構えた。
その旋律が高まり、体の奥が震えるほど近付いた時、すぐそばで炎が燃え上がった。
白鳥程の大きさの真紅の鳥──不死鳥が不思議な旋律を響かせながら現れ、ノア達の頭の上を悠々と飛ぶ。不死鳥は孔雀の羽のように長い金色の尾羽を輝かせながら旋回し、まばゆい金色の爪に掴んでいたぼろぼろの組み分け帽子を近くにいたハリーの前にぽいっと捨てるとノアが胸の高さに挙げた腕に優雅に留まった。不死鳥は歌うのをやめると、ノアの頬に頬擦りする。
『フォークス。どうした?』
『さぁ?よくわからないの。アルバスに組み分け帽子をもっていくように言われたけれど』
『あー。そういやあったなぁ』
『あった、って?』
『ううん、こっちの話』
ノアは不死鳥──フォークスと話し終わると、その首元を指先で掻いてやりながらハリーの方を見た。
「ダンブルドア先生から、ハリーにだってさ」
「え?組み分け帽子を?……何で?」
ハリーは怪訝な顔をしながら組み分け帽子を掴む、組み分け帽子は寝てしまっているのかぴくりとも動かず、沈黙したままだった。
ハリーは試しに被ってみたがやはりうんともすんとも言わず、疑問符を飛ばしながらノアを見る。
「……どうするの?」
「……うーん……何か中にあったりしないか?」
「え?空っぽだけど」
「……」
ハリーは組み分け帽子の中に手を突っ込んだが、勿論触れるのは分厚い布の感覚だけだった。ノアは一瞬困惑したような顔をしたが、すぐに「まぁいいか」と考えることをやめた。
「とりあえず、早く帰ろうぜ。フォークスに捕まれば飛べるはずだから。俺はバジリスクと上がって行くけど」
大きい鳥とはいえ、白鳥ほどの大きさでノア以外の皆を連れて上げることなどできるのか、とハリー達は信じられない思いで顔を見合わせたが、フォークスは自信満々の態度でノアの肩から飛び立ちハリー達の前でパタパタと羽を羽ばたかせた。
「ロックハートはどうする?」
「まだ気絶してるままだな」
フレッドとジョージがまだ伸びているロックハートを杖の先で突く。
もし浮上している時に目覚めてパニックになり、うっかり手を離し落ちてしまったら──こうなったのは自業自得とはいえ、流石に後味が悪い。
「よし、バジリスクに運んでもらおうか」
ノアはバジリスクに蛇語で話しかけ、バジリスクはこくりと頷く。その言葉がわかったハリーは「えっ」と驚愕の声を上げ顔を引きつらせたが、言葉がわからないセドリック達は、ノアのようにバジリスクの背に乗るのだと思い、何故ハリーがそうも驚いているのかわからず首を傾げた。
バジリスクはずるずると気絶しているロックハートに近づく。
そのままひょいと頭の上に乗せる──のではなく。
「あ」
長い舌でロックハートを掴み、ぺろりと食べた。
ハリー達が唖然と見る──しかできない──なか、バジリスクの喉がごくりと嚥下し、黄土色の腹がぷくりと膨れた。
「た、たた食べちゃったの?」
「噛んでないから大丈夫。少しの間なら消化されないし、吐き出せば無問題!」
ノアは親指をぐっと立てて飛び切りの笑顔を見せたが、ハリー達はロックハートが──何度も言うが、自業自得だとはいえ──少し可哀想になってしまった。
ハリー達は皆で手を繋ぎ、先頭にいるハリーが空いている片手でフォークスの不思議に熱い尾羽をしっかり掴む。
ノアは飛べると言っていたけれど、こんなに細い尾羽に何人もの体重がかかってちぎれないだろうか?とハリーは心配したが、その心配も数秒後には吹き飛んだ。
全身が異常に軽くなったような気がした次の瞬間には、ハリー達はフォークスの羽ばたきに合わせて空を飛んでいた。まるで連なる凧のようにパイプの中を一直線に舞い上がり、フレッドとジョージが口笛を鳴らし歓声を上げる。
その後ろからずるずると這い寄る音が聞こえ、ハリーが後ろを振り向けばバジリスクに乗ったノアが上がってきているところだった。
なんだか追われている気分だ、とハリーは嫌な考えが浮かんだが、フレッドとジョージに合わせて歓声を上げることによりその気持ちを誤魔化した。
素晴らしい飛行はすぐに終わり、ハリー達はトイレの湿った床に着地した。ようやく、現実世界に帰ってきたような気がしてほっと息をつき、ハリー達は顔を見合わせる。
すぐにバジリスクの頭がにゅっと現れ、そのままずるずると動体をくねらせて進み出る。バジリスクはおよそ十五メートルはあろうかという巨大な毒蛇の王であり、体全てを出そうとしているのかハリー達の周りをゆっくりと包囲するように体をくねらせる。
ハリー達は慌てて扉へ向かい、人気のない廊下へ飛び出した。
「まさか、バジリスクも連れて行くのかい?」
「え?そりゃあ……ダンブルドア先生に、バジリスクをどうするのかきかなきゃいけないし」
セドリックはトイレからもずるずるも出てきたバジリスクを見て苦い顔をする。バジリスクは久しぶりに広々とした空間に出ることができて嬉しいのか、夜の風を受けながらご機嫌に舌をぺろぺろと出していた。
「……抜け出している生徒が僕たち以外にいない事を願うしかないね。この場を見られたら、まるで僕らが継承者だ」
「ははは!──実は俺が黒幕だったんだ」
「ノアが黒幕だったら、誰も勝てないね」
セドリックはノアの言葉に呆れ混じりで答え、ノアはそれを聞いて、面白そうにケラケラと笑った。
「よし、んじゃ黒幕御一行、フォークスに続いて行こうぜ」
金色の光を放ち先導するフォークスをノアは指差す。セドリック達は誰にも見られませんように、と祈りながら急ぎ足でフォークスに従う。
フォークスが案内したのはマクゴナガルの部屋の前であり、誰がノックするか──顔を見合わせた後、ハリーが一歩前に出てトントンと扉を叩いた。