兄・子世代ifチート能力を駆使して転生人生謳歌します!   作:八重歯

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99 新しいパパ

 

 

 

シリウスをペットにした次の日、ハリーから「色々あってホグワーツが始まるまで漏れ鍋で過ごす事になったんだ、もし時間があったら遊びに来てね!」という手紙が届いた。

ということは、シリウスとペットショップに行った日にハリーは近くにいたのか。まぁ夏休みに会っても別に何か起こる……ことはないと思うけど、ハリーに会った感激でシリウスが飛びついたりしないかが心配だな。それかロンが近くにいたらスキャバーズが噛み殺されかねない。

 

 

魔法ペットショップで購入したシャンプーを使ったおかげか、シリウスの毛並みはツヤツヤでふさふさ、まさに冬の深い夜のような色になり、肋骨が浮いていた体も……痩せ型ではあるが薬のおかげで病的なほどではない。あとは食事でなんとかなるだろう。

俺の部屋にはシリウスの寝床として、とりあえず余っていた毛布を与えているが、シリウスはそれで十分嬉しいのか前足でほりほりして寝心地を整えた後、無防備な寝顔を見せ十時間は連続で寝ていた。

アズカバンから脱獄し海を泳いで歩いてここまできたんだよな。杖は持ってないから、多分魔法無しで。アズカバンの詳しい場所は明かされてないけど、あんな寒い海のど真ん中で、陸地までかなりの距離があることは間違いない。アズカバンで満足な食事も取れず、運動もできなくて筋肉衰えてたはずなのに凄くない?

ピーター・ペティグリューを殺すためとはいえ、そこまで気力湧いて実行に移すなんてマジで狂人だと思う、いい意味で。何かの魔法を無意識で使ってたのかもしれないな。

 

 

 

夏休みも後二週間ほど。

宿題は──終わってないけど、仕事や用事が忙しかったから仕方がない。想定外のペットもできたし。

部屋のタンスや机に向かって指を振る。中に入っていた私物が開いたトランクケースの中に次々と吸い込まれるようにして入っていき、パタンと閉じる。部屋の中を見渡し忘れ物が無いか確認しつつ、手紙を届けに行ったきりまだ帰ってこないシロの鳥籠をトランクケースの上に置き、心地良い風を招き入れる窓へ近づく。

 

窓枠に腰掛け、頭を預け、そのまま目を閉じる。遠くから孤児院の子どもたちの声が聞こえるな、夏休みだから、庭で遊んでいるんだろう。

 

暫くすると、扉をトントンとノックする音が響き、俺を目を開きシリウスは目を覚まし顔を上げた。

「どうぞ」といえばすぐに扉が開き、その奥から目の赤い養母が現れる。優しく俺に笑いかけるが、どうみても泣き腫らした後の顔だ。だけど、俺は彼女の心遣いを無碍にする気はなく、気が付かないフリをして笑い返した。

 

 

「ノア、準備はできましたか?」

「うん」

「ああ……本当に寂しくなるわ。いつでも、遊びに来てね。新しい家族と、幸せになってね」

「ありがとう、ライカママ。俺にとってここはかけがえのないホームだよ」

 

 

トランクケースを持ち、立ち上がる。ライカママは一瞬感極まり泣きそうな顔をしたがなんとか堪え、俺を優しく抱きしめた。

俺も彼女をそっと抱きしめ返し、少しして離れる。ライカママは名残惜しそうな顔をしたが、「行きましょう、お迎えが来ているわ」と俺を玄関へと促した。

 

シリウスはいきなりのことでぽかんとしていたが、すぐに毛布を噛んで運び、慌てて俺の後をついてくる。そういえばシリウスに伝えるの忘れてたな。

 

俺を見送るのはライカママだけで、他の職員や子どもたちはいない。

勿論職員たちは俺が今日出ていく日だと知っているが、他の子供たちに悟られないよう──それと、出ていく時を目撃しないように配慮しているのだろう。

 

 

そう、俺は今日長く暮らしていたシエル孤児院から巣立っていく。つまり、俺を養子にしたいという人が現れ、俺もそれを承諾した。

 

 

「本当に良かったの?みんなに伝えないで……」

「うん。みんなには学校に行っている間に養親が決まって、次の年に戻ることなく行ったって事にしといて」

「寂しがるわ……とーっても、気を落とすでしょうね……」

「落ち着いたら、会いにくるから」

 

 

本来なら退所する子がいる場合ささやかなパーティをしたり、みんなで見送ったりする。

しかし、俺の退所なんか知った時には子どもたちが暴動を起こしかねない。最悪養親が怪我──をすることはなさそうだが、魔法使って面倒な事にはなりそうだし。

俺が出ていくのは職員しか知らず、子どもたちが知るのは一年は後の話だ。

ま、今でも夏休みくらいしか帰ってないし、子どもたちの記憶から少しずつ俺が薄れていくのを期待するしかないかな。いやーでも俺は世界一の美青年だから無理かなー。刺激が強すぎるもんなー。フェチ歪ませちゃったしなー。

 

 

 

廊下をすぎ、ライカママが玄関の扉を開く。

真夏にも関わらず真っ黒の高級そうなコートを着た人が、玄関口に立ち俺を待っていて、俺が来た瞬間少し目を揺らせたが隣にライカママが居ることで何とか理性を取り戻しすぐに唇をぐっと引き締めた。

 

 

「ノア、本当におめでとう。──どうか、この子をよろしくお願いします」

 

 

ライカママは養親に手を差し出す。その人は、外面の良い笑みを作ると手袋を取ることなくその手を取った。

 

 

「はい。命に変えましても」

 

 

ライカママは少し変な言葉だと思ったようだが口には出さず、俺の背中を優しく押した。

 

 

「さようなら、元気で」

「さようなら。──ライカさん」

 

 

俺の言葉にライカママ──いや、ライカは目に涙を溜め、手で顔を覆った。シリウスは心配そうにライカをチラチラと見ながらもその横を通り、俺の隣にぴったりと並んで見知らぬ男を見上げ警戒を露わにする。

 

 

「行きましょう、ノアさ──んんっ──ノアくん」

「そうだな。シリウス、ついておいで」

 

 

男は俺の手からトランクケースと鳥籠を取り、ゆっくりと歩く。無言のまま孤児院が見えなくなったところで路地に入り、男はすぐに振り返った。

そのまま片膝ついて跪き──いきなりすぎてシリウスがびくりと飛び上がった──感極まったような震える声で俺の名を呼んだ。

 

 

「ノア様。お久しぶりです」

「久しぶりだな、クィレル先生?」

 

 

真っ黒のコートに、右目には顔半分を覆いそうなほど大きな黒い眼帯。この下の火傷がひどいからそうしているのだろう。ターバンではなく黒い中折れ帽子を被り、パッと見はなんかちょっと怪しい貴族みたいな身なりをしている。

高そうなコートの端が地面についたが、そんなことは全く気にせずクィレルは俺に名を呼ばれた幸福感で打ち震えているようだった。

 

 

「──あ、もう先生じゃないか。……パパ?」

「お戯れを……」

 

 

クィレルは顔を上げることなく胸に手を当てたまま困ったような声を出した。

 

そう、俺を引き取ったのはクィリナス・クィレルだ。

 

勿論、クィレルが俺を養子にする事を望んだわけではない。俺が、クィレルの養子になろうと考えたんだ。

ハリーが住んでいる場所と近いあの孤児院は便利ではあった。ただ、やはり夏季休暇中に魔法を使えないのは面倒くさい。あと数年とはいえ、その間に色々しなきゃハッピーエンドは難しそうだし。魔法省に未成年のニオイを感じ取らせないためには、近くに成人済みの魔法使いが必要だ。

勿論、俺を養子にしたいという人はマグルも魔法族も数えきれないほどいたが、下心マシマシなやつと一緒に生活なんてしたくないし、どうせならある程度知っている方がいい。そう思った時、そういえばクィレルはどうだろうか、魔法契約結んでるし、と思いついた。

 

 

何度か魔法省やアズカバン責任者と手紙で連絡を取り、俺はこの夏休みが始まってすぐにクィレルと面会したのだった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

突撃二度目のアズカバン!

ただし今度はプロモ撮影ではありません。

 

 

「真夏なのに相変わらず寒いし気味が悪いね……」

「逆にウキウキな夏!めっちゃホリデー!──なアズカバンの方が気味悪くないか?魂吸鬼がアロハシャツとか着てんの。陽気なレゲエとか流して」

「ううっ!嫌すぎる……悪夢だ……」

 

 

頭の中で常夏イエー!なアズカバンを想像したメイソンはぶるぶると震えながら顔を歪めた。

今日は仕事でもなんでもないし、本当なら俺の後見人であるセブルスが付き添うべきで、手紙でちょっと俺の用事に付き合ってくれないかときいてみたが勿論答えはノーだった。

ダメ元でメイソンに聞いてみれば、メイソンは二つ返事でオッケーと笑ってくれて、こうして俺に付き添ってアズカバンまで来てくれた。

メイソンは成人済みだし、会社でも若くして地位は高いし、アズカバンのお偉いさん達は俺の代理保護者であることに文句は言わなかった。

 

 

「そういえば、メイソンってホグワーツ卒業?」

「そうだよ」

「……もしかして年齢的にセブルス先生と同期だったりする?」

「うーん……記憶にないから、多分入れ替わりかな。ああ、でもクィレルさんとロックハートさんは被ってたよ。寮が違ったけど先輩だったね」

「何寮だったんだ?」

「僕はノアと同じ、ハッフルパフだよ」

 

 

メイソンは当時を思い出しているのか、寒さで腕を擦りながらも懐かしそうに目を細めていた。親世代、ではないのか。それでもクィレルとかロックハートを知ってるっていうのは意外な繋がりだな。

 

 

「クィレルさんは……あんまり印象にないけど、ロックハートさんは凄かったよ。クィディッチの競技場に馬鹿でかい自分のサインを書いたり、顔の形をした大きな光る映像を空に打ち上げたりね。かなり目立ちたがり屋だったなぁ……」

「あー。簡単に想像できる。バレンタインとか変なことしなかったか?」

「自分で自分に何百通もバレンタインカードを書いてフクロウが大渋滞した事はあったね。ノアには到底及ばないけど、昔からハンサムだったしファンクラブもあってそのせいでかなり自信家になっちゃったんだろうね。まぁ、あっちは僕の事なんて知らないとは思うけど」

 

 

相変わらず寒々しく殺風景で、さらに地面も凸凹で悪路な道を話しながら進めば無機質な監獄が見えてきた。

見上げるほど高い門はきっちりと閉まっていて、以前と同じくメイソンが杖先で門をちょんと突けば、門は錆びついた音を出しながらゆっくりと開いた。

更に強い冷気が俺とメイソンを包み込み、メイソンは半袖で来た事を後悔し始めているように身を縮める。監獄の入り口では、前回と同じようにスクリムジョールが俺たちを待っていた。

 

 

「望んで二度も訪れる人なんて、アズカバン創設以来初めてだ」

「スクリムジョールさん、今回もよろしくお願いします」

「俺はまたスクリムジョールさんに会えて嬉しいですよ」

「そ──そうか」

 

 

スクリムジョールは呆れた目で俺を見ていたが、俺がちょっと上目遣いで言ってみれば、動揺したように目を揺らせ、言葉を探すように下唇を柔く噛んでいた。

俺ももうすぐ15歳になるし、中性的な見た目から男性的になりつつはある。とはいえ超絶美形なのは美形だし、髪は揃える程度であまり切らないからすでに肩甲骨の下くらいまでは伸びている。同性だろうが誰だって世界一の美形に微笑まれたならノックアウトされるだろう。

 

 

「あー……。前回と同様、杖は離さないように。私のそばを離れないこと。面会室の中での立ち合いは私が行う」

「はーい。わかりました」

「よろしい。……では、行こう」

 

 

しっかりと杖を持ち、俺達は冷気が溢れ出ているアズカバンへ入った。相変わらず汚いし、悪臭漂ってるし、奥の方からは叫び声や呻き声が遠くの方から聞こえる。吸魂鬼は囚人の気力を吸いに行っていて入り口近くにはいなかった。

スクリムジョールから簡単な身体検査を受けた後、奥には進まずすぐに脇道に入った。そこは牢屋はなく、その代わりにいくつか扉があった。多分、ここが唯一のセーフティゾーンなんだろう。アズカバンで仕事する職員達もずっと吸魂鬼と一緒とか嫌だろうしな。

その複数ある部屋の一つが面会室らしい。アズカバンの中でも幾分マシなその部屋は白い壁に覆われた、ただ椅子があるだけの質素な部屋だった。部屋は妙に、狭い。ってかクィレルいないんだけど?

 

今から連れてくるのか?と思っていたらスクリムジョールが何か呪文を低い声で呟きなが、進み出て、目の前の壁を杖で突いた。途端に白い壁が波打ち、うねりながら左右に広がっていく。

壁が消えた後、その先に現れたのは拘束衣を着て丸椅子に座るクィリナス・クィレルだった。

最後に見た時よりも少しやつれたようなクィレルだったが、目だけは爛々と正気の光りを宿していた。

あーよかった!アズカバンで廃人になってたらここまで来た意味なくなるとこだった!

クィレルの顔の右半分は広範囲にひどい火傷があって、引き攣れているし右目は真っ白に濁ってしまっている。頭は──うん、禿頭だけどヴォルデモートが寄生していた跡とかはなさそうだな。

 

俺が一歩近づいた瞬間、クィレルは硬直し、次の瞬間、音を立てて立ち上がった。何かを言いかけたようだったが、その声は震え、喉の奥で潰れた。

 

 

「ノア様……!」

 

 

感極まったようにクィレルは呟いた。俺の姿を確認すると、ゆっくりと片膝をつき、まるで王に謁見する騎士のように跪いた。

 

 

「……えぇ?」

 

 

後ろから聞こえたのはメイソンの素っ頓狂な声だ。彼が目をぱちくりさせているのが見える。スクリムジョールも隣で杖を握り直しながら、眉をひそめていた。

彼らはクィレルが今にも泣き出しそうな恍惚とした表情を浮かべている意味が理解できないのだろう。うん、まあ、それは俺もだ。

 

「俺に忠誠を誓うなら、生かしてやる」そういう契約でクィレルは死の淵から生還した。それは一種の魔法契約になり、クィレルを縛っているだろうとは思っていたが、まさかこれ程の目で──まじで熱狂的な狂信者の目で見られるとは思わなかった。

あまりに強すぎる視線に、つい何考えてんだと思って開心術をかけてみれば、クィレルの脳内は俺で埋め尽くされていた。ヤンデレストーカーの脳内みたいだな……。

 

 

「クィレルさんとノア……ただの先生と生徒、だよね?」と、メイソンが恐る恐る聞く。くるり、と振り返って無言で笑ったらメイソンは引き攣った笑みを浮かべ「流石、っていうべきなのかな」と口の奥で呟いていた。

 

 

 クィレルは俺にそれ以上近付かない。ただ、膝を床につけ、神託を待つ敬虔な信徒みたいな目で俺を見上げている。俺はゆっくりとクィレルに歩み寄った。クィレルの唇は歓喜で震え、無事な左目から一筋の涙が流れる。

 

 

「……あ、貴方様に会える日を、夢にまで見ておりました」

「ごめんね、またせた?」

「そ、そんなっ……!滅相もございません、生きている間に、もう一度貴方様と言葉を交わすことができた、それだけで、わ、私は──私は──」

 

 

大人のガチ泣きである。

クィレルは顔を伏せぼたぼたと大量の涙と鼻水を流して歯を食い縛り大号泣しだした。それを見たメイソンとスクリムジョールが動揺しているのが空気で感じられる。

 

 

「スクリムジョールさん、クィレル先生の罪状は?」

「は。……あ、ああ。禁忌魔法の使用・研究の罪、窃盗罪、傷害罪だ」

「ああ、そうでしたね。刑期はもう終わり。でしたっけ」

「そうだ。……勿論、釈放後、数年間は観察対象ではある」

 

 

クィレルは、頭にヴォルデモートを寄生させてホグワーツにトロール入れたり、ハリーを殺そうとした殺人未遂の罪を負っていない。

ダンブルドアは魔法省に『ヴォルデモートに操られて賢者の石を狙った』としっかりと伝えたらしいが、ヴォルデモートが生きていると信じたくない魔法省は『クィレルは闇の魔法に傾倒し狂った』として、それを認めなかった。

まあ、証拠が出せなかったのが大きな原因らしいけど。ヴォルデモートはどっか行ったし仕方がない。

 

結果、クィレルの罪は魔法界ではそこまで重くなくアズカバンに収容されるのは一年だけだった。……普通の精神力の一般人からすれば、アズカバンに一ヶ月いるだけで廃人コースだから実質無期懲役みたいなもんかもしれないけど。

 

 

「クィレル先生。俺が最後に言ったお願い、覚えてる?」

「っ……勿論です。私、クィリナス・クィレルはノア・ゾグラフ様に生涯の忠誠を誓います」

「よし。じゃあクィレル先生──」

 

 

俺はその場でしゃがみ込み、クィレルと視線を合わせる。クィレルの目が眩しそうに俺を見て、震える唇が「はい」と囁いた。

 

 

「──俺のパパになってよ」

 

 

言った瞬間、部屋の空気がぴしりと凍った。

 

スクリムジョールが「……は?」と絶妙な間の抜けた声を出し、隣のメイソンは目を見開いて固まり、口が開いたまま塞がらない。

 

クィレルは一瞬だけ固まったあと、静かに、しかし確信をもって──頭を深く垂れた。

 

 

「──畏まりました。喜んで、ノア様の父となりましょう」

「なんで!?」

 

 

メイソンの悲鳴のようなツッコミが響く。

その隣で、スクリムジョールが眉をひそめ、ついには眉間を押さえた。

いや、まぁ、俺もここまで即答されるとは思ってなかったけど、クィレルはクィレルで「ノア様の父だなんて恐縮至極でございます」と胸に手を当てて噛み締めているし。

 

 

「あ、マグルの孤児院から出たいだけで、俺の養親になってくれればそれでいいから、苗字とかお互いそのままで。詳しくはまたおいおい考えようか」

「承知いたしました。貴方様が望まれる形こそが、最上の形式です」

 

 

クィレルの涙は止まり、その代わりに顔には眩いばかりの笑顔が広がっていた。

唖然とそれを見ていたスクリムジョールだったが、軽く咳払いしてようやく我に返った。

 

 

「おい。クィレル、お前、精神に異常を──」

「失礼ですが、私の精神状態は至って健全です。──ノア様の願いに応じることが、私の誇りです」

 

 

まさかの反論にスクリムジョールは言葉を失ったまま俺を見た。その視線に俺は悪びれる様子もなく肩をすくめて見せた。

 

 

「まあ刑期ももうすぐ終わりますし、その後で親になりたいって人がいて、俺がいいよって言っただけの話ですよ。法的な問題はないですよね?」

「いや……まあ……それは、そうなんだが……」

「ね?」

「……あ、ああ……まあ……」

 

 

スクリムジョールは「正気じゃない」と言いたげな目で俺を見る。確かに、普通自分が通っていた学校でやばいことして犯罪者になった人の──罪を償ったとはいえ──子どもになりたいだなんていう人間はいないだろう。

だけど、俺にとってはクィレルの存在はかなり、やりやすい。崇拝的な意味で。クィレルのことは信じていないけど、俺は自分のチート魔法を信じてるし。

 

 

「クィレル先生、立っていいよ。ほら、服が汚れる」

「ご配慮、痛み入ります」

 

 

ゆっくりと立ち上がったクィレルの目元には、再び感涙の光が浮かんでいた。見てるこっちが恥ずかしいが、こういう男にとっては「ノア様により、居場所を与えられた」という事実が何より大きいのだろう。

 

 

その後クィレルの刑期が終わったあとで手紙でやりとりしつつ、俺はめでたく──計算通りに、クィリナス・クィレルの養子として登録されたのだった。

 

 

 

──そして現在。

裏路地でクィレルは俺に膝をつき頭を垂れ、シリウスは「なんだこれ」という目で俺とクィレルを何度も見ている。

 

 

「シリウス、この人は俺の養親になったクィリナス・クィレル。元ホグワーツ教師、今は俺のパパ。クィレル、この犬は少し前に俺が拾った犬、名前はシリウス。仲良くなれとは言わないけど、学校始まるまでは一緒に暮らすから喧嘩するなよ?」

「はい、わかりました」

「……わん」

 

 

クィレルは深々と頭を下げたが、シリウスは急展開に思考が追いつけていないのか曖昧に頷いた。

 

さて、もう孤児院とはさよならだし、新しい家を見に行こうかな。

新しい家は魔法住宅カタログで立地だけを条件に適当に選んだ家で、忙しくて内見とか家具の搬入とか掃除とかは全部クィレルに任せてたんだよなぁ。金は全部俺持ちだけど。

 

 

「新しい家の鍵は?」

「こちらになります。あとは貴方様が認証キーを決定するだけです。ポートキー内蔵型鍵であり、手にしながら認証キーを口にすると移動します」

「了解。んー。そうだなぁ……」

 

 

クィレルがポケットから出した銀色の鍵を受け取る。それは中央に青い宝石がついたなんとも高級感あふれる鍵だった。なんの宝石かは知らないが、中に薄いグレーの何かがふわふわと動いていて不思議な色彩を放っていた。

家の認証。さて、なんていう家にしようかな?ロンの家は隠れ穴だったよな、確か。

 

ポートキーに設定された鍵を手に、俺はクィレルとシリウスを同時に掴む。

 

 

「──オーケー、決まった。俺の家の名前は、『舞台裏』!」

 

 

呟いた瞬間、鍵が光を放ち、世界が引き寄せられた。俺たちは長い距離を飛び、ちらちらと周りの景色が矢のように通り過ぎる中、ついに速度が緩まり足が地面につく。

 

 

一歩、二歩と空気を確かめるように歩いた。

鼻をくすぐるのは、夏草の濃い匂いと、森の湿った空気。

 

 

ついたのは、森の中に立つ馬鹿でかいカントリー・ハウス。

勿論新築とかではなく、どっかの貴族が没落し管理できなくなっていたものを買った。新築かどうかのこだわりはないし、どうせ夏休みくらいしかここに来れないし。十分な庭があり、同じような屋敷は、丘を超えた向こう側に一軒あるのみ。

二人と犬一匹が暮らすには十分すぎるが、立地がめちゃくちゃいいんだよなぁ。

周りにマグルは──いない事もないけど、かなり遠いし、魔法使っても怪しまれることはない。

 

 

「よし、んじゃマグル避けとか目眩しとか色々魔法かけておくか」

「僭越ながら、私が適切に対処しました」

「そう?ふーん……」

 

 

俺に忠誠を誓っているクィレルがそういうのなら、そうなんだろう。クィレルはすぐに「案内します、こちらへお越しください」と柔らかく言い先頭を歩く。シリウスはまだクィレルを警戒しているのか俺の隣から離れず、じっと観察するようにクィレルを睨んでいた。

 

 

『シリウス、そんな警戒しなくてもいいよ。俺の──裏切らない部下みたいなもんだから』

『部下というよりも、信徒じゃないか?』

『俺に盲目、ってことに関してはそうかもな』

 

 

シリウスの柔らかくなった黒い毛を撫でる。シリウスと会話していると、クィレルが振り返り少し驚いたように目を見張った。

 

 

「ノア様は、本当にどんな生き物ともお話になられるのですね」

「うん、いいだろ?」

「とても素晴らしい力です。ですが、私めはノア様の言葉を理解できる、それで十分です」

「……」

 

 

満面の笑顔で、一切の曇りなく言うクィレル。

俺とシリウスは顔を見合わせ、少しだけ肩をすくめた。

……この数年でキャラ変わりすぎじゃない?

 

 

 

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