世界に冠たる帝国は世界に向けて呪いを掛けた!
全ては世界征服の為に!
しかし悲しいかな、無責任なお役所仕事、偉大なる帝国軍司令部特別作戦研究室の主導で始まったプロジェクトは、下部の現場で起きたスペルミスを自分のキャリアに傷がつく事を恐れ、計画が進むにつれて上へ上へ責任逃れで見逃し続き、計画の重要度と共に下級役人の首一つ分の責任も雪だるま式に膨らみいつしかプロジェクトメンバー内では公然の秘密と化した
その人類史上最大最高、後の世の歴史家から最も偉大なミスと評されたミススペルは
『武器よさらば!』
帝国軍兵站部
糊の効いた制服に身を包んだ二人の男が上品な装飾の施された狭い部屋に詰めていた
「あそこからあれが消えたぁ!?」
机についた椅子に座っている恰幅のいい男が直立した痩せぎすの男に怒鳴った
「あそことは?」
「あれだよあれ、クソッ!、アクティブな運動をするところだよ、ほら硝煙の匂いが漂っていたりする…」
「分かってます、しかしなんて言うんでしたっけ?えー『洗浄』?ニュアンスが違いますが」
「そうだ!『洗浄』だ!『洗浄』から、あー、違う!なんだ、なんなんだこれは!ぶ………『不気味から味を抜いた言葉』に関する事が言えなくなっているではないか!」
「それよりも『船倉』の方が適切かと…」
「上手いこと言ったとでも思っているのか?そんな事はどうだっていい!なんだ、このバカバカしさは………」
痩せぎすの男が不思議そうに見つめていた
「なんだ?何か言いたいのか?」
恰幅のいい男……便宜上デブと呼ぶ、が疲れた様に言った
「いえ、何でもありません」
「そうか、嘘をついているだろう、部下の嘘をつくつかないは流石にわかる。正直に言え」
「はあ、いつも貴方は何かあれば机を叩いていましたので、遂に机に対して博愛精神に目覚めたのかと思いまして」
「確かにな」
デブは身体をモゾモゾと動かした後口を開いた
「少し…屈辱だが…殴り付ける事はどうやってやればいいのだろうか?」
痩せぎすは驚いた、驚愕の表情を浮かべた、少しビビった、このデフは何を言っているんだろう?頭がおかしくなったのかな?生まれてこの方軍隊勤め、典型的、典型的すぎる帝国軍人たる人間が、殴るという人類史上最も原始的、基本的、大衆的、普遍的な暴力をこの、国家の暴力装置の基準的歯車は忘れたと?そんな事、散々叩いてきたデフとそれに肝を冷やし続けた私の方が一番分かっているではないか!
「まず手を45度まで上げて下さい」
「上げたが、これはまるでローマ式敬礼だな」
「それを対象目掛けて勢いよく振り落とします」
ストーン
「これであっているか?」
「多分合っていますよ」
先程心の中で啖呵を切った割に正直分かっていなかった、ニュアンスで感じ取ったのだ
「ふうっ、気分が晴れた気がする、じゃあお前は他の部署の様子を見てこい、あそこからあれが消えるし、あれについて言及出来なくなっているし机の叩き方を忘れるし絶対に何かが起きている、問題を共有してこい」
「分かりました」
痩せぎすは部屋を出て行った
痩せぎすがお隣の帝国軍司令部特別作戦研究室に入ると、もうそこはお通夜ムードだった
「室長を呼んで欲しい」
「今呼ぶので少し待っていて下さい」
行ってしまったので周りの置き物の様になった人間に話しかけた
「どうしたんだ?何かが起こっているのか?例えば特定の言葉が出てこなかったり…」
「黙秘する、弁護士を呼んで欲しい」
痩せぎすは『は?』と思っていた
違う人に話す
「例えば『不気味から味を抜いた物』が消えたり…」
「一つだけなら、誤差かも知れない」
その隣の人に話す
「突然博愛精神に目覚めたり」
「記憶にございません」
さらにその隣
「例えば殴り方を忘れたり…」
「直ちに影響はない」
「おい!それはなんかやったって事だぞ!なんとか言え!」
「「「「直ちに影響はないからといって、必ずしも直ちにでない将来について影響があるということではない」」」」
頭がおかしくなったのかな?
ここにいる全員が無敵君と化している
とにかく何かが起こっている筈だ
試しに室長室の扉に耳をピッタリつけて聞く
『まずいぞ、兵站部の人間がもうきた、その内もっと押し寄せて来るぞ』
『どうしようもありません、やはりプロジェクトは失敗ですか』
『どう誤魔化すか、とにかく今は面会を拒否して…』
『先延ばしですか』
『今までもそうしてきたんだ!なんとかなる!』
堪えきれずに扉を開けると二人の男が間抜け面をしてこちらを見て来る
「やあ、まだ入室を許可していないぞ、どうして入ってきたんだ!」
「そうだ!今すぐに出て行きなさい!」
白々しく言ってくる
「少々耳を傾けたところ貴方がたは何かを隠蔽しようとしているご様子でしたが?」
「隠蔽などとんでもない、そもそも何を隠蔽するものがあると…」
「なんらかの失敗があるならば今認めた方がいいと思いますが」
少しの沈黙の後しぶしぶと福笑いの様な顔の男が口を開く
「失敗など…していないッ!私たちは仮想敵国の軍事力を『どんな手を使っても』消滅させると言う命令を見事に達成したのだ!本来の仕様とは少々異なるが、相手国の軍を民間人ごと肉で出来たスライム状のヘドロにしてぶち撒けるよりはマシ!つまり無問題、ノープロブレム!いや、人道的に正しい分こちらの方がいい、国際法にもクリアな、民間人どころか軍も含め死者を出さない人類史上最もクリーンな作戦だ、つまり成功!大成功だ!あはははははははははははははは!私はやったんだあああああああ!!ヒャハハハハハハハハハハハハハ!!!」
目の前の人間は、一言で言うなら発狂した
もう一人は逃げた
しかし上層部も馬鹿だ、そんな作戦を立てて万が一、今現在のように成功してしまえば明日から失業者になるだけだ
軍は良きのライバルがいて初めて成立する事業なのにどうしてライバルを本気で潰そうなどと考えるのか
どうせならヘドロ掃除の仕事が大量発生すれば軍の仕事も残ったと言うのに
「しかし自軍に損害を与えたのですから罰を与えなくてはなりません、こういう時はピストル、あっ!?言える様になっている?」
「ははははははは!言語障害は一時的なものだよ君、それ以外は元に戻らないがね!」
「そうですか、続けますがこういう時はピストルで殴り付ける事になっているのです」
腰にを手やると重い金属製の物体を持ち手を目が届く場所に持ってきた
重量945g 少々の炭素が含まれた鉄、つまり鋼鉄とプラスチック、銅、鉛僅かな塗料と火薬の塊、かつて銃だった実に芸術的(勿論爆発芸術)な何かが視界に入ってきた
「これでは殴り付けられないですな、新しい銃、いや銃が新しく作れるかも怪しいですからね、形だけの置物は3ヶ月も有れば作れるでしょう、貴方の刑罰は」
『ピストル殴り付け執行猶予3ヶ月』
なお3ヶ月後に殴り付け方を覚えている人間がいなかったため兵站部長のチョップが食らわされた