寛いでいると、殺生丸とりんが帰ってきた。
途端、邪見は、「おお、殺生丸!!」と大声を出し、懐いた犬さながら、喜んで殺生丸に飛びいて蹴られていた。
とわ達はいつものやり取りに苦笑い。
相変わらず何を考えているか分からないほど無口な殺生丸と、一言、二言、言葉を交わす。
それから、彼は邪見を連れて去っていった。
「皆、お帰り」
その背が完全に見えなくなると、りんは朗らかな笑顔を浮かべ、家の中に上がり込んだ。
そして、もろはを歓迎し、しばらくして戻ってきた犬夜叉、かごめを加え、楽しく談笑する。
夕方になると、一緒に晩飯を食べた。
華やかな時間はあっという間に過ぎ、日が落ちる頃には犬夜叉一家は帰っていった。
後は寝るだけ。
明日の準備をして、母と妹におやすみを言って、床につく。
それから瞼を閉じて――
(ここは……)
気がつけばとわは、夢の世界に入っていた。
そこは戦国時代ではない。
舗装されたアスファルトの道、住宅街、排気ガスの臭い。
あの令和の……どうしようもなく平和な、現代の世界だ。
いつか見た産霊山での結界のように、すべてが白黒写真のように灰色である。
唐突のことなのに、不思議と困惑していなかった。
ぼんやりと、これが明晰夢という奴かと思った。
とわは、次に自分の格好を見下ろす。
白い上着にシャツ、白いズボン。
男装の姿だ。
現代にいた頃の自分に戻っている。
手には学生鞄まであった。
そこからスマホを取り出して確認すると、ちょうど下校の時間帯。
現在は帰宅途中ということなのだろうか。
ということは、この後の流れは――
「やい、日暮!!」
ああ、やっぱりだ。
お馴染みの河川敷まで歩いていけば、いきなり不良達に絡まれた。
その姿は周りと同じで色がない。
恐らく記憶の再現……なのだろう。
だが、それを分かっていても尚、とわはうんざりした顔を作る。
彼らには現代で、沢山面倒な思いをした。
「何、やる気なの?」
さっさと、どうにかしたい。
そう思って気怠げに煽ってやれば、不良達は怒ったようで、すぐにこちらを囲んだ。
なんとなく数を確認。
ひぃ、ふぅ、みぃ……五人くらいか。
少し多い。
だが問題にはならない。
何人来ようが、どうせ大した事ないのだ。
とわは邪魔にならないよう、学生鞄を放った。
「今日こそは覚悟しやがれ!」
途端、不良の内、一人が飛びかかってくる。
その動きはスローモーションのように遅い。
とわはひらりとその拳を交わし、蹴りを一発食らわせてやった。
それから後ろからくる不良を、気配だけで察知。
振り返る事なく肘鉄をお見舞いする。
あっという間に二人が撃沈した。
今度はこちらから向かう。
狙うは一番高いノッポ。
その腕を掴み、ぽーんと背負い投げの要領でぶっ飛ばしてやった。
そして、四人目、五人目と、それぞれそのお腹にパンチを決める。
そこで、ふぅ、と息を吐いた。
辺りを見れば、不良が苦しそうに倒れ、呻めている。
なんて呆気ない。
こんなもの、子供のお遊びのような、準備運動にすらならない喧嘩だ。
しかし、しっかりとその目はこちらを睨みつけていて、かなり困った気持ちになった。
だって、仕掛けてきたのはそちらからなのに。
やり返されても、何も言い返せる立場じゃないだろう。
後ついでに言うと、これでもかなり手加減した方だ。
本気で殴れば、その腹に穴を開ける事も、とわには出来る。
積極的に害をなそうなんて思ってない。
「もう、分かったでしょ」
とわは学生鞄を拾い上げた。
無駄だと分かってるくせに、どうして引っ込んでくれないのだろう。
毎度の疑問を抱きながら、とわは踵を返した。
その後ろで、不良達の憎まれ口が飛び交う。
「くそ、あんな奴、女じゃねえ」
「人間じゃねえ、化けもんだ!」
とわはぎりっと唇を噛み締める。
何でこいつらはわざわざ言わなくて良いことを言うのだろう。
そんなこと分かっている。
分かっているのだ。
自分は全然普通じゃないって事くらい。
事実、人間でもないし、この時代の存在でもない。
とわは完全なる異物。
それを――
「……ひぃ!!」
後ろに振り返り、ぎん、と睨みつければ、不良達は怯えたように竦み上がった。
蜘蛛の子を散らすように逃げる彼らを、とわは冷めた目で見ていた。
(もうどうでもいいや……)
とわは溜息をつき、また無言で歩いた。
しばらくそうしていると、お店のガラスに映る自身の姿を見て、立ち止まる。
短く切った銀色の短髪。その中に混じる赤い前髪が一房。紅玉をそのまま嵌め込んだような瞳。
せつなの言葉を思い出す。
『半妖の里には、人間の姿のもの、妖怪の姿のもの。色んな見た目の半妖がいた』
とわの姿は、人間の姿。
その父より受け継いだ色彩は、一般のそれとは少し違うけれど、耳は尖っておらず、半妖のくせに社会に溶け込めている。
……よく考えれば、それは凄く運の良いことだったのではないだろうか。
とわはふと、そう思った。
これがもし仮に、犬夜叉のように自分に犬耳があったとして……その場合どうなっていただろう。
よくて部屋に閉じこもるか。
最悪ネットで騒がれて、見せものになるか。
どっちみち、学校には通えてなかっただろうし、異形として排斥されるのは目に見えている(勿論、日暮家の皆は、どんな姿であってもとわを受け入れただろうが)。
これまで平穏に暮らせていたのは、人間の姿だったからこそだ。
でも、結局どんな容姿をしていたとしても、半妖の本質は変わらない。
高い身体能力、妖力は、この身の内で燻っている。
だからどうしようもなく、周囲との違和が発生する。
居場所はあっても、ここは人間のための、人間の世界。
とわの世界ではないのだ。
「……行こう」
歩くのを再開し、とわはこの世界の道のりを行く。
幼い頃に遊んだ公園、母校の小学校が目に入る。
そして、よく行っていた商店街を通り、前に通っていた中学校の制服をちらりと目にする。
通り過ぎたのは、同じ年頃の女生徒。
仲のいい女子グループ。
そんな友達、とわにはいなかったら、眩しくて目を細めた。
やがて、夕刻を過ぎ、夜になって自宅に帰り着く。
出迎えたのは義妹の芽生、義父の草太。
やはり灰色がかった偽物の人形だった。
「お帰り、とわお姉ちゃん!!」
「……ただいま、芽生」
元気良く飛びつく義妹を、とわは泣きたくなるのを堪えて抱きしめる。
当然、芽生は不思議そうにしていて、「お姉ちゃん?」と首を傾げた。
「どうしたんだい、とわ」
義父も心配してくる。
とわは芽生を離し、今度は草太を抱き締めた。
すると、人形の草太は、とわの望み通りにその背を優しく撫で、気が澄むまで好きにさせていた。
その後、しばらくしてから、三人でリビングに行った。
テーブルには沢山の豪勢な料理と、大きなシフォンケーキ。
そのクリームの上には十五本の蝋燭が立てられている。
そして、席についていたのは、じいちゃんに、大ママ。
驚いていると、キッチンの奥から萌が現れ、事情を説明した。
「ほら、今日はとわちゃんのお誕生日でしょ。だからこうして皆に集まってもらっていたの」
「そうよ。とわちゃん、主役なんだから、ずっと待っていたのよ」
「とわ。早く座らんか。料理が冷めてしまう」
じいちゃんと大ママが、朗らかに笑った。
それでも、とわはぽかんとしてしまう。
「誕生日? 今日って、誕生日なの?」
「? そうだよ、とわ。今日はとわがこの家に来てから、十一年目の日だ」
一瞬訝しそうにしたものの、草太は柔らかな表情で、そう言った。
とわはごくりと生唾を飲み込む。
ようやく状況を飲み込めた。
これはつまり、現代に残っていたらという、“もしも”の夢なのだ。
都合の良い、己の妄想なのだ。
こんなものを見ているなんて、自分はよっぽどホームシックを拗らせているらしい。
「もう、何ぽけっとしてるの、お姉ちゃん。もっと喜んでよ。せっかく準備したんだよ!」
焦ったくなったのか、芽生がとわの腕を引っ張り、お誕生日席に座らせる。
とわは芽生を困らせたくなくて、戸惑いを胸の内の仕舞い込み、その頭を撫でる。
「分かったよ、芽生」
「えへへ」
芽生は嬉しそうに顔を綻ばせ、ててて、と走って席についた。
草太も、萌も、椅子に座った。
全員でテーブルを囲む。
じいちゃんがライターで蝋燭に火を灯してくれた。
灯りのスイッチを切る。
ゆらゆら、十五本の灰色の炎が闇の中に揺めき、一人、色があるとわだけが、この世界にぼんやりと照らし出される。
とわは軽く息を吸った。
幼い時のように一片に吐きださない。
弱く長く、力加減を調整して、炎を消した。
一瞬だけ訪れる完全な暗闇。
ぱっと次には灯りがついて、パン、パンと弾ける音。
家族がクラッカーを持って、その紐を引っ張っていた。
勢いよく飛び出した紙吹雪は、とわの頭や服の上に飛び散る。
「お誕生日おめでとう!!」
「おめでとう、とわ!!」
日暮家の皆は、とわの生誕を祝福する。
ありがとう、ありがとう。
この世界に来てくれて、ありがとう、と言いながら。
「……ありがとう、こっちこそ、ありがとう」
胸がいっぱいになって、とわは泣きながら感謝を伝えた。
すると、家族は大袈裟だなあ、なんて微笑んで、ケーキを切り分けてくれた。
それは一番大きかった。
ご馳走を食べる。
どれもとわが好きなものばっかり。
でも、灰色で砂みたくて、味がない。
色んなことを話すけれど、どれも知らない、この現代での一年間の話。
とわが戦国時代に帰ったことを言っても、通じない。
「せつなちゃんにもろはちゃん? 妖怪退治? まだ一年前のことを話してるの? やっぱり懐かしいんだね」としんみりと返される。
ああと、それで実感する。
どうせ分かっていたけれど、戦国時代のことなんて、この場所では遠い世界のことでしかないんだな、と。
……きっとこちらを選んでいたとしても、いつもと変わらない日常が続いていたことだろう。
毎日毎日、不良と喧嘩し、転校を繰り返し。
それでも自分を受け入れてくれる日暮家の皆と、共に生活を送る。
そして、戦国時代のことを徐々に忘れいって……。
それはそれで、悲しいけれど不幸な未来ではなかっただろう。
事実、今とても楽しい。
日暮家の皆はとても暖かくて、ずっと一緒にいたくなる。
……だが、いくらそのことを夢想しても、今更なのだ。
もう現代に帰るという選択肢を捨てた時点で、二度とこの日常は手に出来ない。
それを自覚しているから、こんなにもこの世界は色褪せてしまっている。
だから、だからこそ、とわは――
「あ……」
良からぬ事を考えたせいだろうか。
ピキン、ピシピシ。
唐突に、家族の人形にひびが走った。
とわはびくりと固まり、ケーキを指していたフォークを落とす。
からん、と軽い金属音がした。
家族も固まる。
「とわちゃん?」
歪なノイズ混じりの声で、大ママが心配してくれた。
他の皆も口々に、「とわ?」、「どうしたのとわちゃん。お腹痛いの?」なんて、声をかけてくれる。
その姿は今にも崩れ落ちそうだ。
「待って」
とわは呆然とした顔で手を伸ばした。
ひびは家族だけじゃない。
世界にも広がっている。
嫌な予感がしてならない。
怖い。
「待って。まだここにいて」
たとえお人形遊びだと分かっていても、皆ともっともっといたかった。
伝えきれてない事、山ほどあるのだ。
でも、伸ばした手が家族に触れる前に、彼らは完全に崩れ落ち、チリとなって消えてしまった。
「……っ!」
とわは悲鳴にも似た声を短くあげる。
家族同様、世界が崩れ落ちる。
足場を失い、とわは落下した。その暗い、暗い、奈落の底へ、吸い込まれるように向かっていく。
そうしていつしか身を任せて、長い間、どれくらい経ったのだろう。
気がつけば地面にぶつかる直前、ふわりと風に受け止められ、草むらに寝転がっていた。
嗅ぎ慣れた自然の匂い。
高く照りつける太陽。
何処までも広がる青空。世界に……色がついている。
「……私」
起き上がると、いつも着ている着物が目に入る。
今度は戦国時代にやってきたのか。
一瞬、起きたのかと考えたが、すぐに違うと思い直す。
よくよく見ると、この世界もまたぼんやりと、ハリボテじみているのだ。
ここも偽物の世界。
「とわ、何してるの、こんなところで」
「母上」
しばし佇んでいると、後ろからりんが声をかけてきた。
少し安心し、とわは笑顔を浮かべて振り返る。
が、すぐにぎょっとなった。
母は何故か酷く悲しんでいる様子で、目に涙を溜めていたのだ。
そして、そっと優しく、とわの手を掴む。
「とわ。もう行かないと。辛いのは分かるけど、ここにいちゃ駄目だよ」
「えと、何言ってんの?」
彼女の言っている意味が分からず、とわは戸惑った。
すると、りんは数分程黙り……驚きの事実を告げた。
「とわの方こそ何を言っているの? 楓様が、もうすぐ死ぬんだよ。見取りに行かないと」
「は……?」
(何それ……楓お婆ちゃんが死ぬ?)
とわは耳を疑った。
しかし、りんの目は本気であり、この夢の中ではそれが現実らしい。
「早く来て、とわ」
りんはとわの手を無理やり引っ張って立ち上がらせ、村の方に連れていく。
楓の家に行けば、既に村人が周りに集まって、涙を流していた。
その中にはせつなやもろは、犬夜叉、かごめの姿もある。
他には珊瑚や弥勒、七宝、琥珀まで。
楓と親しいものは、全員いる。
「……とわ」
皆はとわの姿を見ると、一様に暗い顔になった。
夢の中と言えど、とわは体が震えるのを感じた。
「か、楓お婆ちゃんはどうなったの?」
「さっき死んだ。大往生だ」
犬夜叉が呟いた。
ちょうど、家の中から村人が何人か出てくる。
楓の遺体が彼等によって、丁寧に運び出されていた。
「お別れだ。よく見とけよ、とわ。こうして人は死んでいく」
あっという間に葬式が始まった。
楓の遺体は何処までも丁重に扱われ、荼毘に付された。
遺体が燃える臭いに、吐き気がする。
長い時間が過ぎて炎が消えると、楓は骨だけになっていた。
ショックを受けている間もなく、その骨は骨壷に入れられ、桔梗のお墓の中に収められた。
とわは終始、絶句していた。
どうしてこんな夢を見ているんだろうと思った。
見たくない。
見ていられない。
大切な人の死なんて……嫌だ。
だけど、犬夜叉の目は厳しかった。
せつなやもろはも、逃すまいと肩に手を置く。
「目を逸らすなよ。これはいつかくる現実だ。楓はお前より先に死ぬ 」
「そうだぞ、とわ。こんなの当たり前だろ」
「けど……!! 私は楓お婆ちゃんと離れたくは……!!」
「駄々を捏ねるな。仕方がないだろう」
犬夜叉の底冷えする声に、とわは目を見開いた。
せつなは気を使う様子もなく、指し示すように言った。
「さあ、次は木助さんだ」
途端、村人の内、楓と同年代の老人が倒れた。
困惑、衝撃が走る。
固まるとわを置いて、また葬式が始まる。
そうして、次々と、次々と。
村人が死んでいく。
それは老衰であったり、病死であったり、怪我が原因だったり。
老若男女、関係ない。
戦国時代、その医療は発達しておらず、些細なことでどんどん人は亡くなる。
その度にお墓が目まぐるしい勢いで増えていき、比例してかごめやりん、琥珀の顔に皺が刻まれていく。
時間が経過しているようだ。
「楽しかった。礼を言うぞ」
その内、遂には老いで琥珀が死んだ。
珊瑚が死んだ。
弥勒が死んだ。
かごめが死んだ。
そして……最後にはりんまで。
「……ありがとう。とわ、せつな」
彼女は既に、皺くちゃのお婆ちゃんになっていた。
立ち上がる事も出来ず、布団の中で寝ていて、その生命の火が今にも消えそうなことは明白だった。
とわは泣き叫んだ。
行かないで! 行かないで! もっとずっと一緒にいて!!
もう誰の死も見たくなんかない!
りんにしがみついて、そう懇願した。
でも。
「……じゃあね」
「あ……」
りんは虚しく死んでいった。
とわは呆然とする。
今まで通り、葬式が始まる。
遺体を焼いて、骨を砕いて、もう幾度なく見たお墓が立った。
りんのお墓が。
「……」
とわは絶望のあまり呆然となった。
親しい人は誰もいなくなっていた。
顔見知りでさえ、いなくなっていた。
それなのに、とわは若いまま、一つも歳を取っていなくて。
まるで、この世界に取り残されたみたいに、ただ虚無のような孤独がある。
「どうして……私だけが」
己の手を見つめ、とわは恐怖で震えて、項垂れる。
自分の体が不気味だった。
何一つ成長しない。
何一つ老いない。
何一つ変わらずに、そのままであり続ける。
こんなの普通じゃない。
皆と一緒が良い。
置いていかれるのは怖いし、一人になりたくない。
「どうして……どうして……」
繰り返し呟く。
目の前には同じく、年をとっていない犬夜叉や、せつな、もろはがいる。
彼女達だけがとわの救いだった。
「……答えて。ねえ、私はどうして、こんななの?」
皆なら、何か知っているかもしれない。
とわはそう思い、半ば縋り付くような問いかける。
すると、犬夜叉が言った。
「お前が半妖だからだ。人間じゃないからだ。何れこうなる定めなんだ」
「……」
「行こうぜ。もうここにはいられない」
「え? 何が……」
そう言いかけた途端、ひゅっと、こちらに何かが飛んで額に当たった。
とわは頭を抑え、落ちたものを見る。
石だ。それも尖った大きな大きな石。
つぅ……と血が傷口から少し垂れた。
「見つけたぞ! ここにいたか!」
周りを見渡すと、こちらを見知らぬ村人が取り囲んで、わーわーと騒ぎ立てている。
「出ていけ、半妖!!」
「出てけ、化け物!!」
こちらを差別する視線、敵対する意志。
今まで晒されることのなかったもの。
それらがとわを射抜く。
後退り、止まらない冷や汗が頬を伝った。
「一体何が……」
「……親しい奴ら、皆死んだからな。後に残るのは俺らを排斥する奴らだけだ」
「……!?」
言葉を失う。
思い出すのは、現代での不良。
彼らもとわのことを化け物と呼んだ。
ならばこの時代の人達もまた、同じくとわを化け物と呼ぶのだ。
「とわ」
妹は……夢の中のせつなは、いつになく、悲しみを込めた声で言った。
「私達は半妖だ。結局、人間の見た目をしていようが、半妖なんだ。私達は半端ものだから、居場所がないんだ」
「そうだぜ、とわ。だからさ、現代を選んでも、何れこうなってたんだぜ。そして、戦国時代でも同じようになる。いつまでも年を取らねえお前は、周りから見れば立派な化け物だ。そんなお前の行き場所は、何処にあるんだよ」
もろはが、残酷なまでに淡々とそう付け加える。
出て行け、出て行け。
ワーワーと声は鳴り止まない。
石は霰のように飛んでくる。
とわの視界はぐるぐる回った。
犬夜叉も、せつなも、もろはも……何を言っているのか分からない。
現代での時のように、すべての光景が白黒になっていって――
「う、うあああああああああ!!」
「とわ!?」
とわが絶叫した途端、驚いたりんの声が飛んだ。
それでもガクガクと震えていたとわは、起き上がった姿勢でしばらく頭を抱えていた。
動悸が嫌に激しい。
何も考えたくない……。
さっきのは嘘だと、誰か言って欲しい。
「とわ、しっかりして、とわ!!」
りんが慌てた様子でとわの名を呼ぶ。
側にいたせつなも、この姉の尋常ではない様子にたじろいでいた。
「せつな、川で水汲んできて!」
「は、はい、母上!!」
りんの指示に、せつなが外へ飛び出していく。
その間、りんは「大丈夫、大丈夫」と繰り返し、とわを宥めていた。
とわはそれに甘えるよう、母に縋りつく。
彼女を取りこぼしたくなんてなかった。
今ここに確かにいるのだと、その実感が欲しくて仕方なかった。
「とわ、大丈夫か?」
「せつな……」
やがて、せつなが竹の容器に水を入れて戻ってきた。
ここでようやく頭を上げたとわは、容器を受け取り、ぐっと水を飲み干す。
混乱した頭に、きんとくる冷たさだった。
「私……」
とわはぼんやりと周りを見る。
見慣れた家の中だ。
いつの間にか目覚めていたらしい。
白い日差しが入り込んできている。
それでもまだ少し早い時間帯のようで、りんとせつなの目には、うっすら熊があった。
「……ごめん」
多分、自分が起こしてしまったのだ。
申し訳なさからとわは謝る。
しかし、全然気にしてないのか、二人は首を振った。
そんなことはどうでも良いとばかり。
「それよりも何があった、とわ。随分とうなされていたようだったが」
「……何か悪い夢でも見たの?」
母と妹は、こちらのことを真剣に心配してくる。
とわはどうしたら良いか分からなくなって、口を閉じた。
本当は今すぐにでも飛びついて、わんわんと泣き叫びたかった。
しかし、躊躇なく今の夢の内容を言える程……そんなに図太くも、強くもなれない。
だから、ただただとわは首を振って、何でもないと一つ呟く。
そして、とわは。
「……本当にごめん」
と。
またもう一度、さっきとは別の意味で謝ったのだった。