遥かな永遠を一緒に 十一話 前編
――若葉は、目的地へと歩いていた。
ただひたすらに、一心不乱に歩いていた。
「……ッ、……ハアッ……」
そろそろ体力も大分減ってきた。
休みたい気持ちをグッと堪える。
彼女はそうまでもしても、確かめなければいけないことがあった。何故ならその場所には、若葉にとって人生をかけたやるべきことのヒントが転がっていたからだ。
(……ここかな)
しばらくして若葉は足を止めた。
目の前に広がるのは、砂原と一面の海。何処までも何処までも広がる青い海だった。
「……」
若葉はそれを、僅かな感傷と共に見つめ。
付近の村人から聞いた話を思い出していた。
十数年前、四闘神と名乗る妖怪が暴れていたこと。
伝説に聞く鬼ヶ島が現れたこと。
もしかしたら、とは思っていた。
けれど、あらゆる角度から考察を重ね、またあらゆる場所で“それ”を見て、その可能性がゼロではないことに気付いた。今から彼女は、その仮説が本当かどうか確かめに行くのだ。
「……さて」
意識を切り替え、若葉は妖力を集中させる。
懐から木箱を取り出し蓋を開くと、中から影のようなものがどろりと溢れ出す。グニャグニャ一つになると、大きな船になった。若葉はその上に乗り込んだ。勝手に船は海原へと出発した。
そしてそこから、また何十分も、何時間も。
海の上を移動していた。途中から豪雨が降ってきたが、構わず若葉は突っ立ったままだった。
……やがて日が落ちる頃になると、天気も穏やかになっていた。海も静かだ。
(座標位置はきっとここで合っている……)
船が止まった。間違いない。周りは何もない海だが、若葉には分かっていた。
息を吐き、妖力を高める。
「――っく!」
すると突如として、右目に痛みが走った。
何のことはない。これは兆候だ。眼帯を外す。脳髄を貫くように、右目に大量の映像が流れ込んでくる。
見えてきたのは巫女の桔梗、犬夜叉。
(二人は船に乗っている……これは迷っている? ……そして島……半妖の……島に辿り着いて……)
ピントのレンズを調整するように、若葉は俯瞰の視点に切り替える。
そこはやはり島だった。今はもう伝説にしか残されていない、チリとなって消えた島――蓬莱島。
(とは言えこの状態でも殆ど滅んでいるな。前はどうだった)
更に焦点を過去にずらす。
妖怪と人間が仲良く暮らす光景。まさに半妖にとっての理想郷。しかし半妖を守るため、その島は五十年に一度しか開かない場所だった。そしてその隙をつかれ、四頭神に滅ぼされたらしい。
(そうやって残されたのは半妖の子供達……その後次々と生贄となり……だが犬夜叉一行が現れ……四闘神を撃退……)
では生き残った半妖の子供達は何処へ?
視点を変えれば、最後に皆、笑顔で旅立って行く様子が見えた。
物語はここでお終い。映像はプツンと途切れる。
「ッ……、ハッ、ハッ、ハッ……」
それと同時、襲いかかる虚脱感。若葉は息を止めていたように呼吸がかなり乱してしまった。
全身には熱を帯びたように大量の汗。
――キツい。
若葉は堪らず、倒れるようにその場に座り込んだ。正直言って、この能力には嫌気すら湧いてくる。
しかし有益な分、代償がない訳にはいかないのだ。ましてや若葉は半妖なのだから。
(もっと制御できるようにしないと)
袖で額の汗を拭いながら、若葉は思う。
まだ使いこなせていなから、負担も余分にかかるのだろう。良い加減慣れなければいけない。それも一刻も早く。
「――ともかく、人間と妖怪が共存出来ることはこれで分かった」
後はこの前例を生かし、環境と、土地と、人選を、選び抜いた果てに、守りをどう固めるか。
(やることは山積みだ)
なにしろ蓬莱島のように滅びては意味がない。
若葉が作ろうとしているのは、真の意味で半妖が問題なく暮らせる場所。自分達の居場所となる場所だ。長く長く、続いていなかければならない。
(それさえあれば、私も、旭も、雲雀も、また三人で一緒に暮らせるよね?)
あの幸せな日々がもう一度訪れる。そのためなら何だって出来た。
半妖が安心して過ごせる場所が欲しかった。
姪が死んだから尚更だ。姪のような子供は見たくない。子供が健やかに育てば、この半妖という呪縛にも光が見えてくるはず。
(それに……私が誰かを愛したとしても、万が一という時もあるしね)
こんな世の中だ。
ひょんなことで死んだとしてもおかしくない。
もしかしたら弟にも会えないかもしれないし、母の答えに辿り着ける保証もないだろう。だから、自分がいなくなっても、その意思を受け継ぐ土壌を造る。
「旭、お前を一人にはさせないよ。死んでも約束は守る」
これはそのための第一歩。
現実に抗うための第一歩だ。
「さあ、次は別の場所を調べよう」
船が進路を変え、再び進み出す。
――目指すは半妖の隠れ里。
これから形作る、八卦の村の参考になる場所の一つだ。
◆◇◆◇
――時計の針は巻戻る。
時系列は夜那の事件が起きる前、とわと理玖が逢瀬に出かけてしばらく経った頃であった。
その日、もろはは早めに妖怪退治の仕事を終えて、妖怪の死骸を換金をしようと屍屋を訪れていた。今日は大量だったのでご機嫌であった。妖怪の死骸を背負って歩くのも苦にならない。
ちなみにせつなは別の用事で何処かへ出かけていた(母のりんと遊びに行っているのだろう)。
少し寂しくはあったが、珍しくもないので、もろはは邪魔しようとは思わなかった。
「いよー、竹千代!!」
そうしてもろはは、意気揚々と屍屋の暖簾をくぐって中に入った。すると獣兵衛はいないものの、代わりに作業中だった竹千代が、一瞬ギョッとしたような顔をした。もろはが持ってきた妖怪の死骸が、普段より二倍近くも多かったからだろう。
「うわ、もろは!? すごいいっぱいなんだぞ!」
「いやぁ、結構倒せてさあ。引き取ってくんない?」
「分かったんだぞ! そういうことなら任せるんだぞ!」
そして竹千代は、小柄で美しい、赤髪の少女に声をかける。
「りおん様! 悪いけど手伝って欲しいんだぞ」
「はい。分かりました」
既にこちらに気付いていたりおんが、ゆっくりとこちらにやってくる。
あまりに上機嫌だったため、竹千代以外見ていなかったもろは、今更のようにりおんを視界に入れ、パチパチと瞬きをした。
「え? お前、りおん?」
「はい。ようこそ屍屋にいらっしゃいました、もろは様」
「え、でもお前、いつの間にここで働くようになったんだ? 理玖が稼いでるんじゃねえの?」
「ええ。ですけど、理玖ばかりに甘えるのもどうかと思いまして」
話によれば、どうも妖怪退治中、この屍屋に預けられることも多いそうで。しかし結構暇であり、せめて手伝いでもしようと思ったらしい。
「まあ、理玖からは反対されましたけどね。自分が頑張るんでって」
「アハハ、あいつ言いそうだなぁ。でも結局納得させて、今日もとわとの逢瀬に行かせたんだろ?」
「はい。二人とも忙しくし過ぎですから。大事な時期なんですから、もっとお互いのことを知らないと」
確かにそう言われればそうである。
とわも理玖も、なんだかんだ距離を縮めつつある。気持ちを確かめ合うのも時間の問題だ。
が、嘆かわしいことに、二人は真面目人間でもあった。勿論、自主的に逢瀬はするのだが、気が付けば仕事を二つも三つも抱え込んでいて、だから、周りが怒ることもしばしばだ。
「ちゃんと時間を作らないと疎遠になるわよ!」
とは、かごめの言葉だ。
要は必要分金は稼いでいるんだから、自由な時ぐらいさっさと理玖とイチャイチャして来いということらしい。周囲としても、もし万が一失恋でもされたら目覚めが悪い。根深い反対派もいるが、早くくっつけよ! というのが周囲の総意だった。
(これ以上はヤキモキして見てらんねえもんな)
今の状態も面白いのだが。やはりとわが幸せになってくれた方が一番だ。
りおんも同じ気持ちだろう。
ともかく、そういう訳なので。
「今日からここで働きますので、どうかよろしくお願いします。もろは様」
「そうか。頑張れよ、りおん」
「ありがとうございます」
元気良くお礼を言って、りおんも竹千代にならい、もろはが渡した妖怪の死骸の査定を行なっていく。
結構良いお値段になった。お金をもらうと、もろはは自然とにんまりとなった。やっぱり稼いだら気分が良い。
と、そのタイミングで、獣兵衛が丁度帰ってきた。
「おう、帰ってきたぞ。悪かったな、店番させちまって」
「そんなことないんだぞ! むしろ割と早くてびっくりしたんだぞ」
竹千代が返事を返す。獣兵衛はもろはに気が付くと、
「お、もろは。今日は良いところに来たな。お前さんに客人だぞ」
と言った。
そしてその言葉通り、獣兵衛の後から二人、若い女性が続けて入ってくる。
彼女達は外套を羽織って顔を隠していた。訳ありなのだろう。臭いもしない。
「もしかして依頼人か!?」
もろはは俄然テンションを上げる。今日は運が良いと思った。しかし、もろはの依頼人ではないらしい。
「どっちかていうと、かごめさん達の方だな。知り合いだから会いたいらしい」
「知り合い……?」
訝しげに首を傾げるもろは。
こんな怪しげな知り合いは聞いたことがないが……しかしその思いを察したのか、小柄な方が謝る。
「あ、ごめんね。私達、あまり公に顔を晒せなくって」
「多分犬夜叉兄ちゃん……ううん、犬夜叉さんか。犬夜叉さん達に会えば分かると思うよ。私達のこときっと覚えているはずだから」
「……そう言うってことは、どうやら知り合いで間違いなさそうだな」
少なくとも悪意のようなものは感じられない。……というかむしろ、さっきからすごい見られているのだが……、
「それにしても犬夜叉さんにそっくりだね。顔とか、雰囲気とか、一眼見ただけで娘さんだって分かったよ」
「後はかごめさんにも似てる。話に聞いてた通りだ」
何やら懐かしいのか、彼女達はもろはを差し置いて、ワイワイと盛り上がっていた。嫌ではないが物凄く恥ずかしい。
「ちょ、なんだよ! さっきからむず痒いからやめろよ!」
どうにもこういうノリは苦手だ。
竹千代とりおんに助けを求めるが、二人は生暖かい目しか向けなかった。
誰も味方がいない。軽い絶望感を抱いたところで、ふと獣兵衛は思い出したように言った。
「そう言えば、俺達屍屋の方にも頼みがあるんじゃなかったか? 何か調査して欲しんだろう?」
「そうですね。では、こちらを」
背の高い方の女性が、懐から紙を取り出し、獣兵衛に渡す。獣兵衛はそれを見て、すぐに目の色を変えた。
「!? コイツァ、またとんだ大物じゃねえか! お前さん方、コイツに恨みでもあるのか!?」
「因縁の相手だよ」
「でもよ……話によるとコイツら、死んだんじゃなかったのか? 確か十数年前、ぱったり見なくなったとかで……」
「確かに十中八九偽物だと思います。けど、そいつらと同じ名前を名乗っている奴らがいるみたいなんです。放っておけない」
「……」
獣兵衛はその言葉で考え込む仕草をした。
考え込んだ果てに、竹千代とりおんを呼ぶと、受け取った紙を渡す。
「りおん様、悪いんですが、過去類似する情報を集めてきてください。竹千代、お前も手伝え」
「はい!」
竹千代達は急いで店の奥へ資料を集めに行った。
もろはは獣兵衛に聞く。
「おいおい。そんなにヤバい妖怪だったのか? 獣兵衛さん」
「ああ。かごめさん達を頼るのも納得だ。お前ら夜叉姫
でも苦戦するだろうぜ」
「本当かよ」
そう言われると、逆にどれ程のものか、知りたくなるもろはである。だが、依頼人達の頼みは何となく分かった。きっと藁にも縋る思いでここまで来たに違いない。
「もろは、かごめさん達の所へ案内してやれ」
「分かったよ」
こうしてもろはは、二人の女性を連れて、屍屋を出ていくのだった
◆◇◆◇
思ったより、楓の村には早く着けた。屍屋から家まで、そう遠い訳ではない。
それに何より二人の女性には、有り余る程の体力があった。おかげで休みなしにここまで来れたのはありがたかい。
(とは言え人間離れしてたけどな。もしかしてこの人達――)
そう思考を走らせたところで、見覚えのある人影を見つけた。
「あれ? あいつは……」
確か犬夜叉の友人である子狐妖怪だったか。
遊びに来たのだろうか。そう言えば、久しぶりに珊瑚も弥勒も犬夜叉の元に集まっていると言ってたから――
「……七宝兄ちゃん?」
そこで背の低い方の女性が七宝に話しかけた。
七宝はこちらを向き、当然ながら首を傾げる。
「ん? 兄ちゃん? もろは、隣にいる奴らは誰なんじゃ?」
「あ、えーと……見覚えないかな?」
頭から被っている外套を、少し彼女はずらした。
はっきり見えるようになった顔を、七宝は数分程見つめ……、
「もしかして、藍か!?」
「うん、こっちは浅葱姉ちゃん!」
「そうか……元気にしておったのか!」
七宝は涙ぐんでいた。しんみりした雰囲気になる。
でも事情を知らないもろはからしたら、やっぱり疎外感があった。
ちょっと寂しくて、わざと割り込むように声を出す。
「あのさ、七宝。二人とも、どうやら親父達に依頼しに来たみたいなんだ。なんか死んだはずの手強い妖怪の名前を騙る、偽物が現れたらしくて」
「ま、まさか四闘神の……?」
途端、七宝は顔を曇らせた。
やっぱりヤバいやつらしい。七宝は恐る恐る聞いてきた。
「それは本当の話なんじゃろな?」
「うん。私達も信じたくないけど、実際に知り合いが殺されたの。しかもそいつらは知り合いの遺体を持ってる」
「……そうか」
藍の声から察するに、その知り合いとやらは良い人物だったのだろう。深い悲しみが混じっていた。だからこそ、依頼にやってきた彼女達の気持ちが伝わってくるようだった。
「とりあえず、親父達のところに行こうぜ」
「そうじゃな」
もろはと七宝は、浅葱達を犬夜叉一家が住む家へと案内した。
扉を勢いよく開けると、そこには犬夜叉、かごめ、弥勒、珊瑚が集まっていた。驚いたようにこっちを見ている。
「親父! お袋!」
「おう、もろは。七宝もいるじゃねえか。……で、そいつらは誰だ?」
例の如く、犬夜叉が訝しげに外套姿の二人を怪しむ。
すると女性二人は、初めてフードを脱いだ。
「アンタ達……」
もろははびっくりして息を飲む。
露になった髪と耳は、人間のそれではなかったのだ。
浅葱は青緑の髪に、尖った耳。藍の方がもっと異質で、耳がヒレの形になっている。名前通り、髪は深い藍色だ。
ここに来てやっと、二人が顔を隠している理由が分かった。彼女達は、とわやせつなと同じ、半妖なのだ。狙われるのを防ぐため、あえて臭いも消していたのだろう。
「おお、お前ら!!」
「大きくなられましたなあ!」
浅葱達が言った通り、犬夜者達は覚えていたらしい。一気に顔を綻ばせた。またワイワイともろはを抜きにして盛り上がり始めたので、彼女はジーと彼らを見た。
全員がそれに気付くと、ハッとし、弥勒がゴホン! と咳払い。
「まあ、上がっていかれてください。少々狭いですが」
「俺の家のだぞ」
犬夜叉のツッコミを無視して、もろは、七宝、浅葱、藍が、履き物を脱いで、部屋の中に座る。犬夜叉達も合わせて総勢八名が、車座になるように顔を合わせた。
「まずはお前ら、久しぶりだな」
最初に犬夜叉が嬉しそうに笑う。続けて、かごめが柔らかく微笑んだ。
「うん、本当に。大人になっててびっくりしちゃった」
「色々大変だったでしょう。他の皆も無事なんですか?」
「はい。緑も橙も、萌黄も紫苑も、生きてます」
「そうかい。今は何をしているの?」
「今は各地を転々としながら、とある集落の人達を助けてます」
浅葱が答える。
「今回はその人達の頼みで来たんだ」
「ん? 四闘神のことじゃなかったのか?」
七宝が疑問を口にする。途端、場がざわついた。
「四闘神だって!?」
「あいつら、やられたんじゃなかったのかい!?」
犬夜叉達でさえこの反応だ。もろは聞かずにはいられなかった。
「あのさ。四闘神って何だよ。この人達とは何があったんだ? あたしよく分からないんだけど」
「……そうだね。もろはちゃんには説明すべきか」
すると珊瑚が当時のことを話し始めた。
「十数年前の話さ。あたし達は伝説の蓬莱島ってとこで、四闘神名乗る妖怪達と戦ったんだ」
「蓬莱島?」
「妖怪と人間、半妖達が住んでる島。けれど四闘神に滅ぼされてしまっていた。生き残っていたのが、そこにいる藍ちゃんと浅葱ちゃん達を含めた半妖の子供達さ」
「でも、多くの仲間達が生贄に出されてね。今度は私が生贄に出されるっていう時に、犬夜叉さん達に助けてもらったの。本当に……感謝しかない」
浅葱と藍は、その時のことを思い出したのか、救われたような、しかし辛そうな顔をしていた。彼女にとって、まさに犬夜叉達は命の恩人なのだろう。
もろはじんと来てしまった。
(親父達、良いやつだなあ)
昔、そんな活躍をしていたとは。
娘としては誇らしい気持ちでいっぱいである。
とは言え、浅葱達が生きているということは……、
「その四闘神ってのはぶっとばしたんだろ。どうして、今更四闘神の偽物が現れたんだ?」
「……分からない」
浅葱は首を振った。
「一応、心当たりがあるって言ってる人はいるんだけど、それも確証はありません」
「そうなの。それで貴方達はここに来たのね?」
かごめが確認する。浅葱達は、犬夜叉達の顔を見て、詳しい話をする。
「そうですね。すべての始まりは、三年ぐらい前でした――」
犬夜叉達と別れた後。
浅葱達、蓬莱島の子供達は、色々厳しいこともあったが、日々を逞しく生きていた。成人した今でも一緒に暮らしていて、だが常に固まって動いている訳ではない。仕事のため外に出かける者もいた。
藍もその内の一人だ。
しかしその中で、彼女は奇妙な情報を耳にする。
半妖を狙っている奴がいるらしい。
そいつは妖怪と共にいる人間を調べているらしい。
しかもこの近くにいるんだとか。
危機感を覚えるのも無理はなかった。
多少とは言え、浅葱達も人間と付き合って生活していたからだ。
そこで浅葱達は考えた。やられる前にやってしまおう。かくして、浅葱達はその怪しい奴に接触した訳だが……、
「予想に反して、そいつは噂とは反対の奴だったんです」
「反対……?」
「その人も半妖だったの。名前は若葉さん。箱の半妖だって言ってた」
箱の半妖。
何処かで聞いたことのある響きだ。
「確か箱の大妖怪の双子の子供……だよな。その片割れに会ったのか」
こくんと浅葱が頷く。
「それで、その若葉さんは何をしていたの?」
かごめが聞くと、藍が思い出すように、
「えーとね、色んな半妖のことを調べてるって言ってた。私達のことも知ってたみたいで、かなりびっくりしていたよ。もしかしてあの時の子供達? って」
だがその言い方は変だった。まるで十数年前、実際に蓬莱島のことを見ていたような……あり得るはずがない。
しかし、なんと浅葱達が「本当に見たらしいんです」と教えてくれた。
「何でも場所や物体の過去が見えるそうで。右目が眼天輪っていう妖怪になっていて、その力を使って消えていく蓬莱島を“見た”と言っていました」
「成る程……しかし箱の半妖にそんな力があるとは思いませんでしたね」
とは言え、一見箱とは何の関係もなそうな力だが、箱の大妖怪は妖力を奪う力があったという。その力を若葉が部分的に受け継いだとしてもおかしくない。
「他にも彼女は、色々と特殊な半妖でした。支配した妖怪を箱から出したり、船とか出したりもして」
「じゃあ物体の出し入れが自由に出来たってこと? 確か箱の半妖は二人いたと聞いたけど、もう一人の方はどうだったの?」
「ごめんなさい。弟の方は知らなくって。でも、若葉さんは弟のために動いていました。半妖として生きられるよう、居場所を作ってあげたかったみたいです」
彼女は村を作ろうとしていたのだ。
半妖のための、皆が平和に暮らせる理想郷。
「まるで蓬莱島ね……」
そう、その姿はかつての蓬莱島と重なる。
だからこそ彼女は蓬莱島の過去を見た。村の参考にしようと思って。
「彼女は出来るだけ多くの半妖の記録を調べ、どうすれば人間と妖怪が共存出来るのか、どうすれば半妖が幸せになれるのか、探っていたそうです。若葉さんとは蓬莱島の件で一悶着ありましたが、最終的には和解しました。その代わり私達に意見を求めてきました。“実際に人間と妖怪が暮らすには、何が必要か”と」
そう聞かれて浅葱達は悩んだだろう。
過去を見られた以上に、複雑な思いがあったに違いない。そうして全員で答えを考え、浅葱達は結論を出したのだ。
「それは皆で話し合うこと。そうしないとすれ違いが起きるし、争いが生まれてしまう。そして、私達は時々で良いから、若葉さんを手伝おうって決めたの。既に村は出来始めてるらしいから、せっかくの半妖の居場所を壊したくないなと思ったのよ」
「……そうか」
つまり助けている集落の人達とは、その新たに築き上げられた半妖の村人達なのだろう。故郷と同じような場所を、彼女達は守ろうと決めたのである。
「その場所は八卦山と名付けられました。海辺の国の、外れの山にある村です。若葉さんはこの村を自分なりなの“掛け”だと思っていたみたいですね」
「それで八卦ですか。なかなか洒落が利いている」
八卦とは占いのこと、易における概念のことだ。
家族や自然を表し、万物にも繋がる。若葉なりの皮肉にも聞こえた。
……しかし、それなら、若葉は何を掛けていたのだろうのか。掛けるには何か代償が必要だ。掛けるものがなければ、それは掛けとは言わない。
「でもその掛けが原因とばかり、彼女は殺されてしまいました。私達と会ってしばらく経った頃のことです」
「……」
その事実に一気に空気が重くなる。
それは……あまりにも無念だっただろう。村が出来て、まだこれからという時なのに。
「私達は八卦山の人達と協力して、若葉さんを殺した妖怪達を探し回りました。ですが、情報はいっさい見つかりませんでした。まるで忽然と姿を消したように」
「けど最近、その一人が見つかったの」
白い大虎の妖怪だったという。
第一発見者は八卦山の村の長で、彼は大虎の妖怪を追い詰め、殺害することに成功した。その死に際――妖怪は負け惜しみのように名乗ったらしい。
『俺は四頭神の獣羅。俺を殺してただで済むと思うなよ。他の四闘神もすぐに出てくるからな』
「その言葉通り、他のところでも四闘神を名乗る妖怪の目撃情報があるみたいです。いくら何でもおかし過ぎると思いませんか?」
「……それもそうだね。もしかしたら罠かもしれない」
珊瑚が神妙に呟く。だが話はそれで終わりではないらしい。
「しかも長が死体を調べたところ、何か欠片のようなものが見つかったらしいの。長はこれを、四魂の欠片の紛い物じゃないかと疑ってるみたい」
「――四魂の欠片の、紛い物」
ゾッとする。
その事実がどれだけ恐ろしいか。
もろはだって、父母の話は口伝えだけど分かる。
とにかく碌なものじゃない。あってはならないものだ、それは。
「確かにこれは、俺達の出番だな」
犬夜叉は真剣な顔で言った。周りの仲間達も同じ顔だ。
「今回の依頼は、その長からの依頼です。頼み事は四つ。偽物の四闘神をすべて倒すこと。彼らに奪われた若葉さんの四肢を取り戻すこと。紛い物の四魂の欠片を回収すること。そして裏に潜むであろう、四魂の欠片の制作者を捕まえること。私達も協力します。報酬はいくらでも出すそうです」
(いくらでも!?)
その言葉にもろはは反応する。それはもうガッツりと反応する。
「良いぜ。引き受けおうじゃねえか、その依頼!」
犬夜叉とかごめ、珊瑚、弥勒、七宝が力強く答える中で、もろはは思わず手を挙げていた。
「あ、あたしもそれ、行っていい?」
「――もろは?」
当然、皆がびっくりした顔をしているのは、言うまでもないのだった。