遥かな永遠を一緒に   作:鐘餅

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一万文字行かずに久々にスッキリ書けた気がすると思いたい。


遥かな永遠を一緒に 十一話 後編

 箱の半妖を巡る悲劇、そのすべての事件は繋がっている。

 

 仮説その一。

 ――旭を妖怪化させた人物と、若葉を殺した人物は同じ。

 

 仮説そのニ。

 ――若葉の遺体を持ち去ったのは、その遺体を“何か”に使うため。

 

 仮説その三。

 ――犯人は箱の大妖怪の能力を熟知している。

 

 前提として、箱の大妖怪及び、箱の半妖の能力を語らねばならない。彼らの能力、その本質は何処にあるのか。

 それは対象の物体、概念、力を奪取し、自分のものとすること。奪取したものを再現すること。奪取したものを取り出すことだ。

 そしてそれらの力を掛け合わせ、対象の物体、概念、力を永久に保存し、新しい世界を内側に創り出す。

 

 箱の大妖怪は、これらの能力により強力な妖怪へとのし上がった。元々、彼女は弱小妖怪だったのだ。

 とは言え、一気に妖力が成長したきっかけは、あの時が原因としか考えられない。

 

 ――あの時。

 数百年だが昔。

 

 箱の大妖怪は隙をつき、斑紋の目を奪ったのだ。

 それは眼天輪の妖力の源であり、過去と未来の因果を見る、時空を超えた瞳だった。

 

 そして箱の大妖怪の両目は、斑紋の目と同じ“青い瞳”となったのである。逆に斑紋は大妖怪から零落することになる。にも関わらず、その後自由奔放に世界中を旅し、日ノ本でとある少年を助けたりする(ついでに別れるために盛大に死んだフリも行った)のは、また別の話だ。

 

 ともかく、箱の大妖怪はとてつもない力を手にした訳だ。だがその瞳を自由に使えたかというと、そんな訳ではない。彼女は蒐集家であって、担い手ではないのだから。

 それはとても扱いが難しい瞳だった。

 そのくせ常に展開されているくせに、まったく役に立たないものだった。

 長らく大妖怪自身、忘れていたくらい。

 

 でも事情が変わった。

 彼女は出会ってしまったのだ。人間の男、時読に。

 

 そう。

 ……彼が死んだ時、本当のことを言うと、箱の大妖怪は耐えられなかったのだ。

 

 どうすれば生き返らせることが出来るのか。

 どうすればもう一度会えるのか。

 そんなことばかりを考えた。

 

 だから彼女は過去と未来を変えたくて、瞳を使おうとした。

 使おうとして、使おうとして、使おうとして。

 無理やり使おうとして、瞳は暴走した。そして、絶え間なくあらゆる時代の光景を見てしまった。

 それは可能性の世界の観測。

 

 もしあの時ああしていたら?

 もしあの時こうしていたら?

 

 選択肢によって分岐するもしも。

 だが観測した時点で未来が収束するならば、この時に大妖怪自身の未来も固定されたのかもしれない。

 必ず暴走するという未来。過去と未来はあまりに未知でありふれていた。

 蒐集の化け物は欲してしまった。

 ――ありとあらゆる時空の全てを。

 

 やがて、箱の大妖怪自身、その欲求に飲まれるのは時間の問題だった。そして、赤ん坊である半妖達を置いて眠りにつくのだ。

 それが正史であり、何処の世界でも変わらぬ未来。少なくとも青い瞳はそう告げていた。

 

 だか。

 この世界そのものが、ちょっとだけ外れた未来だったのか。それとも、麒麟丸や是露の影響でバタフライエフェクト――因果の揺れが起きたのか。

 ……その瞬間、突如として見える光景が変わったのだという。

 

 彼女は“本当に過去と未来を往来する”存在を捉えた。

 まずは犬夜叉とかごめ。次に夜叉姫達。

 彼らの物語を見て、大妖怪は殊更に思った。

 

 やっぱり眠るのは嫌だ。

 自分も犬一族みたいに家族と生きたい。

 

 そうして足掻きのように、箱の大妖怪は心と記憶の一部を切り離した。あらゆるものを欲しいと思う心と、過去をやり直したいという記憶。その結晶こそが夢珊瑚の始まりであり、彼女が宝物を捨てるようになった原因だ。

 

 ともかく、夢珊瑚を生み出したことで、箱の大妖怪は延命出来た。でも、犬夜叉やかごめ、夜叉姫達と言った犬一族のことを、箱の大妖怪自身は気にしていた。

 

 もしかしたら、妖霊星を破壊し、彼らの幸せを守る事が出来たかもしれない。しかし不用意に運命を変える事は、箱の大妖怪とは言え出来なかった。

 何故なら麒麟丸の事件から派生した未来は、一つの輪のように繋がっているからだ。断ち切って仕舞えば何が起きるか分からなかったし、時空が揺らいで世界が壊れてしまうかもしれなかった。

 

 何より、観測は可能性の揺らぎを固定するのではと、彼女は危惧していた。その決まった未来から既に自分が外れようしているのだから、これ以上の無茶はやろうと思えなかったのかもしれない。

 

 それでも、彼女は理玖に時々会っていた。

 彼女が一番希望見出した人物だからだ。その出自故に自分を重ね、やがてとわを愛する少年に、自らの妖力を与えた。

 

 ――結局、眠る未来は変わらなかった。

 欲しいと思う心は本能によって埋め尽くされ、ならばせめてと。もし自分が厄災を起こしてしまった時に、希望を守りたいと箱の大妖怪は考えたのだ。

 

 そして斑紋の元へとやってきた。

 

「もしも私の子孫が過去と未来を変えようとしたなら、止めて欲しい」

 

 そう頼み込んで。

 斑紋は無いはずの目を丸くしたものだ。まさかあの時の弱っちい奴がここまで自我を獲得していて、あまつさえ会いにくるのだから。

 

 彼が驚いている間に、大妖怪は続ける。

 

「元はと言えば、貴女がこの瞳を捨てたのが始まりだ。貴方には責任がある」

「責任?」

「過去と未来が見えて、初めて分かった。この瞳は神の領域に辿り着くが、同時に自分を繋ぐ鎖でもある。この瞳を持つ者に自由などない。故に貴方はこの瞳を失くしたいと考えた。違う?」

「……まあな」

 

 斑紋は肯定を返した。まさに言う通りだったからだ。斑紋は生まれた時から“すべて”が見えてしまっていた。そこに選択の余地があるはずも無く、喜びも達成感もない。あるのは圧倒的な虚無感だけ。

 だからこそ、斑紋はわざと隙を作り、かつて弱小妖怪だった箱の大妖怪に瞳を奪わせた。

 疲れきっていたのだ、彼も。

 

「しかしおかげで私の子供達にも瞳の因子が受け継がれてしまった。どうするんだ」

「とは言え力は中途半端になるはずだろう? 完全再現など出来るはずがねえ。何を恐れている」

「時空への干渉」

「ハア?」

 

 素っ頓狂な声を出す斑紋を、箱の大妖怪は睨みつけた。

 

「眼天輪、お前は知っているはずだ。時代樹の存在を。時の風車を。何事にも例外は転がっている。時空を越える手段は、きっと私達が思っている以上にあるの……そして、青い瞳は過去と未来を見通せる」

「それを使い、お前の子孫が時空を越える手段を見つけてしまう可能性が存在すると?」

「それならまだ良いよ。最悪、利用されるかもしれない。子でなくとも孫か、その辺りが……」

 

 そう言われると、現実味を帯びた話に思えた。

 少なくとも手前勝手に放棄した瞳のせいで、本来無関係だった子供が振り回されるのは、あまり良いことではない。それに瞳に対処できるのは、元の持ち主である斑紋しかいないのだ。

 

「ねえ、お願い。その子達は、貴方の友達の子孫よ。守ってあげて欲しいの。貴方はもう、何百年も生きないかもしれないけど」

「……」

「これは私の我儘で、私の間違いが生んだ物語。正気で居られる内に、出来るだけ手は打って置きたい」

 

 そう言う箱の大妖怪は、とても悲しそうで。

 

 斑紋は今更になって後悔した。あの時……大妖怪を退けていたら。また違った未来もあっただろうにと。

 

 それから間も無く、箱の大妖怪は眠りについた。

 

 斑紋は覚悟を決めた。何より大妖怪の覚悟を、病弱な友が紡いだ奇跡を――無駄にしたくないと思ったのだ。

 そして半妖達の道を正すのが自分の役目だと心に決め、時の番人を用意するなどして準備を進めていた。

 

 やがて長い時が経ち、斑紋は異変を察知し、すぐさまその隠れ家へ飛んだ。そこにいたのは、友とそっくりの、箱の大妖怪の娘で。

 

「何をやっている」

 

 そう聞けば、びくりと若葉は固まった。

 まだ若そうだ。箱の半妖は長い寿命を持ち、その分精神的には二十代前半といったところだろう。

 

 隠れ家に作った研究室は異様だった。

 ありとあらゆる海外の文献と、この世の裏側に干渉する外道の法がびっしりとあちこちの紙に書かれていた。

 極め付けに四魂の欠片の紛い物や、いつか見た平成の世にあるはずの品まで保管されていた。

 すぐに処分するべきだ。

 

 斑紋は抵抗する若葉を叩きのめし、容赦なく研究室を燃やした。

 若葉は終始呆然としていた。彼は厳しい顔で問うた。

 

「再度聞くぞ。何をしようとしていた。何を調べていた、お前」

「……」

「聞いているだろう? 目的を言えと言ってんじゃねえか」

「……そうか。そう聞くと言うことは、つまり貴方が眼天輪なのか」

 

 すると何かを思い出したらしく、彼女はあからさまに沈んだ表情をしていた。斑紋は息を飲んだ。あまりにもその様子が父親そっくりだったのだ。しかし内面は母よりの様で、一ヶ月以上渋ったものの、斑紋の詰問の末に、

 

「父様に会いたかったんですよ……」

 

 とポツリと答えてくれた。

 何でも父に憧れを持っている様で、あわよくば過去に遡り、病気を治したかったらしい。そうすれば母も取り戻せ、失ったはずの家族が元に戻る。そんな妄想を夢見ていたみたいだ。

 

 それも二百年もの間。相当な執着心だった。

 

「あの変な品は、最近噂になっているかごめとかいう奴のものか?」

「そうです。彼女は未来からやってきた様です。言葉も調べました。チャンス、ラッキー、オッケー。どれも奇妙な言葉です」

「四魂の欠片の紛い物は?」

「出雲という半妖が創り出したものを、調べて再現しました。箱の力を使って」

「そうか」

 

 とは言え、軽々しく言ってはいるが、すざましくヤバいことをしているのであった。しかも彼女は青い瞳の能力を知らない。箱の大妖怪があえて子供達に教えなかったのだが……それがまさか彼女の危惧通り時空に干渉としようとして、あまつさえこんな四魂の欠片まで創り出せてしまうとは。

 これが箱の力なのだ。その箱は正しく、摂理を曲げてしまうものに違いなかった。

 

「しかし四魂の欠片を使用したところで過去には戻れねえよ。何のために」

「……母を自由にしてあげたい。私は人間になりたい」

 

 女の乾いた声が、やけに耳朶に残った。

 

「箱の力なんていらないのです。私は普通が良い。普通に生きて、普通に幸せになりたい」

 

 ――家族で。

 だから。

 

「四魂の玉で願いを叶えようってか。馬鹿なことはやめろよ。それはあの大妖怪の願いじゃねえ」

「綺麗事を言わないで下さい。結局母だって、父のこともあり狂ったのです。簡単に割り切れるはずがありません」

 

 若葉は斑紋を嫌悪の目で見ていた。心変わりなどあり得るはずが無いと。

 何とも拗らせた奴だったのだ。

 

 そこから、斑紋と若葉のイタチごっこが始まった。

 若葉が何かをしようとする度、先回りして斑紋が阻止するのだ。当然、若葉はとても迷惑そうにしていて、斑紋を嫌っていた。

 

 変化が起きたのは、丁度三年前だ。

 何と弟夫婦に悲劇が起きたという。若葉は平静な顔をしていたが、実際には愛や恋といった答えを探す裏側で怒り狂い、片っ端から怪しい奴らを探し回っていた。

 

「……殺す! 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す、殺してやる!!」

 

 そう叫びまくって。

 当時それを発見し、諌めたのも斑紋だ。

 

「落ち着け。気持ちは分かるが、無関係な奴まで殺そうとしてどうするんだ!」

「うるさい! ああ、よくも私の弟達を! うああああああああああ!!」

 

 半狂乱で、果てには八つ当たりで襲い掛かってくる若葉。拉致が開かず、とりあえず斑紋は若葉をコテンパンにして沈めた。

 それでようやく彼女は大人しくなった。

 少し拗ねてはいたが。相変わらず面倒な奴のままだった。

 

 しかし。

 

「……すみません」

 

 初めて素直に謝った。あの捻くれ者で、斑紋を嫌っていた若葉が、初めて心の底から謝ったのだ。

 衝撃的だった。つい、

 

「お前ってそんなことも言えたんだなあ」

 

 と言ってしまうくらいには。途端、若葉は怒った顔をしたけども。

 それでも礼を言った。

 

「我を忘れていました。……ありがとう」

「別に良いって。気持ちは分かるって言っただろう?」

「……、優しい方ですね、眼天輪様は」

 

 ふと、心境の変化もあったらしく、若葉は罪悪感に塗れた顔になった。

 

「いくら母の頼みとは言え、ここまでして下さっている方はそういない。これまで非礼の限りを尽くしました。申し訳ございません。貴方は義妹も助けて下さった恩人なのに」

「本当だよ、まったく」

 

 少しは労って欲しいところだ。だがまあ、どちらかと言うと、若葉のことは放っておけなかったから。実際に大したことがないのは本音だった。

 

「それで、お前はその様子だと、弟夫婦を貶めた犯人と、義妹を探しているのか?」

「はい」

 

 若葉は頷いた。

 

「私は知りたいんです。どうして私達は不幸にならなければいけなかったのか。第一おかしいじゃないですか。犯人がはっきりしないというか、妙にボヤけた印象というか」

「成る程な。それにあの冬鬼妖の子のことも気になるのか」

「雲雀は強いですから、生きてはいると思うんですけど。でもあの子、未来の言葉で言うと、“メンタル”ってのが弱いみたいで。自殺してなきゃ良いんですけどね」

 

 心底、心配そうに若葉は目を伏せた。

 

「とにかく私は、殺さなければいけないんです。私の聖域を壊したもの達を」

「お前自身の幸せは?」

「それとは別に、です」

 

 だが冷静な様には見えなかった。一応の警告だけはしておく。

 

「お前、今頃になって、弟の悲劇を無くすために過去に行きたいとか言うんじゃねえぞ。そんなものは摂理に反する。……犬一族の奴らは例外中の例外だ。ズルいなどと思うなよ」

「……」

「アレは時空の歪みを正すために許されていた様なもんだ。結局は自分の力で未来を変えている筈さ」

「……分かっています」

「ともかく、変なことは考えない方が良い。良いな?」

 

 そう言われると、若葉は少々未練がましい顔していたが、やがてこくりと頷いてくれた。

 

「ていうか、それよりもだ、若葉。お前はお前のことを考えろよ。ちゃんと現実を生きる様にしろよ?」

「現実?」

「理想に逃避してばかりだったじゃねえか。もしあの時こうしてたいたら、もしあの時ああだったらって。俺から言わせてもらえりゃ、そんなものは糞食らえだ」

 

 人生は一度きりだ。過去も未来も関係ない。そんなもの分からない方が良い。一歩一歩、この世界を歩くことが、生きるということなのだ。

 

「一旦冷静になって、今はとりあえずやりたい事にも集中しろよ。犯人探しや、義妹探しは俺も協力するから」

 

 すると若葉はハッとした様な反応をして、物思いに耽る様に呟いた。

 

「私のやりたいこと。私のやりたかったこと……」

「お前の噂は聞いてる。愛や恋を見つけたいなら、これを気に外に目を向けてみたらどうだ? お前、内に閉じこもりがちなんだよ」

 

 彼女はもっと世界を見るべきだろう。

 斑紋は単純にそう思った。

 そうして、斑紋は若葉を伴い、自分が面倒を見ている半妖や人間達と交流を持たせたのだ。

 何かのきっかけになるかもと考えて。

 

 結果として――若葉は何かを思い着いたらしく、気が付けば彼女の手で半妖の村が出来上がっていた。世にも珍しい吉利支丹の村。

 自分のためではなく、弟のための居場所なのだろう。若葉はまったく神の存在など信じてはいない。

 それから。

 

「海辺の国に取り入るのは順調ですよ」

 

 近隣の海辺の国に介入を始めた。

 領主の子息と恋仲になり、中枢に潜り込んだというのだ。

 

「お前いつの間に……」

 

 斑紋は若葉の行動力には驚くしかなかった。本当に変なところで頭が切れるというか、なんというか。

 

「こんなものは簡単ですね。政治なぞ二百年勉強した知識で賄えます」

「それでそんなことをやる意味が何処に? お前のことだから絶対碌でもない――」

「そんなんじゃありません。この村を大きくするための地盤作りに過ぎませんよ」

 

 そこから説明されるのは、いっそ壮大とも呼べる様な計画。

 

「この海辺の国に、他にも半妖の隠れ里を作るんですよ。それも八つも」

「八つ?」

「そうです。何れこの村の人口も増えるでしょうし、海辺の国を半妖だらけにして、その痕跡を残し続けるんです。やがて半妖は当たり前のものとなり、人と溶け合う。私の望みはそれだけです」

 

 それで偏見がなくなるわけではない。

 しかし、何れ妖怪が滅ぶ未来を斑紋は知っている。とても良いことに聞こえた。

 しかし。

 

「そのために恋仲になった男を、お前は本当に愛しているのか? この村を弟のための道具とは思っていないよな?」

 

 それは念の為の確認だった。

 一見若葉は飲んだくれでも、尽くすから、清廉潔白に見えるかもしれない。しかしその裏は存外に腹黒く、狡猾であるのだ。どうせ領主の子息と恋仲になったのも、子供を成して領主の血族を乗っ取るつもりに違いない。

 そんな若葉が、家族以外に真に愛情を抱けるのか。

 そこが斑紋には不安だった。

 

「心配無用ですよ」

 

 でも、そんな彼の心を感じ取ったのか、若葉は随分と柔らかく微笑んで。

 

「むしろ、大事なものが増え過ぎたくらいです。ちゃんと守ってみせますよ……これからもね」

 

 ……そう言っていたのに、程なくして。

 若葉は死亡したのである。

 

 どうしてなどと聞く前に。

 ただ遺品を整理している時に、以前と同じ様な研究室を見つけた。やはり過去へ行くという選択肢に未練を持っていたらしく、日記には色んなことが綴られていた。

 

『やはり私の予想は当たっていた。私の忌々しき右目は眼天輪様の過去視のものであり、弟の旭には箱と人間体の両方に過去視と未来視を有している可能性がある』

『私達の目は潰しても箱の中に“因子”があるので何度でも再現可能』

『箱は望んだ物質と世界を創れる。私達が双子なのも偶然ではない。母が一人にならない様に願ったからだ』

『とは言え、弟の方が妖怪の血は濃ゆく、力は強いだろう。私は出来損ないだ』

『しかし私達箱の半妖の体は特殊。人間体の方にも使い道はあり、妖力を奪う力がある。また欠けた能力を互いに一時的に貸し出すことも出来る。使い魔の能力を弟に渡せた様に』

『逆を言えば、箱の半妖の力を持つ者は、私が見たものや記憶を共有し、“何か”を再現することも可能なのでは?』

『そして何故姪は死んだのか。姪の両目は普通だったが、光の加減で青く見えることもあった』

『冬鬼妖は極めて妖力が強く、吹雪の中でも獲物を見つけられたり、遠くを見る特殊能力がある』

『つまり、弟の子供は、過去視と未来視を受け継ぐことに加え、高い観測能力を手に入れることとなる。あまり考えたくはないが、未来から好き放題過去を覗ける様になれるかもしれない』

『それでは困るので、弟夫妻は襲撃されたのでは? 弟が妖怪化したのは再現の力を使い――』

 

 読み進めれば読み進める程、自分達箱の一族を分析した情報がびっしり乗っていた。

 そして若葉が思うには、弟夫妻の悲劇に、その一族の能力と瞳が関わっているというのである。

 

 眉唾ものとは思えない。

 それにもしもの世界や時空を越える道ついて考察がされていた。

 複数に分岐する未来とは?

 

『同列に存在する別の歴史のことだ。無数に別々の歴史が存在していると考えるのは不自然なことではなく、証明の仕様はないが、時空への干渉は非現実的ではない。多くの外道の方がそれを証明する。空間に限定すれば、冥界に繋がる方法も存在する』

『また、空想にあるしかないもしもを箱の大妖怪は創り出すことが出来、己の内側に“新しいもしも”を箱の中に生み出すことも可能なのではないか。もしくは時空に反映されることもあり得るのではないか』

『時空を越える“道”には骨喰いの井戸がある。恐らくかごめは物を持ち込めるが、閉じる前に使い魔などはこっそり通れるかもしれない』

『それは未来にいながら過去干渉を行う媒体的役割を担うだろう』

 

 ここで斑紋は日記を閉じた。

 気味が悪かったからだ。

 

 しかし、情報収集をする度に、その日記の内容が“具体的な犯人像”に迫っているのだろうと、直感的に斑紋は考えるようになった。

 

 ここから最初の仮説に繋がる。

 

 まず犯人の狙いだ。

 何故犯人は箱の一族に対し、悲劇を起こしたのか。

 仮定として、箱の一族を利用し、何らかの時空の歪みを起こすためだとする。

 

 犯人は過去と未来を把握しているのかもしれないし、今この瞬間も観測しているかもしれない。

 正確なところは何も分からない。

 

 分からないが、過去と未来を把握出来る存在が他にもいると、邪魔をされてしまう。だから、旭と雲雀の夫婦を引き裂き、子殺しをさせた。

 旭を妖怪化させると、一時的に若葉の記憶と接続させ、偽の四闘神と四魂の欠片を創り出した。その後も支配したかっただろうが、妖怪化を防ぐ短刀の力が働き、干渉が拒絶。代償として短刀が折れたものの結界の加護が旭を守り続け、犯人は手を出せなくなった。

 そこで狙いを若葉に変更し、偽の四闘神を使い、若葉を惨殺させる。

 過去視の右目と未来視が発言するかもしれない左目を抉り取り、四肢を持ち帰って、妖力を奪う力を使うことに決める。

 

「最終的な目標は箱の大妖怪の復活だろうよ」

 

 ――斑紋はもろは達にそう告げる。

 

「実際に封印の要の木は枯れていたわけだしな」

 

 そして箱の大妖怪が目覚めて操られ、この時空を飲み込んで仕舞えばどうなる?

 

 待っているのは破滅の末路。可能性の分岐の途絶。

 ……それは、最悪の未来に違いなかった。

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