U.C.メーデー!:航空宇宙事故の真実と真相 作:AzureSky
提訴してやる①
大型貨客船と巡洋艦が
『衝突する、回避、回避!』
スペースコロニーの目前で、衝突します
『あぁクソッ、連邦に提訴してやる!』
さらに、制御を失った巡洋艦は農業ブロックへ
「不運が重なった事故でした」
コロニー内の被害と合わせて、769人が死亡します
「誰もが、連邦軍に対する怒りを顕にしました」
非難は、管制を無視した巡洋艦に
『命令するのか、本艦に!一級任務だぞ!』
しかし、原因はそれだけだったのでしょうか
「なぜ彼女は衝突を回避しようとしなかった?」
調査が進むにつれ、謎が深まります
『ルナー1736、出港します』
「止めて、何かおかしいぞ」
調査員たちは空前の重圧のもとで、悲劇の中に隠された真実を見つけ出すことができるでしょうか
『連邦の存在とは今や、害毒以外の何物でもない!』
U.C.メーデー!:航空宇宙事故の真実と真相
(原題:Space Crash Investigation)
これは実話であり、公式記録、専門家の分析、関係者の証言をもとに構成しています。
U.C.0077年、3月27日
《ルナー1736、ドッキングベイからの発進を許可。ゲート4にそのまま進み、ホールド願います》
サイド3第3バンチ マハルのメインポートは、これまでにない喧騒に包まれていました。コロニーの反対側にあるサブポートでのテロ未遂騒ぎによって、全便がメインポート側への発着を余儀なくされていたのです。
『ルナー1736、了解。発進準備完了。離岸後、ゲート4へ向かいます』
ルナライン1736便は新型のアルカナ級貨客船で、1万2千時間以上の飛行経験を持つ女性船長リーマ・ガラハウが指揮します。操舵手のエレン・ノーラン1等航海士も9千時間以上の操縦経験を持ったベテランです。
『やっと出港できますね、月に着く頃には歩けなくなってるんじゃないかと思いましたよ』
『月面で歩けないようならコロニーでは起き上がれもしないな』
クルーは、長引く待機時間に不満を感じていました。先に隣のドッキングベイから離岸していたエアユナ社の貨物船がスラスターの不調で立ち往生し、安全退避エリアへ牽引されてゆくまで40分近く待たされていたのです。
『お待たせいたしました、まもなく離岸いたします。シートベルトをご着用ください』
アルカナ級貨客船はその名の通り貨物室と共に客室を備え、560人の乗客が出港を今かと待っています。彼らは主にグラナダへ向かう出稼ぎ労働者と、乗り換え先のフォン・ブラウンへ向かう学生たちでした。春の休暇を終えたソニア・ラポリもその一人です。
「あの日は、両親に着いたらすぐ連絡するからと言って、そっけなく家を出てしまいました。なにせ、年に何度も乗っているいつもの船だったのです。父はその日、農業ブロックの視察へ行くと言っていました」
ようやく、ルナライン1736便は出港ゲートへ到着しました。あとは、空中に照射されているガイドビーコンに従って宇宙へ飛び出すのみです。しかしまだ、管制官からの許可を待つ必要があります。元連邦運輸安全委員会の調査官、グレッグ・カォはこう指摘します。
「宇宙港の周囲800kmにおいて、管制官の指示は絶対です。さもなければ、何百もの宇宙船が勝手に飛びまわり、大混乱となるでしょう」
マハルの管制室では、管制官のレオ・フリットが矢継ぎ早に指示を出しています。3次元のレーダーチャートに浮かび上がる無数の光点を、支障なく目的地へ導かなければなりません。
『ルナー5963、ゴルフ47にて待機。ユナイテッド8002は方位090へ向かい、高度-13000を維持してください』
そこへ、識別情報の無い光点が接近してきます。連邦軍の軍用艦です。
《マハルコントロール、こちら巡洋艦“グラン・カナリア”、入港許可を求める》
『グラン・カナリア了解、こちらマハルコントロール。現在サブポートは使用できません。パパ・ビーコンからロミオ・ビーコンへ周り、ゲート4へ向かって下さい』
「サブポートの閉鎖でいつもより発着間隔を短くする必要がありましたが、概ね自動管制システムで対応することができていました。ごく一部の船で推進剤が少ないのでキックの回数を減らしたいとか、測距装置が不調なのでタグボートの支援がほしいとか、そういったケースには管制官の判断での指示が必要でした」
『スラスター始動前チェックリスト完了。船長、いつでも出せます』
『了解、こちらルナー1736、出港準備よし』
《ルナー1736、ゲート4からの出港を許可。出港後はホテル・ビーコンに向かい、方位180へ。その後は高度6000を維持》
『了解、ホテル・ビーコンへ到達後180へキック、高度6000を維持する。よし、スラスター始動。フルハーバー』
『スラスター始動、フルハーバー』
『ルナー1736、出港します』
アルカナ級の2基の巨大な熱核ロケットがうなり始めます。船体の後ろのナセルに収められたエンジンは、2万トン近くあるルナライン1736便を10分足らずのうちに巡航速度まで加速させることができます。
『スラスター出力安定……あれ、なんでしょう』
『どうした』
『第6バーニアの温度が上がり過ぎてます、放熱板の故障でしょうか』
『またか。第6と第1を切って、残りで制御しよう』
『了解、第6バーニア、第1バーニア、バルブ閉鎖します』
バランスを取るために左右両端のバーニアを停止しましたが、アルカナ級貨客船は残る4つのバーニアにスラスター出力を集中し、問題なく航行できます。その時、管制から不穏な通信が聞こえてきました。
《グラン・カナリア、こちら入港管制。貴艦は待機されたし。出港船舶あり。待機されたし》
『バルブ閉鎖完了しました。スラスター出力問題ありません』
『まだ6番の温度上昇が止まらない』
けたたましい警報音が、バーニアの温度が危険域に達したことを知らせます。このまま上がり続ければ、爆発してしまうかもしれません。
『おかしいぞ、予備系統に切り替えてみろ』
『あ、予備の温度は正常値です。船長、原因は主温度計ですね』
『待て、なんだあれは!』
《衝突する、回避!回避!》
『両舷後進!右転は…駄目だ、別の船がいる!』
《Obstacle ahead, Obstacle ahead》
衝突の危険を知らせる警報が鳴り響きます。ルナライン1736便はなんとか停止を試みますが、2万トンの巨体を簡単に止めることはできません。
『駄目だ駄目だ駄目だ!』
『急速降下、上面バーニア全部吹かせ!』
『急速降下!』
しかし、遅すぎました。
『ウワーッ!』
『船長!船長!』
《あぁクソッ、連邦に提訴してやる!》
轟音とともに、ルナライン1736便は連邦軍のサラミス級巡洋艦“グラン・カナリア”と衝突しました。グラン・カナリアの船体下部と1736便の船体上部が接触し、更に左エンジンナセルが吹き飛ばされます。1736便は航行能力を失いましたが、グラン・カナリアには更に悲惨な運命が待っていました。事故の一部始終を目撃した元貨物船船員のハインツ・ローンは当時を振り返ります。
「巡洋艦の方がとーんと弾かれたあと、メインスラスターが暴発したんです。そのまま制御できなくなって、農業ブロックへ一直線に突っ込みました……今思い返しても寒気がします」
1736便の客室は衝撃に襲われていました。乗客のソニアもシートベルトに激しく締め付けられます。
「ものすごい音がして、突然真上に吹き飛ばされたような感覚でした。前の席に座っていた母親が、抱えていた子供を……その子は、天井に叩きつけられました。他にも小さい子供が、……シートベルトをすり抜けてしまって、飛ばされたんです」
ブリッジも被害を免れませんでした。リーマ船長は慣性で天井に打ち付けられ、頭部からおびただしい量の血を流しています。エレン操舵手は両肩を脱臼し、激しい痛みに耐えていました。
『せ、船長……!』
返事はありません。そこへ、シャオレン・リン機関士が駆けつけます。彼は異常を察知して機関室からブリッジへ向かっている最中に衝突の影響を受けましたが、幸運にも軽傷でした。
『なんだ、デブリに当たったか!』
『軍艦です!連邦軍のクソ野郎がぶつけてきたんですよ!』
『ああ、船長……なんてこった!』
『メーデーメーデー、ルナー1736、現在航行不能!シャオレンさん、手を貸して!船が言うことを聞かない!』
《こちら入港管制、今すぐ救助艇を送る》
コンソールを確認したシャオレン機関士は、目を疑いました。1番エンジンがまるごと脱落していたのです。
『落ち着け、オートの静止モードに設定するんだ。2番エンジンは停止させる』
『りょ、了解、オートパイロットを設定、静止モード、相対設定はマハルコロニー』
ルナライン1736便は、漂流状態から回復しました。すぐさま多数の救命艇がマハルから発進し、乗客と乗員の救助を行います。この事故で、1736便では乗客560名のうち12名が死亡し、20名が重傷を負いました。また、乗員35名のうち船長を含む6名が死亡、16名が重傷を負いました。犠牲となったのは主に着座せずに作業中であった乗組員と、座席に十分固定されていなかった子供たちでした。
「恐ろしい出来事でした……でも、助かった、良かったって思ったんです。ここから出たら一刻も早く、両親に連絡して安心させなくちゃって、そう考えていました」
しかし、被害は拡大していました。グラン・カナリアの乗員218名は全員死亡。さらに、直撃を受けた農業ブロックにいたソニアの父親を含む533名が死亡あるいは行方不明となりました。0065年のザーン減圧事故以来、最悪の被害です。航空宇宙事故調査官のグレッグ・カォはニューヤークの自宅でこの事件を知り、衝撃を受けました。
「不運が重なった事故でした。通常農業ブロックはほとんど無人なのですが、その日は新型農業プラントの導入デモを実施していて、関係者が多数集まっていたのです」
モビルワーカーによる救出作業は3日に渡って続きました。最終的に、農業ブロックの破片はコロニーの周囲1200kmまで散逸し、2ヶ月かけて全てのデブリが回収されました。