U.C.メーデー!:航空宇宙事故の真実と真相 作:AzureSky
事故発生から3時間後、連邦運輸安全委員会、FTSBによる調査が始まります。調査チームのリーダーはグレッグ・カォです。
「まずは、残骸を可能な限り早く回収することが必要でした。手をこまねいていれば、あっという間にラグランジュポイントを離れてデブリとなり、次なる事故の原因になりかねません」
特に状況が酷かったのは、反応炉が爆発を起こしたグラン・カナリアでした。ガーディアン・バンチの士官候補生も総動員されたデブリ回収によって、農業ブロックとサラミス級巡洋艦、そしてアルカナ級貨客船の残骸の照合が進みます。幸い、グラン・カナリアのBVR(ブリッジボイスレコーダー)とNDR(ナビゲーションデータレコーダー)は位置信号によりすぐに発見されました。これらは軍事機密にあたるため、一旦連邦軍の管理下で分析されます。
「最初からやり辛い調査でした。なにしろ軍が介入してくるので、事実を素早く正確に把握することができないのです」
連邦軍からの情報開示を待つ間、サイド3に到着したグレッグはまず管制官に話を聞きます。当時エリア管制を担当していたレオ・フリットと、入港管制を担当していたサム・パトラが調査に応じました。
「それではレオ、当時の状況は?」
「ええと……まずグラン・カナリアからの入港許可の要請がありました。サブポートが閉鎖されていたので、メインポート側へ回るよう指示しました」
「その後は入港管制に?」
「はい、ロミオ・ビーコンへ到達してからは、入港管制の指示に従うようにと」
しかし、レーダーの記録と矛盾が生じます。
「グラン・カナリアは、ロミオ・ビーコンを通過していない。パパ・ビーコンからコースを直進し、ケベック・ビーコンへ向かっている」
「本当だ……おかしいですね」
「グラン・カナリアからこの件に関して報告は?」
「一切ありませんでした。ただ、ケベック・ビーコンにも他の船はいなかったので……近道がしたかったんでしょう。正規の入港アプローチではありませんが」
早くも、グラン・カナリアが管制の指示を無視していたことが明らかになりました。また、彼らは何らかの理由で入港を急いでいたようです。
「サム、グラン・カナリアからはいつ連絡が?」
「はい、ケベック・ビーコンを少し過ぎたところで連絡が入りました。なんでも一級任務で、最優先で入港させろと。でも、1736便が出港中でしたから、待機するように指示したんです」
一級任務とは、連邦法上の緊急事態に該当する重要任務で、急患を運ぶ救急車のように航行において優先権を与えられます。しかし当然ながら、その権限を持ってしても物理的に他の船舶を押しのけることはできません。管制官の証言は、管制通信記録からも明らかでした。
『グラン・カナリア、こちら入港管制。貴艦は待機されたし。出港船舶あり、待機されたし』
『本艦は第一級任務を遂行中である。航路を変更させろ』
『出港船舶に優先権あり。航路を空けなさい』
『命令するのか、本艦に!一級任務だぞ!』
『衝突する、回避、回避!』
今まさに出港中の1736便が航路を変更するのは容易ではありません。管制官の判断は妥当であるように思われました。なぜ、巡洋艦は管制指示を無視したのでしょうか。
「ありがとう、ご協力に感謝します」
疑問の答えが明らかになる前に、グラン・カナリアの管制無視はサイド3の地元ジャーナリストによって広く報道され、コロニー市民の間に動揺が走りました。日頃から続いていた連邦軍の横暴が、ついに一線を超えたと考えられたのです。
「誰もが、連邦軍に対する怒りを顕にしました。私も家族を……父を失い、それが軍艦の管制無視が原因だったと知り、言葉が出ませんでした。友人の中には、そんな私を見て反連邦デモに参加する人もいました」
更に、事態はジオン自治共和国議会にまで波及します。マハル代表議員のエルンスト・シッダは後に“ジオン独立宣言”と呼ばれる演説を行いました。
『全ては管制を無視した連邦軍艦が引き起こしたのであります。連邦の存在とは今や、害毒以外の何物でもない!ここに至っては、かつて、かのジオン・ズム・ダイクンが、ここ、この演壇から発せんとして、発し得なかった一言を、今こそ発せざるを得ない。独立!連邦からの完全な独立であります!』
サイド3の政情は急速に不安定となり、調査チームにはジオンからも連邦からも多大な圧力がかかります。
「これまでにない政治的重要性を孕んだ調査です。結果は知っての通りですが……我々は連邦とジオンとの間の衝突を防ぐべく、なんとしても真実を究明する必要がありました」
グラン・カナリアの残骸は壊滅的であり、また軍事的な理由からも調査が難航すると考えたチームは、まず比較的状態の良いルナライン1736便から手を付けることにしました。生き残ったエレン・ノーラン一等航海士の他、乗組員にも話を聞きます。船長のリーマ・ガラハウは、病院に運ばれた後死亡が確認されていました。
「ではエレン、何が起こったのかをできる限り詳細に聞かせてください」
「あれは事故ではありません。連邦軍が故意にぶつけてきたんです。そうとしか考えられない」
乗組員は大型宇宙船同士の正面衝突という事故に強いショックを受けていました。事実、こうした事故は前代未聞のものでした。
「衝突の直前の様子を教えてください」
「ええと……第6バーニアに異常があったのですが、それ自体は大きな問題ではありませんでした。主温度計の異常です。出港しつつ問題に対処していたら、いきなり目の前に軍艦が現れたんです」
「なるほど……それで、どのような対応を?」
「すぐ両舷に後進をかけて……面舵をとろうとしましたが、右隣には貨物船がいて衝突の恐れがありました。向こうが上昇機動を始めたので、急速降下を試みましたが、間に合いませんでした」
2隻の船舶が正面から向き合った場合、両者は右転して互いに回避しなければならないことになっています。しかし、今回の場合ルナライン1736便の右には同じルナラインの貨物船が停泊しており、衝突の被害を拡大させる恐れがありました。そして当然ながらどちらがそれぞれ上下に回避するかは決められておらず、互いの動きを見ながら判断する必要があったのです。
「念のため確認しますが、TCASの指示は?」
「ありませんでした。相手は軍艦ですから」
空中衝突防止装置(TCAS)は全ての民間航空宇宙機に搭載が義務付けられている装置で、トランスポンダの信号に基づき回避方向を自動的に指示します。しかし、軍用艦は機密保持の観点からトランスポンダを搭載しておらず、TCASも機能させることができません。
「衝突の後は?」
「シャオレン機関士の支援を受けて、自動航行の静止モードで船を止めました。船長は衝撃で頭を強く打っていて……」
「船長は安全帯を装着していましたか?」
「はい、そう思います。ただ、ノーマルスーツのヘルメットは外していました」
「ありがとう、状況は良くわかりました」
「また何かあったらなんでも答えます」
聞き取りを終えた調査チームは、いくつかの疑問を覚えます。クルーはグラン・カナリアの存在に直前まで気づかなかったようですが、巨大な巡洋艦を見落とすようなことがあるのでしょうか。また、乗客に対して乗員の死亡率が想定以上に高いのには、何か理由があるかもしれません。
「よし、1736便のレコーダーを解析してみよう」