U.C.メーデー!:航空宇宙事故の真実と真相   作:AzureSky

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ルナライン107便爆破事件
月は見えているか①


 

大型旅客船が

 

『何でしょう、異常発生』

 

爆発します

 

『何が起こった!』

 

船体は2つに分解

 

「絶体絶命です」

 

月面へ落下します

 

『このままでは……墜落するぞ』

 

パイロットは、残された手段で生還を試みます

 

「普通のパイロットなら、諦めてしまうでしょう」

 

爆発の原因は分かりません

 

「どうやったのか見当もつきませんでした」

 

事故の裏には陰謀の影が

 

『我々はスペースノイドに鉄槌を下す!』

 

調査チームは、悲劇の真相を解き明かすことができるでしょうか

 

「この事件は航空宇宙業界の常識を変えるものでした」

 

 

U.C.メーデー!:航空宇宙事故の真実と真相

(原題:Space Crash Investigation)

 

 

これは実話であり、公式記録、専門家の分析、関係者の証言をもとに構成しています。

 

 

 

U.C.0074年、8月31日

 

『最後のお客様の搭乗を確認、ハッチ閉鎖します』

 

9時15分ルウム発ジオン行のルナライン107便は、乗客の搭乗待ちにより定刻から5分遅れで出港準備を進めていました。

 

『ご搭乗の皆様、まもなく離岸いたします。座席につき、シートベルトをお締めください』

 

客室乗務員のリエナ・フォン・バーデンは本来非番でしたが、友人のビサ・ユスフが息子の入学式で休暇をとったため代わりに勤務していました。

 

「彼女はとても有能で、それを鼻にかけることもしない優しい人でした。私にとっては、入社した時からずっと一緒で……一番の、親友でした」

 

《ルナー107、ドッキングベイからの発進を許可》

『了解、ルナー107、発進します』

 

ルナライン107便は大型のマグノリア級旅客船で、1012人の乗客と38人の乗員をサイド3の首都バンチ、ズム・シティへ運びます。操縦するのは2千時間以上の経験をもつジョン・オルバネハ操舵手、指揮をとるのは1万5千時間近い航行経験のルデル・サイード船長です。

 

《ルナー107、ゲート2からの出港を許可。出港後は直進し、アルファ・ビーコンから方位350へ》

『ルナー107了解、アルファ・ビーコンから350へキック。ジョン、状況は?』

『反応炉出力よし、スラスター始動前チェックリスト完了。出港準備よし』

『よし、スラスター始動、フルハーバー』

『スラスター始動、フルハーバー』

『ルナー107、出港します』

 

マグノリア級の巨体がメインポートを滑るように離れてゆきます。正面に見える月をフライバイし、反対側のサイド3まで約8時間のフライトです。

 

『スラスター出力安定、フルハーバー速度に到達』

『よし、頼むぞ。えー、ご搭乗の皆様、船長のルデル・サイードです。本船はただ今5分遅れでルウムのメインポートを出港いたしました。まもなくサイド5圏を抜け、第1加速を行いますのでくれぐれも席をお立ちにならないようご注意ください。それでは、快適な宇宙の旅をお楽しみください』

 

ルナライン107便はゆっくりと船首方位を変えながらアルファ・ビーコン地点へ到達し、予定の軌道へ向けて加速を開始します。

 

「サイド間連絡船での加速は、約1Gほどの負荷で10分ほど続きます。慣れてしまえば何ということはありませんが、最初は誰しも面食らうものです」

 

離岸から20分後、ルナライン107便は慣性航行に移りました。この先は月の重力圏を利用して更にゆっくりと加速し、月面高度110kmほどの距離を掠める予定です。

 

『皆様、本船は慣性航行を開始いたしました。おくつろぎになっていただき、ルナラインの提供する船内レクリエーションをお楽しみください。』

 

客室乗務員のロラン・ハンは、第3キャビンで船内食の準備を進めていました。その時、キャビンからの呼び出し灯が点灯します。

 

『はい、ご用件をお伺いいたします』

『前の席の人が、荷物をひっくり返して大変なんです』

『分かりました、すぐ向かわせていただきます』

『どうしたの?』

『36列目のお客様から、前列でトラブルがあったみたいだって』

『分かったわ、見に行ってくる』

 

「私が手を離せないのを見て、リエナは代わりにキャビンの様子を確認に行ってくれました。どうやら、手荷物の中身をそこら中に撒き散らしてしまったお客様がいるようでした」

 

ブリッジでは自動航行モードの設定が完了し、平穏な時間が流れています。

 

『船長は聞きましたか? 今度のグラナダ杯は決勝戦がサイド2どうしになるみたいですよ』

『ふぅん、時代も変わったもんだな、うちのズム・ニュータイプスも頑張って欲しいもんだ』

 

その時、コンソールに小さな警報表示が描画されました。短い電子音が連続します。

 

『何でしょう、異常発生。貨物室のようです』

『温度上昇だって? 参ったな』

 

次の瞬間、轟音と共に光が広がり、ブリッジは暴力的な衝撃に包まれました。

 

『うわぁッ、なんだ、何が起こった!』

『船長、爆発です!』

 

またたく間にコンソールは無数の警告表示の海に沈みます。ブリッジの室内灯は幾度か点滅したあと消灯し、オレンジの非常灯に切り替わります。

 

『状況を報告!』

『ええと…反応炉出力喪失、5番から12番までRCS応答せず!』

『リアクションホイールは?』

『予備が生きてます、現在姿勢安定に向けて制御中!』

 

クルーは何とか事態を把握しようとしていました。反動でぐるぐると船体が回転し、操作盤にしがみつくので一苦労です。

 

『船長、速度計と座標計が機能してません、後部アンテナモジュールがやられました!』

『クソッ、じゃあまともに動くのは何だ?』

《こちら第2ブリッジ、第1ブリッジ応答せよ!》

 

マグノリア級には2つ目のブリッジがあり、こちらには交代要員として副長のアンナ・シマロンとタイキ・ヤスダ2等航海士が搭乗しています。本来であれば、フライトの後半は彼らが操縦を引き継ぐ予定でした。

 

『こちら第1ブリッジ、現在被害を確認中』

《船長、あれを見ましたか!》

『何だって?』

《船尾です、本船の船尾です!》

 

リアクションホイールの効果で少しずつ回転がおさまって来たところで、クルーは窓から見える光景に唖然とします。ルナライン107便は爆発の衝撃で真っ二つに折れ、船尾側が漂流しているのが見えたのです。

 

『なんてことだ……誰か応答してくれ、キャビンの状況は?』

《こちら第1キャビン、3番と4番の圧力隔壁が閉鎖したようです、現在救護活動中》

《第2キャビンも同様、お客様が閉じ込められています》

《第3キャビンは1番と2番が閉鎖、全く状況がわかりません!》

『……第4キャビンは?』

 

返答はありません。完全に破壊されてしまったようです。

 

『分かった、爆発により船体が引きちぎられたようだ、くれぐれも圧力隔壁を開放しないように』

『船長、エラーログが1万5千件あります、とても対処できません』

『ううむ、第2ブリッジ、そっちの状況は?』

《航法コンソールがシステムダウン、こちらからはまったく操作できません》

 

もはや、ルナライン107便は残骸となって宇宙空間を漂流している状況です。爆発の衝撃で軌道を外れ、船尾側はみるみるうちに遠く離れてゆきます。

 

『まずいことになったな……生命維持システムの稼働はあと3時間だ』

『……船長、長距離無線もダメです』

 

「長距離無線が使えないということは、メーデー信号の発信すらできず、周囲の船に助けを求められないということです。まさに、絶体絶命です」

 

『……分かった、何とか方法を考えよう。第2ブリッジ、悪いがエラーログの対応を頼む。緊急度順にソートしてくれ』

《了解》

『ジョン、爆発の直前の航法データは残っているか?』

『はい、方位010、高度0.5、速度1万2千ノットです』

『爆発でどれくらい軌道がずれたかだな……』

 

機外灯が規則的なリズムで点滅を始めました。第2ブリッジの操作で、SOSのモールス信号を送っているのです。

 

『月は見えているか?』

『はい?』

『月は見えているかと聞いているんだ』

 

ジョン操舵手は、舷側の窓を確認します。はるか右下方には月面が見えていました。

 

『はい、あそこに』

『よし……まさかコイツを使う日が来るとはな』

 

ルデル船長は電子六分儀を取り出しました。数百年前、大航海時代に使われていたものと原理は同じです。

 

『俺は天測で現在位置と軌道を割り出す。ジョンは残った船体質量とRCSの残燃料を推定して、ΔVを計算しておいてくれ』

『了解しました』

 

「天測航法は測位システムが使用不能になった場合の非常手段で、全ての宇宙船乗組員はこれを訓練しています。電子六分儀を使い、船から見える月の位置、地球の位置、その他基準星の位置から現在位置を計算するのです。これを時間を開けて繰り返せば、大まかな軌道と速度も分かります」

 

クルーは交代で4回の天測を実施し、爆発から15分後に誤差修正も含めた計算を終えました。

 

『このままでは……墜落するぞ』

 

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