俺が率いる第十四艦隊は同じく先鋒のウランフ中将と別れて帝国領内に進軍している。そして最初の有人惑星を占拠し、ラップを地上に下ろして惑星の現状を知って会議を開いていた。
「それではラップ中佐。確かに地上に食料は存在しなかったんですね?」
「その通りですチュン准将。帝国軍の連中、パンの一欠片も残してはいませんでした」
「……シュタイナー中将の予言した通りになってしまったわけだな」
チュン准将の言葉にラップが答えると、カールセン准将が重々しく続く。
ラインハルトのやつは原作通りに焦土戦術をとってきた。無人だからと言って勝手気ままに進軍すれば、補給線は伸びきったところを切られて俺たちは何もできずに敗退するだろう。
副司令官と総参謀長、副参謀長の視線を感じながら、俺は軍帽を指で回しながら考える。
(恐らくはこの進軍が保てるのは一月程度。それが終わったら残っているのは地獄だ。飢えた状態に低い士気。それでラインハルト率いる天才艦隊と戦う? どんな罰ゲームだ)
そこまで考えたところで回していた軍帽が指から飛んでいく。そしてそれを「薄く淹れた紅茶の色」の髪と「青紫色」の瞳をもつ美しい少女が拾い、俺に渡してくる。
「シュタイナー中将。真面目に軍議に参加してください」
「作戦動機が不真面目な作戦に真面目に参加するとかバカバカしいと思わないか? カリン」
俺の被保護者であるカーテローゼ・フォン・クロイツェルである。
何故カリンが作戦行動中である第十四艦隊旗艦・エクシールに乗艦しているかと言えば、原作のユリアンがヤンのイゼルローン要塞時に一緒について行った理由である『将官に対する従卒』の存在である。カリンは学校を飛び級して卒業してしまうと、俺の従卒に志願してきたのだ。
もちろん俺は反対である。ただでさえ死ぬ可能性の高い軍人という職業。さらには負け確定のような帝国領侵攻作戦からの参加など絶対反対であった。カリンは最初は軍人になりたいと言ったが、それは俺を一蹴した。『人を殺す仕事なんかに就く必要はない』と言ったのだ。しかしカリンは『私はまた自分の知らないところで親を亡くすのは嫌です』という返答に俺は何も言えなくなった。おそらくカリンは実の母親の死に目に会えなかったのだろう。そして原作ではその恨みをシェーンコップに向けた。しかし、こちらの世界では(一応)親扱いである俺という存在によって、親に対する愛情が俺に向かってしまったのだろう。俺の『俺は死なないよ。カリンの花嫁姿を見るまで死ねるか』という言葉に『お母さんは同じことを言っていましたが、結局は死んでしまいました』という返答に俺は言葉を無くした。
だが、俺は決して首を縦に振らなかった。せっかく順風満帆な生活で、学業優秀、美人なために異性からもモテるカリンなのだ。命を捨てる必要はないと言い張った。
そしてカリンは搦め手から攻めてきた。まずヤンに相談に行ったようだが、ヤンもユリアンやカリンが軍人になることを反対しているために逆に説得される形となったようである。次に頼ったのは頻繁に俺の家に来てはリビングで眠っては蹴られて起こされるアッテンボローだった。アッテンボローはカリンにお願いされる形でやって来たが、将来的に伊達と酔狂で革命戦争をやる人間に俺が説得されるわけもなく、あっさりと論破されて帰って行った。カリンが次に頼ったのはラップだったが、ラップも俺とヤンの同じ考えのために拒否。そしてキャゼルヌ先輩も出て来たが『シュタイナー家の問題です』と言い張って拒否した。
そして最後にカリンが出して来た相手が問題だった。カリンは俺がお世話になったアルフレッド・ローザス提督の孫であり、妹分であるミリアム・R・ヒューガー夫人だった。キャゼルヌ先輩から話を聞いたカリンが家族包みで未だに付き合いのあるミリアムと連絡をとったのだ。フェザーンに住んでいるミリアムとハイネセンにあるシュタイナー家の間でヒューガー家とシュタイナー家の家族会議の結果、俺はミリアムの『自分の知らないところで親が死ぬことほど悲しいことはない。そしてヘルベルトさんが死んだらカリンは再び養子に出されることになる。ヘルベルトさんやヤンさんのような軍人だったらいいけど、ブルース・アッシュビーのような人間の家に養子に出されたら悲惨だと思うわ』という後半は完全に私情の説得に折れる形で俺はカリンのことを認めた。
しかし、決して譲歩しなかったのは『まだ完全な軍人にはならない。そして軍人になる時は俺の許可をとる』という条件を受け入れさせたことによって、カリンは従卒として俺と一緒にエクシールに乗り込むことになった。
カリンからキャゼルヌ先輩に連絡してから30分後には辞令が降りたことに完全な出来レースな気がしたが、手遅れであった。
俺はカリンから軍帽を受け取ると適当に頭に乗せる。カリンはため息を吐きながら俺に乗せられた軍帽の位置を直していた。
「シュタイナー中将の教育はよく行き届いているものですね」
「それはそうさラップ中佐。なにせ貴官を始めに我が家には反面教師の鏡がいっぱい訪れる」
「小官が始めというのは納得できませんな。始めはヤン中将でしょうに」
「私やユリアンにとってはシュタイナー中将もヤン中将もラップ中佐もアッテンボロー准将もご一緒ですよ」
カリンの言葉に俺とラップは降参のように両手を挙げ、チュン准将とカールセン准将、副官席に座っているフィッツシモンズ中尉だけでなく艦橋にいる乗組員全員から笑い声が出る。
うん、絶望的な状況とわかっていても笑えるというのは大変助かる。
「フィッツシモンズ中尉。スクリーンに進軍予定宙域の地図を出してもらえるか」
「了解です」
俺の言葉にフィッツシモンズ中尉がコンソールを叩くとスクリーンに帝国領内の地図が現れる。
(さて、どうやって自分達が生き残りつつ他の艦隊も生き残らせるかが問題だ)
俺が思考する時のクセ(カリンに指摘されて気づいた)である腕を組みながら右手人差し指で組んだ腕の部分を叩くが出ると、幕僚だけでなく艦橋も静かになる。俺の考えるクセをカリンから聞いたチュン准将が艦橋の乗組員全員に教え、俺の思考の妨げをしないようにしたのだ。正直、とても助かる処置である。
(自分達だけが生き残るのなら簡単だ。適当な理由をつけてこの惑星で待機。補給が途絶えた時に進軍不可能としてさっさと逃げてしまえばいい。だが、それをやると他の艦隊は逃げることができない)
カリンがさり気なく用意した紅茶を一口飲みながら思考を続ける。
(ヤンとビュコック提督は当然として、今後のことを考えればウランフ提督とボロディン提督にも生き残っていただかねばならない……後はアップルトン提督か? 話をしてみた感じだと原作で描写の少ないホーウッド提督とアル・サレム提督も有能だ。いや、有能なのは当然か。なにせ同盟史上初の大軍勢の指揮官に選ばれるんだから凡将なわけがない)
「フィッツシモンズ中尉。現在わかっている味方の配置を地図上に映し出してくれ」
俺の言葉に邪魔をしないように返事はせず、無言で地図上に味方の配置を映し出してくれる。俺はその配置を見て舌打ちが出る。
(ホーウッド提督とアル・サレム提督が突出している。これでは帝国軍の反撃が開始された時に真っ先に標的にされる。位置的にアル・サレム提督の第九艦隊は戻れるかもしれないが、ホーウッド提督はこのまま行くと帰ってこれなくなる。見捨てるか……いや、それができるなら最初から悩んじゃいない。それならどうするか)
そこまで考えたところで俺は一つの辺境惑星が目に入る。『クラインゲルド子爵領』。辺境惑星の通行の要衝。ここからなら他の艦隊への援護にも行きやすく、最悪の場合は自分たちの艦隊も後方から進軍しているビュコック提督の援護も受けやすく撤退しやすい。そして何よりあの作戦ができるかもしれない。
「……これまた分の悪い賭けになるか。イゼルローンと言い今回と言い貧乏くじを引いてばかりだ」
「逆に考えるべきですな。これだけ最悪な状況ばかりを経験していればこれから先の最悪の作戦にも『あぁ、またか』という気持ちで軍首脳部に対して文句を言える立場を手に入れた、と」
カールセン准将の冗談に俺は苦笑する。
「フィッツシモンズ中尉。我が軍の後方から進軍中の第五艦隊司令官のビュコック中将に通信を繋いでくれ」
「了解しました……第五艦隊旗艦リオ・グランデに通信繋がります」
フィッツシモンズ中尉の言葉と同時に自由惑星同盟軍の宿将であるアレサンドル・ビュコック中将がスクリーンに現れる。俺が敬礼するとビュコック提督も敬礼で返してくる。
『どうしたシュタイナー中将。報告であれば吉報であればワシは嬉しいのだがね』
「吉報と凶報。どちらもご用意しておきましたが、どちらから聞きたいですか?」
俺の言葉にビュコック提督は顎を摩りながら口を開く。
『それでは吉報の方から聞いておこうかの』
「我が第十四艦隊が惑星の占領に成功しました」
『あぁ、そうか。いや、その報告だけで凶報の方の予想もついてしまったが、一応聞いておこう』
「惑星の民のための食料がパンの一欠片も残っていません」
俺の言葉にビュコック提督は難しそうな表情をして目頭を抑える。
『貴官が予想していた通りの展開になったわけだな』
「残念ながら」
俺の言葉にお互いに無言となる。だが、次に口を開いたのはビュコック提督だった。
『それで? 貴官はどうする? このまま帝国領に侵攻することは滅びの歌を全員で合唱することになると思うが』
「私はビュコック提督が到着するまでの食料だけをこの惑星に残してクラインゲルド子爵領に侵攻します」
『待て、貴官は進軍するつもりか?』
「私が進まないとビュコック提督が立ち止まれる惑星がないでしょう」
俺の言葉にビュコック提督は納得したかのように頷いた。
『なるほど。突然の兵糧消費の増大により兵糧の備蓄に不安を感じたために、追加の兵站が届くまで進軍を停止するという理由付けか』
「ご明察です」
『だが貴官が進むクラインゲルド子爵領となると、帝国の辺境とは言え交通の要衝だろう。第十四艦隊が危機になるのではないか?』
「私もクラインゲルド子爵領で進軍は停止します。まぁ、帝国の反撃が起きた時には私も考えがあります」
『そうか……貴官の戦略と戦術については疑っていない。だからこそ貴官とヤン中将はこれからの同盟に必要だ。命を粗末にするなよ』
「ご心配なく。私は何よりも自分の命が大事な超エゴイストですので、命を捨てる気はさらさらありません」
『その言葉を信じよう。それでは武運を祈る』
ビュコック提督の言葉に俺は敬礼するとビュコック提督も敬礼を返してきた後に通信が切れる。
俺は通信が切れると一回だけため息を吐いて第十四艦隊首脳陣の方に振り返る。司令席を後ろに回すだけで、首脳陣の会議に入れるこの座制配置はヤンのヒューベリオンを参考にさせてもらった。
「さて、私がこれから述べる作戦はハッキリ言って無茶と無謀と無理を混ぜ合わせた狂人の作戦だ。まぁ、文句はあるだろうがこれが上手くいけば数多くの同盟軍の将兵が生きて帰れることになる。反対意見もあるだろうが、とりあえず大人しく聞いてくれ」
そして俺が作戦を説明する。作戦内容が進む内に全員の表情が驚愕に染まっていく。
「……司令官は成功すると思いますか?」
「正直なところ自信はない。だが、1人でも多くの同盟軍の将兵を本国に帰還させるためにはこの手段しかないと思っている」
チュン准将の言葉に俺は正直に答える。真っ正面から言えば頭がいかれているとしか思えない作戦だ。だが、第十四艦隊の高速機動艦隊の速度ならば不可能ではないと思っている。そのためには首脳陣。特にカールセン准将の協力は必要不可欠だ。
「私はアスターテの会戦でシュタイナー中将の機転のおかげで生き残れた。そのシュタイナー提督の願いと言うならばその任務、ぜひとも遂行させていただきたい」
カールセン准将の言葉で第十四艦隊の帝国領侵攻作戦においての動きは決まった。
「第十四艦隊はクラインゲルド子爵領まで軍を進める。そこからはこの作戦の準備に入る。カールセン准将はこの作戦における艦隊の振り分けを、チュン准将は私と一緒に作戦を煮詰めます。ラップ中佐はクラインゲルド子爵領に着いたら現地の民と良好な関係を築いてくれ」
俺の言葉に全員が敬礼で返してくるのであった。
ヘルベルト・フォン・シュタイナー
原作知識を生かして同盟の将兵を多く生きて返そうと色々計画する
カーテローゼ・フォン・クロイツェル
学校を飛び級卒業して養父についてきた
ヘルベルトくんの作戦
また次回をお待ちください
そんな感じで帝国侵攻作戦開始です。そして開幕早々に原作パワーをぶつけられるシュタイナーくん。頑張って足掻いて同盟の将兵を生きて還して欲しいところ
そして学校を飛び級卒業してヘルベルトくんの従卒になったカリンちゃん。話の展開上ユリアン以上の天才児になりました。
そういえば作者は文庫で銀河英雄伝説(外伝、ハンドブック含む)を買っているんですが、最近出始めた愛蔵版も買っています。当然、最近でたブリュンヒルトのプラモデルも買いました。
銀英伝ファンなら当然ですよね!