「クラインゲルド子爵領から帝国軍艦艇が離脱して行きます!」
オペレーターの言葉に艦橋にいる人々の視線が俺に集中する。俺は軍帽を指先で振り回しながら軽く口を開く。
「放っておけ。ここで数隻の軍艦を沈めても大勢に影響はないし、むしろ本命の戦いの時にエネルギーが足りなくなったらバカみたいだからな」
「全艦に通達しておきましょう」
俺の言葉にチュン准将が全艦に命令を伝える。
「ラップ中佐。惑星に降りて食料の確認と鎮撫を頼む」
「了解しました」
俺の言葉に敬礼を返して艦橋から出て行くラップ。俺はそれを最後まで見送ることなく脳内にある第十四艦隊に所属する全将兵の名前と大まかな経歴が流れて行く。その中にある一つの名前で俺の記憶が止まる。
「フィッツシモンズ中尉。フランツ・ヴァーリモント少尉を呼び出してくれ」
「はい? は、ハイ。了解しました」
フィッツモンズ中尉は不思議そうに問い返してくるが、俺がすでに考え事の体勢に入っていることに気づいてすぐに行動に移している。
(確かヴァーリモント少尉はアニメオリジナルキャラクターだったはず。ホーウッド中将の部下だったはずだが……まぁ、せっかくこっちにいるんだから利用させてもらおう。何より本人もやりたかった仕事だったはずだからな)
それからしばらく思考をこれから先のことに巡らせる。俺の考えた手が上手く行けば原作より多くの将兵が生きて帰れる。失敗すれば第十四艦隊が吹っ飛びかねない危険性もあるが。
「あぁ!! クソ!! 指揮官になんかなるもんじゃないな。俺はどちらかと言えば命令を受けて動くべき人間のはずだろ」
「シュタイナー中将」
小声で呟いていたのを、紅茶を片付けていたカリンに聞かれたのか軽く叱られる。やれやれ。これじゃあどっちが保護者かわかったもんじゃない。
「フランツ・ヴァーリモント少尉であります!」
そして俺が気がつくと、近くに若い士官がやってきていた。ヴァーリモント少尉だ。俺も一回だけ話をしたことがあるので覚えている。
「よく来てくれたヴァーリモント少尉。貴官にある重大な任務を与える。これは第十四艦隊の命運を左右する任務だと思って欲しい」
俺の言葉に緊張した表情をするヴァーリモント少尉。そりゃ一士官に艦隊の命運を託すようなことを言われたら緊張するわな。
俺は軽く笑いながら手をヒラヒラと振る。
「冗談だ。重大な任務ではあるが流石に第十四艦隊の命運を左右する任務ではないさ」
「は? はぁ……」
俺の言葉にどこか困った表情をするヴァーリモント少尉。
「シュタイナー中将。若手士官をからかうのはどうかと思いますよ」
仕事をしながら俺たちを見ていたチュン准将に怒られてしまった。俺は軽く肩を竦めると話を続ける。
「ヴァーリモント少尉。貴官は確か農業を専攻して学んでいたな」
「は! その通りであります!」
「ついでに言うと将来的には無人惑星を開拓してみたいと私に話してくれたな」
俺の言葉に驚愕の表情を浮かべるヴァーリモント少尉。
「覚えていてくださったのですか?」
「部下に関することはできる限り覚えようと思っているのでね。まぁ、そこでだ。貴官には将来の無人惑星開拓の練習の機会を与えようと思う」
「……どういうことでしょうか?」
俺はカリンが淹れてくれた紅茶を飲みながら説明を続ける。
「帝国領における辺境惑星の経済状況なんて酷いものでな。辺境惑星や貴族の収入は帝都・オーディンに吸い取られていて、オーディンに近い惑星ならまだしも辺境惑星の扱いなんて酷いものさ。貴官が聞いても信じられないかもしれないが、農業だって碌な機材は使えていない。そのために農業レベルも低下していて、下手したら人類が地球なんて辺境惑星に住んでいた時代と同程度のレベルの可能性がある」
俺の言葉にヴァーリモント少尉は絶句する。そうだよな。自由惑星同盟は建前として自由と平等を謳っているので、きちんと辺境惑星まで開発の手は伸びている。
「さて、そこで貴官にはこのクラインゲルド子爵領の解放された民に対して魚の捕り方を教えてあげて欲しい」
俺の発言でヴァーリモント少尉だけでなく、副官席で話を聞いていたフィッツシモンズ中尉も理解できていない表情をしている。
う〜ん、通じなかったかぁ。
「真面目な言い方にするとな、ここの一般人に対して農業のやり方を教えてあげて欲しい。貴官はせっかく学んだ知識を生かせる良い機会だし、将来無人惑星の開拓の時にも役立つと思うんだがね。やってくれるか?」
「は! そのような任務でしたら是非ともやらせていただきたいです!」
「元気が良くて結構。必要な物資や機材はチュン准将に言ってくれ。チュン准将」
「わかっていますよ。できる限り要望に答えてくれ、ですね」
チュン准将の言葉に俺は頷く。
「既に地上には次席幕僚のラップ中佐に降りてもらっている。階級上仕方ないから貴官はラップ中佐の指揮下に入ってもらう。まぁ、ラップ中佐には多少無茶は言っても大丈夫だろう」
俺の言葉に嬉しそうに敬礼するとヴァーリモント少尉は小走りで艦橋から出て行く。
「部下のことを気にかけてあげるんですね」
「カリン。私みたいな指揮官は基本的に部下に対して無茶な命令を出すことが多い。だからこそ平時においては部下の望みを叶えてあげることが指揮官としての務めだよ」
カリンの言葉に俺は軽く返す。こちらの世界に転生し、亡命からの軍人コースに入ってしまった俺が実感したことだ。できる限り部下が気持ちよく仕事ができるように動いてあげる。いわゆる福利厚生みたいなこともしてあげるのが指揮官の務めだろう。
「シュタイナー中将。地上に降りているラップ中佐から通信です」
「繋いでくれ」
フィッツシモンズ中尉の言葉に俺が即答すると、すぐにラップの顔が映し出された。
『シュタイナー中将。こちらはラップ中佐です。報告……というよりも事実確認ですが、予想通りこの惑星にも食料は残されていません』
「まぁ、そうだろうな。なら市民の代表者と話し合いをして欲しい。今、ヴァーリモント少尉という人物を農業の発展を任務として地上に降ろす。ラップ中佐はヴァーリモント少尉に協力して惑星の農業発展に尽力してくれ」
『農業発展の任務の件は了解しました。ですが、市民の代表者というのが問題でして……』
いつもならポンポンと口が回る悪友を不審に思いながらも、俺は紅茶を一口呑む。
『実は市民の代表者としてこの惑星の領主であるグラインゲルト子爵ご本人がおります。そしてクラインゲルト子爵は自分の命はどうなっても構わないから、民と義娘、孫の身の安全を願っています』
ラップの言葉に口に含んでいた紅茶が噴射されたのだった。
俺はラップの報告を受けた後に地上に離着陸が可能な第十四艦隊旗艦・エクシールを地上に降ろし、軍用ジープに乗り込んでクラインゲルト子爵の屋敷に向かっている。
「シュタイナー中将。本当に私達だけでよろしいのですか?」
「構わないさ、フィッツシモンズ中尉。もとよりこちらには相手を害する気持ちはない。それに相手さんも俺を殺せば不味い立場になることは百も承知だろうしな」
随員は副官のフィッツシモンズ中尉と従卒のカリンだけである。最初は1人で軽く行こうと思ったのだが、チュン准将が猛反対したために随伴をつけることになった。チュン准将は武装した兵士を5人つけようとしたのだが、俺はあくまで『話し合い』という点を強調して非武装で行こうとした。
そして落とし所としたのが、相手が危機感を覚えないという理由で女性であるフィッツシモンズ中尉。そして本人の強い希望でカリンである。
ヴァーリモント少尉の指示で動き回る同盟軍兵士と、クラインゲルト伯爵領の一般人。ラップに忠告されたのか、ヴァーリモント少尉も地元の一般人と友好的な付き合いをしていて何よりである。
そして俺は一つの大きな屋敷に到着する。有人惑星を領地に持つ貴族としては平均的なサイズを持つ屋敷だ。
俺は自分で運転していた軍用ジープから降りると、屋敷の入り口に向かう。入り口には執事と思わしき老年の男性が立っていた。
「自由惑星同盟軍第十四艦隊司令官ヘルベルト・フォン・シュタイナー中将です。クラインゲルト子爵にお会いしたいのですが」
「……こちらにどうぞ」
執事の男性は緊張した面持ちで俺たちを案内する。場合によっては自分の主人が処刑される可能性もあるのだ。緊張するのも無理はない。
そして俺が案内された一室に入ると、貴族の服装をした1人の老人が待っていた。
「アルベルト・フォン・クラインゲルト子爵だ」
「自由惑星同盟軍第十四艦隊司令官ヘルベルト・フォン・シュタイナー中将です」
お互いに握手をすると、用意されていたソファーへと腰掛ける。俺の背後にはフィッツシモンズ中尉とカリンが立ち、いつでもブラスターを抜けるような気配を感じる。
「ゴールデンバウム王朝開闢以来の名家であるシュタイナー伯爵家の末裔を敵として迎え入れるとは思っていなかった」
「それについてはブラウンシュヴァイクとリッテンハイムを恨んでいただきたいですな。両家の働きで我が家は目出度く亡命の憂き目にあったのですから」
俺の言葉にクラインゲルト子爵の表情が強張る。
「卿が我ら帝国貴族を恨むのはわかる。卿の一族を庇おうとしなかった我ら貴族がその責めを負うべきだろう」
クラインゲルト子爵の言葉を無言で先に促す。
「だが、それは我ら貴族が負うべき責めであり、領民には一切関係ない。だからこそ領民に対して不当な扱いは辞めていただきたいと思っている。無論、身勝手な願いなのは理解している。だが、これを受け入れてくれるならば、この老骨の首を差し出しても構わない」
俺は内心で驚いていた。俺は帝国にいた時も自領にいる以外はオーディンにいることが多く、クラインゲルト子爵のような貴族には会ったことがなかった。
「ラップ中佐からは義理の娘さんとお孫さんも助命して欲しいと願っていると聞いていましたが?」
俺の言葉にクラインゲルト子爵は黙って目を瞑る。
「親として……祖父としての願いならば2人の命は助けていただきたい。だが、貴族の助命など卿等反乱軍……自由惑星同盟軍には認められないだろう」
クラインゲルト子爵は堂々と言い放った。俺はそれに対して思わず口笛が出てしまう。それを当然のようにカリンに視線で窘められた。
「まぁ、クラインゲルト子爵。先に結論だけ述べさせていただくと、子爵御本人、そして義理の娘さん、そしてお孫さんの命はこちらの条件を飲んでいただけるなら問題ありません」
俺の言葉に驚く表情を浮かべる子爵。
「他の領民の皆さんと一緒にこの惑星で我々を受け入れた事で、帝国軍ではなく自由惑星同盟に降り、以後一般市民として生きていくという判断をしたという判断をとることができます」
「私は帝国の貴族として反乱軍に降ることは」
クラインゲルト子爵の言葉を遮るように手のひらを差し出して発言を止める、俺は言葉を続ける。
「まぁ、これは後方にいる連中を納得させるための方便です。本心は別にあります」
「……本心とは?」
クラインゲルト子爵は訝しげな表情を浮かべている。俺はそれに対してニコヤカに告げる。
「実はこの惑星の農業開拓を行おうと思っており、部下にもすでにその指示を出しております。子爵には住民側の代表としてその手伝いをしていただきたいのです。無論、その間の食料もできる限り我々が提供します」
俺の発言に益々訝しげな表情になるクラインゲルト子爵。まぁ、今の条件だとクラインゲルト子爵領側にしか利益がない。それを怪しんでのことだろう。
「大方、帝国側の戦略は辺境惑星を利用しての焦土戦術でしょう。そして兵糧がなくなった時を見計らっての全面攻勢。それを持って同盟軍の撃滅をする。それがローエングラム元帥の狙いだと思いますが?」
俺の問いに子爵は何も返さない。それがすでに答えみたいなものだ。
「まぁ、こっちも馬鹿正直にそれに乗る必要はありませんからね。我が艦隊は『有人惑星の開発と、追加の兵站が送られてくるまでクラインゲルト子爵領で待機する』とでも後方に送って、ここでノンビリさせていただきたいのですよ。もちろん、仕事はしなければいけないのでこの惑星の開発のお手伝いをさせていただきますが」
如何ですか、クラインゲルト子爵。
俺の問いにクラインゲルト子爵は少し考え込む。だが、すぐに考えを纏めたのか、俺の目をみて口を開いた。
「シュタイナー中将の提案を受け入れる。早速、領民の代表者を集めてそのことを通達しようと思う」
「助かります。何かありましたらラップ中佐という人物に話を通してください」
最後にそれだけ言うと俺はソファーから立ち上がり、帝国式の礼をしてから部屋を出ようとする。
「帝国にとっての最大の失敗は卿を反乱軍に押し遣ってしまったことかもしれないな」
クラインゲルト子爵の言葉に俺は笑いながら返す。
「私はそこまで立派な人物ではありませんよ」
それから自由惑星同盟軍第十四艦隊とグラインゲルト子爵領の共同開発は上手く行った。ヴァーリモント少尉の誠実な人柄と開拓したいという意欲が領内の人々に好意的に捉えられたようで、開発は上手く行っていた。ラップとチュン准将はヴァーリモント少尉の手助けをしつつ、今後の作戦のための準備をしており、カールセン提督も艦隊編成を整えつつあった。
そんな中、俺の仕事は後方から送られてくるフォークの嫌味を煽りで返したり、クラインゲルト子爵の好意で頂いた帝国領内の航路図を見ながら作戦を考えている状況である。
そして、ある決定的な報告がエクシールに入る。
それは補給物資を乗せた輸送艦隊が襲撃され、壊滅。補給物資が拿捕されたという報告だった。
ヘルベルト・フォン・シュタイナー
原作知識(アニメ含む)と転生特典の記憶能力の良さで自由惑星同盟の生き残りをはかる
カーテローゼ・フォン・クロイツェル
養父の後を必死についていく姿は第十四艦隊においてかるがもの親子にたとえられる
フランツ・ヴァーリモント
アニメオリジナルキャラ。個人的にあのエピソード結構好きです
クラインゲルト子爵
シュタイナーくんと共犯者になったご様子(惑星開発の代金として帝国航路図を譲った
そんな感じで本格的に帝国侵攻作戦開始です(しかし侵攻しない
帝国の辺境惑星の農業レベルなどは独自設定です。ですがアニメとか見てる限り中世の農業をやっているようにもみえ、同盟側からしたら唖然ものだろうなぁ、と。そしてアニメオリジナルキャラのヴァーリモントくんをだす勇気。でも出番はたぶんこれだけ、許せ
そしてアニメだと侵攻作戦後の動向がわからないクラインゲルト子爵に生存フラグが!
シュタイナーくんとの関係は利用しあう仲(でも帝国軍より好意的な模様
そういえば作者はリメイク銀英伝はテレビ版はみたんですが近くの映画館で劇場版やってくれなかったのでみれてないんですがどんな感じですかね