銀河英雄伝説~転生者の戦い~   作:(TADA)

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銀河の歴史がまた一ページ……


011話

 「物資は残り僅かになっております」

チュン准将の言葉を俺は黙って聞いている。輸送部隊が襲撃され、前線に届くはずだった兵糧はなくなった。

俺が率いる第十四艦隊は最初からわかっていることだったために、兵糧を最初から必要最小限の出費で留めており、民間人達と協力してクラインゲルド子爵領を開発して食料を調達できるようにしていた。だが、それでも限界は訪れる。

 「ヴァーリモント少尉。開発状況は?」

俺の言葉に普段はクラインゲルド子爵領の地上にいることが多いヴァーリモント少尉が立ち上がる。

 「基礎となる部分は終了しております。今後も開発を続ければクラインゲルド子爵領は一大農業惑星になるのも夢ではありません」

自信を持って報告してくるヴァーリモント少尉。よっぽど夢に一歩近づけて嬉しいのだろう。

そんなヴァーリモント少尉にチュン准将が苦笑しながら告げる。

 「ヴァーリモント少尉。それは外を見ればわかることだよ。司令官が貴官に尋ねたいのはその成果が我々に恩恵を与えてくれるかだ?」

 「し、失礼いたしました」

赤面しながら謝罪するヴァーリモント少尉。俺はそれを苦笑して返すと本命を尋ねる。するとヴァーリモント少尉は神妙な顔つきをして報告をしてきた。

 「1番最初に開発を着手したところでも、収穫までに半月はかかります。そして段階的に開発したため、第十四艦隊及びクラインゲルド子爵領市民全員分の食料には到底届きません」

 「……まぁ、そうなるな」

 「申し訳ありません」

俺の呟きに恥じ入るように頭を下げるヴァーリモント少尉。俺はそれを慌てて制する。

 「ヴァーリモント少尉が気にすることではないさ。私もできればいいなと考えていただけだからな。ここはむしろ帝国の市民に恩を売ることができたと考えるのが建設的だろう」

俺の言葉にヴァーリモント少尉は再度頭を下げて着席する。

 「そうは言ってもどうなさいますか、シュタイナー中将。今のところは司令官ご自身の言葉とラップ中佐の鎮撫で、艦隊と一般人から不満は出ていませんが、このままでは……」

 「全く持って嫌なことだね。チュン准将は食料が出てくる魔法の壺でも持っていませんか?」

 「持っていたら軍人ではなく、レストランでも開いてますよ」

 「お二人とも」

従卒として俺の側にいるカリンから叱られてしまう。その光景を見慣れている艦橋の人々から忍び笑いが出る。俺やラップは普段から怒られているし、チュン准将やフィッツシモンズ中尉も根底では俺たちのノリに近いので染まってしまい、カリンから注意されることが多い。カールセン准将はそれを呆れながらも楽しそうに見ており、この情報も第十四艦隊の将兵に伝わってカリンは『シュタイナー提督の被保護者で保護者役』と言われて愛されている。

 「シュタイナー中将。第五艦隊旗艦リオ・グランデから通信が入っています」

 「繋いでくれ」

フィッツシモンズ中尉の言葉に俺は通信スクリーンに椅子を向き直す。するとすぐに通信スクリーンにビュコック中将が表示される。

それと同時にエクシールに複数の通信スクリーンが表示された。内心で驚きながらも敬礼しながら表示を確認する。

第三艦隊司令官・ルフェーブル中将。第七艦隊司令官・ホーウッド中将。第八艦隊司令官・アップルトン中将。第九艦隊司令官・アル・サレム中将。第十艦隊司令官・ウランフ中将。第十二艦隊・ボロディン中将。第十三艦隊司令官のヤン。今回の帝国領侵攻作戦の艦隊司令官が勢揃いしていた。

 『突然ですまないな、シュタイナー中将』

 「いえ。このタイミングでのビュコック中将からのご連絡ですと、総司令官から新たなご指示でも出ましたか?」

俺の問いにビュコック中将は苦々しげな表情を浮かべる。

 『先刻、ヤン中将からの提案でワシから総司令部に撤退したい旨の提案をしてきた』

 『ロボス元帥はそれを受け入れましたか?』

ボロディン中将の言葉は問いではあったが、答えは分かり切っているような表情をしている。

ビュコック中将は呆れながら首を振る。

 『その前にフォーク准将が呼んでもいないのに通信に出てきおったわ』

 『そうなるとあの秀才参謀のせいで総司令官とはお話もできませんでしたか』

アップルトン中将の言葉にビュコック中将は再度首を振った。

 『フォーク准将はワシの面罵を受けて転換性ヒステリー症神経性盲目で倒れおったよ』

 「それは、また……」

どうやら原作通りに無能参謀殿は老将に面罵されてぶっ倒れたらしい。俺の呟きに諸提督の視線が俺に集まっている。

 『シュタイナー中将はその病気のことを知っているのか?』

ウランフ中将の言葉に俺は帽子をとって頭を掻きながら頷く。原作知識もあるが、俺が帝国にいた時に多くの帝国貴族がこれを患っていた。

 「それはワガママいっぱいに育って自我が異常拡大した幼児にときとして見られる症状です。帝国貴族の多くが発症しますが、だいたいは貴族としての教育で消え去ります。それでも根絶できていませんが」

 『なんてことだ……帝国領侵攻を企てた男が貴族のボンボンと同水準の精神年齢とはな』

俺の言葉にアル・サレム中将が嘆く。

 『まぁ、その場でグリーンヒル大将がフォーク准将を予備役に放り込んだ。そのまま精神病院送りじゃろうな』

 『願うならそのまま出てこないで欲しいですね』

ルフェーブル中将の言葉に提督達から苦笑いが出た。

 『グリーンヒル大将が出てこられたなら、ロボス元帥とお話することができたのでは?』

ヤンの場を取りなす発言に、ビュコック中将が苦々しい表情になる。

 『昼寝中だそうだ』

 『は?』

その呆気にとられた言葉は提督のみならず、各艦の艦橋にいてこの通信を聞いている同盟軍兵士全員の言葉だったかもしれない。

ビュコック中将は疲れ切った表情で言葉を続けた。

 『ご丁寧に敵襲以外では起こすなという命令を出したそうだ』

 『ふざけているのか、ロボス元帥は!? 最前線の我々が届かない兵糧で苦しんでいるときに昼寝だと!?』

ビュコック中将の言葉に激発したのはホーウッド中将だった。

 『ワシとしてもふざけているとしか思えん。だが、一個艦隊の指揮官として嘆いてばかりもおられまい。この状況をどうにか脱さねばなるまい。そこで貴官等全員に通信を繋がせてもらった』

ビュコック中将の言葉に全員が思案顔になる。ふむ、原作と違ったこの流れだったら多くの将兵が生き残れるかもしれない。

 「いっそのこと撤退してはいかがですか?」

俺の言葉に全員の視線が集中する。

 『だが、総司令部の命令を無視して撤退して良いものか……』

 「別に無視はしていないでしょう」

 『ふむ、どういうことじゃなシュタイナー中将』

アル・サレム中将の言葉に俺が軽く告げると、ビュコック中将が鋭い視線を向けてくる。

 「作戦会議の時にロボス元帥のスピーカーが言っていたでしょう。『臨機応変に対処することになるでしょう』ってね。現場組が『臨機応変』に対応した結果、撤退という結論になった……総司令官に許可を取ろうと思ったがお昼寝中で許可を取れず『前線指揮官の民主主義に則って撤退を承認した』なんて建前はいかがです?」

俺の言葉に提督達は一瞬だけ呆気にとられたあとに呵々大笑した。

 『なるほど。我々は民主主義の軍隊であり、総司令官の許可が取れなかったから民主主義に則って物事を決めた、ということじゃな』

 「まぁ、本国に帰ったら全員でめでたく辞表を提出することになりかねませんがね」

 『部下を無意味に殺すくらいだったら喜んで辞表くらい提出するとしよう』

俺の言葉にボロディン中将は笑いながら告げる。

 『そうなると問題になってくるのは撤退方法だな』

 「そこら辺は脳味噌以外は役に立たないペテン師に聞いて見たらいかがでしょう」

 『そこで丸投げとか酷くないかい? シュタイナー中将』

 「ウルセェ。今回はいつもと違って時間がないからお前さんと漫才する時間が惜しいんだ。何か意見はないのかヤン中将」

俺の言葉にヤンは副官のグリーンヒル中尉に言って各艦隊の配置図を見始めたようだ。だが、30秒程で考えを纏めたのか口を開いた。

 『とにかくまずは合流を目指しましょう。ホーウッド中将とアル・サレム中将は特に突出しているので合流を急いだ方がいいと思います。そしてアップルトン中将とルフェーブル中将は後退しながらシュタイナー中将とボロディン中将に合流。私とウランフ中将も合流次第、ホーウッド中将とアル・サレム中将の艦隊の支援に入ります。ビュコック中将は全体の撤退路を確保していただきたい』

ヤンの言葉に他の提督達も異存はないのか、素直に受けいれた。何せこのままだと全滅することは誰の目にも明らかなのだ。

 『方向性は定まったな。逃げ道はワシが確保しておく。生きて全員と会えることをワシは祈っておるよ』

ビュコック中将の言葉に全員が敬礼を返して通信を切る。

俺はため息を吐きながら帽子を団扇代わりにして扇ぐ。

 「ヤン中将の指示通りに動きますか? それならばシュタイナー中将が危険を犯すことはないと思いますが……」

チュン准将の言葉に俺は少し考える。確かに銀河英雄伝説の超チート(頭脳のみ)のヤンの策だったら間違いはないかもしれない。

だが、ここは物語の世界ではなく現実なのだ。

だから少しでも多くの将兵を生き残らせるための作戦を行うべきだろう。

 「いや、計画は実行します。そっちの方が少しでも多くの同盟軍の将兵が生き残れる可能性が高い……反対しますか? 総参謀長」

俺の言葉にチュン准将は困ったように首をふった。

 「自分達が生き残るだけでしたらヤン中将の策は1番でしょう。しかし、多くの将兵を生き残らせると考えたときは、シュタイナー中将の作戦がダメ押しになります」

チュン准将の言葉に俺は黙ってを目を瞑る。そしてすぐに目を開いた。

 「フィッツシモンズ中尉。カールセン准将のディオメデスに通信を繋いでくれ」

 「了解……ディオメデスに通信繋がります」

フィッツモンズ中尉の言葉と同時に通信スクリーンにカールセン准将の如何にも勇将とした顔が映る。

 『シュタイナー中将。どうしましたか?』

 「例の作戦を実行します。艦隊の編成はどうなっていますか?」

俺の言葉にカールセン准将の表情が強張る。

 『編成の準備は済んでおります』

 「わかりました。それでは地上部隊を回収次第、第十四艦隊旗艦エクシールは惑星軌道に戻ります。その後は手筈通りに」

俺の言葉にカールセン准将は緊張した様子で敬礼を返してくるのだった。




ヘルベルト・フォン・シュタイナー
同盟軍生き残りのために渾身の秘策準備

第十四艦隊幹部の皆さん
だんだんシュタイナーくんに汚染されている模様

フォーク
原作力さんの力でようやくヒステリった

同盟軍前線指揮官
びゅこっく「撤退に賛成の人、手あげて!」
かくしきかん「は~い!!」



というわけでフォークくんがついに倒れたので本格的に同盟軍撤退戦が開始。前線指揮官が民主主義で勝手に撤退決めるとか実際にあったら大問題ですが、これは創作の世界なのでお許しをいただきたく

そして帝国侵攻同盟軍の生き残りのために渾身の秘策を発動するシュタイナーくん

予想ついても胸に秘めていてくださいね!

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