銀河英雄伝説~転生者の戦い~   作:(TADA)

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銀河の歴史がまた一ページ……


016話

カリンのイゼルローンの日々

 

 カリンがシュタイナーと共にイゼルローンにやってきてだいぶたったある日。カリンはシュタイナーの副官であるフィッツシモンズが病のために、その代わりに副官業務を代行することとなった。

 副官代行と言っても、主な副官業務はフィッツシモンズの同僚のグリーンヒルがやってくれることになっており、カリンの主な仕事は軽いお使いみたいなことや、すぐにさぼろうとするシュタイナーとヤンのお説教、そしてカリンと同じ立場になった友人のユリアンに従卒の仕事を教えるなどの簡単なことだ。

 カリンがシュタイナーの従卒として第十四艦隊(通称・シュタイナー艦隊)や第十三艦隊(通称・ヤン艦隊)の人々と接しているので、どこにいっても声をかけられるし、困っていれば助けてもらえる。それは養父であり艦隊指揮官のシュタイナーが兵卒にも慕われているのもあるが、カリンの人柄の影響もあった。

 大人は誰だって頑張っている子供をみたら応援したくなるものなのだ。

 そしてカリンは軍港までやってきて待機している。

 そして待ち人がやってきたので椅子から立ち上がって敬礼する。

「長期訓練、お疲れ様でした。モートン少将」

「おお、クロイツェルくんか」

 カリンの敬礼に、笑顔で敬礼を返してきたのは第十四艦隊分艦隊司令官。ライオネル・モートン少将である。

 厳つい顔だが、温厚な人物で人格者。シュタイナー艦隊の副司令官・カールセンより先任なので、シュタイナーが副司令官に任じようとしたところ「カールセン少将のほうがシュタイナー大将を理解しているでしょう」と言って、カールセンに副司令官職を譲ったことでも知られている。

 だが、その温厚な人柄に反して戦場では勇猛果敢で知られており、突撃と突破の指揮に関しては同盟軍でも屈指の能力を持っている。

 そんなモートンはヤン艦隊の分艦隊司令官でシュタイナーとヤンの後輩であるアッテンボローと共に新兵の訓練に行っていた。

 モートンは作成した報告書をカリンに手渡しながら、優しい笑みを浮かべてカリンに話しかけてくる。

「フィッツシモンズ大尉はどうした?」

「病欠です」

 カリンは報告書を受け取りながら簡潔に答える。カリンの言葉にモートンは少し驚いた表情をする。

「ふむ、病気か。まさか二日酔いとかではないだろうな」

 モートンの言葉にカリンは顔を背ける。

 それが答えであった。

 モートンは一度大きく笑うと、カリンに楽しそうに話しかける。

「ふむ、それは第十三艦隊のムライ総参謀長が顔を顰めていそうだ」

「フィッツシモンズ大尉は一時間のお説教を受けていました」

 カリンの言葉にモートンは堪えきれないといった雰囲気で大きく笑った。周囲にいた兵がなんだなんだと見てくるのがカリンには恥ずかしい。

 話を変えるつもりでカリンは一度咳払いをすると、モートンに話しかける。

「訓練はどうでしたか?」

 カリンの問いにモートンは笑いを収めると、難しい表情になる。

「うちだけでなく、アッテンボロー少将の艦隊もそうだが、やはり新兵が多く戦いは不安だな。詳しい報告は報告書に書いてあるし、後で私もシュタイナー大将に直接報告しようと思っている」

「了解しました。シュタイナー大将にもそう伝えておきます」

「うむ、頼んだよ」

 そしてお互い敬礼をして別れようとすると、最後にと言った感じでモートンが付け足してくる。

「それとシュタイナー大将には訓練出発前に若手兵士と一緒に脱衣ポーカーやって兵士四人を全裸にしたことの説明を求めるとも伝えておいてくれ」

「すいません、超叱っておきますので」

 瞬間的にカリンは頭を下げながらそう言っていた。確かにモートン分艦隊の出発直前にシュタイナーが部屋に帰ってくるのが遅い日があったが、そういうことだったのだろう。

 カリンの言葉にモートンは大笑いすると、今度こそ敬礼をして立ち去っていく。

 その後ろ姿を見送りながらカリンは大きく溜息をついた。

「お、どうした嬢ちゃん。溜息なんてついていると幸せ逃げるぞ」

「また、お父さんが何かやらかしたか?」

「シェイクリ少佐、ヒューズ少佐」

 カリンは話しかけてきた二人に敬礼をする。大柄な黒髪の男性がシェイクリ。金髪で優男風の男性がヒューズである。

 二人とも元ヤン艦隊に所属だったスパルタニアンのエースパイロットで、同盟軍の艦隊再編成でシュタイナー艦隊にやってきた。

 空戦能力は同盟軍の中でも屈指の腕前であり、ヤン艦隊の空戦隊隊長のポプランとコーネフとあわせてそのパーソナルマークから『トランプ』とも呼ばれている。

 シェイクリは自身を「ポプラン達に比べたら育ちがいい」と公言しているが、士官学校ではポプラン達と共に悪さばっかりをしていた男である。ヒューズはトランプの中で唯一の既婚者で、二歳になったばかりの娘がいた。この娘を仲間や部下に可愛い自慢をしてはうんざりされるのをよく見かける。

 そしてカリンの鍛えられた嗅覚が二人からのある臭いを感じ取る。

 カリンは半目になりながら二人をみながら口を開く。

「お二人とも、また訓練中にお酒ですか?」

 カリンの言葉にシェイクリとヒューズはニヤリと笑う。

 それが答えであった。

 そんな二人の反応にカリンは呆れたように溜息をつく。

「シュタイナー大将が出撃時の飲酒を認めてくれたとは言え、訓練でまで飲むのはどうなんですか?」

「大将も話がわかる人だよなぁ」

「ああ。まさか俺達も『そうか……空戦隊や陸戦隊だったら一杯ひっかけてから出撃してもバレなかったな……』って反応されるとは思ってなかった」

 まったく悪びれる様子もなくシェイクリとヒューズはしみじみと頷く。カリンはそんな反応に呆れたように溜息をついた。

「お、どうした嬢ちゃん。溜息つくと幸せが逃げるぞ?」

「その溜息の元凶の台詞じゃないと思います」

「だったら俺の娘の写真みるか? ちょうど昨日超素晴らしい写真が撮れてな」

 懐から娘の写真をとりだして娘自慢を初めたヒューズをカリンは丁寧に無視することにした。

「シェイクリ少佐。空戦隊の訓練状況はどうですか?」

「俺、ヒューズ、ポプラン、コーネフの鍛えた空戦隊で総当たり戦やって俺の空戦隊が一位。おかげで酒がうまいぜ」

 カリンの言葉にシェイクリが笑いながら答える。その言葉に感嘆の声をだすカリン。

 同盟軍でも屈指の腕前を持つトランプのメンバーだが、その中でもシェイクリが一番の腕前と言われていた。ポプランは自分が一番だと言っているが、ヒューズとコーネフはシェイクリが一番だと周囲に語っている。

 そして娘語りをやめて、ヒューズがカリンに話しかけてくる。

「そういや嬢ちゃんは空戦隊の訓練は受けないのか?」

「? そのつもりはありませんけど。何故ですか?」

「ほら、ヤン司令のとこの坊やがポプランのところに弟子入りしたみたいでな。今回はでてこなかったが、訓練みていたらなかなか筋がよくてな。なぁ、シェイクリ」

「ああ。ありゃぁいいパイロットになるぞ」

 カリンもそれでユリアンがヤンの『色々な選択肢があったほうがいい』という考えの下に、ポプランのとこで空戦を学び始めたのを思い出す。

 ユリアンはヤンの役に立ちたいと言って軍人を志しているが、カリンはそのような気持ちはない。シュタイナーの従卒になったのも『自分の知らないところで親が死ぬのはもう嫌だ』という気持ちだからだ。だからユリアンと違って軍人になろうと思っていない。

「私は軍人に興味ないので。というかむしろ軍人ってあまり好きじゃないので」

 カリンのあんまりな返しにシェイクリとヒューズは大爆笑である。

「おいおい! 嬢ちゃんの保護者が今や軍人の代名詞だろ!!」

「……あ、そういえばそうですね」

「「忘れてたのか!!」」

 カリンの言葉にシェイクリとヒューズは突っ込むと、再び大笑いする。

 カリンは頻繁に忘れてしまうが、シュタイナーとヤンは今や同盟軍を代表する軍人なのだ。色々とやらかしているので民間人からの人気も高い。

 普段の生活やシュタイナーとヤンによる配信『イゼルローンから愛をこめて』というラジオ番組を聞いていると二人が何なのかわからなくなるが、二人は同盟だけでなく帝国にもよく知られる名将なのだ!!

 普段は駄目親父であるが。

 カリンは笑い終えた二人からも報告書を受け取ると、空戦隊の訓練の後にアッテンボローのところにいっていたユリアンと合流し、司令官室へと向かう。

 年齢も近く立場も同じ。さらには前々からお互いの保護者がお互いの家を行き来しているので親友とも呼べる間柄になったユリアンと、カリンは世間話をする。

「そういえばユリアン。スパルタニアンの訓練し始めたんですって?」

「うん。ヤン提督がポプラン大尉に話をつけてくれて。あと、薔薇の騎士(ローゼンリッター)のシェーンコップ少将から白兵戦も教えてもらうことになっているよ」

 ユリアンからでてきた名前にカリンは持っているファイルを一瞬強く握りしめる。

 ワルター・フォン・シェーンコップ。カリンの実の父親だ。

 初めてシェーンコップと出会ったのはイゼルローンにやってきて三日目ごろ。一緒の要塞に住むということでシュタイナー艦隊とヤン艦隊の首脳部で顔合わせがあったのだ。

 そこでカリンは自分の実の父親を初めてみた。女性にもてるであろう端正な顔立ちと鍛えられた肉体。それらが全てカリンは憎かった。

 その男は母を捨てたのだから。

 母が亡くなった時、一度だけ手紙で母が亡くなった報告をした。そのために自分が娘だとシェーンコップは知っているはずであったが、特にアクションはなかった。逆にカリンの情報を知っているシュタイナーが少しだけ心配そうにカリンをみたのが印象的であった。

 だからカリンはシェーンコップを父と思うことはやめた。自分の父親はヘルベルト・フォン・シュタイナーだけだと思うことにしたのだ。

「カリン、どうかした?」

 難しい表情をしていることに気づいたのだろう。ユリアンが心配そうに自分を覗き込んでいるのに気づいて、カリンは一度首を振るとユリアンと会話を続ける。

「なんでもないわ。でもユリアン。あなた参謀志望でしょ?」

「うん。だからムライ総参謀長やチェン総参謀長からも色々と教えてもらってるよ」

「ヤン司令官と違って勤勉ね」

 カリンの言葉にユリアンも微笑む。こう言ってはなんだがユリアンの保護者のヤンは勤勉と対極にいるような存在だ。普段から怠惰。仕事の大半は副官のグリーンヒルに丸投げ。イゼルローン要塞の運営もほとんどシュタイナーがやっており、それにキレたシュタイナーが『イゼルローン要塞におけるキャゼルヌ少将の重要性について』というプレゼンをハイネセンのクブルスリーとビュコックに行い、キャゼルヌ少将がイゼルローンに配置換えになったのは記憶に新しい。

 それを聞いたヤンは「やった。これで私は仕事をしなくて済むぞ」と発言して、シュタイナーに「お前は最初から何もやっていない」と突っ込まれるシーンをカリンとユリアンは傍でみていた。

「そういえばキャゼルヌ少将はいつ到着するんだろう」

「ヘルベルトさんは十二月の中頃じゃないか、って言っていたけど」

 ユリアンの問いにカリンが答える。キャゼルヌのイゼルローン配属が決まってから、シュタイナーとヤンは連名で軍に『はやくキャゼルヌくれ。はよ! はよ!(意訳)』を毎日のように通信で送っていることを二人は知っている。

 そしてキャゼルヌの配属が決まってから二人がイゼルローンの運営に関する仕事を必要最小限しかしなくなったことを。

 内心で配属された瞬間から激務確定なキャゼルヌに祈りを捧げながら、二人はイゼルローン司令官室に到着する。

帝国時代は要塞司令官と駐留艦隊司令官の仲は悪く、執務室も別々の遠くにあったが、シュタイナーとヤンは部下の報告などを考えて同じ部屋がいいと判断。三部屋をぶち抜いて巨大な司令官執務室にDIYしてしまった。

 ちなみにこの執務室で頻繁に酒盛りしてはムライ参謀長にお説教される最高指揮官二人の構図はイゼルローン要塞の人々の公然の秘密である。

 カリンとユリアンは敬礼しながら扉を開く。

「ヘルベルトさん、モートン少将とシェイクリ少佐、ヒューズ少佐から報告書をお預かりしてきました」

「ヤン提督、ただいま戻りました」

「王を迎えるは三賢人! 赤き星は滅びず、ただ愚者を滅するのみ! 荒ぶる魂よ、天地開闢の魂を刻め! シンクロ召喚!! いでよ新たな我が力! スカーレット・スーパーノヴァ・ドラゴン!!」

「あ、強制脱出装置で」

 シュタイナーが召喚したドラゴン型のモンスターはヤンの伏せていた罠カードであっさりとデッキに戻った。

 右腕に嵌めた決闘盤から弾かれたカードをシュタイナーはEXデッキにいそいそと戻す。

「……ターンエンドだ」

「じゃあ私はこれからエグゾディアパーツが揃うまでソリティアするけど止めるカードある?」

「ねえぞクソがぁ!!」

 ヤンの煽りにぶち切れながらシュタイナーはサレンダーをしたことで勝者はヤンになった様子である。

 その光景にカリンは半目でみてしまう。隣のユリアンは男の子なので決闘盤に興味津々だ。

 そしてデュエルを終えた二人は部屋に入って来た二人に気が付いた。

「おお、お帰りカリン」

「ヘルベルトさん、何やっているんですか?」

「うむ、何やっているかと言われてもデュエル(決闘)をしているとしか言いようがないが」

 二人がやっていたのは人類の長い歴史のなかでも屈指の歴史の長さを誇るマジック&ウィザーズというゲームだ。なんでもその元になったカードゲームは地球時代まで遡れるらしい。

 それ自体はカリンも知っている。ハイネセンの学校にいた時はみんなやっていたし、なんだったらカリンもやっていて、シュタイナーともやったことがある。

 カリンが気になったのは二人の腕についている機械だ。

「その腕のは何ですか?」

「ああ、これか? これはフェザーンのヒューガーさんに『こんな感じの作れませんかね?』って聞いたらマジでできたらしくてさ。試作品を送ってくれたからヤンと遊んでた」

「みてみてカリン!! 本当に召喚できているみたいだよ!!」

 ユリアンがヤンから借りて自分のエースモンスターであるD-HEROデストロイフェニックスガイを召喚して喜んでいる。

 カリン的にそのモンスターは嫌な思い出しかないので視線をそらしながらシュタイナーと会話を続ける。

「ヒューガーさんが裏にいることはわかりましたが、お二人ともお仕事は?」

「「上が勤勉に働くと下が迷惑する」」

「二人ともお説教です。そこに正座してください」

 全く悪びれずに言い放った駄目親父二人にカリンはこんこんとお説教するのであった。




カーテローゼ・フォン・クロイツェル
シュタイナー艦隊とヤン艦隊の愛されマスコット(本人自覚なし
駄目親父二人(シュタイナーとヤン)を相手にお説教する姿は兵士達の癒しと笑いである。
使用デッキ:ウィッチクラフト

ライオネル・モートン
少将。勇猛果敢な人格者。

ウォーレン・ヒューズ&サレ・アジズ・シェイクリ
少佐。シュタイナー艦隊空戦隊隊長。愛家族家と飲兵衛

シュタイナーとヤンのやっていたカードゲーム
もしかして:遊戯王




そんな感じでイゼルローンの日々(カリン編)です。

最初の予定では三千字程度に抑えるつもりが、何故か倍の六千字近くになっていました。

そして原作で描写が少ないモートン提督はほぼオリジナルキャラ化。たぶんシュタイナー艦隊の外付け良心回路。
あとご感想で『モートンのほうが先任では?』というご指摘があったので急遽『モートンがカールセンに譲ったんだよ!』という設定付け。
人格者設定はそこから派生されました。

そしてみんな大好きポプラン&コーネフコンビの悪友コンビを本格参戦!! 原作ではほぼキャラ設定がないようなものだったので、道原かつみ版銀英伝から膨らませました。
シェイクリが一番いい腕という設定はユリアンのイゼルローン日記にてコーネフが「一番のパイロットは戦死して墓の中」という言葉からの着想になります。ヒューズの娘がいる設定も同じく道原かつみ銀英伝から。

あとカリンの爆弾のシェーンコップにも軽く触れておくスタイル。書きたいこともあるんですが、それがいつになるかは不明です。

追記:ユリアンのイゼルローン日記読んでいたらこの時のポプランとコーネフの階級が少佐だったのでシェイクリとヒューズも少佐に変更しました。直っていないところがあったらご指摘あるとうれしいです
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