亡命者
これは長い戦乱の間に様々な理由で帝国から同盟へ。またその逆に同盟から帝国へ行く人々を指す。
俺も両親に連れられて同盟へやってきた亡命者だし、妻であるアンナもかなり珍しいケースであるが亡命者だ。そして俺の養女であるカリンは亡命者の子供の亡命二世だ。
自由惑星同盟の帝国領侵攻作戦において俺はなんやかんやあってシュタイナー伯爵に叙爵された。
侵攻の一部隊の司令官が侵攻領の貴族に叙されるという「こいつは何を言っているんだ」案件なんだが、事実だから仕方ない。
そしてイゼルローンにヤンと共に指揮官として赴任し、二人で仕事をする振りをしながら駄弁っている時にヤンから「シュタイナー伯爵家の旧臣が君を慕って亡命してくる可能性があるんじゃないかい?」と指摘された。
ありえる話である。
なんだかよくわからないが我がシュタイナー伯爵家の家臣やその縁に連なる人々は異常にシュタイナー伯爵家に忠義を示そうとする。惑星・オーディンへの奇襲からの撤退の時に背信行為にも関わらず俺を助けてくれたクナップシュタインがいい例である。
国境沿いの要塞にシュタイナー伯爵がいる。
これを機会に俺の下にやってくる人物がいるだろう、というのがヤンの予想だ。
そしてその予想は大当たりだった。
イゼルローン要塞指揮官執務室。俺とヤンのDIYによって巨大な一室とかしたこの部屋に俺とヤン、そしてそれぞれの参謀長と副官のチュン少将とフィッツシモンズ大尉。そしてムライ少将とグリーンヒル大尉。ついでに俺とヤンの従卒兼養子のカリンとユリアンもいる。
俺の前には帝国式の礼をしている大柄の男。身長は2mをこえ、頬には戦傷が残り、大量の髭を蓄えた帝国軍上級大将の軍服を着た男。
銀河英雄伝説において白兵戦最強と呼ばれ、ファンからは石器時代の勇者と呼ばれたオフレッサー上級大将である。
まさかの俺の下にやってくる亡命者第一号が帝国軍の装甲擲弾兵総監を務める超大物だったことに俺とヤンだけじゃなく、俺とヤンから話を聞いていたチュン少将とムライ少将、フィッツシモンズ大尉、グリーンヒル大尉も困惑の空気を隠せない。(カリンとユリアンはオフレッサーがどれほど大物かわかってないので俺達の空気に困惑している)
そんな心理戦をしかけてきたオフレッサーは俺達の空気を気にすることなく、俺に深々と頭を下げた。
「ヘルベルト・フォン・シュタイナー伯爵。このバルドゥル・フォン・オフレッサー。先々代のシュタイナー伯爵から受けた大恩を返すべく参上しました。これからはヘルベルト様の手足となって戦いましょう」
ここでもまた同盟軍側に心理的攻撃。オフレッサー上級大将と言えばトマホーク一本で上級大将に昇りつめ、『ミンチメーカー』とまで呼ばれた野蛮人という認識である。
それが俺に対しては礼の限りを尽くしている。
まだ俺が帝国にいたとき、俺の屋敷に頻繁にやってきてはシュタイナー家に忠節を尽くしていたことを知っている俺はダメージが少なかったので、俺はようやく口を開く。
「オフレッサー上級大将」
「どうぞオフレッサーと呼び捨てに。私はシュタイナー伯爵の臣下なれば」
速攻でオフレッサーに訂正されてしまった。
ここでごねても話が進まないと思ったので俺は素直にオフレッサーの言葉を受け入れる。
「オフレッサー。卿が来てくれて私も嬉しい。しかし、大丈夫なのか?」
「大丈夫とは?」
「いや、装甲擲弾兵総監が亡命してきて大丈夫か?」
俺の言葉に今度はオフレッサーの瞳に怒りの炎が燃える。
「今の帝国は腐っております! あの憎きブラウンシュヴァイクとリッテンハイムが権力を握ろうとし! あまつさえ多くの貴族はそれを支持するという始末!! ブラウンシュヴァイクとリッテンハイムがやった所業を考えればそれは決してできぬ! なのにあの蛆虫共が!!」
「落ち着けオフレッサー」
最後のあたりに素が出始めたので、俺は慌てて止める。超男所帯で出世したオフレッサーはこっちが引くくらいの罵声がでてくることがある。それはカリンとユリアンの教育によくない。
俺の言葉に落ち着いたオフレッサーをみながら俺は会話を続ける。
「しかし、ならばブラウンシュヴァイクとリッテンハイムに対抗するであろうリヒテンラーデ侯や私の義弟のラインハルトの下に行く手もあっ」
「閣下」
俺の言葉の途中でオフレッサーは真剣な表情で俺の言葉を止め、そしてその表情のまま言葉を続ける。
「閣下の義弟に対して不敬であるのは重々承知ですが、私は金髪の……失礼、ローエングラム伯は大嫌いです」
「だからって同盟に亡命するのはやりすぎじゃない?」
「実は友であり同士でもあるメルカッツも誘ったのですが、メルカッツは家族のこともあり、それはできぬ、と。友の心中をお察しいただければ、と私も嬉しく思います」
「うん。オフレッサーと一緒にメルカッツ提督まで来たら俺の胃がバーストするからよかったよ」
「それとクナップシュタインも来たがっていたのですが、奴もまた家族を持つ身ゆえ、私が一喝して止めておきました。あ、それとこれはいけ好かない気障野郎……失礼、ロイエンタールから預かってきた閣下の結婚式に出席する旨の回答書です」
相手の軍人に結婚式の招待状を送っていた事実に厳しい目を向けてくるムライ少将の視線を無視して、俺はオスカーからの返答をみる。
出席のほうに丸がついていた。
「親友で親族とは言え敵国の軍人の結婚式に参加するとかあいつ頭おかしいんじゃないか?」
「ヘルベルトさん。それ招待状を送ったヘルベルトさんが言ったら駄目です」
思わず呟いた言葉にカリンが速攻で突っ込みをいれてくる。
だが、まぁオフレッサーの状況は理解できたので、俺はオスカーからの煽り手紙をしまいつつオフレッサーに話しかける。
「正直なところオフレッサーが俺のところに来てくれたのはありがたい。うちの艦隊には白兵戦の部隊があっても指揮官がいなくて参謀のラップに任せてたんだ。お前さんには俺の艦隊の白兵戦部隊の指揮官を頼む」
「は! このオフレッサー、粉骨砕身して閣下にお仕えし、任された白兵戦部隊を宇宙最強の部隊にしてみせましょう!!」
オフレッサーの強さを知っていると冗談に聞こえないから困る。
とりあえず亡命者オフレッサー上級大将は片付いた。
問題はもう一人のほうである。
身分証明書によればフリードリヒ・フォン・クロイツェル。帝国側に残っていたカリンの祖父である。
サングラスをかけ、アロハシャツを着た遊び人風の老人。
「……いや、フリードリヒ4世だよな」
「おっと! 儂をそんな放蕩皇帝と一緒にしないでくれ!! 儂はただの老人……カリン!! お前のお爺ちゃんじゃぞ!!」
「え?」
「カリンを困らせてんじゃねぇぞクソ爺!!」
困惑したカリンを助けるように俺が罵声を飛ばすと、フリードリヒ4世は大爆笑であった。
「オフレッサー。元居たところに帰してきなさい」
「しかし閣下。私の亡命に力を貸してくださったのは陛下なので……いえ、来る途中の艦の中であまりのうざさに何度も捨てたくなったのは確かですが」
「この扱いの悪さよの。奇跡のヤンと呼ばれるヤン提督はどう思うかの」
「自業自得では?」
フリードリヒ4世に俺達と同種の臭いを感じ取ったのかヤンからの言葉も辛辣だが、フリードリヒ4世はげらげらと笑うだけだ。
「というかお前死んだんじゃなかったのか?」
「残念だったなぁ。トリックだよ」
「よすんだシュタイナー!! 君のグーパンは人が弾け飛ぶ!!」
思わずな言葉に拳を飛ばしそうになった俺に対して即座に突っ込みをれるヤン。フリードリヒ4世はオフレッサーの後ろで俺を煽っていたが、オフレッサーに猫のように捕まれると俺の前に投げられた。
「とりあえず爺。ここからちょっと真面目な話だ」
「うむ。よかろう」
「お前死んだはずだよな? つい先日銀河中をそのニュースが広がったから」
タイミングとしては帝国領侵攻作戦の撤退直後。原作と同タイミングだったから俺も「狸爺も原作力には勝てないか」と思った記憶がある。
なのにその爺が目の前にいる。どういうことだ。
すると、フリードリヒ4世が真剣な顔をして口を開く。
「うむ。皇帝辞めたかったから死んだことにした」
「落ち着いてくだされ閣下!!」
「グーは駄目!! グーは駄目だシュタイナー!!」
俺の振り被った拳を止めてくるオフレッサーとヤン。チュン少将とフィッツシモンズ大尉は笑っていて、グリーンヒル大尉は苦笑い。ムライ少将は困ったものだと首を振っていた。
俺の反応を気にせずフリードリヒ4世は言葉を続ける。
「儂がローエングラムに取引を持ちかけてな。とある条件をつけて儂は死んだことにして新しい人生をスタートさせた」
「条件って?」
ラインハルトが応じることだから帝国内部での地位向上とかだろうか。
俺の言葉にフリードリヒ4世は真剣な表情で口を開く。
「お主とアンネローゼ、そして養女のカーテローゼ・フォン・クロイツェルの暮らしぶりを逐一報告することじゃ」
「ぶっふぅ」
あんまりな条件に聞いていたフィッツシモンズ大尉が笑ってしまう。俺も脱力するしかなかった。
シスコンの気持ちを甘くみていた。
「それにシュタイナー伯の近くにいたら色々と面白そうだしのぉ」
「見世物じゃねぇぞクソ爺!!」
「でも間違ってないよね」
「それはヤン提督はおっしゃれないかと」
ヤンがにやにやして突っ込んできたら、冷静な顔をしたムライ少将に突っ込まれて何も言い返せないヤンワロス。
「それと、な」
そう言ってフリードリヒ4世は首から下げていたロケットを懐から取り出して蓋を開く。
そこには幸せそうな笑みを浮かべて立っているフリードリヒ4世とベーネミュンデ侯爵夫人の写真と黒髪が数本入っていた。
それを見ながらフリードリヒ4世は優し気に、だがどこか寂しげに呟く。
「シュザンナに広い世界を見せてやりたくてな……」
……そんな顔されたら何も言えないわ。
俺は溜息をついてヤン達をみる。
「ヤン大将、チュン少将、ムライ少将、フィッツシモンズ大尉、グリーンヒル大尉。この老人の正体は」
「わかってる。私達の胸の中にとどめておくよ」
ヤンの言葉に俺は軽く頭を下げる。厳格なムライ少将は困った様子で首を振っていたが、文句を言う様子はない。
それに少し驚いた様子のフリードリヒ4世だったが、すぐに微笑むと軽く全員に頭を下げる。
そしてテンションあげた様子で立ち上がる。
「それでシュタイナー伯の養女のカーテローゼ……ああ!! カリンじゃったな!! それはそこの可愛い娘で良いのかの? お主のお爺ちゃんじゃよ……!!」
「え!?」
「調子に乗るなクソ爺!!」
ヘルベルト・フォン・シュタイナー
ヤンと話をしていて自分を頼って亡命者が来るという予想は立てていたが特大の爆弾がやってきた。
バルドゥル・フォン・オフレッサー
石器時代の勇者。ミンチメーカー。この世界ではヘルベルトくんの祖父に世話になり、その配下となったシュタイナー伯爵家家臣。なお、この世界でもラインハルトは嫌い。
カーテローゼ・フォン・クロイツェル
なんか祖父が勝手に生えてきた。
ヤン・ウェンリー
シュタイナーのところに亡命者がやってくるのは予想してたけど、想像以上に大物が来てちょっと引いた
フリードリヒ・フォン・クロイツェル
ひょっとして:フリードリヒ4世
そんな感じでシュタイナーくんのところに亡命者がやってきました。
作者の個人的に好きなキャラであるオフレッサーを第十四艦隊へスカウト。これは割と最初から構想にありました。これにより第十四艦隊の白兵戦部隊は薔薇の騎士連隊をこえる白兵戦部隊になるかもしれません(活躍は考えていない
それとオフレッサーの名前はオリジナルです。原作やアニメでも名前でてませんよね?(不安
そして皆さん大好きフリードリヒ4世カムバック!!
最初の予定では原作が死亡したタイミングで退場のつもりで書いており、この作品でもそういうナレ死させたのですが、感想のほうで「あの爺が簡単に死ぬわけない」(意訳)と複数寄せられ、作者も「それは確かに」と思ったので復活の爺になりました。
皇帝としては死んだと書いてしまっていたのでラインハルトと組んだ狂言として再設定、そして新しい戸籍はカリンの祖父という設定に!!
突然生えてきた祖父にカリンは困惑する。
それと個人的にフリードリヒ4世が愛していたのはベーネミュンデ侯爵夫人だったんじゃないかなぁと思ったのでそのあたりも入れてみました。