イゼルローン要塞応接室。俺とヤンの司令官室の近くに設置されたその部屋は客人と会談をする部屋であった。
普段であれば仕事をさぼった俺とヤンを筆頭にした第十三艦隊と第十四艦隊の幹部連中が集まって博打をしてはムライ少将に雷を落とされるその部屋は珍しく正しい使われ方をしていた。
ソファーに座っているのは四人。イゼルローン要塞司令官のヤン。今日の結婚式のためにカリンに言われて髪の毛を整えている俺。そして帝国から俺の結婚式のためにやってきたオスカーとミッターマイヤー提督である。
軽い世間話をしていたらヤンが苦笑いしながら口を開く。
「しかし、シュタイナーから聞いてはいましたが、本当に帝国の名将たるロイエンタール提督とミッターマイヤー提督が来られるとは思っておりませんでした」
ヤンの言葉にミッターマイヤー提督も苦笑いしながら答える。
「最初はローエングラム伯爵自ら来られると言っていたのですが、流石に参謀のオーベルシュタインに止められまして……。ローエングラム伯爵直々のご命令という形で小官が代理として参りました。ロイエンタールの奴は最初から来る気満々だったようですが……」
そしてヤンとミッターマイヤー提督の視線がオスカーと俺に向かう。
そんな俺とオスカーの二人は。
「見ろ、ヘルベルト。これがカマサキの新型だ。デザイン超良くないか?」
「うお!! 流石はカマサキのバイクだ!! 男の子の心をよくわかってるな……!!」
「そうだろう。俺など新車発表時軍務中だったが隠れて発表動画をみていて、仕事終わりにそのまま予約しにいったからな……!!」
「くっそ!! うらやましいな!! 同盟にはバイク文化ないんだよなぁ……!!」
「ミッターマイヤー提督はあの二人が何の会話をしているかご存知ですか?」
「帝国の一般人層にはシュタイナー伯爵領を中心にバイク文化が広がっておりまして、つい最近バイクを作っているメーカーの新型発表があったのでそれの話ですね」
ミッターマイヤー提督の言葉にヤンは少し驚いた表情になる。
「バイクって言うとあの地球時代の乗り物ですか?」
「ええ。しかもシュタイナー伯爵家領に残っている文化はガソリン車の文化ですよ」
「あんな化石文化がまだ残っているんですねぇ」
ヤンがどこか感心しながら呟くのと、俺とオスカーが一通り盛り上がりが終わるのは同時だった。
とりあえず部屋の隅っこで給仕の役割をしているユリアンが淹れてくれた紅茶を一口飲んで溜息をつく。
「しかし、数少ない親族とは言え敵領にのこのこ来るか普通」
カリンがいれば即座に「それ招待状だしたヘルベルトさんが言っちゃ駄目です」という突っ込みが入っただろうが、ここにいる常識人は突っ込み役に不十分なユリアンと生真面目なミッターマイヤーしかいないので突っ込みは発生しなかった。
俺の言葉にオスカーは優雅に紅茶を置くと足を組みなおす。
「ふむ。確かに敵地ではあるが、そこの司令官は騙し討ちのような卑劣な真似はしないと思えるヘルベルトとヤン提督だからな。あまり心配していない」
「本音を述べよ」
「同盟の女がどんな感じかみてみたくてな」
「こいつ刺されればいいのに」
完全に女の敵な発言をしたオスカーにミッターマイヤー提督は苦笑いである。
「そこでオスカーに提案なんだが」
「聞こう」
「お前このまま俺のところに亡命しない?」
俺の言葉に驚いた表情を浮かべるミッターマイヤー提督。ヤンは前に俺から聞いていて無反応だし、肝心のオスカーも眉すら動かさない。
そしてオスカーは口を開く
「条件がある」
「お、おいロイエンタール!!」
焦るミッターマイヤー提督の言葉を無視してオスカーは言葉を続ける。
「俺は帝国で帝国軍大将の地位と給料でこれだけもらっているわけだが、亡命したらそれ以上の給料はもらえるのか?」
「おいヤン。お前給料の中でいくらだせる?」
「駄目だよシュタイナー。私と君の給料足しても帝国軍大将の給料に届かない。ここはキャゼルヌ先輩を通して後方にかけあってみるしかない」
俺とヤンのやりとりをみて冗談だと思ったのかミッターマイヤー提督は軽く笑った。
当然、俺とヤンは本気だし、マジで後で後方にかけあってみるつもりだが、今はまあいい。
そしてオスカーは持ってきていたキャビンの中身をごそごそと取り出し始めた。
「来た時から気になっていたんだが、そのでかいキャビンはなんだ?」
「帝国のヘルベルトとシュタイナー夫人の関係者から預かってきた祝いの品々だ。まずはこれだな」
そう言ってオスカーが取り出したのはデカいトランクケース。その大きさは大人二人は入りそうなサイズだ。
「? 誰からだ?」
「ヘルベルトの義弟になられる方からだ」
オスカーの動きに俺は止まる。俺の義弟になると言えば帝国の有力者の一人になったラインハルトである。
あのシスコンが姉の結婚式に送る品物。どう考えても超高級品な気がしてならない。
「オスカー。俺ちょっと開けるの怖いんだけど」
「ローエングラム閣下から開封するところまで見届けるようにとのご命令だ。開けてくれなくては俺とミッターマイヤーが任務を果たせなかったことになる」
オスカー一人だったら余裕で見捨てるのだが、流石にミッターマイヤー提督が巻き添えになるのは可哀想なので、思い切ってトランクを開ける。
そして絶句した。
「うわ」
隣に座っている関係上中身がみえてしまったヤンは思わず引いた声をだしている。
当然だろう。トランクケースの中身はぎっしりとつまった金塊だった。
金塊の上に乗っていた『姉上へ』と書かれた手紙を懐に仕舞い、『兄上へ』と書かれた手紙を開いて中身を確認する。
『親愛なる兄上へ。
お久しぶりです兄上。今回は姉上とのご結婚、嬉しく思います。幼い頃からお似合いであったお二人のご結婚、私自身も参列したかったのですが、オーベルシュタインだけでなく、キルヒアイスにも止められてしまったので、断腸の思いでこの手紙に思いを託します』
そう書き始めた手紙は全部で十五枚になっていた。そして何が恐ろしいって『まだ語り足りませんがあまり長くてもご迷惑となるのでここで筆を置きます』で終わっていることだ。あいつはこれ以上何を書く気なのだろうか。
まぁ、原作で超絶シスコンで今世でもアンネローゼと結婚したことで抹殺対象に入ったんじゃないかと思って心配だったのが杞憂だったことは素直に喜ぼう。
金塊の置く場所とか使い道は考えない。きっと後日の俺がいいアイディア浮かぶさ。
俺が手紙を読んでいる間にオスカーは次の祝いの品を取り出していた。
机に置いてあるのは一枚の油絵。そこに描かれているのは俺の帝国での領地だったシュタイナー伯爵領の惑星・エンフィールドであった。
俺はその油絵をまじまじとみる。
「見事な絵画だな。誰の作品だ」
「俺とミッターマイヤーの同僚のメックリンガーだ」
メックリンガー提督は知っている。原作でも好きなキャラだったし、今世においても芸術家としても軍人としても高い名声を誇る人物だ。
だが、俺は首を傾げる。
「何故メックリンガー提督が俺に絵画を? アンネローゼ繋がりか?」
「ふむ、ヘルベルト。『音楽家・エル』は覚えているか?」
「ああ覚えている。俺の領地の領民で音楽の才能じゃなくて色々と知恵が働いたから色々と振り回した……ってまさか」
俺の言葉にオスカーは頷く。
「『音楽家・エル』が今のエルネスト・メックリンガーだ」
「んんんんんんんん!?」
「シュタイナーが変なのはいつものことですけど、いつも以上に壊れているんですが、ミッターマイヤー提督に思い当たる節はありますか?」
「小官もロイエンタールやメックリンガーから聞いただけですが、シュタイナー伯爵は帝国にいた頃は死刑になってもおかしくない悪さをしていたようで」
「ああ、なるほど」
どこか他人事な会話をしているヤンとミッターマイヤーを他所に俺は頭を抱える。
「いや、大丈夫……!! メックリンガー提督があのエルなら主君である俺を売るような真似はしないはず……!!」
「そのエルからの伝言だ。『私と一緒に作った音楽で随分と儲けているようですな』だそうだ」
「あああああああああああ!!!!! バレてるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」
俺が発表して大人気となっている音楽を作ったのはメックリンガー提督(以降はエル)である。どうせ帝国の一臣民だから俺が同盟で派手にやっててもバレねぇべぇと思っていたらばっちりバレていた模様。
「安心しろヘルベルト。稼いだ三割を送れば裁判にはしないとエルは言っていた」
「……拒否したら」
「お前の過去の悪行を同盟にもバラすそうだ」
「ストレートな脅しぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」
「シュタイナー家臣団って仲悪いんですか?」
「いえ、ロイエンタールやメックリンガーが言っていましたが、今でもシュタイナー伯爵の帰りを待つくらいには仲は良いそうです。それはそれとして脅しはするそうですが」
主でも容赦しないのが信条なシュタイナー伯爵家である。当然その信条は家臣団やその関係者にも広がる。純粋な忠臣タイプのブルーノのほうが珍しいのだ。
とりあえずオスカーが持ってきていたフェザーンを経由してエルに送金するための手続きの書類を書いてから、オスカーは次の品物を取り出す。
それは1m程度の長さの袋であった。
俺にとって見慣れたそれを懐かしく思いながら袋から中身を取り出す。
そこには白鞘に収められた刀が入ってきた。
俺は刀を白鞘から抜くと、美しい刀身が現れた。
その美しさにヤンとミッターマイヤー提督からも感嘆の声がでている。
「エンフィールドの相模打か」
「流石は領主。わかるか」
「一応な」
日本刀の技術は帝国でも一部の貴族領でも伝えられている。その中でも俺の領地であるエンフィールドの相模打が切れ味や刀身の美しさ共に帝国一であった。この刀は銀河帝国初代皇帝ルドルフにも献上され、貴族達の贈り物としても珍重されている。
そんな刀を俺は白鞘に収めてロイエンタールをみる。
「誰からだ? こんな高級品を送ってくれる人物に思い当たるのがいないんだが」
「それはクナップシュタインからだ」
「ブルーノから? だがこう言ってはなんだがブルーノの給料じゃ相模打の最高級品である白鞘は買えないだろう」
「そこはクナップシュタインが職人にヘルベルトに送りたいと頼み込んだそうだ。職人のほうもヘルベルトにならって理由で格安で最高級な品を打ってくれたそうだ」
「愛されているね、ヘルベルト」
ヤンのからかいに中指をたてつつ、俺は座っているソファーの隣に刀を置く。これからはブラスターの代わりにこれを腰に下げるとしよう。
「まだあるのか?」
「お前宛はこれで終わりだ。残りはグリューネワルト伯爵夫人……いや。シュタイナー伯爵夫人宛だから後で直接夫人に渡そう」
そう言ってオスカーはでかいキャビンの蓋を閉める。時間を確認すると、結婚式まで少しだけ時間が残っていた。
四人でユリアンに紅茶のお代わりをもらうと、ミッターマイヤーは何かを思い出したかのような言葉をあげる。
「そうだ。シュタイナー伯爵はオーベルシュタインと何か関係があるのですか?」
「オーベルシュタイン?」
「はい。フルネームはパウル・フォン・オーベルシュタイン。いつもなら冷酷な対応しかない鉄面皮がシュタイナー伯爵に関することだけ熱心なので」
過去を思い出してもオーベルシュタインと関わった事実は俺にはない。
だが、俺には思い当たるところがあった。
「ミッターマイヤー提督。そのオーベルシュタインという男、帝国の劣悪遺伝子排除法に引っ掛かる病気持ちではないですか?」
原作を知っている俺はすでにオーベルシュタインは生まれつき目が見えなくて両目が義眼なのは知っているが、今世ではまだ知らないのですっとぼけて確認をとる。
ミッターマイヤー提督も少し驚いたように頷いた。
「はい。生まれつき目が見えないらしく両目が義眼です」
原作知識と今世の存在に差異がないことに頷きつつ、俺は言葉を続ける。
「エンフィールドには劣悪遺伝子排除法に引っ掛かった子供を預かる施設があります。オーベルシュタインもそこ出身なのでしょう」
原作でも悪法として知られた劣悪遺伝子排除法だったが、この世界でも残念ながら発布されてしまった。
だが、そこはしたたかに生きるシュタイナー伯爵のご先祖様である。一般臣民や下級貴族の家に産まれて殺されるしか未来がなくなった子供達を預かる施設を領地に作ったのである。
この施設出身でありながらエンフィールドの発展に寄与した役人となった人物も多い。
俺の言葉にミッターマイヤー提督は納得したように頷く。
「なるほど。流石のオーベルシュタインも命の恩人には冷たくできないらしい」
「みなさん、そろそろ結婚式のお時間ですよ」
ミッターマイヤー提督の言葉と同時にアンナのほうにいたカリンが俺達を呼びに来た。
その呼びかけに全員で立ち上がったところでオスカーが懐から一枚の親書を取り出した。
「酒を飲んで記憶を飛ばさない内にこれを渡しておこう」
そう言ってロイエンタールはヤンに親書を手渡す。
帝国の公式印が押された親書をみながらヤンは首を傾げる。
「ロイエンタール提督、これは?」
ヤンの言葉にオスカーはニヤリと笑った。
「捕虜交換の提案です。我らが主・ラインハルト・フォン・ローエングラム閣下から反乱軍に向けてのね」
ヘルベルト・フォン・シュタイナー
帝国にいたころはやばいことをいっぱいやってた
オスカー・フォン・ロイエンタール
この後の祝いの席で酒を飲みすぎて無事に記憶を飛ばした
ヤン・ウェンリー
捕虜交換の親書は封を切らずにキャゼルヌ先輩に渡した
ウォルフガング・ミッターマイヤー
同盟が誇る名将二人が思ったより話しやすくて驚いている
そんな感じで結婚式編です。結婚式はこれにて終了。結婚式の内容? 莫迦が莫迦やって盛り上がって参列者の大半が記憶飛ばしただけですよ。
そしてさらっと魔境に拍車がかかるヘルベルトくんの領地惑星・エンフィールド。日本刀の技術が残ってたり劣悪遺伝子排除法に引っ掛かった子供を引き取る施設がある模様。
どう考えても帝国に喧嘩うってる。
そしてそこの施設で育ったのでオーベルシュタインはヘルベルトくんと面識なくても忠誠心あり。きっと同盟を裏切らせて帝国に帰ってこさせるために暗躍しているでしょう。
あと最近気づいたのですが、この作品のお気に入り数が2000をこえていました。作者は今まで多くても700に届くか届かないかだったのでこの数に驚いています。
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