帝国との捕虜交換の式典の日程が近づいてきている。それに伴って増えたキャゼルヌ先輩の仕事をヤンと一緒に眺めながら紅茶を飲むという生活が続いている。
アッテンボローなどは「イゼルローン回廊に耳目が集まっているところでフェザーン回廊でシュタイナー先輩の義弟は何かやらかすんじゃないですか?」という問いに対して、俺とヤンはその可能性も考慮してハイネセンに連名で意見を送った。
原作外伝のユリアンのイゼルローン日記では「は? ヤン提督はフェザーンだけ気にしていればいいんですが? それ以上は越権行為ですが?」(意訳)という返事を出されてヤンがプチ切れするというイベントがあったが、こちらの世界ではクブルスリー大将とビュコック大将が俺とヤンの意見を入れるために政府にかけあい、原作と違って色々な意味で民衆人気が高いヤンの意見を政府も無視できなくなり、超高速通信を使ってイゼルローン要塞司令官のヤンとイゼルローン方面艦隊司令官の俺、ハイネセンのクブルスリー本部長とビュコック宇宙艦隊司令長官、そしてフェザーン方面のガンダルヴァ星域のウルヴァシー基地司令官のアップルトン提督、そしてガンダルヴァ星域艦隊司令官のウランフ提督で会議を行うことになった。
ヤンが自分で仕事を増やしたことに顔を顰めているのを指さし嘲笑いした後に会議を行った。
結果として、捕虜交換の式典が行われる日程付近ではウランフ提督の艦隊がフェザーン方面の警戒を強めることに決定した。正確に言えばそれしかできないのである。残念ながら仕掛けてくるとしたらラインハルトからになるので、こちらとしては受け身の対策しかとれない。原作と違って人材や物資の損耗をだいぶ防げた帝国領侵攻作戦であるが、それでも同盟は傾くダメージなのは間違いなく、なんでもできるわけではないのだ。
原作との違いはクブルスリー本部長とビュコック宇宙艦隊司令長官の発言力が高く、政治家も二人の発言を無視できない点である。民衆からもクブルスリー本部長とビュコック宇宙艦隊司令長官を双璧とし、帝国侵攻作戦の生き残りである俺、ヤン、アップルトン大将、ウランフ大将、ボロディン大将、アル=サレム大将を『同盟の六柱』として支持されている。どの提督もクブルスリー本部長を除けば共に苦楽をわかちあった戦友であり、クブルスリー本部長も俺とヤンに好意的なために比較的軍部もやりやすい空気になっている。
ヤンと俺のでかい執務室の会議机に俺はキャゼルヌ先輩から受け取った名簿を置く。
「いや、この中から怪しい人物がいないか探せとか無理だろ」
俺の言葉にヤンも見ていたリストを会議机に投げながら嘆く。
「キャゼルヌ先輩だって見つけられると思ってないと思うよ」
「じゃあ俺達のこの作業はなんだ?」
「キャゼルヌ先輩から仕事しない後輩達への嫌がらせかな」
「ファッキンキャゼルヌ」
とりあえずキャゼルヌ先輩宛に中指をたてた俺とヤンの写真を送っていく。すぐに親指を下に向けたキャゼルヌ先輩の写真が送られてきた。
そのやり取りを自分の仕事をしながら笑ってみているヤンの副官のグリーンヒル大尉と俺の副官のフィッツシモンズ大尉。
二人の視線が外れて仕事に戻ったところで俺とヤンのアイコンタクト。
(逃げるか)
(のった)
俺の提案に速攻でのったヤンと呼吸を合わせて立ち上がる。それと同時に机に追加のリストが勢いよく置かれた。
持ってきたのは俺の養子で従卒のカリン。カリンの後ろにはユリアンもリストの山を持っている。
中途半端に立ち上がっている俺とヤンをみてカリンは笑顔で口を開いた。
「まさかイゼルローンの司令官お二人が自分のお仕事ほっぽって逃げ出すわけないですよね?」
完全に俺達の行動が読まれていた。
罰が悪そうに椅子に座る俺とヤンに対してカリンは呆れたように溜息をつき、ユリアンは苦笑しながら山になっているリストを会議机に置いた。
その山をみてヤンは頬が引きつりながらユリアンに尋ねる。
「ユリアン、それは?」
「帝国から提出された同盟軍の捕虜のリストだそうです。キャゼルヌ先輩がお二人に不備がないか確認していただくようにとのことです」
「「うぼわぁ」」
俺とヤンは同時に机に突っ伏した。それをみながらカリンが言葉を続ける。
「キャゼルヌ少将が私とユリアンからみてお二人が仕事をしていなかったらすぐに追加の仕事を持ってくるそうですよ」
「キャゼルヌの奴め!! 若者を騙すことに痛む心を持っていないのか!!」
「無駄さシュタイナー。キャゼルヌの奴は軍服の中に悪魔の羽と尻尾を隠しているのさ」
「あ、キャゼルヌ少将ですか」
「「すいませんでした」」
俺とヤンの発言に速攻でキャゼルヌにちくろうとしたカリンにヤンと二人で土下座する。カリンも通信を繋ごうとしたふりだけだったので呆れたように溜息をついた。
俺とヤンが追加されたリストを取り出して確認作業を始めてから1分後、ヤンが世間話を始めた。
「シュタイナー、君のところには汚物はきていないのかい?」
ヤンの言う汚物とは国防族と呼ばれる政治家と、それにコバンザメのようについてきたマスゴミのことである。
原作でもあったようにこちらの世界でも捕虜の出迎えと称して選挙活動をやろうとしている政治家と、その利権で旅行だとでも思っているのか煩いことしか言ってこないマスゴミ。つい先日も政治家が「軍人が敬礼しなかった」とヤンに苦情をつけ、マスゴミはベッドが固いというクッソどうでもいい苦情をつけてきた。
ヤンの肩書が『イゼルローン要塞司令官』ということもあり、それらの苦情は全てヤンに上げられる。というかキャゼルヌ先輩を筆頭に全員が忙しすぎるのでヤンが受けるしかないのである。つい先日もヤンの官舎にまでマスゴミが押しかけてユリアンが塩をまいて撃退したそうである。
そんなヤンに俺は簡潔に答える。
「俺の官舎周辺にはオフレッサーが巡回している。後方の安全地帯からしか文句の言えない連中にオフレッサーに突撃する勇気があると思うか?」
「え~、その警備システム羨ましい」
ヤンのマジ羨望の言葉である。
汚物達がやってきた二日ほどは俺の官舎にも突撃をかけようとしたマスゴミがいたようだが、オフレッサーの睨みつける攻撃で逃げていったそうである。それ以来俺の官舎周辺は汚物が近づかない数少ない地点になっている。
「うちもどうにかできないかなぁ」
「纏めてイゼルローンの炉心に放り込むか? 死体も残らない完全犯罪のできあがりだ」
「それ採用。さっそくローゼンリッターに出撃させよう。君のところのオフレッサー客員上級大将も頼むよ」
「任せろ」
「お二人とも」
カリンの言葉で俺とヤンはしぶしぶ通信をやめる。カリンが常識人で助かったな汚物どもめ。
「ヤン先輩!! シュタイナー先輩いますか!!」
そう言って俺とヤンの執務室に怒鳴り込んできたのはアッテンボローである。ここに来る時はだいたい酒瓶片手にやってくる男だが、今回は怒っているのか軍帽を片手で握りつぶしながら会議机に拳を叩きつける。
「あの政治家を語るゴミとジャーナリストを語る汚物集団どうにかなりませんか!! あの連中とうとう視察と称して軍のところにやってきてごちゃごちゃ言ってきているんですが!!」
アッテンボローは俺の艦隊のモートン少将と共に新人の軍人の練兵を行っており、汚物達はそこまで押しかけたようである。
頭に血が上ってヤンに文句を言っているアッテンボローを尻目に、アッテンボローと一緒にやってきたモートン少将をみる。
「モートン少将。訓練に影響は?」
俺の言葉にモートン少将は苦虫をかみつぶした表情で口を開く。
「でております。現場の兵からも苦情が多数」
その言葉に俺は腕を組んで天井を見上げる。
原作でもこういう流れになるのは知っていたが、原作と違ってこちらの世界では比較的まともな人物が多いのもあって原作とずれることを期待したのだが、駄目だったらしい。
だったら俺の計画を実行に移す。
「アッテンボロー」
「それを連ちゅ!! なんでしょうかシュタイナー先輩」
まだ怒った様子で顔を真っ赤にしているアッテンボローに俺はニヤリと笑う。
「確か政治家連中は名前とか政治団体の名前の入った万年筆とか持ってきてたな」
「? はい。明確に同盟公職選挙法第四条違反ですね」
「グリーンヒル大尉。連中が同盟憲章に違反しているのは間違いないか?」
アッテンボローの言葉に俺が同盟憲章を全部暗記しているグリーンヒル大尉に確認すると、グリーンヒル大尉は頷いた。
「確かに彼らの活動は同盟憲章に違反しています」
「……あ!! シュタイナー、君まさか!!」
グリーンヒル大尉の言葉にヤンが何かに感づくがもう遅い。俺はすでに会議机に備え付けられている通信機でオフレッサーに指示をだす。
「オフレッサー。今イゼルローン要塞にやってきている政治家連中は明確に同盟憲章違反を起こしている。全員営倉にぶち込め。ジャーナリストも軍事機密区画に入り込んでいる。これはスパイ容疑にかけられる。ジャーナリストの連中もかたっぱしから営倉に放り込め」
『は!!』
俺の言葉に元気よく返事をして通信が切られる。
唖然としているアッテンボロー、モートン少将、グリーンヒル大尉。爆笑しているフィッツシモンズ大尉。苦笑いしているヤンとユリアン。そして頭痛をおさえるように米神を抑えているカリン。
それらを無視して俺はいい笑顔で告げる。
「これでイゼルローンの平和は保たれる」
「流石はシュタイナー先輩!! 俺達にできないことを平然とやってのける!! そこに痺れる憧れるぅ!!」
「ははは!! 褒めるなアッテンボロー」
「お二人とも!!」
歓喜の声をあげるアッテンボローに答える俺に叱りの声をだしてくるカリンであったが、俺の忠実な部下なオフレッサーはすでに解き放たれた。もう手遅れである。
「……よし、逆に考えよう。ここは軍事要塞だから司法警察権は私たちの手元にある。これを機会に問題ある奴は全員前科者にしてしまおう」
「よろしいのですか? それをやると背広組を敵に回すのでは?」
モートン少将の言葉にヤンは晴れやかな笑みを浮かべる。
「もちろん同時に私とシュタイナーの連名で同盟全土に彼らの罪を喧伝しておくとも。そうすれば民間人はこちらの味方になる。よぉし!! 私もやる気でてきた!! さっそくMPに指示を出さなきゃ!!」
そしてヤンも通信機を使ってうっきうきでMPに指示をだしている。こういう時だけヤンも仕事が早い。
足取り軽く出ていくアッテンボローと、一度敬礼してから執務室をでていくモートン少将を見送ってから、俺は思い出したようにリストを確認する。
「……やっぱりいないな」
「? どうかしたかい?」
ヤンの言葉に俺は真剣な表情で口を開く。
「俺達の元上司、リンチ提督の名前が名簿にない」
俺の言葉に表情を変えてヤンもリストを確認する。
そして真剣な表情を浮かべながら俺をみてきた。
「まさかとは思うけど、リンチ提督が?」
ヤンの言葉に俺は頷きながら口を開く。
「おそらくは内乱の火種だろうな」
ヘルベルト・フォン・シュタイナー
政治家やマスゴミからのヘイトを一身に集める結果に
ヤン・ウェンリー
よっしゃ!! これを機会にめんどくさいゴミ一掃したろ!!
政治家&マスゴミの皆さん
賄賂などをいっさい許さないオフレッサー率いる第十四艦隊陸戦隊とローゼンリッターの厳正な監視下に行われた事情聴取によって、まともなのは釈放され、アウトなのは全員前科者として後方に送られた
そんなわけで年内最後の更新でございます。
本当は捕虜交換式まで書きたかったんですが、イゼルローンのゴミ掃除をしたら長くなってしまったので分割しました。
そして思いっきり政治家等からヘイトを集めるシュタイナーくん。全部今後のストーリーに必要なことですからね、仕方ないね(大量に産まれた犯罪者から目そらし
次回こそは捕虜交換式になります。お楽しみに!!