捕虜交換式。ついに当日である。
そうは言っても同盟も帝国も自分達が唯一の政権であり、相手を政権としては認めていないため、政府からの正式な使者はでてこず、代わりに軍部が行うことになる。そのためにイゼルローン要塞の指揮官である俺とヤンが使者となって捕虜交換式を行うことになった。
自由惑星同盟軍正使ヤン・ウェンリー大将、副使ヘルベルト・フォン・シュタイナー大将。
そして帝国側もまた政府からの使者は来ていない。
銀河帝国軍正使ジークフリード・キルヒアイス上級大将、そして副使にまさかのグレゴール・フォン・ミュッケンベルガー退役元帥が出張ってきていた。
確かにミュッケンベルガーは原作でもアニメでもラインハルトを買っていた雰囲気があったが、どうやらこの世界ではラインハルトの後見人のような役割になっているらしい。
両国の国歌を流すわけにはいかず、両国の軍楽曲を流している中をヤンとキルヒアイスがお互いに握手をし、その後に俺とキルヒアイス、ヤンとミュッケンベルガーが握手をしている。
俺の手を優しく握ったキルヒアイスは二コリと優しく微笑み口を開く。
「いつもラインハルト様からお話を聞いているので、初めて会った気がしませんね」
「悪名の九割は嘘だと思って欲しいですね」
俺の言葉に優しく笑うキルヒアイス。たぶんラインハルトの言っていることは100%事実だが俺は保身に走る男なのだ。
そして次に俺はミュッケンベルガーと握手をする。年を重ねた老練な武人、といった雰囲気のミュッケンベルガーも俺と握手をしながら口を開く。
「卿を反乱軍……いや、同盟に追いやってしまったのが帝国にとっての痛恨事であるな」
「恨むのならブラウンシュヴァイクとリッテンハイムを。あの両家が余計なことをしなければ私も帝国にいたでしょう」
そう言って俺は手を放そうとするのを、ミュッケンベルガーは離さず言葉を続ける。
「その両家が滅びたとき、卿は帝国に帰ってくる気はあるか?」
その言葉に俺は絶句する。会場に集まっているマスコミからも騒めきがでる。キルヒアイスは相変わらず優しく微笑んでいるだけだし、ミュッケンベルガーは真面目な顔だ。
俺は一度呼吸を整えると苦笑する。
「すでに私は同盟の中で守るべき人々ができました。今更帝国には戻れないでしょう」
「そうか……だが、帝国はいつでも卿の帰りを待っているだろう」
内心でやめろじじい!! 俺の同盟での立場が危うくなる!! と叫ぶが表には出さずに笑うだけだ。
「シュタイナー、笑顔が引きつってるよ」
小声でのヤンの言葉に再び笑顔を整える。
そして四人で会場内を歩き、中央のテーブルに歩み寄る。そこには捕虜のリストと交換証明書が置かれている。
証明書の文面は普通は長々と書かれているものだが、そこは『アンチロングスピーチ』の俺とヤンである。グリーンヒル大尉とフィッツシモンズ大尉がギリギリまで短くした文章を俺とヤンが頭を突き合わせて極限まで削った結果、殆どが白紙になってしまったのは仕方がないことだろう。
ちなみに国防委員会から送られてきた1ダースもの文案は全て司令官室のメモ帳として活用されている。
それぞれの前に置かれた二通の証明書に俺達四人はサインをし、公職の印章を捺す。そして交換して再び同じ作業を行えば捕虜交換は終了である。
その後にお互いの正使であるヤンとキルヒアイスが握手をすると大量のフラッシュが光る。その光の中をキルヒアイスは優しい笑みを浮かべながらヤンに話しかける。
「形式というのは必要かもしれませんが、ばかばかしくもありますね。ヤン提督」
「同感です」
原作通りの会話をすると、キルヒアイスは最後に俺に目礼すると、乗ってきた乗艦バルバロッサに戻ろうとする。
そしてその途中で居並ぶ中にユリアンを見止めて足を止める。
「君はいくつですか?」
キルヒアイスの優しい言葉に、ユリアンは少し緊張した様子で答える。
「今年、15になります。キルヒアイス閣下」
「そうですか。私が幼年学校をでて初陣したのも15のときでした」
そのまま会話を続けようとしたキルヒアイスを、ミュッケンベルガーが咳払いで止める。それを聞いてキルヒアイスは苦笑しながらユリアンに話しかける。
「頑張りなさい、と言える立場ではありませんが、元気でいてください」
最後にそう言うとキルヒアイスはミュッケンベルガーと随員を連れて会場からでていく。
俺とヤンもそれを見送り、捕虜交換式は無事に終わったのであった。
「「あ~~、終わったぁ」」
イゼルローン要塞司令官室。ヤンは机に突っ伏しながら、俺は両足をデスクに投げ出しながら同じ言葉をだす。
ロイエンタールが持ってきた親書によって決まった捕虜交換式は無事に終わった。色々と雑務は残っているが、俺とヤンはその仕事をキャゼルヌ先輩に投げつけて自由な身である。
そしてヤンは思い出したようにデスクの引き出しをがさがさと漁ると酒瓶を取り出して俺に見せてくる。
「いっぱいどうだい?」
「いいねぇ。フィッツシモンズ大尉とグリーンヒル大尉もどうだ?」
ヤンの言葉に俺はグラスを取り出しながらお互いの副官に尋ねる。グリーンヒル大尉は苦笑しながら申し出を断り、フィッツシモンズ大尉は笑いながら少しだけくださいということであった。
そんなわけでフィッツシモンズ大尉の分をいれてフィッツシモンズ大尉のデスクに置くと、俺とヤンは中央のソファーに座って酒の入ったグラスを持ち上げる。
「「かんぱ~い」」
そして勢いよくいっぱい飲み干す。
「あ~、これのために生きてる感じするわぁ」
「全く持って同感だね」
俺の言葉に二杯目をグラスに注ぎながらヤンは答えてくる。
「あ、そうだ。ちょっと真面目な話いいかい?」
「俺とヤンの間で真面目な話……?」
「待つんだシュタイナー、君と私の仲がどれくらい長いと思っているんだ。これだけ長ければ真面目は話の一つや二つ……」
そこまで言ってヤンは深く考え込む。
「あれ……? 私と君の間に真面目な話なんかなかった……?」
俺とヤンは恐ろしい答えに行きつきそうになったのをなかったことにして、ヤンは会話を続ける。
「君、思いっきり引き抜きかけられたけどやばくない?」
「やっぱりそう思う?」
俺の問いにヤンは力強く頷く。
ヤンが言っているのはミュッケンベルガーの話である。あの爺さん、同盟全土に流れている状態で堂々と俺の引き抜きをかけてきた。
俺に裏切る気は全くないが、同盟内で俺に嫌疑の眼が向けられて再び亡命になりかねない。
「あ、シュタイナー提督。小官は提督が帝国にいかれるならついていく所存ですよ」
「副官が忠臣で嬉しいよ、フィッツシモンズ大尉。要求はなんだ?」
「提督のデスクに入っている秘蔵のおつまみください」
「持ってけ」
(主にムライ少将から)隠しているおつまみの存在が副官にバレているので、軽く返すとフィッツシモンズ大尉は鼻歌混じりに俺のデスクを漁ってつまみを取り出し、自分のぶんを確保すると俺達のところに持ってきてくれた。
それをつまみにお酒を飲みながら俺はヤンに話しかける。
「やばいよなぁ。ヤン、何かいいアイディアない?」
「できる限り政府の言うことに逆らわない……それくらいかなぁ」
考えてみたらヤンは原作でも被保護者のユリアンに言われるほど保身が下手だ。そんな奴に聞いた俺が間違いだった。
「……何か不愉快な視線を感じるんだけど」
「保身下手のお前に聞いた俺が間違っていたよな」
「失礼だな。私だって君に罪をなすりつける技術だけはあるぞ」
「俺もお前に罪をなすりつける技術はあるからお互い様だな」
そういってハイタッチ。
それと同時に司令官室の扉が開いてカリンが入ってきた。
そして口を開く前に俺とヤンが酒片手につまみ食べてる姿をみてゴミを見るような眼になった。
「違う。聞いてくれカリン。これはヤンが言い出したことで俺は反対したんだ」
「違うんだカリン。私は神聖な司令官室で酒盛りはまずいと言ったんだけど、シュタイナーがつまみ片手に私を誘ってきたんだ」
「ヘルベルトさんもヤン提督も等しくゴミなので後でお説教です」
少女にゴミ扱いされる駄目な大人二人の姿がそこにあった。(ちなみにフィッツシモンズ大尉は即座に酒とつまみを隠していた)
カリンは頭痛を抑えるようにこめかみを抑えながら溜息をつくと、真面目な顔をして言葉を続ける。
「シュタイナー提督にお客様です」
「俺に?」
俺の疑問に答える前に、カリンは外にいた人物を中に招き入れる。同盟軍の軍服を着た人物に俺は見覚えがありすぎた。
「ヴァーリモント少尉? フランツ・ヴァーリモント少尉じゃないか!」
「お久しぶりです、閣下」
そこにいたのは帝国領侵攻作戦の時に俺の艦隊にいたアニメオリジナルキャラクターであるヴァーリモント少尉だった。
アニメでは色々あって帝国領に残っていた感じのヴァーリモント少尉であったが、この世界では帝国領侵攻作戦の時にクラインゲルド子爵領の農業発展のために俺に残りたいと希望をだしてきたため、クラインゲルト子爵と話し合った結果、同盟軍の捕虜、という形にしてクラインゲルト子爵領に残してきたのだ。
そんなヴァーリモント少尉を俺はソファーの向かい側に座らせる(そこに座っていたヤンは自分のデスクに行った)
「ヴァーリモント少尉、元気にしていたか?」
「おかげさまで元気にやっております。クラインゲルト子爵領の農業発展に目途がつきましたので、今は他の辺境惑星の開発にも従事しております」
俺の言葉に笑顔で答えてくるヴァーリモント少尉。その笑顔はやりがいに満ちた表情をしており、帝国領に残した俺の判断は正しかったと証明してくれている。
そしてヴァーリモント少尉は表情を改めて真面目な表情をすると、懐から一枚の手紙を取り出して俺に手渡してくる。
それを受け取りながら俺は首を傾げる。
「これは?」
「クラインゲルト子爵から閣下への願いの手紙でございます」
「クラインゲルト子爵から?」
クラインゲルト子爵領の発展により、クラインゲルト子爵は辺境貴族達の盟主のような立場になっている。
その立場から俺に対する手紙。あまりいいものではない気がする。
俺がヤンをみると、ヤンも理解したのかデスクから立ち上がって俺からクラインゲルト子爵からの手紙を受け取る。
「ヴァーリモント少尉……だったね。一応、イゼルローン要塞ではシュタイナーより私が上になる。悪いけど先に私が中を確認させてもらうよ」
「ヤン提督なら大丈夫でしょう」
ヴァーリモント少尉の返答に頷くと、ヤンは手紙の中身を確認する。
そして内容を読んで難しい表情をしながら口を開く。
「シュタイナー。クラインゲルト子爵は帝国の内乱時に中立を保ち、そのために君に辺境を守って欲しいそうだ」
「……そうきたかぁ」
原作においてキルヒアイスが辺境の鎮圧にでていたことからわかるように、帝国の内乱時に帝国辺境貴族は反ラインハルトの立場をとったのだろう。直前の同盟軍による帝国領侵攻作戦の時の焦土戦術による反感もあったのだろう。
だが、この世界においては俺は他の提督の協力もあって帝国辺境の状況はそこまで悪化することがなかった。
そのために帝国辺境貴族は帝国側でありながら同盟にも友好的という状況になっている。
だからこそ内乱で中立の立場を守るために俺の艦隊の派遣を要請してきたのだろう。
難しい表情をして考え込む俺とヤンを困ったようにみながらヴァーリモント少尉は言葉を続ける。
「クラインゲルト子爵を始めとしまして辺境貴族の方々はローエングラム伯と門閥貴族の戦いに消極的です。ローエングラム伯は門閥貴族側にならなければいいというスタンスですが、門閥貴族側は味方にならなければ潰すべし、という意見が出ているようです」
「そこで軍事力の乏しい辺境貴族は同盟軍に助力を求めたということか」
「はい」
ヴァーリモント少尉の言葉に俺は頭をかく。
「どう思う、ヤン」
「民衆が助けを求めてきたなら、私達はそれを助けないと護民の軍と言えなくなってしまう」
ヤンも難しい表情をしながらそう言う。
俺とヤンが派遣に消極的なのはラインハルトが仕掛けてきたであろう同盟の内乱がどれくらいの規模になるかわからないからだ。
原作と同程度の規模であればヤンだけで対処は可能だ。だが、帝国領侵攻作戦で原作より多くの同盟士官が生き残った結果、反乱の規模が大きくなる可能性はある。
ヤンもまたアップルトン提督やウランフ提督のことは信頼しつつ、反乱に同調しないと言い切れないために、できる限り同盟内に絶対に裏切らないと信頼のおける艦隊を置いておきたかったのだ。
そうなるとヤンにとって完全に信頼できる艦隊は俺の十四艦隊のみとなる。
だが、ヤンは長い溜息をつくと、諦めたように口を開く。
「ここで私達が話していても仕方ない。政府や軍部に掛け合ってみよう」
その後、ヤンから極秘通信でクブルスリー本部長に伝えられたクラインゲルト子爵の願いは、クブルスリー本部長から政府に伝えられ、政府の三日間にもおよぶ会議の結果、俺の第十四艦隊は『帝国辺境の民を貴族の暴政から救うため』という名目で派遣が決定するのであった。
ヘルベルト・フォン・シュタイナー
同盟内乱に備えるつもりが帝国への派遣が決定した亡命提督
ヤン・ウェンリー
同盟内乱の時のためにヘルベルトくんの艦隊は同盟に残っていて欲しかった
ジークフリード・キルヒアイス
赤毛のイケメン天才提督。ヘルベルトくんにも好意的
グレゴール・フォン・ミュッケンベルガー
この世界ではラインハルトの実力を認め、その後見人のような立場になる。そしてマスコミがたくさんいる場所で堂々とヘルベルトくんを引き抜こうとする
フランツ・ヴァーリモント
実は帝国辺境に残って開発をしていた同盟軍士官
遅くなりましたが今月分更新でございます。
さらっと流れるように捕虜交換式を実行。そして原作と違ってキルヒアイスだけでなくついてきていたミュッケンベルガー。この世界ではラインハルトの実力を認めてその後見人になっている模様。でもミュッケンベルガーもラインハルトが簒奪を考えているとは思っていないようす。
今回書きたかったのは後半部分。同盟側二次創作小説にも関わらず同盟内乱時に同盟にいないオリ主がいるらしいですよ。
ここから少しずつ原作を沿いつつ乖離していく予定です。
え? ミュッケンベルガーがでてきた理由? 作者の趣味ですよ