俺はカリンとフィッツシモンズ中尉を連れてクラインゲルト子爵の館にやってきていた。それというのもついに辺境貴族連合についたシュタインメッツとアイゼナッハが到着したからである。
お互いの艦で会うのは論外。これから一緒に戦うのに港のVIPルームで済ますのもまたどうかということで、辺境貴族連合の盟主であるクラインゲルト子爵の館で顔合わせということになった。
俺は先に屋敷について大広間でクラインゲルト子爵家の執事がだしてくれた紅茶を飲んでいる。俺の背後では(珍しく真面目な表情の)フィッツシモンズ中尉と、どこか落ち着かないカリンが立っている。ちなみに絶対についてくると騒いだオフレッサーは致死性の麻酔を打って動けなくしてエクシールに監禁である。致死性の麻酔を打たれても動けなくなるだけのあたり、あの石器時代の勇者は本当に人間を辞めている。
そしてしばらくするとクラインゲルト子爵に連れられて二人の軍人が入室してくる。
シュタインメッツとアイゼナッハである。
俺は二人が入室してくると立ち上がって同盟式の敬礼をする。
「自由惑星同盟軍のヘルベルト・フォン・シュタイナー大将です」
俺の敬礼にシュタインメッツとアイゼナッハは帝国式の敬礼で返してくる。
「帝国軍のカール・ロベルト・シュタインメッツ中将です。こちらはエルンスト・フォン・アイゼナッハ少将です」
シュタインメッツの紹介にアイゼナッハも俺に敬礼を返してくる。
そして上座にクラインゲルト子爵。左手に俺。その反対側にシュタインメッツとアイゼナッハが座って会議開始である。
「まず、シュタイナー提督とシュタインメッツ提督、アイゼナッハ提督には辺境貴族連合の守りを引き受けてくれたこと、深く感謝いたします」
クラインゲルト子爵の言葉にシュタインメッツが反応する。
「今回の内乱は貴族達の権力闘争です。それに巻き込まれるのは御免ですが、長らくお世話になっている辺境の貴族の方々の力になれるのなら幸いです」
シュタインメッツの口ぶりから、クラインゲルト子爵達辺境貴族は普段から辺境守備についているシュタインメッツ達にあれこれ世話を焼いていたのだろう。原作でシュタインメッツが辺境の支配権を手土産にラインハルトに速攻で降っていたことを考えると、この世界で起きた辺境バブルで辺境守備の軍人たちにも何かしらの恩恵があったのだろう。それを思ってシュタインメッツとアイゼナッハは辺境貴族連合についた、と言ったところか。
そしてシュタインメッツの視線が俺に向けられる。
「しかし、同盟の闘将として知られるシュタイナー提督も帝国の辺境守備についていただけるのは意外でしたな」
「同盟軍は護民の軍です。助けを求めてくる民衆がいるならば受けなければ自由惑星同盟の意義に関わります」
俺の言葉にシュタインメッツの視線が少し鋭くなる。
「そうなりますと、帝国辺境は反ら……失礼、同盟領になったと自由惑星同盟はお考えですか?」
「そうではありません。あくまで今回の私の出兵は『帝国領の民衆を護るため』という名目になっております。それに例え帝国辺境を占拠したとしても、それを維持できるとは政治家も軍部も思っておりません」
意外であるが同盟の政治家も今回の出兵はあくまで帝国辺境の民の守備のためであり、占拠を目的としていない、と明言している。これは原作と違ってジョアン・レベロなどのまともに現実をみれる政治家が力を持っているのも大きい。
それでも力を失っていないトリューニヒトの化け物の証明でもあるが。
俺の言葉にシュタインメッツは視線を和らげる。
「なるほど。あくまで同盟軍は辺境守備のための出兵、ということですか」
「その通りです」
俺の言葉にシュタインメッツは力強く頷いた。
「ならば我らは協力できます。同盟軍が辺境を占拠する、というのであれば我々は一戦する覚悟でしたが、それにならず安堵しています」
俺はシュタインメッツの言葉ににこやかに応じながら、内心で安堵の溜息をつく。
つまり返答をミスってればシュタインメッツとアイゼナッハを同時に戦わなければならない事態になっていたということだ。
内心で大きい安堵の溜息をついている俺を他所に、クラインゲルト子爵は執事に用意させたワイングラスをそれぞれの前に置く。
そして自分の分のワインを掲げながら口を開く。
「辺境の安寧を願って乾杯といきましょう」
その言葉に俺とシュタインメッツ、アイゼナッハもワインを持つ。
『乾杯(プロージット)』
そして帝国での乾杯を合図に一斉に飲み干して、空になったグラスを床に叩きつけて割ってしまう。
そして俺、シュタインメッツ、アイゼナッハをにこやかに見渡しながらクラインゲルト子爵が口を開く。
「私は軍事に関しては素人です。戦闘やそれに関することは皆さんに一任いたします。どうか辺境を護ってください」
クラインゲルト子爵の言葉に俺は背筋を伸ばして発言を求める。クラインゲルト子爵に促されたので俺はそのまま口を開く。
「同盟建国以来、帝国との共闘は今までありませんでした。サイオキシン麻薬撲滅のために隠れて協力したことはあっても、戦争での共闘はありません。それを踏まえると、私達に軍事を一任するのではなく、名目上でもクラインゲルト子爵が上に立っていただく必要があるかと」
俺の言葉に顎を撫でながら聞いていたクラインゲルト子爵は、今度はシュタインメッツをみる。
「シュタインメッツ中将はどう思われますか?」
「シュタイナー提督の言う通りかと。実質的に我らに軍事を一任していただくとは言え、同盟軍のシュタイナー提督では帝国を無駄に刺激し、かと言って私やアイゼナッハでは階級が低く、辺境貴族連合に参加している方々が安心できないでしょう」
シュタインメッツの言葉にクラインゲルト子爵は納得したように頷く。
「わかりました。名目上は私が上に立ちましょう。しかし、先ほども言った通り、軍事に関して私は無知です。迎撃の作戦も含めて軍事に関することは全てみなさんにお任せすることになります」
クラインゲルト子爵の言葉に俺は用意されていた紅茶を一口飲んで、安堵の溜息を一緒に飲み込む。
これで名目上はトップはクラインゲルト子爵になった。同盟、帝国双方にとって一番の結果だろう。
クラインゲルト子爵も紅茶を一口飲むと口を開く。
「皆さんには基本的に辺境貴族連合に侵攻してくる軍の対処をお願いすることになります。ですが、内々の交渉でリヒテンラーデ公とローエングラム侯とは門閥貴族連合に利する行為をしなければ不可侵ということで話をつけております」
「「ほう」」
その言葉に俺とシュタインメッツから感嘆の声がそろってでる。
俺達を味方に引き込みながらもラインハルトとリヒテンラーデに話をつけるあたり、この爺さんやはりかなりのやり手である。
「門閥貴族連合のほうは話すまでもありませんね。味方につかなければ滅ぼす。そう脅しを受けました」
「まぁ、そうなるでしょうな」
シュタインメッツの言葉に俺とアイゼナッハは無言で頷く。その傲慢さが帝国の門閥貴族の所以である。
そしてクラインゲルト子爵は言葉を続ける。
「そして当面の敵である門閥貴族連合ですが、メルカッツ提督が提案した『惑星・オーディン急襲作戦』をブラウンシュヴァイク公とリッテンハイム侯が却下したそうです」
「うん? 老練なメルカッツ提督がそんな愚策を提案するとは思えませんが」
シュタインメッツの言葉に内心で俺も頷く。原作でメルカッツはそれの有用性に気づいていながら、門閥貴族の足並みの揃わないのを理解して進言しなかったはずだ。
シュタインメッツの言葉にクラインゲルト子爵はニヤリと笑う。
「メルカッツ提督は帝国でも随一の名家・シュタイナー伯爵家の家臣です。そして現在のシュタイナー伯爵はそちらにおられる同盟軍のシュタイナー提督」
「……なるほど。埋伏の毒」
クラインゲルト子爵の言葉にシュタインメッツも頷く。厳密にいえばメルカッツ提督は家臣ではないのだが、帝国一般の見方としてメルカッツ提督はシュタイナー伯爵家の有力家臣に数えられる。だから納得したのだろう。
「門閥貴族連合の情報もメルカッツ提督の副官・シュナイダー少佐からいただいております。こちらに出兵するようであればすぐに情報は入るかと」
「それは助かります」
思わず俺が呟いてしまう。ヤンも常日頃から言っているが戦争で重要なのは情報である。それがあれば色々と対策や迎撃作戦もねれる。だからこそ相手の内部情報が手に入るのは軍人にとって福音と同じである。
すると今まで黙っていたアイゼナッハが一回指を鳴らすと、随員としてきていたアイゼナッハの副官が前にでてくる。
「失礼いたします。アイゼナッハ提督の提案で、軍の指揮系統をはっきりさせるためにゴールデンバウム王朝の名家・シュタイナー伯爵家の当主であるシュタイナー伯にトップに立っていただいては如何ということです!」
それを言うとアイゼナッハの副官は再び一礼して一歩下がる。それに反応できずに困惑したのは俺だ。
「アイゼナッハ提督の提案は確かに正しいと思います。クラインゲルト子爵にトップに立っていただいたとは言え、実際に戦うのは私達3人です。そのために部下達が混乱しないように指揮系統をハッキリさせるのはその通りでしょう。ですが、私は同盟軍でシュタインメッツ提督とアイゼナッハ提督は帝国軍。誰かを上に立てれば部下達に余計な軋轢を生むとも思えますが」
「実はここに来るまでにアイゼナッハからその提案は受けておりました」
俺の言葉に今度はシュタインメッツが口を開いてくる。
「アイゼナッハ曰く『シュタイナー伯は帝国の将兵や民でも人気の将帥であり、その人が上に立つならば余計な軋轢を生まないのではないか』ということです」
そこまで言うとシュタインメッツは苦笑する。
「そこで私も下級貴族や平民出身の将兵に話を聞いてみましたが、シュタイナー提督とヤン提督がやっている『イゼルローンから愛をこめて』というラジオのファンも多く、確かに人気があります。かくいう私も両提督のラジオは楽しんで聞かせていただいているのですが」
シュタインメッツの言葉に俺は思わず天井を見上げる。俺とヤンのやらかしは帝国にも知れ渡っているらしい。背後のフィッツシモンズ中尉は笑いをこらえて肩をプルプルさせているし、保護者達の悪評が帝国にも広がっている事実にカリンは呆れた表情になっているだろう。
そんな俺達のやりとりを踏まえてシュタインメッツは苦笑しながら続ける。
「それを踏まえれば名目上のトップはクラインゲルト子爵になっていただき、実務面ではシュタイナー提督にとっていただく。これがある意味で一番平穏な指揮系統かもしれません」
俺はシュタインメッツの言葉に少し考えるが、すぐに考えを纏めて口を開く。
「私が実務面でのトップに立つにあたって両提督にお願いしたいことがあります」
「なんでしょう」
「私の作戦に少しでも違和感や瑕疵があればすぐに言ってください。実は私は自分の能力に自信はなく、今までの戦功も有能な幕僚や部下、それに同僚に助けていただいた結果です。ですので、両提督もなんでも言ってください。というか助けてください」
俺の言葉に少し驚いたようなシュタインメッツであったが、すぐに了承してくれた。
話が纏まったとみたのかクラインゲルト子爵が手をたたく。
「話は決まりましたな。みなさん、これからよろし『PiPiPiPiPiPi!』おや?」
クラインゲルト子爵の言葉を遮るようにフィッツシモンズ中尉が持っていた通信機が鳴る。通信機にでるフィッツシモンズ中尉をみながら俺は三人を見渡しながら口を開く。
「失礼、緊急の通信が入ったようです」
そういうと俺は立ち上がってフィッツシモンズ中尉に近づく。フィッツシモンズ中尉も通信機を切ると、真剣な表情で小声で俺に告げてくる。
「首都・ハイネセンでクーデターが発生。クブルスリー本部長とビュコック提督が拘束され、トリューニヒト議長はクーデターを起こした反乱兵によって射殺されたそうです」
「……ゑ?」
ヘルベルト・フォン・シュタイナー
色々とやらかしているのでヤンと一緒に帝国でも人気(なんでやねん
クラインゲルト子爵
超やりて爺
カール・ロベルト・シュタインメッツ
帝国軍として色々言ったがなんだかんだでシュタイナーくんに好意的(主にラジオのせい
エルンスト・フォン・アイゼナッハ
実は子供の頃に一回だけシュタイナーくんのやばい悪戯に参加したことがある。なので最初からシュタイナーくんを上に立てようと思っていた(しかし、無言である
ヨブ・トリューニヒト
原作一番の化け物。クーデターで死んだ
そんな感じで今月分の更新です。
色々と書きましたが纏めると
名目上のトップ クラインゲルト子爵
実務上のトップ シュタイナーくん
になっただけです。それだけの話のためにだらだらと書いてしまう。マジで完結がいつになるかわからない問題。
そしてさらっとアイゼナッハもシュタイナーくんの悪戯に参加したことがあることに。
すごいなこのオリ主、原作キャラとめっちゃ繋がりあるやん(なお、本人は知らないこと多し
そしてあっさりと殺される原作一の化け物トリューニヒト。こいつ生かしておくと今後の展開が面倒なので犬養毅よろしく軍部クーデターに殺されていただきました。