自由惑星同盟軍第十四艦隊旗艦・エクシールの艦橋には、第十四艦隊の首脳部が勢ぞろいしている。副司令官のカールセン少将、参謀長のチュン少将、副参謀長のラップ、分艦隊司令のモートン少将、白兵戦司令官のオフレッサー客員大将、第一空戦隊隊長のヒューズ少佐、第二空戦隊隊長のシェイクリ少佐、そして俺の傍らに副官のフィッツシモンズ大尉。
俺は従卒のカリンから紅茶を受け取りながら口を開く。
「結論から先に言いましょう。同盟領で発生したクーデターは無事に鎮圧されました」
俺の言葉に首脳部からは安堵の溜息がでる。俺が率いる第十四艦隊が帝国に出兵している間に発生した同盟軍将校による軍事クーデター。これが発生してから俺はヤンから逐一情報をもらっていた。そしてついさっきの連絡で完全にクーデターが鎮圧されたと報告されたのだ。
「結局、連中はどういう経緯でクーデターなんて起こしたんですかい?」
純粋な興味と言った感じでシェイクリ少佐が尋ねてくる。
「捕らえられたクーデター派の将校は『同盟政治の汚職を正す』と言っていたそうだ」
「……あれ? 政治家連中の汚職が叩かれ始めたのってうちの大将とヤン提督の放送のせいでは?」
「ヒューズ少佐、それ以上いけない」
ヒューズ少佐の言葉を俺が遮ると、全員から苦笑い。
いやぁ! 不思議だなぁ! 俺とヤンがラジオ放送始めたら急に汚職政治家がわらわ湧いてきたもんなぁ!
話を変えるように、今度はチュン少将が口を開く。
「クーデター派はどのような行動を?」
その言葉に俺はフィッツシモンズ少佐がまとめた資料を手に取って説明を始める。
「まず連中は惑星ネプティス、カッファー、パルメレンド、シャンプールを占拠。これに対してクブルスリー本部長とビュコック司令はハイネセンでの武力蜂起の懸念から、ハイネセンからの出兵ではなく、ヤンとウランフ提督に鎮圧を命令。二人が各惑星の武力蜂起を鎮圧している途中でハイネセンでクーデターが発生。一時はハイネセンの首都も占拠されました」
「クブルスリー本部長やビュコック司令長官はご無事だったんですか?」
モートン少将の言葉に俺は軽く頷く。
「クーデター派の連中も軍の重鎮には手を出せなかったんでしょう。二人とも拘束という形で捕らわれたそうです」
「うん? 二人ということはボロディン大将とアル・サレム大将の両名は?」
「二人とも各惑星が武力占拠された時点でクブルスリー本部長が万が一に備えて首都から出てハイネセンの基地に監査に出ていたようです。そのため、ボロディン大将とアル・サレム大将は自分達を支持する将兵を率いてハイネセンの首都に向けて進軍、地上戦闘が行われましたが、ボロディン提督の元部下でクーデター派に潜入していたバグダッシュ大佐が無血投降、これにボロディン提督とアル・サレム提督の説得でさらにクーデター派の軍の一部が投降したことで、クーデター派は瓦解。最後は首都にある統合作戦本部に立て籠ったそうだが、グリーンヒル大将が自害したことでここも開城」
「お待ちを。クーデター派の首班はグリーンヒル大将だったのですか?」
カールセン少将の言葉で俺は気づく。原作知識を持っている俺としては当然の流れだったのだが、考えてみればグリーンヒル大将は軍内部では理性と良識に富んだ人物として知られている。そんな人物がクーデターを起こすとは考えられないのだろう。
「悲しいことに、ですね。首班はグリーンヒル大将。そして情報部長のブロンズ中将も参加していたようです」
ブロンズ中将も参加していたことに首脳部の面々から騒めきがでる。それを止めてから俺は言葉を続ける。
「グリーンヒル大将自害後に指揮権を引き継いだブロンズ中将はボロディン提督とアル・サレム提督に降伏。これはグリーンヒル大将とブロンズ中将が話し合って、負けた時には無駄に同盟の将兵の血を流さないために最初から決めていたそうです」
「それ考えているなら最初からクーデター起こすなよなぁ」
思わずといった感じで零れたシェイクリ少佐の言葉に完全同意だが、それをやるわけにもいかないので俺は聞かなかったことにして流す。
「ですが、まぁ、どこにでも強硬派はいるものです。クーデター派の一部強硬派がクーデター派に賛成していた第十一艦隊のルグランジュ提督に合流して宇宙に脱出、ヤンの艦隊と正面決戦をやったそうだが、ヤンの用兵に翻弄された後に援軍でウランフ提督も到着。ルグランジュ提督以下強硬派二十名が自殺したことで第十一艦隊も降伏。これをもってクーデターを完全に鎮圧したそうです」
ヤンは結局防げなかったクーデターに忸怩たる思いがあったようだが、個人的には原作よりマシ、な終わり方になって一安心である。
「そして首都を解放したボロディン提督とアル・サレム提督はクーデター派に拘束されていたクブルスリー本部長とビュコック司令長官を解放。そして同じく拘束されていたレベロ氏を始めとした政治家の方々も解放されたそうです。全員、怪我もなく既に職務に復帰しているようですね」
「そこですよ、シュタイナー提督。なんでも噂じゃあのトリューニヒト議長が死んだって噂ですが」
俺の言葉に身を乗り出して聞いてきたのはラップ。先ほどまでクーデターに関する情報を聞いていた鎮痛な眼差しはどこへやら、その瞳は嬉しさでいっぱいである。
だが、それはラップだけでなく、程度の差こそあれ、首脳部全員がこの情報に興味を示しているのは間違いなかった。
そこで俺は「この情報はクーデター派の正式発表であること」と言いつつ、言葉を続ける。
「クーデター派が一番の目標であったトリューニヒト議長の身柄を拘束するために官邸にいったところ、武装した地球教徒と銃撃戦になり、その流れ弾に当たってトリューニヒト議長は重傷を負い、クーデター派も病院に搬送したそうですが、結局死亡したそうです」
俺の言葉に上機嫌に口笛を吹くラップ。
「おいおいマジかよ。あの殺しても死にそうにない政治家殺したとかクーデター派の連中大金星じゃねぇか」
「ラップ」
「失礼」
ラップの言葉に俺が注意すると、ラップは悪びれた様子もなく頭を下げた。
そんなラップをみながら今度はチュン少将が苦笑いしながら口を開く。
「そうなると、軍部は大丈夫そうですが、議長が亡くなったとなると政治のほうが混乱していそうですね」
「それがですね、この同盟政府の危機的状況にウォルター・アイランズ氏という議員が何かに目覚めたようでして、混乱する議員たちを纏め上げ、軍部にも協力を要請、さらに暫定議長にジョアン・レベロ氏を推戴して選挙の期日まで決めあげたそうです」
このアイランズという政治家はただのトリューニヒトの腰巾着だったが、自由惑星同盟滅亡へのカウントダウンが入ったところで同盟の政治家として理念に覚醒、軍部やヤンにいろいろといい動きをとったものの、主人であるトリューニヒトを止めることができず、自由惑星同盟は降伏してしまったという人物である。
この世界でもトリューニヒトの腰巾着をやっていたが、主人の突然の死亡と同盟政治の危機にかなり前倒しで覚醒し、この剛腕っぷりを見せつけたのである。
俺の言葉にチュン少将が感心したように言葉を続ける。
「そうなると議長選挙はそのアイランズ氏になりそうですが」
「ところがこのアイランズ氏、自分がやっていた汚職等を自ら公表して『自分には同盟政治家たる資格はない』と言って政治家を引退したようです。それだけにとどまらず、トリューニヒト議長を始めとしたその一派の汚職等も公表。これによって『トリューニヒト議長の葬儀は国葬を!』と息巻いていたネクロポンティ国防委員長を筆頭にしたトリューニヒト派の政治家が全員失職。トリューニヒト議長も悪行がぽんぽんと発掘されて市民からは『殺されて当然の政治家』という評価になったそうです」
「……同盟政府の汚職政治家を一掃したアイランズ氏に皆さん拍手」
ラップの言葉に首脳部全員から拍手が出る。
そして俺は拍手をとめると言葉を続ける。
「そんな感じで今の同盟は無政府状態ですが、レベロ氏がうまくやっているようなのでまぁ、大丈夫でしょう」
俺の言葉に首脳部の面々が苦笑いと困った表情が混ざった様子になる。それらを見渡しながらフィッツシモンズ大尉がニヤニヤと笑いながら口を開く
「資料纏めていて思いましたけど、不謹慎ですがクーデター派のおかげで同盟政治がいい方向に転びそうですね」
「フィッツシモンズ大尉、それはみんな思っているけど言っちゃいけないんだ」
エクシール司令官室。ここの執務デスクに俺は行儀悪く両足を投げ出しながら腕を組みながら考え込む。
トリューニヒトの死。原作では頭に血が昇ったオスカーによって殺されたトリューニヒト。あの原作での一番の化け物の退場によって今後の展開がますます読めなくなる。何せトリューニヒトの死亡とアイランズの覚醒によって原作の三流政治家や汚職政治家が一掃され、例えばヤンの査問会等も発生しない可能性が高まったのだ。
そうなってくると原作でのイゼルローン要塞対ガイエスブルグ要塞の戦いも最初からヤンがいることになり、かなり有利に戦況は進むだろう。
「う~む」
だが、そうなってくると原作キャラに対抗できる俺の数少ない武器である『原作知識』はもう虫の息である。
「なぁ、カリン」
「はい、なんですか?」
司令官室の自分用の机(俺が用意した)に座って勉強しているカリンに声をかけると、不思議そうに首を傾げてくる。
「カリンはトリューニヒト議長の死をどう思う」
その言葉にカリンは困った表情を浮かべる。
「あの、私とユリアンはもろにヘルベルトさんとヤン提督の影響を受けているので『死んでも仕方ない。というか死んだほうが同盟にとって有益』という評価にしかなりません」
考えてみたらそらそうである。俺とヤンの影響をもろに受けていたらトリューニヒトにいい評価を下すわけがない。
だが、カリンは「う~ん」と悩みながらも言葉を続ける。
「ですが、トリューニヒト議長の射殺はある意味で民主主義に対する冒涜ともとれます。死んで当然のトリューニヒト議長でしたが、それでも選挙で選ばれた議長です。それを武力で倒すのは民主主義の意義に反する行為でしょう」
カリンの言葉に俺は少し驚く。それはカリンが俺やヤンの影響を受けながらも自分の考えも持っていたからだ。
俺は遠い目をしながら呟く。
「子供の成長は早いな……」
「何言っているんですか」
「カリン、結婚相手ができたらちゃんと俺に紹介するんだぞ。きちんと俺が見定めてやるからな」
「本当に何言っているんですか」
「失礼、我が主はおりますかな?」
俺がカリンに白い目でみられていると、オフレッサーが俺の司令官室に入ってきた。
俺の机の反対側に立つオフレッサーをみて俺が思ったのは「ああ、やっぱり来るよな」という感想である。
「オフレッサー、卿の言いたいことは私はわかっていると思う」
「流石は我が主、話が早くて助かります」
そこまで言うとオフレッサーは身を乗り出して俺を見つめてくる。
「我が主、この帝国辺境で独立なさいませ」
オフレッサーの言葉に絶句しているカリンを他所に、俺はやっぱりという感想である。
「反乱ぐ……失礼、自由惑星同盟が我が主に仕えるに値しないのは今回のクーデターでご理解なさったはず。今、ここで帝国辺境を土台に独立すれば、まず間違いなく我が友・メルカッツは艦隊を率いて我が主の下にはせ参じます。そして金髪の儒子は我が主の義弟、我が主の軍と金髪の儒子の軍をもって門閥貴族共を撃滅。そして軍事力を持って帝国を掌握。返す刀で内乱で弱っている同盟を潰せば我が主の手に宇宙が転がり落ちるは必定」
そこまで勢いよく言い切ったオフレッサーを俺は宥めると、今度は俺が口を開く。
「オフレッサー、卿の策はいくつかの理由をもって無理だ。まず第一に私が従えている将兵は同盟……民主主義の将兵であり、卿のやろうとする専制君主の将兵にはならないということ。二つ目にクラインゲルト子爵やシュタインメッツ提督、アイゼナッハ提督が同盟軍として進駐してきた俺に従うことはないということ。三つ目にラインハルトは俺の下で治まる器ではないということ。四つ目に仮に帝国を掌握してもイゼルローン要塞を攻略する策が私にはないこと」
そこまで言って俺は大きなため息をつく。
「一番大きな理由として、私は権力者になることを望まないからだ」
これが理由としては一番大きい。
帝国にいた頃には貴族の権力闘争に敗れて亡命。同盟でも政治家の権力に嫌な思いを多くした。だからこそ自分が権力者になりたい、と思うことができない。
そこまで言ってもオフレッサーは引かない。
「主、主は自分の能力を過小評価しております。主の上に立つ能力はおそらく銀河でも随一です」
そういってオフレッサーは俺を見つめてくる。
俺は大きなため息を再びつくと、軽く手を振る。それの動きを理解したのか、オフレッサーは帝国式の敬礼をすると司令官室から出て行った。
それを見送って俺は帽子で顔を仰ぐ。
「やれやれ……」
「あの……ヘルベルトさん」
「ああ、カリン。今の会話は他言無用で頼むよ」
「あ、はい。わかりました」
そう頷くと、カリンは覚悟を決めた表情で俺をみてくる。
「ヘルベルトさん、私はヘルベルトさんがどんな選択をしても最後まで近くにいますから」
「……ありがとう」
ヘルベルト・フォン・シュタイナー
色々なことを考えなければならない苦労人
バルドゥル・フォン・オフレッサー
主君のために暗躍開始
しかし、主はそれを望んでいないものとする
ヨブ・トリューニヒト
クーデター派と地球教徒の銃撃戦に巻き込まれて死亡
ウォルター・アイランズ
「クーデターが起こったのは我々政治家の責任……おら! 全員でその罪を償うんだよ!!」(総辞職)
そんな感じで今月分更新です。
報告という形で同盟のクーデターのお話でした。シュタイナーくんやヤン、さらには生き残った優秀な提督たちのおかげで原作よりマシな形でクーデターは終結。
そして間一髪のところで助からなかったトリューニヒトの死亡というバタフライエフェクトによってアイランズくんが前倒し覚醒し、三流政治家を自分もろとも一掃。
これによって同盟の政治が原作よりかなり綺麗になりました!!(巻き添えのトリューニヒト派政治家から目そらし。
最初の予定では汚職政治家は片っ端からクーデター派に殺してもらうつもりでしたが、前話の感想で『アイランズくんの覚醒どうなるん?』(意訳)を頂いて、作者がアイランズくんの存在を思い出し、当初の予定とは違って血が流れず同盟政治が綺麗になりました。そして当初の予定より流血が少なくなったクーデター。これは帝国対同盟の時の戦力が均衡しそうで困ってます(思い付きで最初の予定を変えた弊害
そして不穏なことをしでかしそうなオフレッサー。なんかオフレッサーがヤンにとってのシェーンコップみたいな立ち位置になってきました。