俺は副官のフィッツシモンズ中尉と従卒のカリンを連れてクラインゲルト子爵の屋敷に車を走らせていた。
それと言うのも緊急の要件があるから急いで屋敷まで来てほしいとクラインゲルト子爵に呼ばれたからだ。
このタイミングで緊急の用事。十中八九ヴェスターラントへの核攻撃に関することであると思うが、いまだに俺の核攻撃へのスタンスは決まらないでいた。
今後の同盟のことを考えればラインハルトとキルヒアイスの仲は悪くなってくれるに越したことはない。ボロディン提督やウランフ提督など、原作より同盟軍の質がマシと言っても、全力金髪軍with赤毛とかどう考えても無理ゲーなのだ。
かと言ってヴェスターラントを見捨てられるか?
理由付けは簡単だ。ヴェスターラントは辺境貴族連合の領地から遠く離れており、さらに間にはガイエスブルグ要塞もあって直接的な助力は無理である。
そう、助けることは無理なのだ。
頭ではそれを理解している。
しかし、感情としてそれを理解するのはまた別問題なのだ。
貴族による民衆への弾圧と虐殺。
正義とかではなく、一人の人間としてこれを受け入れろ、というのが無理な話である。
「ヘルベルトさん……?」
「うん? どうしたカリン」
「い、いえ。何か怖い顔をしていたので……」
助手席に座っていたカリンの言葉に、俺はハンドルから片手を放して顔を撫で、バックミラーでフィッツシモンズ中尉をみる。
するとフィッツシモンズ中尉も力強く頷いた。
「そうですね。小官が副官になってからみたこともない表情になっています」
その言葉に俺は軽く頭をかくと、努めて穏やかに口を開く。
「今回のクラインゲルト子爵の呼び方、尋常ではないことが起こっているということがわかるな?」
「「はい」」
「これは恐らく門閥貴族連合が何かしでかした、と思ったほうがいいだろう」
「何か、とは?」
カリンの言葉に『民衆に向かって核攻撃』という具体的な例を出すわけにもいかず、俺は困ったように頭をかく。
「そこまではわからん。だが。あの老獪なクラインゲルト子爵が緊急の用事と言っているんだ。普通だと思わないほうがいいだろう」
そこまで言ったところでクラインゲルト子爵の屋敷が見えてくる。
車を屋敷の入り口につけると、すぐにクラインゲルト子爵家の執事が俺達を案内してクラインゲルト子爵の執務室へと案内される。
いつもであれば応接室で対応されるところが執務室に直接通される。この事態にただ事ではないことが起きたのを理解したのか、カリンとフィッツシモンズ中尉も緊張した表情になる。
「失礼します。クラインゲルト子爵、ヘルベルト・フォン・シュタイナー大将です」
「待っておりました、シュタイナー提督。早速ですがこちらへ」
待っていたクラインゲルト子爵は挨拶もそこそこに通信室へと俺達を招き入れる。
そして俺は通信室で繋がっていた通信の相手に驚いた。
「メルカッツ提督じゃないですか!!」
『お久しぶりです、ヘルベルト様』
通信の相手は門閥貴族連合に埋伏の毒として入り込んでいるウィリムバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ上級大将であった。メルカッツは俺に対して恭しく礼をする。
これまでメルカッツはこちらに連絡する時は門閥貴族連合に気取られないように副官のシュナイダー大尉に連絡を取らせていた。
それがメルカッツが直接。嫌な予感がマッハである。
俺は一度、呼吸を整えると真剣な表情で口を開く。
「メルカッツ提督、何がありましたか?」
俺の言葉にメルカッツは無言で通信の画角を変える。
そこには泣き顔の一般兵士がいた。
その兵士は通信先が俺だと気づくと泣き叫んだ。
『シュタイナー伯!! 私の……俺の故郷を助けてください!!』
その言葉に俺は全てを察した。ブラウンシュヴァイクのヴェスターラントへの核攻撃であろう。
ただ泣き崩れる兵士をみながら俺はメルカッツに尋ねる。
「メルカッツ提督、ブラウンシュヴァイクは何をしようとしているんですか?」
『自領の惑星であるヴェスターラントへの核攻撃です』
メルカッツの言葉にカリンとフィッツシモンズ中尉から小さな悲鳴がでる。
俺は腕を組み天井を見上げながら呟く。
「何故、そんなことに?」
『住民反乱です。その反乱によってヴェスターラントを統治していたブラウンシュヴァイク公の身内が殺されました。それに対してブラウンシュヴァイク公はヴェスターラントへの報復処置として核攻撃を決定しました』
「反対する者もいたでしょう」
俺の言葉にメルカッツは疲れたように首を振る。
『小官やファーレンハイト提督と言った一部の軍人はその非を正しましたが、ここは門閥貴族の巣窟。我らの意見など一顧だにされません』
「ならばその情報をラインハルトへと流せば……」
『敵からの情報。しかも、自領への核攻撃などという情報、信頼されると思いますか?』
正論である。
俺は大きく息を吸い込む。
ここだ。たぶん、ここがこの先の世界の分水嶺になる。
同盟のことを考えれば、さっきまで考えていたことをそのまま言えばいい。この泣いている兵士には悪いが、そうなればたぶんラインハルトの軍の結束に罅が入る。
俺がクラインゲルト子爵をみると、クラインゲルト子爵は無言で頭を下げる。俺に任せるということだろう。
俺は自由惑星同盟の将官だ。ならば同盟に益があるように動くべきだろう。たとえそれが人道に反していようと、俺は、盟友とも言える同僚、慕ってくれる部下達、そして友人達を守るべき選択をすべきなのだ。
俺はそう思ってメルカッツに返答しようとした時、カリンの表情が目に入る。
その顔は不安そうな表情になっていた。
以前、俺は何を思った? カリンの保護者として誇れる人でありたい、と思った。
ヴェスターラントを見捨てることをカリンは誇ってくれるか?
俺は大きく息を吸い込み、そして吐き出す。
「フィッツシモンズ中尉」
「は、はい」
「私はこれから同盟の益にならない行動をする」
俺の言葉にフィッツシモンズ中尉は真剣な表情で頷く。
「私はたとえ同盟に益しない行動でも、それが人道的行動であれば支持します。これは他の第十四艦隊の者全員の意見です」
その言葉に俺は小さく笑うとクラインゲルト子爵に話しかける。
「クラインゲルト子爵、帝国全土に広域通信をお願いいたします」
俺の言葉にクラインゲルト子爵が無言で通信機を操作し、マイクを俺に渡してくる。
俺はそのマイクを握ると口を開いた。
「私は自由惑星同盟軍第十四艦隊司令官・ヘルベルト・フォン・シュタイナー大将です」
そこまで言って俺は軽く首を振る。
「いえ、今は帝国貴族であるヘルベルト・フォン・シュタイナー伯爵と名乗りましょう。帝国全土にいる心ある人々にお願いがあります。今、門閥貴族連合の首魁・ブラウンシュヴァイクはヴェスターラントに向けて核攻撃を行い、一般人の無差別虐殺を行おうとしています」
俺はそこまで言うとマイクを持つ手に力が入る。
「どうかこれを止めてください。私のいる辺境からでは止める手段がありません。しかし、帝国全土にいる心ある人々よ。皆さんが動いてくれればきっとブラウンシュヴァイクの暴走を止める手段があるはずです」
俺は言葉を続ける。
「自由惑星同盟の将官として、そして帝国貴族に連なる者としてお願いいたします。どうか、心ある人よ、ブラウンシュヴァイクを止めてください」
そう言って俺はマイクをクラインゲルト子爵に返す。
メルカッツのほうの画面をみるとメルカッツは俺に対して敬礼していた。
『小官もブラウンシュヴァイクの暴走を止めるべく出撃いたします』
「……お願いします」
最後にメルカッツはもう一度敬礼すると通信が切られる。それをみて俺は大きなため息を吐く。
「シュタイナー伯、帝国貴族……いや、帝国に住む者として感謝いたします」
クラインゲルト子爵の言葉に俺は軽く頭を下げる。
「シュタイナー提督、シュタイナー提督の行動は同盟将官として、何より人して正しい行動だと私は支持します」
「ありがとう、フィッツシモンズ中尉」
フィッツシモンズ中尉の言葉に俺は小さな笑いを浮かべると、カリンをみる。
同盟軍人としてとか帝国貴族としてとか、色々と建前は言ったが、究極的に俺はカリンに
失望されたくなかったのだ。
それで例え同盟での立場が悪くなったとしても、だ。
心配そうにしているカリンの頭を軽く撫でながら俺はクラインゲルト子爵に話しかける。
「クラインゲルト子爵、この騒動が収まるまで、私と従卒、それに副官をこの屋敷に泊めていただきたいのですが?」
「部屋の用意をさせましょう」
エクシールへの連絡のために出ていくフィッツシモンズ中尉と、部屋の準備の指示のために通信室から出ていくクラインゲルト子爵。
それを見送って俺はカリンに笑いかけた。
「安心しろ、カリン。俺はこれでも帝国に友人が多いんだ」
俺の冗談にカリンもようやく笑みを見せるのであった。
ヘルベルト・フォン・シュタイナー
なんか色々考えたけど『カリンが誇れる人でありたい!!』と思って金髪陣営に塩を送る系同盟軍オリ主
ウィリムバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ
この後、自分に従う兵士達を率いてブラウンシュヴァイクを止めるべく出撃した
カリン
シュタイナーくんの大事な子供
そんな感じでヴェスターラント編開始です。
原作ではここで金髪赤毛の仲に罅が入り、それが原因で赤毛が死ぬという金髪陣営弱体化のきっかけでしたが、この世界ではシュタイナーくんによって帝国全土に『ブラウンシュヴァイクの暴走を止めてくれ』というメッセージが入ります。
この作品をここまでお読みいただいている皆様なら、誰が呼応するかわかりますよね(きっと張り切ってる金髪かあ目そらし
そして今回のお話でシュタイナーくんの査問会フラグが建ちました