銀河英雄伝説~転生者の戦い~   作:(TADA)

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銀河の歴史がまた一ページ……


007話

俺は自分が司令官を務める十四艦隊旗艦・エクシールの艦橋にある司令席に座っている。態度は指揮台に足を乗せ、ベレー帽で顔を覆っている状態だ。首席幕僚のチュン准将と次席幕僚のラップはコーヒーを飲みながら呑気に談話しており、副司令のカールセン提督もコーヒー片手に俺が貸した戦術書集(地球時代の戦術書多数)を興味深そうに読んでいる。副官のフィッツシモンズ中尉も自分の仕事を片付けながら紅茶を飲んでいる。

俺の第十四艦隊司令部がのんびりしているのは、今回の任務の主攻を務めるヤン率いる第十三艦隊が待ち合わせのイゼルローン回廊宙域に到着していないからだ。一応、俺の艦隊が高速機動編成なのも加味して同時くらいに待ち合わせの宙域に到着する予定がカールセン提督とラップの訓練と、俺の艦隊指揮(ヤン曰く『天才的艦隊運用』)が合わさった結果、かなりの速度で予定宙域に到着してしまったのだ。その速度はなんと4000光年を10日である。

そんな訳で俺は別の艦に乗っている部下達と交流したり(転生者の能力のおかげで記憶力も半端ないので第十四艦隊総兵士69万8721人全員の顔と名前、開示できるプロフィールは全部覚えた)、周辺宙域に偵察のスパルタニアンを出したりしながら第十三艦隊の到着を待っている。

 「接近してくる艦隊があります!!」

 「……おぉ、ようやく来たか」

オペレーターの言葉に俺は顔に乗せていたベレー帽をどかす。表示されたディスプレイにはヤン率いる第十三艦隊が表示されていた。

 「第十三艦隊旗艦・ヒューベリオンから通信が入っています」

 「了解。繋げてくれ、フィッツシモンズ中尉」

俺の言葉にフィッツシモンズ中尉はコンソールを操作してメインディスプレイにヤンとの通信を繋げた。

 「遅いぞ、ヤン。14日も待たせるとか、相手が女性だったら頬に張り手じゃ済まされないぞ?」

 『第十四艦隊の速度が異常なだけだからね? 私達の艦隊だってできあいの艦隊にしては賞賛に値するものだから』

 「残念ながらその賞賛は名人・フィッシャー准将とそれに応えた兵士の皆さんに対する賞賛だから。決してお前に対しての賞賛ではないな」

 『適材適所ってやつさ。もし私が艦隊運用するって言ったらどうする?』

 「ヤンが自分で仕事するわけないから偽物かどうかを疑うな」

 『そこまで言うかい?』

俺とヤンのやり取りにエクシールだけでなく、ヒューベリオンの方からも忍び笑いが出ている。

 『失礼。作戦に参加する司令官が仲が良いのは良いですが、話を進めていただいてよろしいですか?』

 「おう、ヤン。お前のせいでムライ准将に叱られたぞ」

 『君はなんでも私のせいにしすぎだね。今回、話を脱線させたのは君だぞ?』

 『お二人とも』

ムライ准将の言葉に俺とヤンは同時に肩を竦めた。

 「厳しい教官に叱られる出来の悪い生徒みたいですね」

 「それは正解だよ、フィッツシモンズ中尉。こいつらは士官学校時代にしょっちゅう呼び出されては叱られてた」

 『そこでさらりと自分を外すのはどうかと思うよ、ラップ中佐』

 「お前さんも一緒に呼び出される仲だっただろうが」

俺とヤンの言葉に「覚えてないな」と悪びれる様子がないラップにエクシールは今度こそ爆笑の渦に包まれた。強面カールセン提督も笑っている。

 『お二人とも』

 「『すいません、ムライ教官』」

ムライ准将に注意された瞬間に、条件反射でヤンと同時に謝ってしまった。しかも階級が下のムライ准将を思わず教官呼びである。これにはヒューベリオン側も我慢できなかったのか、笑い声が聞こえる。

 『さて、ムライ准将が本気で困った顔で首を振っているから話を進めようか』

 「話を進めるって言ってもなぁ。ヤン、お前さんは艦隊司令部に作戦内容は伝えてあるのか?」

 『当然じゃないか。私が作戦を伝え忘れることがあると思うかい?』

 「士官学校4回生の時にコンビを組んだ時忘れたよな?」

 『シュタイナー、過去に囚われてちゃいけないよ? それにほら、お詫びに3回奢ったじゃないか』

 「俺は12回奢らされたな」

 『お二人とも!!』

今度は語気が強めにムライ准将に注意されてしまった。ヤンと話をしていると自然と脱線してしまうのが良くない。

 「それじゃあ手筈通りに、ヤン少将」

 『武運を祈るよ、シュタイナー少将』

ヤンとそれだけ会話して通信を切る。

 「フィッツシモンズ中尉。十四艦隊全艦に通信を繋げてくれるか」

 「了解です」

俺とヤンのやり取りを笑いながらみていたフィッツシモンズ中尉に頼むと、すぐに通信を第十四艦隊全艦に通信を繋げてくれた。俺は司令席から立ち上がって演説する。

 「第十四艦隊司令ヘルベルト・フォン・シュタイナー少将だ。待ち合わせに遅れていた相方がようやく来た。なので短かった休暇は終了。これからピクニックの時間だ。なぁに、私達の仕事はイゼルローン駐留艦隊の足止めだ。私は無茶って言葉が大嫌いでね。できる限り同盟軍が楽をできる作戦をヤン少将と考えた。まぁ、失敗したら全責任は司令である私とヤン少将。それにこんな頭のおかしい命令をしたシトレ元帥だけだから気楽に行こう」

それだけ言って俺は司令席に着く。そして司令席の後ろにある幕僚達が座る円卓の方に向く。現在、ここに座っているのは首席幕僚のチュン准将、次席幕僚のラップ。副司令のカールセン提督である。フィッツシモンズ中尉は副官なので司令席のすぐ隣にある副官席に座っている。

俺は全員を見渡してのんびりと口を開く。

 「それじゃあイゼルローン要塞駐留艦隊司令のゼークト大将を釣り出しに行くか」

俺の言葉に全員が敬礼を返してきた。

 

 

 

 

 「敵、前進してきます!!」

 「敵の前進に合わせてこちらは後退。急ぎすぎず、慌てすぎないようにだ」

オペレーターの言葉に俺は努めてのんびりとした口調で艦隊に命令を下す。イゼルローン要塞駐留艦隊と対峙してから、何度も繰り返していることである。

 「敵が1万5000もいると押しとどめるのも一苦労ですね」

 「その通りだよ、チュン准将。フィッツシモンズ中尉、カールセン准将に連絡。鼻先にエサをチラつかせてやってくれ」

チュン准将の言葉に返しながら、俺はカールセン提督に指示を出す。定期的に攻撃が届く範囲ギリギリに艦隊を出しておかないと逃げられてしまう。なのでカールセン提督に敵の攻撃点ギリギリのところで動いてもらったりしている。

だが、これを始めてから既に数時間だ。

 「……流石にそろそろ砲火を交えないといけないと思います?」

 「そうですねぇ。今までは司令の艦隊運用でさも戦っているかのように見せていましたが、そろそろ限界ですかねぇ」

俺の問いにチュン准将は困ったように同意し、ラップをみるとラップも頷いた。俺はベレー帽をとって団扇のように扇いでから指示を出す。

 「仕方ない、か。フィッツシモンズ中尉……」

 「その必要はなさそうですよ。今、第十三艦隊のヤン少将から特別通信が届きました。『今度のお酒はシュタイナー少将の奢りで頼むよ』だそうです」

おやまぁ。

不思議そうな顔をしているチュン准将とフィッツシモンズ中尉。呆れた視線を送ってくるラップ。

 「イゼルローンを無血占領したようだな。私は微量でも帝国軍の血が流れると予想したんだが、あのペテン師は上手くやったらしい」

俺の言葉に驚愕するチュン准将とフィッツシモンズ中尉。だが、俺はその驚愕顔を無視して命令を出す。

 「カールセン准将に作戦を第二段階に進めると言ってくれ」

 「りょ、了解しました」

動揺をすぐに抑えて俺の指示をカールセン提督に送るフィッツシモンズ中尉。

ヤンとの作戦では要塞内部で反乱が起きたという偽情報をイゼルローン要塞駐留艦隊に送っているはずである。ゼークト大将は早く要塞に戻りたいはずだから無理をしても攻勢に出てくるはず。

 「敵艦隊前進!! 先ほどより速いです!!」

 「大丈夫、予想通りだよ。射程距離外でも構わないから砲撃しながら距離を取れ」

俺の言葉が速やかに艦隊に伝わり、全艦から一斉射撃が行われる。だが、有効射程距離外なので敵の艦が沈むことはない。むしろ勢いよく攻めてくる。

 「よし。全軍後退、できる限り潰走に見せかけろ」

俺の指示に従って全軍が潰走に見せかけた後退を始める。だが、それは演技としては物足りないものだった。

 「潰走の練習も必要かねぇ」

 「潰走の練習なんて聞いたことありませんな」

俺の呟きに反応したのはラップで、チュン准将は困った表情になっておりフィッツシモンズ中尉は楽しそうに笑っていた。

 

 

 

 「……改めて見ると酷い光景だ」

俺の呟きに反応できる人間はエクシール艦橋にはいなかった。

ヤンはイゼルローン要塞駐留艦隊を『雷神の槌(トゥール・ハンマー)』の射程内に捉えて発射したのだ。帝国軍の先頭にいた数百隻は一瞬にして消滅した。その光景に味方の第十四艦隊も絶句したのだ。

 「これは戦争じゃない。一方的な虐殺だ」

俺が小さく呟くと同時に、帝国艦隊から砲撃が出るがイゼルローンには傷一つつかない。

 「全艦、輪形陣を組んで前進。帝国軍の逃げ道は塞ぐなよ」

俺の指示にようやく正気に戻った第十四艦隊は戦列を組んで帝国艦隊の背後を脅かす。これでゼークト大将が取る方法は二つ。

 「さて、ゼークト大将はどっちを取るかな……」

 「ヤン少将の名前で通信が出ています。『これ以上の流血は無益である、降伏せよ』とのことです」

おや、ヤンが言うべき言葉がない。もしかしたらこちらの艦隊に気を使ったか。

 「フィッツシモンズ中尉。ヤン少将の言葉に付け足す形で私の名前で通信を送ってくれ。『降伏するのが嫌ならば、逃亡せよ。追撃はしない』と」

 「了解しました」

フィッツシモンズ中尉は俺の言葉をそのまま帝国軍に通信を送る。

「帝国軍からの返信です。『汝らは武人の心を弁えず、吾、死して名誉を全うするの道を知る、生きて汚辱に塗れるの道を知らず。このうえは全艦突入して玉砕し、もって皇帝陛下の恩顧に報いるのみ』と言っています」

 「フィッツシモンズ中尉。悪いが全方位通信を開いてくれ。それだったら向こうが拒否しようが聞こえる」

瞬間的に俺は立ち上がりながら言っていた。フィッツシモンズ中尉は驚いた様子を見せながらも通信を繋いでくれる。

 「私は自由惑星同盟第十四艦隊司令官ヘルベルト・フォン・シュタイナー少将です。ゼークト大将に告げる。卿は我々に対し武人の心を知らずと言った。当然である。我々は武人ではなく艦隊司令官である。艦隊司令官である我々の任務は多くの部下を生きて祖国の地に返してやることだ。卿が死ぬのを我々は止めない。それが卿の矜持であるからだ。しかし、その矜持に部下を付き合わせるのは我々は許せない。もし卿に艦隊司令官としての自覚があるのならば部下を道連れにするような真似はするな」

それだけ言って俺は通信を切らせる。そしてフィッツシモンズ中尉の視線に気づいた。

 「私は甘いと思うか? フィッツシモンズ中尉」

 「軍人としては甘いかもしれません。しかし、私はそんな甘い指揮官の下で戦いたいです」

 「私も同意見です」

 「もちろん小官もです」

フィッツシモンズ中尉の言葉に続くようにチュン准将が続き、さらにラップも続いた。するとエクレールだけでなく、他の艦からも同意する声が挙がった。

 「帝国艦隊から通信が入っています!!」

オペレーターの言葉に俺は一回だけ頷いて通信を繋がせる。通信が繋がったゼークト大将は覚悟を決めた男の表情をしていた。

 『銀河帝国軍イゼルローン要塞駐留艦隊司令官ハンス・ディートリッヒ・フォン・ゼークトである。まず、貴公達に深く陳謝すると同時に感謝する。私の行動は一軍を率いる者として不適格な行動であった。それに気づかせてくれた貴公達には感謝の念を禁じ得ない。しかし、私は帝国軍人であり、帝国貴族の末席に名前を連ねるゼークト家の人間としておめおめとオーディンに帰ることはできない』

その言葉に意見を言おうとした別ウィンドウに表示されているヤンを俺は視線で押しとどめる。

 『しかし、シュタイナー少将の言葉の通り、指揮官として部下を道連れにすることはできない。ならば、私が取れる手段はただ一つだけだ』

そう言ってゼークト大将は懐からブラスターを取り出す。

 『ヤン少将、シュタイナー少将。決して部下を追撃することはないのだな?』

 『約束します』

 「決して背後から撃つような真似はしません」

ゼークト大将の言葉にヤンと俺は言葉を続ける。

 『ヤン少将だけならば信ずることはできない。しかし、ルドルフ大帝から直々に直答を許されたシュタイナー伯爵家出身であるヘルベルト・フォン・シュタイナー少将の言は信ずる。そしてそのシュタイナー少将と轡を並べたヤン少将もまた信ずる』

そこまで言うとゼークト大将は米神にブラスターを当てる。

 『さらば』

ゼークト大将はそれだけ言うとブラスターの引き金を引いた。頭にブラスターの光線が突き抜け血が飛び散る。

俺とヤンは黙って敬礼をすると、帝国軍からの通信が切られた。そして整然と退却をしていく。

俺はその光景を見送りながらイゼルローン要塞のヤンに通信を繋げて会話をする。

 『感謝するよ、シュタイナー。君のおかげで兵が無駄に死なずに済んだ』

 「敵も味方も多く死ぬのは兵士だ。俺はそれを少しでも減らしたかっただけだよ」

ヤンとそんな会話をしながら、俺はゼークト大将の最後を思い出していた。

国に殉じる。それはできそうでできないことである。転生者という理由もそうだが、俺は銀河帝国から自由惑星同盟に亡命した。そんな俺は祖国という存在がないと感じてしまう。ヤンのように民主共和制の信奉者というわけでもない。俺はどこに向かえばいいのだろうか……

 『……シュタイナー。どうかしたかい?』

 「いや、なんでもない。それよりヤン。ハイネセンに作戦成功の報告はしたか?」

 『いや、これから送るよ。文面はそうだね……『なんとか終わった。もう一度やれと言われてもできない』ってところかな』

 「ついでに『作戦に参加した将兵全員に特別賞与をくれ』と付け足してくれ」

俺の言葉にヤンはどこか疲れた表情をしながら笑うのであった。




ヘルベルト・フォン・シュタイナー
最後にちょっとセンチメンタル

ヤン・ウェンリー
どうやら小説版だった模様(旧アニメは血が流れる

ハンス・ディートリッヒ・フォン・ゼークト
なんか死に方がかっこよくなったイゼルローン駐留艦隊司令官



そんな感じでイゼルローン攻略編でした。

基本的に原作準拠ですが、シュタイナーくんが駐留艦隊の足止めと担当。そしてシュタイナーくんの存在のおかげで死に方が変わったゼークト大将

そして設定的にあったけど出す場面がなかった転生特典である記憶能力を初登場!
これのおかげで帝国でのことや原作の流れを覚えているという設定です

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