銀河帝国ローエングラム元帥府執務室。ここでは元帥府の主であるラインハルトが鼻歌を歌いながら執務を行っている。
それをみて内外共にラインハルトの側近であるキルヒアイスが微笑みながら話しかける。
「上機嫌ですね、ラインハルト様。その歌は確か……」
「ああ、キルヒアイスにも幼い頃から聞いているだろう? 兄上……シュタイナー伯爵家に代々伝わる歌だ」
「はい、幼年学校の頃はよくラインハルト様と一緒に歌ったものです」
キルヒアイスの言葉にラインハルトは「そんなこともあったな」と上機嫌に笑った。
ラインハルトの笑いが収まってからキルヒアイスは真剣な表情で一枚の報告書を机の上に置く。
ラインハルトがその報告書を手に取り目を通すのを確認しながらキルヒアイスは口を開く。
「同盟軍の侵攻編成です。実戦参加艦隊は9個艦隊。総動員数は3000万人を越えます」
「よくぞ編成したものだ。注意すべき艦隊は?」
「第五艦隊、第十艦隊、第十二艦隊、第十三艦隊、第十四艦隊かと」
「ビュコック、ウランフ、ボロディン、ヤン、そして兄上か。他の提督も帝国では名の知られた提督だ。本気だな、同盟は」
そう言ってラインハルトは報告書を机に置き、椅子から立ち上がって窓から外をみる。そして真剣な顔で口を開く。
「焦土作戦には反対か? キルヒアイス」
迎撃作戦の総指揮を任されたラインハルトは新しく配属されたオーベルシュタインの進言された焦土作戦を受け入れたのだ。
ラインハルトの問いにキルヒアイスは答える。
「旧イゼルローン要塞駐留艦隊の軍人達は皇帝の特別恩赦で誰も罪に問われることはありませんでした。それは帝国にとってもよいことだと思われます。しかし、オーベルシュタイン大佐はゼークト提督の幕僚でありながら戦いの最中にその任から逃亡した容疑がかかっています」
イゼルローン要塞陥落の大事件は帝国全土を驚かせた。そして一部の貴族達が撤退してきたイゼルローン駐留艦隊の軍人を処罰しろという声があがったのだ。
ラインハルトは即座に皇帝・フリードリヒ四世に恩赦を与えるように進言しようとしたが、それより先にフリードリヒ四世はイゼルローン駐留艦隊に対して恩赦をだし、罪に問わないとしたのだ。そのためにイゼルローン駐留艦隊の軍人達は罪に問われることはなくなり、新しい配属先に配属されることとなった。そしてラインハルトの下にも多くの軍人達がやってきて、その中にオーベルシュタインもいた。
「キルヒアイス」
「は」
「私は宇宙を手に入れる」
ラインハルトの言葉にキルヒアイスは何も言わずに頷く。ラインハルトは窓から外をみながら言葉を続けた。
「私は兄上に貴族……支配者としての心構えも教わった。その中には綺麗事だけでは済まないことを知った。そのような汚れ仕事にはオーベルシュタインのような男が適任だ」
「しかし、オーベルシュタイン大佐はラインハルト様に忠誠を誓うでしょうか」
「少なくともあの男は帝国に対する憎しみがある。その点では私とあの男は同類であり、裏切ることはないだろう。あの男は私を利用してゴールデンバウム王朝を滅ぼし、私もまたあの男を利用してゴールデンバウム王朝を滅ぼす」
そこまで言うとラインハルトはキルヒアイスに振り返って笑う。
「だが、兄上も侵攻軍に参加しているならちょうどいい。これを機会に兄上を捕らえて姉上の所に一緒にいってもらおう。姉上に対する最高の土産になるぞ」
ラインハルトの姉・アンネローゼが同盟に亡命し今回は侵攻軍の一翼を担うシュタイナーに惚れているのはラインハルトとキルヒアイスにはわかりきっていることだ。アンネローゼ本人は隠しているようだがラインハルトとキルヒアイスにはお見通しである。
「ですが、そう簡単に捕らえることができるでしょうか」
「なに、完全包囲して降伏勧告をすれば兄上だったら降伏するだろう。何せ指揮官の仕事は『将兵を生きて故郷に還すこと』らしいからな」
ラインハルトの笑いながらの言葉にキルヒアイスも微笑みながら一礼するのであった。
(帝国侵攻作戦の指揮官とは随分とらしくないことをしているじゃないか、ヘルベルト)
ロイエンタールはワイングラスに入ったワインをみながらそう内心呟く。
ローエングラム元帥府の中でも屈指の名将で知られるオスカー・フォン・ロイエンタールと、同盟の第十四艦隊指揮官ヘルベルト・フォン・シュタイナーが従兄弟というのは帝国では広く知られている。
イゼルローン陥落の報とその方法を知った時、ロイエンタールが感じたのは「相変わらず詐欺紛いのことをやっている」という笑いであった。
同盟に亡命したシュタイナーをロイエンタールは今でも親類であり、友だと思っている。それは寂しい幼少時代を過ごしたロイエンタールにとって友と呼べる唯一の存在がシュタイナーであったからだ。幼い頃からロイエンタールやシュタイナー家の家臣の子供達、さらにはシュタイナー伯爵領の領内の子供達を引き連れて詐術のような真似をして大問題を起こしていた。
だが、その親しみやすさから同年代の子供達から圧倒的な支持を受けていたのがシュタイナーであった。
「しかし、ヤン・ウェンリーとヘルベルト・フォン・シュタイナーか。どちらか一人でも厄介なのに二人同時に侵攻作戦に参加するとはな」
ロイエンタールと一緒にワインを飲んでいたミッターマイヤーの言葉に記憶の旅にでていたロイエンタールの思考が戻ってくる。
「ビュコック、ウランフ、ボロディンといった帝国でも名の知られた名将。そして難攻不落のイゼルローンを落とした二人、か」
「地の利は我が方にあるが、指揮官としての質は同等……と俺は見ているが、卿はどう思う?」
ミッターマイヤーの言葉にロイエンタールはワイングラスを机に置く。
「そうだな。指揮官としての質は同等か俺達のほうが少し上といったところか」
「卿もそう思うか。そうなるとやはりシュタイナー伯爵が同盟に亡命したのが悔やまれる。こちらに残っているならば共に轡を並べていたかもしれないというのに。ブラウンシュヴァイクとリッテンハイムめ……!」
ミッターマイヤーが苦々しく吐き捨てるのをロイエンタールは笑う。
ローエングラム元帥府の諸提督や帝国の軍人達はイゼルローンを陥落させた提督の一人がヘルベルト・フォン・シュタイナーという政争に負けて同盟に亡命した元帝国の名門貴族だと知られると、その怒りの矛先はシュタイナー伯爵家を没落させたブラウンシュヴァイクとリッテンハイムの両貴族に向けられた。
ミッターマイヤーもその一人だ。
「ヘルベルトの奴がこちらに残っていれば……と思うのは俺も同意見だ。だが、こちらに残っていたからと言って軍人になっていたとは思えん」
「というと?」
ミッターマイヤーの言葉にロイエンタールはワインを一口飲んで再びワイングラスを机に置く。
「昔からあいつは人を使うのがうまかった。それこそ適材適所に人を配置したりな。だからどちらかと言えば提督の一人ではなく、上に立つ一人としての指揮官……それこそ元帥のような立場が適任だろう」
「ふむ、ならロイエンタールはもしローエングラム伯とシュタイナー伯に双方に元帥府に請われればどちらにいったのだ?」
「ヘルベルトだな」
「即答か」
ロイエンタールの言葉にミッターマイヤーは大きく笑う。その笑いが収まるのを待ってからロイエンタールは言葉を続ける。
「だが、仮にヘルベルトが帝国で元帥府を開いていれば、その元帥府は意外と豪華になるかもしれんぞ」
「そうなのか?」
ミッターマイヤーの問いにロイエンタールは言葉を続ける。
「メルカッツ提督は元々シュタイナー伯爵家の家臣の家柄で、その才能を見込まれてシュタイナー家からの推挙で帝国軍人となり、上級大将まで上り詰めている。だが、今でもその忠義はシュタイナー伯爵家にも向けられている。次にメックリンガーだが、メックリンガーは元々シュタイナー伯爵家の領民出身だ。シュタイナー領民学校での成績優秀だからシュタイナー伯爵家の推薦で帝国士官学校へと入学した。メックリンガー自身もヘルベルトと共に色々とやっていたそうだ。その関係を考えればメックリンガーもまたヘルベルトの元帥府へといくだろう」
「ふぅむ、メルカッツ提督とメックリンガーか」
メルカッツがシュタイナー伯爵家の元家臣というのは広く知られている。だが、メックリンガーがシュタイナー領出身というのは初耳だったのかミッターマイヤーも驚いている。
だが、ロイエンタールもローエングラム元帥府に移動してメックリンガーと親しくなってから聞いた話だ。シュタイナーのいくつかやっていた悪事にメックリンガーも参加しており、その時にロイエンタールも見かけていたそうである。
「そしてシュタイナー伯爵家が解体された時、多くの優秀なシュタイナー家の文官が帝国に登用された。その中には帝国の財政を立て直し帝国騎士を受勲したブルーノ・フォン・シルヴァーベルヒもいる。もしヘルベルトが帝国に残っていて元帥府を開いたらシルヴァーベルヒもまた元帥府にいって辣腕を振るっていただろう」
ロイエンタールの言葉にミッターマイヤーは感心するように腕を組んで口を開く。
「たいしたものだな、シュタイナー伯というのは」
「『人こそが国の宝』。それがヘルベルトの口癖であったよ」
ラインハルト・フォン・ローエングラム
黄金獅子。シュタイナーの弟分。ヘルベルト×アンネローゼ過激派
ジークフリード・キルヒアイス
赤毛ののっぽさん。ラインハルトの側近。アンネローゼに対しては敬愛しているけど恋愛感情はない模様
オスカー・フォン・ロイエンタール
シュタイナーの従兄弟。幼少期にシュタイナーと一緒に法律的アウトなこともやってた
ウォルフガング・ミッターマイヤー
未来の『疾風ウォルフ』。ロイエンタールの親友なので、シュタイナー伝説も色々聞いていてシュタイナーくんに友好的
元シュタイナー伯爵家関係者
ウィリムバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ 元シュタイナー伯爵家家臣
エルネスト・メックリンガー シュタイナー伯爵領出身
ブルーノ・フォン・シルヴァーベルヒ 元シュタイナー伯爵家文官
そんな感じで感想であったので帝国側のラインハルトとロイエンタールのお話です。
帝国時代に色々アウト的なことをやっていたシュタイナーくん。それに参加していたロイエンタールやメックリンガー。ロイエンタールは覚えていませんがラインハルトも参加していた設定もあります。
ちなみにシュタイナー伯爵家関係者は他にもいます。
お楽しみに!