第八話、どうぞー。
「いやはや、ユウイチ君が来てから驚いてばかりだよ。神機の進化のはずがまさか君自身が強化されるとは…。既存の神機のスキルが進化したのか、それとも君自身が人間を超越しようとしているのか。もっとしっかり調べてみない事には何も分からないけど、取り敢えず今発現している力は君の五感の全てと…第六感もかな?それらを強化するものみたいだね。今のところ神機を装備していないとそこまで強く発動しないみたいだから、日常生活は心配ないだろう」
タツミさん達と別れてこの部屋へ駆け込んだ俺は、博士に事のあらましを話して協力してもらった。また訓練所と大量のダミーを使って、ちょっとした実戦形式でな。その結果で博士の出した答え(予測)を教えてもらっているところだ。
…にしても人間を超越ってなんだよ、「俺を人間をやめるぞ!」ってやらなきゃいけなくなるのか?確かにアラガミ化なんてしたら人間やめてるのと同じだけどさ。
「そうですか…これってやっぱり神機の進化なんですよね?」
「ああ、それは間違いないよ。神機の構造が変わったわけでもないのが不思議なんだけど、腕輪を通して君を強化したのは確認できた。進化と言うのには十分な証拠だ」
望んでいた神機の進化の第一歩。実地演習からおよそ二週間、とても長かった…!攻撃力が強化されたわけじゃないけど、敵の攻撃を事前に察知できる様になったのは喜ぶべき事だ。なんせ俺の取れる戦法は基本的に極力無駄な動きを削り、回避を最重要としてるからな。ちなみに気分はニュータイプ。
「さて、もう今日も遅い。明日も任務があるんだろう?今日はここでお開きとしよう。私はもうしばらく調べておくとするよ」
「分かりました。博士もあんまり研究しすぎて倒れないようにしてくださいよ?」
「ハハハ、大丈夫だよ。私にとって研究は君らの息抜きと同じようなものだからね」
博士は笑って言ってるが、つまりずっと遊んでるって解釈でいいんだろうか。アラガミに対する研究が遊びってどんな趣味だよ…まあそのお蔭で対アラガミ装甲や神機が出来てるから何も言えないけども。
一礼して研究室を後にし自分の部屋へと戻る。持ち込んでる私物は衣類以外は昔よろず屋で買った参考書やちょっとした娯楽本位なもので、内装は来た時とほぼ同じだ。あ、あと枕も持参した物だな。枕は使い慣れてる物じゃないと寝付けないのは前世から全く変わってない。
「さて…今どれだけやれるか確認するか」
ベッドに腰掛けながら呟く。一人ぶつぶつ言ってるから傍から見たら残念な人に見えるかもしれないが、そもここは俺の部屋で周りに人はいないから問題ない。ちょっと言ってみたかっただけだ。
確認するのはホントだけどな。調べる対象は今の自分の五感。さっき博士に言われた通り、今回の件で俺は神機を使用してるとき六感全てが自分でも驚く程に上昇する様になったのが分かった。
ここまではいい。ただ、神機未使用時である今も、若干ではあるが今まで――神機が進化するまでと何か違うような気がするんだ。普通にしていれば特になんともないんだが、ちょっと気をそれに向ければ強化されてるのが実感できる。
今回試してみるのは聴覚。視覚は遠くのモノを見るためにわざわざ今から夜に任務を受けるってのも疲れるし、明日も任務があるから遠慮する。嗅覚は色々な物をあちこちで嗅ぎまわってると怪しいヤツみたいに思われそうで嫌だ。味覚はなにか食わないといけないけど特に腹も減ってないし、触覚を試そうにも何をすればいいか分からない。というか味覚や触覚ってどう強化されるんだろう、個人的には触覚には是非痛みをやわらげて欲しい所なんだけど。
…まあ、上記の理由があって部屋に籠ってても外の音をどこまで聞けるか試せる聴覚にしたわけだ。
呼吸を整え、耳へと神経を集中させて部屋の外の音を探っていく。
十秒ほど時間を掛ければ、ここから大分離れたエレベーター前辺りまでなら音は拾えると結論。普通ドアの前位しかわからないハズなんだけどなー……。
博士、神機装備してなくてもこの有様でした!どこが「そこまで強く発動しない」だよ。この事言ったら解剖されたりしないよな?少しシミュレーションしてみよう。
『よし、解剖しようか!!』
アレ、過程がすっ飛んで嫌なビジョンしか思い浮かばない……だと…!?いやいや、待て。絶対何か他にも有るはずだ、集中しろ!
『よし、解体しようか!!』
なお悪くなってる!?全身バラバラとかなりたくねーよ!流石の博士もそこまでしないだろ!
あー、もういい。色々(主に誤射のせいで)疲れてるからこんな変な想像してしまってるに違いない。寝てしまおう。
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「ペイラー、報告というのは何だ。私は君と違って忙しい。手短にすませて欲しいのだが」
急にペイラー榊博士に連絡を回された支部長。彼の言う通り、彼はとある計画を完璧に遂行するために色々と忙しい。時間はいくらあっても足りないだろう。
だがそれは博士も承知の上で報告している。
「君も気にかけてる新型の彼の事さ。何かあれば報告しろと言ったのは君だろう?ヨハン」
そう、例の神機の進化の事だ。支部長はそれが計画成就のためのアラガミ素材の回収促進につながると踏んだが故に、何かあれば報告するよう博士や技術者達に伝えていた。
「…フム、もう報告するようなことがあったのか。君にそのように連絡したのはつい昨日の事だったはずだが…まあいい。何があった?」
「簡単に言えば、彼の体内で謎の偏食因子が存在するのが確認された。逆にP53偏食因子は欠片も見つからなかったよ」
「!」
偏食因子。神機をコントロールするために必要なものでゴッドイーターは必ずコレを投与される。一定時間以上投与しなかった場合や過剰投与した場合はアラガミ化なんて悲惨な現象が起きるのだが、コレは今は置いておこう。現状人体への投与が実用化されている唯一の偏食因子が、このP53偏食因子である。
「誤って全く別のほぼ何も解析されていない偏食因子を投与した、というわけではないな?」
「もちろんさ。そんな事ができるわけないじゃないか。それをした結果どうなったかは僕より君の方がよく知っているはずだ」
「…そうだな。だがあの実験のおかげで今がある事もまた事実だ。悪い事ばかりだったわけではない」
二人の頭の中で思い出されているのはある実験とその結果起きた悲劇。ゴッドイーターを初めて生み出したともいえる事件。
「それは確かに。……話を続けるよ。変わったのは彼自身。ユウイチ君の身体そのものだ。彼に偏食因子が投与された瞬間、それらのすべてが全く別のものに変わったのが確認されたんだよ。君の言う「全く別のほぼ何も解析されていない偏食因子」どころか、今まで発見されたこともない偏食因子にね。僕はこの偏食因子こそが彼の異常なまでの適合率の原因だと考えている。近いうち、彼に必ず何かが起きるだろう。それが何なのか、良い事なのか悪い事なのかも分からないけどね」
「…本人にこの事は?」
「言ってない。強化されてる事実はかなりぼかして伝えたけど。でも、彼自身の体の事だ。我々が機械で検査するだけじゃ見つけられない何かに気づいている可能性はある」
「…そうか」
全く未知の偏食因子。神機の進化による産物。今はまだこの先を見据える天才二人にさえそれが何を引き起こすのか、予想する事さえできなかった。
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二週間ほど過ぎた。あ、俺の身体強化が分かってからな。
この二週間はかなり有意義なものだった。毎日任務に出て強化された六感全部を使ってみたんだ。最初こそ細かい動作がはっきり見えすぎて怖かったり周りの音に過敏になりすぎて気を休めることができなかったりと散々だったけど、慣れてきたらこの状態がいかに凄いかよく分かる。
常時敵の位置を捕捉できるユーバセンスという便利なスキルが存在する。流石にエリア全域を確認できるほど強く感じられるわけじゃないが、探索時は聴覚や嗅覚を使いこれに近い効果を得ることができた。視覚はエイムモードいらなくね?って位遠くがはっきりと見えるようになっていた。まあ、照準合わせるために結局エイムするんだけど。
そして何より戦闘時。前にあの誤射姫の砲撃全てを回避した実績を持つ第六感の強化。正直言って便利すぎて怖い。どこぞのセイバーかと思うくらいに次の攻撃が直感で分かるようになってる。おかげで回避すればいいのか防御すればいいのか判断する時間ができた。二回目でソロでコンゴウにパーフェクト勝利できたのには流石にびびったぜ…。勿論時間はかかったけどな。
……味覚と触覚?そうだな、触覚はよかった。暑さや寒さに対して強くなったんだ。過酷な環境でも活動しなければならない
問題は、味覚。水道水飲むのでさえ咽せるようになっちまった。なんか含まれてる成分の味まで分かる様になって…毒見役とか適してるのかもしんねーけどそもそも毒の味が分からないしやりたくもない。食事の時はどうしても味を意識するから薄味の物しか食えなくなった。意外とジャイアントトウモロコシがうまかった!十分日常生活に異常きたしてるよなこれ。
まあそういうわけで戦力強化は上々、階級も新兵から上等兵に上がった。
で、今日の任務の話に移るが。なんとコウタと初の共同任務だ。結構ここまで長くかかったけど、これでも一応短い方らしい。なんでもお互い戦闘慣れして最低限の技術を身に着けることが条件で、俺が上等兵になったからこそ大丈夫と判断されたとかなんとか。
「オーッス!ユウイチ!今日同じ任務だったよな?ヨロシク頼むよ」
「ああ、オウガテイル4体ぶっ倒せってさ。新人2人の新コンビの肩慣らしに丁度いいってよ」
ちなみに、コウタも無事第一部隊に所属した。話し相手確保!…まあ、結構な頻度で一緒に飯食ってたりするからあんまり変わらないんだけども。
「オウガテイル4体かー。まあ、俺とユウイチなら楽勝っしょ!」
「油断するなよ?某上田さんは上から降ってきたオウガテイルに首パックンされて死んじまったんだからな」
「うええ、怖い事言うなよな…。ってか上田って誰だよ。先輩か?」
「そこは気にするな。油断するなって言う喩えだよ、喩え」
この世界じゃ多分もう上田さんは出ないだろうし。華麗なる男は活躍してくれるだろうけどな。マスク・ド・オウガ?はて、誰の事やら。
「何だ喩えか…。脅かすなよ。でもまあ、確かに油断してやられちゃったらもう家族にも会えないしな…。うん、頑張ろう!」
妹と母がいるってのは前に飯食った時に教えてもらった。逆に俺にもう家族がいないって知った時すごい勢いで謝ってきたけど…何にせよ、これでコウタの気合は十分だ。
…実は俺もこの任務を受けるまではオウガテイル程度なら大丈夫だ、とか思ってたんだ。コンゴウに勝って調子に乗ってるって言われりゃそうだろう。でも、オウガテイルだけなら何とかなるってのは事実。むしろコウタと組んで4匹ってのは少ないくらいだろうとも思ってた。
それだけなら、今回こんな話をして気合を入れさせるなんて事は多分しなかった。ただ、受けてから俺の強化された第六感が物凄く警報を鳴らしてるんだよなー…。任務受注を破棄すればいいと思うかもしれないけど、今回用意された任務はどれもこれもこの警報が鳴りっぱなしで、一番マシなのがこれだった。
第六感っていうよりは、生存本能の方が近いかもしれない。自分より格が上の敵に対して抱く恐怖。俺は今それをひしひしと感じている。コンゴウ相手にこんな事はなかった。が、これに似た感覚なら以前にも味わった事がある。
―――――大型アラガミ、ヴァジュラ。実地訓練の時、あの時の俺では決して倒せないと確信するしかなかったほど強力な敵。
今回の任務に何が起きるかなんて分からないが、もし本当に大型のアラガミが出てくるのであれば相応の準備や覚悟がいる。だからコウタにも気合を入れさせた。
この嫌な予感が杞憂だといいんだけどな。
場所は嘆きの平原。難易度は1。任務名は…………
――――――――――『カウボーイ』。
第八話読了ありがとうございました!
初期装備縛りなんてしたせいでスキル構成とか無縁な主人公。いかに身体能力を引き上げるかで今後の運命が左右されます。
今更ながら『GE』の世界が現実だったら無印よりシビアな状態なんだろうなと。ぶっ倒れてたら間違いなく喰われて人生終了なわけですから…。ソロとか厳しすぎる。