魔道具製作者の受難 作:お給料
本来の正史が変わった日。
「出来たぁぁぁぁ!!」
森の中にある小屋で、男の子の喜びに満ちた声が響い渡る。
近所迷惑にならない。だって、森の中だもん。
止めてくれる大人が居れば彼とその周囲の人の運命は変わってただろう。不幸中の幸いだ。
少年の名前は、フェイ・ハーグ。小屋で一人暮らしをしている九歳の男の子。両親の代わりに師匠という保護者がいたのだが、今は留守。というか数年経ったが帰って来てない。
「早速こいつの試運転をしよう!」
手に持つのは藍色のローブ。一見変哲もないただのローブに見えるのだが、彼が作った特別製だ。
「名前は『天駆の衣』だな。効果は空を飛べる。似たような物があるけどきっと便利だよね!」
少年はいそいそと着替える。安全のための魔道具を装備することを忘れない。
「しゅっぱーーつ!!」
ローブが若干光だす。起動の合図だ。
フェイはワクワクして見守るが、
「…あれ?」
様子がおかしい。いつもならもう動き出している。にも関わらず点滅しながら光を出すだけ。まるでチャージしているようだ。
「ん?チャージ?」
だとしたら不味い!そう思いつつ脱ぎ捨てようとしたが一歩遅かった。
「ふぉおおおおおおおおおお!?」
何かに引っ張られるように凄まじい速度で飛んでいく。情けない声を出しているが仕方ないことだ。
~~~~~~~~~
闇派閥が潜伏している情報を入手した冒険者は、三ヶ所ある施設を襲撃していた。その一ヶ所での出来事。
運命の日。
「子ども!?」
乱戦の最中。とある青髪の冒険者は力無き一般人、それも小さな子どもが混じっていることに気付く。それだけではない。力が無いのは、大人も一緒だった。
子どもはナイフを握りしめている。敵であるが放っておくことが出来ないのは、この冒険者の持つ優しさ。その優しさは、闇派閥の前では仇となる。
フェイが来なかったら。
「うおおおおおおおお!!」
ドガシャン!!
壁をぶち破りながら、叫び声を上げる漆黒の影。凄まじい速さのフェイを捉えられたのは誰もいなかった。
砂埃が晴れ、登場したのは一人の少年。黒髪黒目で普通の少年だが、目につくのは冒険者を思わせるような装備。それが元々この場にいた者達の第一印象。
藍色の生地に白のラインが数本あしらわれたローブに、クリーム色のポーチの紐を肩に下げて持っている。
「僕生きてる!?やったぁぁぁぁ!!」
嬉しさを表現するかのように右へ左へと踊るハイテンションなフェイ。
この場にいる全員、戦っていたことを忘れ、ポカーンとしていた。
「ヘヘイヘイへー…い?」
振り向いた時、フェイと目が合った。誰も一言も喋らないが、沈黙を切り裂いたのはフェイだった。
「あはは…お騒がせしました…」
ローブに着いていたフードで顔を隠す。耳まで真っ赤だったので照れてるのだろう。一般人より視覚が強化された冒険者は見逃さなかった。
「誰だてめえ!」
闇派閥を指揮していた幹部『殺帝』のヴァレッタが怒鳴り声を上げる。作戦を中断されたのだ。腹が立ってもしょうがない。
「通りすがりの子どもです…んん?」
フェイはあることに気付き、闇派閥の子どもに歩み寄り、ジロジロと物色する。
「ふむ。仕組みは至ってシンプル。火炎石による爆破か…実にもったいない!!」
「「ひぃ!?」」
突然の大声にビクッ!?となる。傍にいた青髪の冒険者も釣られて驚いた。
「希少な火炎石をただの爆破で終わらせるなんて勿体無さすぎるだろ!服の下に隠す着眼点はいい!隙を付ける!だが一度きりはダメだ!製作者はどこだ!文句言ってやる!!」
ここまで息継ぎ無し。魂の叫び。
ポーチからマイクを取り出す。何に利用するんだ?
「“取り敢えず全員脱げ!バラシて再利用してやる!”」
「あひゃひゃひゃ!誰も従う訳ないだろ!ここにいるのは自分から死を望む奴らばっかなんだからよぉ!」
ヴァレッタの言うように誰も従わないが、
「な、何してるてめえら!?」
次々と操り人形のように爆弾を脱ぎ出す光景に、作戦が潰されたことを理解したヴァレッタは本格的に腹が立ち、
「ぶっ殺してやる!!クソガキャァァァ!!」
「…はっ!?させるか!」
正気に戻り迎撃することで、再び乱戦が始まる。フェイはそんな中でも動じない。落ちている爆弾を回収していく。
マイペース。目の端で捉えたフェイを見ながら冒険者達は全員思った。
「ヴァレッタ様!」
「ちくしょう!撤退だ!撤退しろ!」
闇派閥は全員撤退を決めた。取り残されたのは冒険者と、元死兵の連中。
「勝ったの…?」
「みたいだな…」
「爆弾があることに気付かなかったら、さ。あたしら」
「ああ。下手したら死んでいたな」
「彼に感謝ですね…」
視線の先には、
「ちょ、ちょっと!?え?待って、まだ回収出来てないのに!」
「暴れるな!お前を連行する!」
「この人でなしー-!!」
ガネーシャ・ファミリアに逮捕された少年の慟哭が、戦場だったこの施設に虚しく響いた。
~~~~~~~
連行されて行き付いた先は、牢屋。取り調べが始まろうとした時、外で異変が起きて後回しにされたのだ。
この待遇に反発した眷属もいた。彼を保護する名目で、外に出さないという決定となった。
さっきから爆発音が響き、パラパラと天井から砂が落ちてくる。
「魔道具はほとんど没収されて、牢に鍵を掛けられた。見張りはあそこに一人…うん。充分脱獄できる」
フェイは行動に移す。脱獄に躊躇いは無い。
「『頭を使え。使える手は何でも使え。仕込める所にとことん仕込め』だよね?師匠」
持ち物を確認する。
手袋は没収されなかった。手袋自体に効果は無い。あるのは、十本指全部に付けている指輪。ファッションではない。断じて。
指輪の説明を省く。今必要ないから。
腰に巻いてるベルト。これは使える。うん、これを使おう。
フェイは鼻を摘まんで、ベッドの下に潜る。
「あー、ガキが消えたぞ!突然消えた!脱走したんじゃねえか!?」
「何だって!?」
見張りが現れる。フェイがいないことに慌てて牢の鍵を開ける。
「ど、どうしよう……団長に殺される…!」
「それは大変だね」
「大変どころじゃねえ!天変地異だ!ただでさえ忙しいのに…あれ?」
誰と話してんだ俺?そう思い、声のした方へと視線を向ける。そこに立っていたのは、
「ごめんねおじさん。お説教、頑張ってね。あとその仮面、とても似合ってるよ」
ベルトを扉に巻き付ける。別名『拘束帯』。起動したら使用者の許可、もしくは魔力が尽きるまで拘束される魔道具。それを使った。
「クソガキィィィィ!!」
笑顔で手を振って脱獄した少年に叫んだ不憫極まりない見張りだった。
部屋を探していく。最悪、あのポーチだけあればいい。
「え~と『保管室』?ここだ!」
幸い扉は開いている。よっぽど、忙しかったと見える。
「あった!これで外に出れる!」
身に付けていたもの一式纏って、スタコラサッサっと走る。途中窓を見つけ覗きこむ。
「街が燃えてる…?」
地獄のような光景に呆気にとられていると、
「いたぞ!あそこだ!」
ゾロゾロと仮面の集団が走って来る。バレるの早いよ!
「これでもないし、あれでもない!どこだ、どこいった…?」
丁度窓がある。抜け出すならアレしかない。危険過ぎるが。
「あった!これだ!」
『銀鷲』。銀色の大型の鷲。『天駆の衣』より小回りが多少効く。本当に多少。『銀鷲』の足には紐が取り付けられている。窓を開けた時、
「そこまでだ!大人しくそれを置け」
「これのこと?」
「そ、そうだ…!」
「いやだ」
もう牢屋に戻りたくないもんね!
「総員捕えろ!」
「バ~~イ、冒険者の皆さん」
動き出した魔道具は、仮面の追撃を躱しながら勢いよく空を飛ぶ。が、
「そっちじゃない!下だ!下に行って!」
縦横無尽に飛び回る。
神、冒険者、一般人、闇派閥。オラリオの地に立っている全ての生き物が、
「うわぁぁぁぁ!?」
叫び声を上げながら、あちらこちらに空を舞うフェイを目撃した。
「落ちるぅぅぅぅ!!」
等々フェイは、無人の家に勢いよく突っ込んだ。
主人公
フェイ・ハーグ 九歳 黒髪黒目で普通の男の子。
『恩恵』無しであらゆる魔道具を製作することが出来る。効果を把握することも出来る。天才通り越して鬼才。子どもであるが、機転が利く。腕っぷしはないが集中力が異常。名を知らない師匠がいる。本を沢山持っており、読書家の一面を持つ。
フェイの作成した魔道具は強力だが、魔道具のおよそ三割が癖があったり、ポンコツだったり、欠陥品も含まれるため使う時は細心の注意が必要にある。起動させる方法は、魔道具によって違う。
『天駆の衣』 凄まじい速度で空を飛ぶ。ブレーキが無いので障害物を使って停止するしかない。ポンコツ魔道具。
『』 マイクの魔道具。自分より同等以下の生物を洗脳する。無理難題は不可能。出来るか出来ないかのラインを攻めた。
『』 安全のために普段から身に付けている指輪。勢いよく激突しても死ななかったのはこのため。傑作魔道具。合計八個。
『』 攻撃用の指輪。左右の人差し指に取り付けられている。今回の出番なし。
『拘束帯』 いつでも使えるようにベルトとして腰に巻いている。効果は拘束で伸縮自在。魔力が尽きたら自動で解ける。
『銀鷲』 起動させるには足に取り付けられている紐を持つしかない。『天駆の衣』よりはマシだが、操縦が難しい。準ポンコツ魔道具。