魔道具製作者の受難 作:お給料
僕はアストレア・ファミリアに住み着いたあの日から、魔道具製作に集中している。
作っているのは、『癒光の十字架』の劣化版。質より量を優先してくれと依頼されたのだ。
実際、治癒師の人達には大助かりらしい。回復薬や包帯などの消費を抑えるだけでなく、回復魔法による精神力を減少しないことが大きい。
量を生産することと、僕以外が出来ない魔道具の魔力を充填することが今の仕事だ。
時折、輝夜さんとライラさんに鍛えてもらっている。二人とも忙しいので、自衛の術しか教えてもらえてないが充分である。
特にライラさんの技術は役に立つ。戦闘方法がどうしても似てくるので、参考出来るところは参考にし、応用出来るところは応用している。
そうこうしているうちにノルマが達成したので、今日の担当に声を掛ける。
「リューさん、終わりました」
「お疲れ様です。後は私が運んでおくので、貴方は休んでください」
「僕も行きます。気分転換になるし、オラリオの地理を把握しておきたいので」
「そういうことなら分かりました。闇派閥のこともあるので、私から離れないようお願いします」
「了解です」
今日はリューさんが僕に付き添ってくれる。未知の魔道具を扱う僕は、闇派閥から狙われかねないからだ。
事実、敵の作戦を台無しにして、最高戦力の一人であるアルフィアさんを捕縛したのだ。無視しない方がおかしいだろう。
拠点に居るときでさえ、誰か一人、たまに二人が護衛として残っている。
入浴時にアリーゼさんと輝夜さんまで入ると言った時は断ったが。子どもに羞恥心は皆無だろうが、こっちはすごく恥ずかしいから止めて欲しい。
僕とリューさんはボロボロになりながらも、今も気丈に頑張っているオラリオと、その住民を眺めつつ歩き出した。
「ねぇ」
「「?」」
後ろから声を掛けられる。声色からまだ幼さが残っているから同年代だろう。
「貴方が、英雄の?」
「え、英雄?」
隣のリューさんをチラッと見ると同じく困惑気味だ。
「アイズ、急に走るな!」
「あ、貴方はリヴェリア様!どうしてこんなところに!?」
「ああ、確か『
場の空気が一気に冷えた気がした。リューさんは目を見開いている。
「…『
「フェイ・ハーグです。間違えてごめんなさい。それとよろしくお願いします」
「申し訳ありません!彼はここに来る前まで山に籠っていて世間に疎いのです。よく言っておきますのでご容赦を…!」
「頭を上げろ『疾風』。それなら間違えても仕方ないさ。今時間あるか?」
「それなら治療院の後でなら…」
「ならば私達も同行しよう。もし闇派閥が急襲してきてもいいように、戦力は多い方が対応しやすいからな」
隣にいるリューさんは恐れ多いと考えているのだろうな。緊張している。あと気になるのは、
「先程からジーと見てくるこの人は…?」
「アイズ・ヴァレンシュタイン。貴方は、フェイって言うの?」
「うん」
「私と、戦おう?」
「…は?」
「行く、よ…」
「よさんか、馬鹿者!」
攻撃態勢になったアイズにリヴェリア様の拳骨が落ちる。悶えて涙目になっている。
「まったくこの子は…。すまないフェイ。ほらお前も謝罪しろ」
「ご、ごめんなさい…」
「ええ~」
なんなんだろう。本当になんなんだろう。
「この子は強さに貪欲なところがあってな。フェイの活躍を知って、いてもたってもいられなくなったんだと思う」
「貴方は、強い」
「強くないよ。全部魔道具頼りだし」
本当にその通りだ。魔道具が無ければ死んでいた、なんてざらにあったからな。
「お前は強い」
「?」
「お前は状況を素早く理解して、私達と協力してあの『静寂』に勝利した。お前の強さは心にあると思う」
「リヴェリア様の仰る通りです。謙遜は美点にもなりますが、あまり自分を卑下しないでください」
「…わ、分かりました」
そこまで言われると照れるな。
「どんな、魔道具があるの?」
「色々あるけど…使ってみたいの?」
コクコク
気のせいだろうか。アイズは無表情であるが、目には輝きが見える。それほどまでに興味があるのか。
僕はアイズに魔道具の説明をしつつ、別れ際に比較的安全な魔道具を渡した。
~~~~~~~
「受注した数に間違いないですね。お疲れ様です」
「いえいえ。それは使い終わった魔道具ですよね?なら明日までに使えるようにしておきますね」
「助かります。負傷者は以前より減ったとはいえ、まだ必要とする人は大勢いますから」
「それではアミッドさん、さようなら」
「それではまた。あとアミッドでよろしいですよ?歳も近いので敬語も不要です」
「分かったアミッド。バイバイ」
そう言って手を振って別れた。アイズ達はもう帰った。ついでに渡した指輪を返却してもらったが、また魔力を充填して渡した。
「何かあっては遅いので」
僕のこの言葉で、納得してくれた。お礼はすると言っていたが、別に気にしなくていいのに。
「お前がフェイ・ハーグか…?」
リューさんとの帰り道。突然、大柄の猪人が目の前に立つ。
「『猛者』、オッタル…」
緊張感が走る。この人はアルフィアさんと似た気配を放っている。つまり、とんでもなく強い人だ。
「着いて来い」
「彼をどこに連れて行くつもりですか?」
「用があるのはフェイ・ハーグだけだ。邪魔をする気か?」
一発即発の空気。
「リューさんと戦って、僕を強引に連れて行ったら、どうなると思いますか?」
「…何?」
「僕の魔道具を必要とする人は大勢いる。誰かを傷付けてまで拐おうものなら、生産を止めると言っているんです」
「…」
精一杯の虚勢を張る。
この場を凌げるのは、魔道具というカードをちらつかせるしかない。僕はやっぱり魔道具無しじゃあ生きられないのだ。
さて、どんな反応をする?
「…やはり本当だったか」
「え?」
「なんでもない。あの店に入ろう。もちろん同行しても構わん」
「どうします?」
「あの店なら大丈夫だと思います。行きますか?」
「…行きましょう」
そう言って後ろに着いていく。
店の名前は[豊穣の女主人]。こんなご時世でも経営しているはすごいと思う。
テーブル席に案内されて座った。
「お前は弱い」
口を開いたのはオッタルさん。リヴェリア様と違った逆の評価。
「お前は弱い…だが、あの『静寂』に勇敢に立ち向かい、勝利した。強さと弱さを両立されるお前と話がしたかった」
「世間知らずなだけです」
「…」
「魔道具の効果で辿り着いた場所がオラリオで、右も左も分からない状況での戦いだったんです」
「…」
「アルフィアさんの強さも恐ろしさを知らない。先入観が無かったから立ち向かえたんだと思います」
あの時を振り返る。オッタルさんもリューさんもただ聞いているだけだった。
「…そうか」
「オッタルさんの言う通り僕は弱い。魔道具無しではいきられないほどに」
ごめんなさいリューさん。やっぱり卑下しちゃいます。
「ご注文は何にしますか?」
「え?」
「ここは飲食店ですから、何か注文しないと怒られますよ?」
そう言われて厨房を見ると、なるほど納得。
「好きなの頼め。俺が出す」
「いいんですか?」
「誘ったのは俺だ。それと、何かを掴めた気がする礼だ」
「ありがとうございます?」
「私もよろしいのですか?」
「構わん」
お腹空いていたので丁度良かった。
「フェイ・ハーグ。お前に依頼したい」
「依頼、ですか?」
「~~~」
「御安い御用ですよ」
「感謝する」
その後は、食事を楽しんだ。
アイズは突然戦いを挑む戦闘狂。オッタルは雰囲気が歴戦の冒険者。ベクトルが違うヤバい二人でした。
アスフィさんとも話が合う。オタク友達になりつつある。