魔道具製作者の受難 作:お給料
「勇敢な冒険者よ!君達は今日、オラリオの英雄となる!」
フィン・ディムナの演説によって、中央広場に集められた冒険者の士気が一気に高められた。
「すごい…」
圧巻の一言に尽きる。彼がいるからこそ、オラリオの冒険者はここまで抗えた。そう錯覚するほどだ。
「じゃあフェイ。私達はダンジョンで怪物退治に行くから、ここで大人しくしておくのよ?」
「分かってますよ」
「こいつには前科があるからな。見張ってないとまた無茶をする」
「し、しませんよ…」
「とっとと、あたし達が終わらせればいいだけの話だ。そうすりゃあ、脱走も出来ないだろうし」
「ライラさんまで…」
「大丈夫よみんな。この子には、『勇者』直々の重要な仕事が割り振られているから」
「なら安心ね!じゃあ元気よく行きましょう!」
僕はアリーゼさん達の背中を眺めながら、彼女達の無事を祈った。
「じゃあ僕は仕事に取り組みます。アストレア様はこれからどうするんですか?」
「うふふ。秘密よ」
「すっごい心配なんですが…」
「あらあらまあまあ」
「なんですかそれ!?」
おちょくられた気がする。この女神様は真面目に見えてこういうところがあるからな。
アストレア様に見守られながら、僕はフィンさんのところに向かう。
オッタルさんの依頼はもう終わらせた。あの人は根っからの武人なんだなぁ。まるで向上心の塊だ。
「やあフェイ。手筈通りによろしく頼むよ」
「了解」
「本当に出来るのかい?
「結論から言えば出来ます。ただし、まだまだたくさんの未完成なので、不安があります」
「…君は妙に大人びてるね。もしかして小人族かい?」
「ヒューマンですよ。本を読む機会がたくさんありましたからね。その影響でしょう」
「なるほど」
そんな軽口を叩きつつ、魔道具を揃えていく。
鏡、鳥×3、あとは…
「それはなんだい?」
「これはこの鳥を操る魔道具です。遠隔操作を可能とするには、道端に置いた中継機が必要ですが」
「んー。君はもう、世界一の魔道具製作者だね」
「?ありがとうございます」
「では頼む」
「了解」
僕は起動させた。鏡に映し出されたのは三つの場面。映像が所々ブレるが、問題なく観れる。
「…これはすごいね」
「どうします?」
「敵の幹部の位置を知りたい。欲を言えば、邪神エレボスと『殺帝』ヴァレッタを見つけて欲しい」
どちらも絵に描いて教えてもらった人達だ。ヴァレッタに関しては、直接見たが。
「お!あれですか?」
「あれだね。あとは…モンスター、なのか?」
「ダンジョンの出入口ってバベルだけなんですよね?」
「ああ。あれは外のモンスターか」
「もしかしたら運び込まれたのかも」
「…どう言うことだい?」
「闇派閥はダンジョンにも現れたんですよね?なら、気付かれない場所に違う出入口があるのかなって」
「それは…」
ありえない、と否定出来なかった。これまでの闇派閥の動向。そして今回は、邪神がダンジョンに潜入している。
見張りの目を掻い潜れるのはやはりこの少年が言ったように、
「…君ならどこに作る?」
「
「同感だ。そこに全機送ってくれないか?」
「全機?邪神を見つけていませんが…」
「それは大丈夫。優先事項がもう変わったから」
「…君がうちに来なかったのが惜しいよ」
フィンは聞かれないよう独り言を呟いた。
自分の後進として育て上げれば、ロキ・ファミリアはもっと強くなれる。
自分の親指が教えてくれるのだ。
「霧が深いですね」
「それでいい。闇派閥の団員か、モンスターが現れれば、それを追跡してくれ」
「分かりました」
ダイダロス通りは現在、朝早くだけあって霧が深い。
「君は寝なくていいのかい?」
「はい。朝から次の昼まで、ぶっ通しで作業をしたことあるので」
「うん。ちゃんと寝ようね」
体調に気を配るフィンだった。
~~~~~~~
あれから数時間が経過した。
この最終決戦も、終わりに向かっていた。
「報告です!『猛者』が『暴食』のザルドに勝利しました!現在、[ガネーシャ・ファミリア]が
「収監?」
「は、はい!『猛者』が『暴食』を殺すにはまだ早い。幸いとある少年の魔道具のお陰で抵抗出来ないから、情報を抜き出せるだけ抜き出せる、と言ってまして…」
「とある少年ねぇ…」
「な、なんのことでしょう?それよりパタリといなくなりましたね」
「おそらく勘づかれたな。よし、僕が出る」
「フィンさんが?」
「ヴァレッタにはちょっとした用がある。私怨って奴だね」
「場所は移動して今はここです」
「ありがとう」
「御武運を」
「…本当に子どもかい?」
「?」
フィンは走り出した。戦場を駆ける。目標はただ一人だけ。
「やあヴァレッタ。久し振りだね」
「ああ?フィンじゃねぇか!てめえをぶっ殺してやるよ!そして次はあのガキだ。私の作戦を台無しにしたことを後悔させてやるんだぁ」
「僕に勝てたらね」
ヴァレッタはフィンに迫る。しかし、
「"魔槍よ、血を捧げし我が額を穿て"」
「はっ!てめえの魔法は、力を向上される代わりに、理性を失うものだ!割れてんだよぉ!」
「そうだね」
「…は?」
魔法が完了してすぐ後のこと。失敗して無かったし、ブラフではない。
雰囲気がいつもと違うから。
「ギャアアアア!?」
一瞬の出来事。肩を穿たれた。
「どうやら一周回ると理性を失わないようだ。…俺はお前達を血祭りに上げたい。まずはお前からだ」
「くそっ!やれお前ら!」
ヴァレッタは恥も外聞も気にせず、背を見せて逃亡する。
幸い部下という肉壁が大勢いる。
目論見通り逃げることが出来たが傷が深い。
ヴァレッタはあの小人族に復讐を誓う。
~~~~~~~
全ての戦いの幕が閉じた。
僕はアリーゼさんを待つために、バベル前で待機する。
隣にはアーディさんが一緒に待ってくれている。
アストレア様はどこに行ったんだろう?神の気まぐれの行動と言えばそれまでだが、やはり心配だ。アーディさんも知らないと言っていた。
「あっ、帰って来たよ!」
「本当だ!」
バベルの方に目を向けてみれば、ボロボロになっているがしっかり元気なみんなの姿を確認できた。
リヴェリア様とおじいさん、アイズもちゃんといる。
…ん?
「なんでアストレア様が…?」
「本当だ、いつの間に…」
疑問を浮かべる。
「フェイ!」
「うわっ、アリーゼさん!?」
アリーゼさんと目が合った瞬間、勢いよく抱き着かれた。
「貴方のことをずっと考えてたわ」
「僕もみんなのことを心配してました」
「ありがとね。フェイが家族になってくれて」
「僕もみんなの家族になれてとても嬉しいです」
「美しい家族愛だねぇ」
オラリオには歓喜の声が上がる。これだけで、長かった暗黒期が終了したことが分かる。
「帰りましょう!私達のホームに!」
僕たちは談笑しながら歩き出す。
~~~~~~~~~
おまけ
「ねぇお義母さん」
「ん?」
ある英雄譚を読み聞かせる灰色の髪の毛に黒ドレスの女性と、それを聞かせてもらう白髪の幼い
子どもがいる。
「この人はオラリオにいるの?」
「もちろんいるぞ」
「どんな人なの?お義母さんは今も、この人の師匠をしているんだよね?」
「そうだな。こいつは弱い」
「英雄なのに弱いの?」
「力が全てのこの世界では、間違いなく弱い部類に入るだろうな」
きっぱり断言された。英雄譚が好きなこの少年にとって、複雑な思いに駆られる。
「だがな」
「?」
「誰よりも強かった」
「弱いのに強いの?」
「ああ。こいつはそういう男だ」
「よく分からないよ」
子どもに早すぎたようだ。もっと具体的に説明しよう。
「百回戦って九十九回負ける男だ」
「それはもはや弱いよね…?」
「その一回の勝利を手繰り寄せる才能があるんだ。あいつには」
「…お義母さんはその人のことどう思ってるの?」
「変人」
「ええ…?」
即答だった。
「冗談だ。でも、あいつと一緒に冒険したかったと考えてるよ」
この時のお義母さんの顔は、英雄に逢えたようなヒロインの顔をしていた。
主人公の活躍ないね。
白兎の祖父は、この英雄譚(大衆向けに美化されている)を聞いたとき無茶苦茶だと大笑い。
フェイは、色んな人からの計らいでお店を出しました。従業員の紹介は第壱章から。
アルフィアは従業員になっている。大きな休みをもらっては、甥っ子に会いに行っています。また、フェイの師匠となった現在、フェイが死なないよう鍛えまくっています。元気。
ザルドは従業員兼冒険者。フェイに素材を提供するために日夜、ダンジョンに潜っています。元気。