現代艦隊これくしょん    作:岩波命自

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第二話 名を継ぐ者達

 艦娘艦隊を構成する新たな艦娘が三人着任したという知らせが入り、青葉は南郷と自分と同じ一等海佐に昇進の上で同じ秘書艦職に就いている古鷹と共に出迎えた。

 入室許可を得た新規着任艦娘が南郷の部屋に入ってくると、青葉と古鷹は揃って驚きの反応を見せた。

 驚く二人の秘書艦と南郷に対して、新規着任艦娘三名が着任報告をする。

「こんごう型ミサイル護衛艦こんごうです。よろしくお願いいたします」

「はつゆき型汎用護衛艦はつゆきです。艦娘としてこれからよろしくお願いいたします!」

「はつゆき型汎用護衛艦しらゆきです。よろしくお願いします」

 こんごう、はつゆき、しらゆきの三人がそれぞれの着任報告を入れ、南郷はそれを許可する。

 二〇年前の海洋戦争の時の金剛、初雪、白雪の三人と殆ど顔は同じだ。

 ただ金剛の名を継ぐこんごうは先代と違って喋り方は静かで、落ち着きのある佇まいだ。良くも悪くも母親とは正反対のキャラをしていると言っていい。

 しらゆきは先代の白雪同様実直そうな艦娘だが、はつゆきは先代の初雪と違い根のしっかりとした元気っ子である。

 着任報告を終え部屋から三人が退出した後、青葉と古鷹は新規に着任した三人の艦娘の人事ファイルを読んでみた。

 三人とも母親はやはり二〇年前の海洋戦争で活躍した金剛、初雪、白雪だ。

 特にこんごうの経歴はごく普遍的に母親に育てられたはつゆき、しらゆきとは少し異なっている。

 こんごうは実の母親の金剛と当時の提督が結婚して生まれた艦娘だが、母の金剛が海洋戦争最終盤で撃沈され戦死し、提督もその後深海棲艦の陸上部へ攻撃時に戦死しており、彼女は金剛によって命を助けられた駆逐艦艦娘浦風の手で育てられた。

 先代の金剛とは違って落ち着きのある人間に見えたのは、賑やかで帰国子女と言う経歴からやや片言な日本語が特徴だった母親の影響を直に受けて育っていないからだろう。

 どちらかと言うと育ての親となった浦風の影響を受けている節が青葉には感じられた。ただ浦風の独特な広島弁口調などは受け継いでいる感じは見られない。

 しらゆきは母親である白雪がまんま護衛艦娘として着任し直したのかと思う程に母親そっくりだ。

 一方、ぼそぼそとした口調で普段からやる気のある様に見えない初雪とは真逆に元気っ子となって着任したはつゆき。

 人事ファイルを見ると初雪がしっかり育て上げた女性であり、里親に出されたと言う訳でもない。一見するとやる気のない駆逐艦艦娘に見えた初雪も、自分の娘を育てるとなれば相当にやる気を出してやっていたのかも知れない。

 既に着任しているしらね、あさぎり、はたかぜに加えてこんごう、はつゆき、しらゆきが加わり、これによって一個艦隊が編成できるようになったわけである。

 

「これで艦隊が一つ組めるようになりましたね」

 ほっと安堵する様に言う古鷹に南郷は頷く。

「これからも更に艦娘が着任する、と思うと何だかワクワクしますねぇ。昔を思い出しますよ」

 言葉通り心が躍る表情を浮かべる青葉は二〇年前の海洋戦争の頃に思いを馳せた。

 

 金剛を含む何人かの艦娘は戦死してしまったが、あの戦争を勝利に導いたかつての仲間達の多くは戦後それぞれの道を歩んだ。

 青葉も第六戦隊の解散をもって民間人の身分に戻り、以後二〇年民間人として静かに過ごして来た。

 たびたび開かれた戦友会には出席していたし、回顧録の執筆もして平和になった世界を過ごしていた。

 その平和も、再び現れた深海棲艦によって再び打ち砕かれた。

 艦娘が全員退役していた為、対抗戦力が無く今まで一方的にやられっぱなしだった人類だが、ここからが反攻の時だ。

 

 

 二〇年前の海洋戦争時は日本やアメリカ、ロシア、英国、イタリア、フランス、ドイツ、オーストラリア、スウェーデン、オランダ等の国々から適正ある女性で結成された艦娘艦隊で深海棲艦と戦ってきた人類だが、今はそこへ新たな勢力として中国が加わってくれた。

 既に中国北海艦隊艦娘部隊が編成され、ミサイル駆逐艦艦娘蘭州、海口、哈爾濱、青島、ミサイルフリゲート艦娘徐州、舟山、安慶、嘉興等が続々と着任しつつあり、空母艦娘として遼寧、山東も着任間近だと言う。

 空母艦娘がいない日本艦隊とは、艦隊防空戦力としても運用できる空母を持つ中国艦隊とは何れ共同作戦を行う事になるかもしれない。

 アメリカや英国、ロシア、フランス等の各国でも再び艦娘の新規配備が始まっており、アメリカでは既に空母フォレスタルやニミッツなどからなる艦娘空母打撃群や艦娘水上打撃任務部隊、艦娘遠征打撃群の編成が進められている。

 これまでのところ深海棲艦にいいようにやられている人類だが、反撃の狼煙は既に各地で上がっていた。

 

 

 新たに着任したこんごうら三人の護衛艦娘は、横須賀基地副司令を勤める加古に連れられて基地内の宿舎に向かった。

「皆、顔立ちがお母さんそっくりだね」

 高機動車のハンドルを切りながら、荷台に私物を抱えて座る三人に加古は率直な感想を述べる。

 親は子に似るとよく言うが、ここまで容姿がそっくりになるなんて不思議なものだと加古は二世艦娘達の顔を思い浮かべながら、自分も結婚して子供を作っていたら、護衛艦娘かことして育てていたのだろうか、と心の中で今まで考えた事も無かったことを思い浮かべる。

 容姿は母親譲り揃いの護衛艦娘だが全員が全員と言う訳では無い。しらねやあさぎり等一部は護衛艦娘として初めて艦名を襲名した艦娘もいるし、母親が艦娘ではなかった者もいる。

 それに容姿が殆ど同じでも性格まで同じと言う訳でもない。こんごうとはつゆきを見れば一目瞭然だ。先代の金剛はいつも賑やかでハイテンションな艦娘だったが、その娘のこんごうを見ているとまるで別人である。

 しらゆきくらいだ、母親そっくりなのは。既に着任している艦娘で見れば母親そっくりなのははたかぜとしらゆきだけと意外にも少ない。

「よく言われますが、私は母の事はよく覚えていません……」

 私物を入れたバックを抱えながらこんごうが少し寂しそうな顔で答える。はつゆきとしらゆきも頷くが、事情が事情なだけにこんごうの母親の事は触れない事にしていた。

(まあ、こんごうは母親が死んじまったからな……)

 もう二〇年も前なのか、とこんごうの母親であった戦艦艦娘金剛の死からそれだけの年月が既に過ぎている事に軽い驚きを覚える。同時に、自分も二〇年分歳を取っている事にも気づかされる。

 少し溜息を吐くこんごうに、あ、触れちゃ拙かったかな、と加古が謝ろうとした時、しらゆきが質問をぶつけて来た。

「加古一佐はご息女はいるのですか?」

「いや、ずっと独身さ。第六戦隊で結婚して子供も持っているのは古鷹だけだよ。あたしと青葉と衣笠は独身貴族さ」

「そうですか」

「独り身はいいさ。自分の為に時間が使えるからね。あたしみたいなマイペース女は独り身が丁度いいよ」

 一人暮らしが全く寂しいと思わなかった訳ではないが、昔の戦友達との交流もあったし、加古自身の親戚との交流もあったので意外と独身も悪くは無かった。

 叔母として親戚の子供を預かった事もある。

 青葉と衣笠は自分と同様に独身だが、二人とも自宅の近所の子供と戯れたりしてそれなりに有意義な引退生活を送っていた事はやりとりしていた手紙で分かっている。

 先の戦争後の艦娘それぞれの戦後を加古は全て知っている訳では無いが、少なくとも知る範囲ではみないい生活を送っていると聞く。

 中には自分の様に独身を貫いている者や結婚しても子供をもうけていない者もいるし、子供を授かっても護衛艦艦娘にしていない者もいる。

 先の戦争で提督の秘書艦を長らく務めていた長門は結婚して子供も授かったが、自身の戦場経験から「娘には自分と違う世界を歩んで欲しい」と言う事から自分の娘には軍人職に就く事は許さなかったらしい。

(皆色んな戦後を歩んでいるけど、やっぱり母親と同じ世界を歩みたいって気持ちは湧いてくるもんだよな)

 そう思い浮かべながら加古はハンドルを切り、到着した宿舎の入り口に車を止めた。

 停車した車からこんごう、はつゆき、しらゆきが降りると加古は宿舎の中へと連れて行った。

「ここが、みんなの新しい『家』だよ。護衛艦艦娘に一人一室の個室部屋だ。教育隊で習ったとは思うけど部屋はいつも綺麗にしておくんだよ?」

「はい」

 唱和した返事が三人から返された時、宿舎の個室のドアの一つが開いて中からしらねが現れた。ジョギング出ようとしていたのか、ジャージ姿だ。

「加古一佐!」

 咄嗟に直立不動の姿勢を取るしらねに「そんなに固くなるなって」と制しながら加古は新規着任の三人にしらねを紹介する。

「護衛艦娘隊群の旗艦を務めるしらねだ」

「こんごう、はつゆき、しらゆきだな。私が護衛艦娘しらねだ。よろしく頼むぞ」

 一礼するしらねに対してこんごう達も「よろしくお願いいたします」と答礼する。

「詳しい自己紹介は後で各々でやっておくように。じゃあ、あたしはここまでで」

「ありがとうございました加古一佐」

「加古でいいよ」

 気楽に行こうぜ、と自分の事は呼び捨てで良しと返しながら加古は車に戻ると司令部施設へと戻っていった。

 車を見送ったこんごう達はしらねに向き直る。

「はつゆき型汎用護衛艦艦娘の着任歓迎する。まだうちにはあさぎりしかいなくてな。何でもこなせる汎用護衛艦の数が増えてくれて頼もしい限りだ。

 艦隊の戦友としてよろしく頼むぞ」

「はい!」

 元気よく答えたはつゆきとしらゆきはしらねが差し出した手を握り返した後、宛がわれた自室へと向かった。

 後にはこんごうとしらねが残った。

「……まさか貴女が艦隊旗艦となるとはね」

 

 ややとげのある口調でこんごうはしらねを見据えて言い放つ。明らかに艦隊旗艦を務めるしらねに対して妬みを含ませたセリフだ。

 それもそのはず。しらねとこんごうは艦娘教育隊以来のライバル同士だった。どちらが艦娘護衛隊群の旗艦になるか、で教育隊時代随分争ったものだ。

 こんごうとしては義母である浦風に「艦娘となるからにはお母ちゃんの名に恥じない様に」と言われて艦娘になる事を許されただけに、教育隊時代の努力はしらねも敬服するモノだった。

 結果はしらねが旗艦を任され、こんごうは母親と同じ名を持つ護衛艦艦娘になった訳だが、こんごうは母親と同じ名前の艦娘だけでなく艦隊旗艦の座も狙う野心も秘めていただけに、しらねに旗艦の座を譲った事は今でも根に持っている様だ。

 

「お前の義母との約束果たせているのだからもういいだろう、この話は」

 ため息交じりに終わった事を蒸し返すなと釘を刺すしらねに、こんごうはそうねと言う様に両手に腰を当てて鼻を鳴らす。

「艦隊旗艦の座、しっかり務める事ね。私達の現場指揮官になるのだから旗艦を務めるからには背中は任せさせてもらうわよ」

「こちらこそ、防空は貴様とはたかぜが要だ。ライバル心を抱くのは貴様の勝手だが、現場にまで市場は持ち込まない事を約束して欲しい」

「勿論よ。こんごうの名を伊達に継いだ訳じゃ無いって事を教えてあげるわ」

 そうしないければ義母さん(浦風)との約束を反故にすることになるのだから、と胸中で添えながらこんごうとしらねは視線を合わせるとどちらかともなく互いに手を出して握手した。

 

 

「へえ、しらねとこんごうって教育隊時代はライバル関係だったんだ」

 缶コーヒーを片手に驚く衣笠に、青葉は南郷司令官や人事書類から仕入れた二人の関係について続ける

「教育隊時代は結構話題になっていたみたいだよ。しらねが旗艦になるのか、こんごうが旗艦になるのかって賭けまで行われたって」

「で、結果はしらねさんが旗艦になって、防空艦であるイージス艦娘にこんごうさんがなったと」

「イージス艦艦娘の座だけは絶対にこんごうとしては譲れなかったみたいだね」

「まあ、浦風との約束があったのでしょ? 彼女とは何度か連絡取りあってたけど、『金剛姉さんから預かった彼女に何かあったら顔向けできん』ってよく言ってたわ」

 猛反対を説き伏せて艦娘になったと言うこんごうの話も青葉は聞いている。そして艦娘になるからには母親に誇れる艦娘になれと言われてなったと言う事も。

 長門が自分の娘にかつて自分と同じ軍人としての道を歩むことを禁じたのに通じるものがあるが、こんごうの艦娘になろうと言う意思は固かった。

「明日から護衛隊群編成を組んでの航海練習や模擬戦が始まるわね」

「そうだね。昨日から霞が関とかお役所さんからははやく艦娘を戦線に投入して海上交通路の安全確保に努めよ、ってお達しが来てたよ」

「そうは言ってもね……艦隊運動を始めるとする演習もせずにいきなり戦場に送り込む訳にはいないわよね」

「そりゃあそうだよ。まあ、深海棲艦に海上交通路を良いようにやられているからには早くカウンターパートに立たないと日本の経済がまた落ちぶれちゃうからね」

 先の海洋戦争でもそうだったが、海上交通路が深海棲艦に破壊された経験もあって日本では可能な限りの自給自足体制の整備が進められた結果、今のところ何とか凌いでいると言うのが現状だ。

 とは言え、長続きはしないだろう。元々輸入大国だった日本がそう容易に一〇〇パーセントの自給自足体制を維持出来るかと言えばそうでもなく、既に一部地域で計画停電や配給制が始まっていると言う。

 銃後の人々に苦しい生活を強いるのは心苦しいだけに、青葉達としても早く何とかしなければと言う思いはあった。

 しかし教育隊とはまた別のより実践的な演習が護衛艦艦娘達には必要だ。

 まだよちよち歩きが出来よう様になったばかりと言っていい護衛艦艦娘達を一人前にしなければ、彼女達が生きて帰って来られる保証はない。

「そう言えば、演習指導役の艦娘って誰がやるの?」

「その艦娘なら今日復帰して来るよ」

 衣笠の問いに青葉が答えた時、二人がいる秘書艦執務室のドアがノックされた。

 入室の許可を青葉が出すと、「失礼します」と銀髪のツインテールの女性が入室して来た。

 あら、と驚くような顔になる衣笠に青葉がにやりと笑みを返しながら二人で着任、いや自分らと同様復帰して来た艦娘を出迎えた。

「練習艦かしま、着任致しました。青葉さん、衣笠さん、またよろしくお願いいたしますね」

 青葉と衣笠に敬礼しながら旧練習巡洋艦鹿島改め、名前そのまま新しく護衛艦艦娘達の指導役として復帰し練習艦艦娘となったかしまがニコリと笑みを浮かべる。

 青葉と衣笠と同じ制服に身を包んだ鹿島の胸元には練習艦徽章が輝いていた。肩章を見れば二人と同じ一佐の階級章が付いている。

 軍人としての現役復帰艦娘は総じて一佐へ昇進するのだろうか、とちょっとした疑問が青葉の中で湧く。

 個人的な疑問を浮かべている青葉に代わって衣笠がかしまに尋ねる。

「鹿島さんも復帰を? しかも練習艦かしまとして?」

「はい。でもお二方と違って私はまた海の上を征く艦娘としての復帰です」

 昔ながらの元気のいい声で衣笠に答える鹿島もといかしまだが、やはり彼女の顔にも自分らと同様二〇年分の老けが入ってはいた。

 それでも老いてまだ若々しさありと言える。

「護衛艦艦娘の指導役、頼みますよ」

「お任せです。ロートルと若い子に下手に見られない様に頑張ります」

 微笑みを浮かべながら青葉はかしまなら大丈夫だろう、と安心感を覚えると同時に、自分達とは違って現役復帰を果たせたかしまに少し羨ましい思いを覚えた。

 練習艦と言う前線に出ない艦種なら旧艦娘でも現役復帰は問題無いとされたのだろう。二〇年前の海洋戦争時代既に二線級重巡扱いだった六戦隊と事情は違うと言う事だ。

 六戦隊の元艦娘と元練巡の艦娘の五人で新しく始まる艦娘達を見守っていくと思うと、青葉の中で感慨深さが湧いてくる。

 感慨深さがあると同時に、また若い艦娘が戦場に赴く事へどこか後ろめたさも湧いてくる。

 自分達を昔指揮していた提督たちの気持ちが今になってわかる気がしてくる青葉だった。

 

 

 翌日、南郷や青葉、衣笠、古鷹、加古、鹿島が立ち合いの元、しらねを旗艦とする第一艦娘護衛隊群が正式に編成され、二〇年ぶりに日本に艦娘艦隊が編成された。

 第一艦娘護衛隊群のメンバーであるしらね、こんごう、はたかぜ、あさぎり、はつゆき、しらゆきを前に南郷は軽く訓示を行った後、一言言って締めた。

「皆の命、決して失わさせはしない。以上だ」




※本作の護衛艦艦娘こんごう本人を描いた事実上の外伝作品となる「母の名を継いで」もよろしくお願いします。

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