ヘクトールとぐだ男の短編まとめ3   作:なまきいろ

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温かに君と

 ヘクトールの部屋でベッドを借り、眠り、目を覚ますと必ずホットミルクが差し出される。

 毎回まだまだ眠気が強い状態で何とか起き上がるとほぼ同時に。ちょうどいいほかほかさで。

 それをちびちびと口にしながら雑談を交わしゆっくりと脳を覚醒させていく。

 直隣の管制室で今もせっせと働いている人たちの邪魔にならないように静かに密やかに。

 そんなささやかなひとときをしかと噛み締め胸の奥に幸福と染ませて礼を述べて部屋を出る。ただそれだけで身体も足取りも不思議なくらい軽やかになれていた。

 ……不思議なことと言えば。いつ生じたかは覚えていない疑問を何度となく彼は思い返す。

 ヘクトールは何故自分が起きるタイミングが分かるのだろう。

 渡されるミルクがいつもちょうどいい温かさなので不思議なのだ。

 そろそろ起きるタイミングを逆算して作っているのだろうというのはまあ分かる。しかしやはり毎回ちょうどよく出来ているのはおかしい。

 寝ている時間が一定なのだろうか。毎回ではないが時計は確認しているのでそれは違う。寝相とか寝言とか、分かりやすい予兆があるのだろうか。ドクターにそれとなく尋ねてみれば「寝てる時の君は静かでおとなしい分類に入るしバイタルでも見てなきゃそんなの分かんないよ」と「そんな話知りたくなかった」と言わんばかりの顔で返された。

 サーヴァントには何かそのような能力があるのだろうか。プロトクー・フーリンやカルナに聞いてみても首を振られるだけ。カルナのほうは他にも何か言いたげであったが寸でのところで止められてしまっていた。マシュもまた「私もそれくらい先輩のことは完璧に把握出来るようになりたいですね」と口にしていたがそれも「やめておけ」と止められていた。

なのでこの温かなミルクはヘクトールだからこそ出来る芸当なのである。流石と言うべきか才能の無駄遣いと言うべきか。

 せっせと働いている管制室の皆の後ろの給湯コーナーでことことミルクを温めているヘクトールを想像するのは面白いけれど、それが呑気に寝こけている人間への差し入れと思うとやはり申し訳ない(食堂から管制室までは遠いので温めたミルクも運んでいる間に冷めてしまうだろうから管制室の給湯コーナーで温めているとする)。きっと冷蔵庫にも自分の名前が書かれたミルクが置かれているのかもしれないと思うと恥ずかしさも強い。予測が確定となったら皆が何を言うのか分からなくて恐くて恥ずかしいのであの冷蔵庫は開けないと決めている。知らなければ知らない振りをしてくれるのだから、全力で甘えるまでだ。

 「どしたマスター。変な顔になっちゃって。具合悪い?まだ眠い?」

 「……眠いには眠いけど」

 寝ぼけた頭で宛のない思考を蛇行させる面持ちを不思議そうに覗いてくるヘクトールに彼は一口ミルクを飲み、言葉にする。

 「温かいなと思ってただけ」

 

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