旅の途中で夜を迎え、比較的安全な場所を見付けて野営を張る。何度となく繰り返してきたその時間を彼はとても好んでいる。
共にいるのは歴戦の英雄たちだ。いくら作戦行動中であれど四六時中気を張っているわけではない。むしろ適度に力を抜いて余計な疲労はしないように努めている。それは戦闘慣れしていない彼にとってとても助かる配慮でもあった。
しかしそれでもわずかに感じられる張られ続けている臨戦態勢を感じていないわけでなく。それらが夜に溶け皆で火を囲う時間を愛しく思ってしまうのだ。たとえ自分から発言をすることはなくともこの暖かな空間にいられることが幸せでたまらなくなるのだ。
……まあ、昼より視覚が制限される夜のほうがサーヴァントたちにとっては緊張が強いのだろうとは分かっているのだけど。
「マスター疲れてるんじゃないかい?もうテントで休みな?」
「……んんぅ、平気だよ」
皆との柔らかな空気に身を委ねている中で優しい声が聞こえる。が、彼はゆっくりと首を振る。
自分が皆と違い生身の人間であり、皆にどうにかついていけるよう付け焼き刃を重ねているだけである以上早々に休むべきなのは分かっている。今日の疲れが全身に巡っているのも分かっている。分かっているのだが、今があまりにも楽しくて。もう少しもう少しだけと終わりを延ばしてしまう。
「でも、眠いだろ?」
「…………へいき。ここいる」
「……まだいたい?」
「ぅん……」
「じゃあカップはオジサンにちょうだいな。空だから新しいのいれたげる」
「………………ありがと」
「うん」
隣に座るヘクトールが彼の手の中で危うく揺れる半分以上入った茶が入ったカップを貰い、その隣に座るマタ・ハリにそれを渡す。それからうとうととひとり舟を漕ぐ彼があらぬ方向に倒れぬように引き寄せ手を握る。
わずかに漂う煙草の匂いが強まり、手の感触に気付いたのか。半分より閉じかかっている瞳が嬉しそうに揺れた。
火を囲う仲間たちが談話をやめてその様子を無言で眺めていることを彼は気付かない。
「マスター今日もお疲れ様だったね」
「……んんぅ、でもみんながいるから、いてくれるから、」
「嬉しいねえ。そんなに大事に思ってくれるなんて」
「…………こんなときだけど、みんなとまたあえたの……、うれしくて……」
「うん」
「こんなにずっとみんな…………と、はじめてで………………」
「うん。……うん、」
「だから…………わた……は、」
「……………………うん」
無意識から溢される朧に泳ぐ言葉もやがて途切れ、かろうじて繋がれていた意識の糸が溶け落ちる。それと同時にヘクトールの胸へと落ちる彼の頭を受け止め背を撫でる。
「じゃ、マスターテントまで連れてくわ。朝までよろしく」
「おう。頼まあ」
そして完全に寝落ちた彼を抱えて立ち上がると同時に張られていたある種の緊張感は弛緩する。
静かに穏やかに流れるいつもの夜だ。
『……あー、我々は今何を見せられたのかね』
『日常風景ですよ』
しばらくしてから気まずいものではない沈黙を割くように気まずげにゴルドルフは問い、隣のマシュは事も無げに返答した。