レイシフト先で歩き回りたどり着いた海は穏やかに輝き天気も最高。敵性も今のところ見受けられず今後の方針については管制室の首脳陣による要会議につき現場のメンバーはしばしの待機命令が下ろされる。
ならば遊ぶべきではないだろうか。
誰からというわけでもなく総員で目を光らせ水着に早着替えて我先にと海へと飛び込んでいく。
切り替えが早いのは結構。きっと管制室から連絡が来たら同じくらいの速さで集まってくれるだろう。しかしはて、自分たちは一体何をしにここまで来たんだっけ。そんな思いにもなりながらヘクトールは近くの古びた小屋へと退避する。薄手の木の壁は朽ち始めていくつか穴が見受けられる。だが柱や屋根や床はまだしっかりしているので待機場所には丁度いいだろう。敵性は感知されていないとはいえ警戒番も連絡番も必要だ。
やれやれと腰を落ち着けすき間から入りドアのない出入口へ抜けていく風に身が撫でられる。その間を縫って聞こえる波とはしゃぎ声に耳を傾ける。正しく平穏無事。いい空気だ。
「ぶええええええ。疲れた疲れたもう年だーーーーー」
「早くない?」
色んな意味で。
ひとり静かに嗜んでいた休憩時間が一時間と経たずに破られる。
小屋の主と化していたヘクトールより一回りは確実に若い少年が雪崩れるように倒れこみ、苦笑う。
それに少年は隣で悪びれる様子もなく仰向けになる。汗だくで息も荒いところに彼なりの奮闘の後を感じる。
「いやーーー、ほんと……、無理だって。自分も遊びたいし出来るだけ付き合いたいんだがな?皆も合わせてくれているのは分かるんだがな?限界値はどうしたって低いんだ」
「完全に潰れる前に逃げてきただけ上々でしょうなあ」
一応作戦行動中であるわけだし。
とりあえず起き上がれるだけの体力を戻した彼に水を渡せばありがたく飲み下し始める。大きく何度も喉を動かした分を大きく吐き出し脱力したところでようやく一段落といったところか。いくらか間を置いてから再び彼は口を開く。
「あーーーーーーーー、年だ」
「早くない?」
言いたい気持ちは分かるけど。
むしろ今が最盛期でしょうに。
相反するふたつが混ざりあいながらヘクトールは苦笑う。
しかしそんな軽口を言えるのも今だけなのだ。また作戦が始まれば何の文句も言えなく言わなくなるのだ。言いたい時に言わせておいてもいいだろう。それもストレス発散のひとつだ。
身体を丸め膝を抱えてその上に頬を置いて穏やかにくつろぐ彼の髪がすき間風によって揺れている。
「いいねえ、こういう……。潮騒が聞こえて皆の声が聞こえるの。すごく好き。平穏無事って感じ」
「……………………」
「幸せってやつだねえ」
「……………………ふっ」
そのしみじみとした物言いが妙にヘクトールの中をくすぐるものだから思わず吹き出してしまい
「マスターも年だねえ」
「にゃにおう」
自分で散々言っていたくせに他に言われると聞こえが違う。そうガキくさくカチンと目くじらを立てる彼に構わずヘクトールは小さな小屋に笑い声を響かせていた。