ヘクトールとぐだ男の短編まとめ3   作:なまきいろ

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見えぬ野次馬にご注意を

 ある日いきなり図書館が増えた。

 カルデアには元々図書館はあるのだ。作家系のサーヴァントたちはそこを巣のようにしている非常に使い勝手のいい図書館が。暖炉との薄暗さの調和が素晴らしく彼も好んで利用していた。が、それとは別に図書館が出来た。あの図書館も蔵書数が相当であったが新しい図書館はその規模を遥かに越えている。はじめて見たときは圧巻の一言であった。

 広大な空間に世界全ての書物を集めたかのように並ぶ棚に詰められた書物の数々。それが一階どころか二階にまで広がっている。一生かけても読めないだろうし読む気にもなれない。ただただ感嘆の息を漏らすしかない光景であった。そしてこれらをサーヴァントとはいえたったひとりの女性が管理しているのだから恐れ入る。

 その物珍しさと一応マスターという立場故に野次馬半分視察半分な気持ちで彼は図書館に訪れる。

 「よお、マスター。奇遇ですね。いきなりすげえもんが出来たもんだな。俺は昼寝にちょうどいい暗さだなあと思ってみてましたが、マスターは何か引かれる本はありましたかい?」

 とこれまた野次馬仲間を見つけたように手を振ってくれるロビンに手を振り返す。雰囲気自体は気さくなものであったが、ロビンの気質を考えればまず間違いなく偵察であろう。真面目な人だ。

 またそういうつもりで見渡せば、いかにも本が目当てでなさそうなサーヴァントがあちらこちらにちらほらと。カルデアはホームなのだからもっと気楽に過ごしてほしいという気持ちもあるのだけど……。まあ状況や性分を考えれば仕方なしであるし、こうして足を運んでいる彼自身もまた人のことを言えないもので。まあ、お疲れ様ですの心だけ持って薄暗さを保つ奥へと進んでいくのであった。

 「…………とわあっ!?」

 そこへいきなり肩を掴まれ棚と棚の間に引き込まれる。

 いつもの事件が始まる魔力的引力で魂ごと持っていかれる感覚でなく、もっと単純で物理的な、

 「んっ!」

 「マスター、ここに来る時は単独禁止ね。必ずひとりでいいから付き添いを頼むこと」

 「ヘクトール!?」

 背に走る衝撃に顔を上げれば馴染みの顔がそこにいた。

 いつも通りゆるやかに笑って、瞳の奥に至極真面目な色を携えて。

 言われた言葉を頭に染み入らせながら彼はゆっくりとあたりを見回す。

 図書館の広さと物量に圧倒されながらなんとなしにここまで来てしまったが、均一に整然と並べられているとはいえこの薄暗く隙間の多い空間は確かに危険と思えば危険かもしれない。初期警戒としてサーヴァントたちが黙って集まるわけだ。現にこうしてヘクトールに捕らわれ身動きが取れない。誰かに気付かれている様子もない。ヘクトールだから良かったものを……。

 それにしてもヘクトールもこんなに早く視察に来ていたのか。しかもいの一番に忠告までしてくれて。やはりというか流石というか。

 呆けながら納得で身に染みて首を縦に振る彼にヘクトールは目を細めて笑い

 「なあにマスター。キスしてほしそうな顔しちゃって」

 「ぶえっ!?」

 わずかに緊迫していたはずの空気がたった一言で瓦解した。

 突然の話題転換についていけずに真っ白となる彼に意地悪く笑う。その笑みに彼ははくはくと口を動かした後、

 「しっ……………………して、くれるの?」

 「うん?」

 頬を染めた上目遣いに今度はヘクトールが固まる羽目になる。

 様々な意見はあるが一応彼らは両想いであり交際中である。それくらいのふれあいはあって当然と言えるだろう。しかし彼を慕う仲間たちの手前、というのもあるが、彼の魔術回路にはいくつかの捻れがあり粘液による魔力供給には痛みが伴う。修正しようにもなかなか難しい事案らしく放置されたままだ。礼装を介する場合はスタッフがその捻れ部分は除いて回路を用いるのだが、それがない直接供給となると……。彼を何よりも大事に想うヘクトールが躊躇うのは当然であるだろう。

 それでも。と彼は思う。

 自分の特性とヘクトールという存在の性質上絶対に起こる痛みであるならば、それも自分の恋であると刻んでいきたい。そう思っているから。

 「…………………………………………いや、んーーーーー、」

 覚悟の上で見上げる彼とは裏腹にヘクトールの顔は渋くあちらこちらと視線は泳ぎ

 「…………今度ね」

 「……………………ぇぅ」

 いかにも『するには人が多い』と言いたげな引きつった苦笑いと共に発せられたお断りに、彼も気まずげに視線を泳がす。が、やはり彼ではそれらしい気配を感じることは出来なかった。

 

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