リビングに灯りもつけずにテレビに電源をつけソファーに腰をかける。
流れているのはスタジオ内で芸人たちが何やらにぎやかにしているバラエティだ。正直誰が誰だか分からないし内容も興味を引くものではない。大学の友人たちに何人か教えてもらった者もいる気もするけれど……。どうだったろうか。けれどそれで良かった。とにかく何でもいいから外部から刺激が欲しかっただけだから。
それならば自室のPCで動画でも見ればいいのでは。そう思うところはある。わざわざリビングまで出てくる必要はないだろうと。強く強く思うのだけど。
「マスター。眠れないのかい?」
「……うん。ちょっとね」
ほら。機微に敏感な同居人がすかさず顔を出してきた。これじゃあ構ってほしさにわざとらしくアピールしてるみたいじゃないか。みっともなさと恥ずかしさで死ねる気まずさに眉を寄せる。
しかし当のヘクトールはというとそんな彼の様子に気にする素振りも見せずにキッチンへと向かう。そしてふたり分のミルクを手にして彼の隣に座り片方を手渡す。
「よくあること?」
彼がミルクを一口飲んでから、ただ優しく寄り添う言葉に小さく頷く。
「いや、だが……、んんぅ、そこまで頻繁にあることでもないんだ。月に何度も、というものでもない。別に強烈に何かを思い出すわけでもなく、傷が疼くわけでもなく。なんとなく、眠れなくなるだけなんだ。頭の奥でぼんやり音が鳴っているのが妙に気になって、どうしようもなくなるだけの時が」
「へえ。まあ生きてりゃそんな日もあらあなあ」
「うん。そんな日があるだけ」
本当に、ただそれだけの話だからそれ以上に明瞭には話せない。非常にぼやけた話で申し訳ない。そんな様子の彼に合わせてヘクトールもまたそれ以上聞きはしない。ただ黙ってミルクを飲み隣に座っていてくれる。その優しさが心地いい。
なんと優しく甘く、都合のいい存在であるのだろう。
自分にはもったいなさすぎるあまりに出来すぎた存在だ。長い夢を見ているのではないかと思ってしまうほどに。ひとり戻ってきた現実の寂しさのあまり見ている幻なのではと思うほどに。いつかふと目を覚ました時にはあの日のない湿った古びたアパートでもおかしくない。なんて。怯えてしまっているほどだ。そう思うのもまた贅沢な幸福と言えるのかもしれない。
暗がりで瞬くにぎやかなバラエティだけを光にゆるやかにゆるやかに時は過ぎ意識は重くなっていく。ヘクトールの方へと身体は傾いていく。
「眠れそう?」
「……んぅ、だから、傍にいて」
「お望みのままに」
寄りかかる重みに合わせて尋ねられる言葉に甘えれば、その通りに優しく包むような了承を授けてくれる。
ああ、やはり。自分にはなんて過ぎるほどの、