戦闘が起きれば誰も予期せぬ事態というのは当然起きる。
たとえばサーヴァントたちの激しい戦闘で戦場の地盤が崩れるだとか。
それにマスターが巻き込まれて落ちるとか。そういう事態が。
もしかしたら管制室側で先んじてチェックを入れていれば防げていたかもしれない。
しかし相手とてこちらの事情に配慮した場を選ぶわけがない。まあ相手としても場が崩れるのは不測の事態だったかもしれないが、とにかく巻き込まれたのはこちらのマスターで真っ逆さまなのであった。
「…………んんぅ、ぐぅ」
「動かないほうがいいぜマスター。頭打ってるかもしれないから要安静。このまま帰還して即検査だと」
「……ぇえ?」
戦闘の最中なのだから倒れている場合ではない。すぐにでも立ち上がり戦線に復帰せねば。
反射のように身体を起こそうとするも、微動だに出来ないほどの力で頭と身体が押さえつけられている。
「しかし戦闘……聖杯、」
「戦闘は終了。聖杯は回収済み。皆てきぱき働いてくれたってさ。優秀だねえ」
「おお、流石……」
ならば無理して動く必要もない。安心してこちらの頭を抑えるヘクトールの手に甘えて胸に埋もれる。いきなりの落下に思考が止まって全く気付かなかったが、すぐさま追いかけてダメージがないよう抱えてかばってくれたのだろう。感謝と申し訳なさが同時に押し寄せる。
……しかし。最初からヘクトールが守ってくれていたなら一体どのタイミングで頭を打ったかもしれないとドクターは危惧しているのだろう。心配性な人だから万が一と思っているのだろうけど。
「ヘクトールの肋骨と胸筋ってぶつかったらオレの頭は危ないの?」
「ええ~?だとしたらオジサンどう責任取ろう~?」
ぼんやりとした頓狂な発言にヘクトールもゆるりと合わせる。聖杯の回収と帰還シフトの作業に取りかかっている管制室にツッコミを入れる余裕はない。
「責任なんていいよ。一緒に世界を救ってくれるなら」
「はいよ。それじゃあ全力を尽くしますかね」
「よろしく」
瓦礫まみれの空洞にとぼけた会話が響き、静寂が訪れ
「……………………血の匂いがする。ヘクトール怪我した?」
「マスターが近くにいるから直ぐ治りますよ」
自分に痛みはない。自分に痛みすら感じられない負傷をしているのならば周りがここまで落ち着いているわけがない。ならば候補はもうひとりしかいるまい。
この瓦礫の山にマスターを傷付けまいと飛び込んで庇って落ちたのだ。いくらサーヴァントとはいえあらゆる場所が切れて折れていても不思議ではない。そして、サーヴァントの生命線であるマスターが近くにいれば回復も早いというのもその通りで。あるのだが……。
「なんとお詫びして責任を取れば……」
申し訳なさはそのような事実たとは関係なく襲ってくるもので
「別にいいですよ」
しかし先の彼と同じくヘクトールもまたとぼけた声で言葉を返す。
「一緒に世界を救ってくれるなら」
「……なるほど」
ヘクトールの胸に埋まり鼓動と共に聞こえる言葉をしかと受け止め
「それじゃあ全力を尽くしますかあ」
「頼みますよ」
とぼけた声が再び空洞に響きやがて「どこから物を申せばいいのか」という困惑が混ざった『それじゃあそろそろ帰還するよ』というドクターからの通信がふたりに届いた。