今日召還したサーヴァントはどんな英雄なのかとか。
昨日特異点で出会ったサーヴァントは何を為したのかとか。
歴史方面には明るくない彼のために時にはドクターが、時にはダヴィンチが、時にはたまたま手の空いている職員が、時には当の英雄直々に、座学が開かれ知識が詰めこまれていく。
その全てを覚えていられるわけでもないけれど、それでも少しでも多く覚えていなくてはとペンを走らせ文字を追う。
しかし、しかしと彼は思う。ペンの尻で頭を掻いて眉を寄せる。
「なんかピンとこない」
「と、言いますと?」
「んんぅ……」
図書室の片隅で自習に耽る彼に付き添うヘクトールが問う。その柔らかい声は彼の周りを漂いうにゃむにゃとそれを返そうと言葉を探す。
「んぅ、皆を疑ってるわけでもないしここで嘘を言う理由なんてないし、実際見てるからそうなんだろうなあとは分かるんだがな。だが本当に皆が授業や本に書いてることをしてきたんだと思うと、身近な存在になってしまったが故の、想像力の、限界が……」
「なるほどねえ」
戦場に出れば必然的にサーヴァントたちの実力を知ることになる。
だから彼が言うとおり疑いはしていないのだ。実際彼らは海を裂き山を砕き単独で大部隊を壊滅させてきたのだろう。
しかし出てくる話出てくる話の規模の大きさに付いていくのが難しい。いかんせん彼は歩んできた道は魔術とも戦いともほど遠い平和な国の平凡な庶民。国をまとめた軍を率いた多くの民を導いた、挙げ句にその大衆の中で大々的に罪人と吊るされ処刑されて亡骸すらも晒されていたなど、実際にそのような体験をした人がいて目の前にいるなど、想像の範疇を大きく越えているのだ。協力していただく相手のことだから知る必要はあると勉強は重ねているものの、ものの…………。なかなか脳内で目の前にいる人と功績の一致がしづらく……。難航している。
「まあいくらそれを為した人物とはいえ召還された状態によってはその部分が薄かったりしますしね。仕方ないところもあると思いますよ」
「そうだろうか」
重ねて言うが信じていないわけではない。だからこそ悪いと思うのだ。
そして彼としてはもう少し相手に対して実感が持てる知識が欲しいと思っているところもあり
「もっとこう、身近な感じでというか……ああ、この人はこうして生きてきたんだなあって思えるような……。そうだな、安直であるが好きな食べ物だとか小さい頃に何をして遊んでいたかとか。家族はどういう人たちでどんな風に接しあって過ごしていたかとか。……ま、それも時代も国も違うから聞いたところでピンとこないままの可能性もあるけれど」
「随分とスケールを落としましたなあ」
言いたいことは分かるけれど。
しかし彼のために開かれている授業というのはサーヴァントを戦力として運用するにあたって必要とされる知識を学んでもらうための場である。なので彼の仲良くなりたいがために求めるそれとは趣旨が違うもので。プライベートでやってくれという話になってしまうのであって。
悪い子では決してないけれどマスターとしてはやはり少し先が思いやられる。まあそのあたりのフォローをするのもサーヴァントとしての役割でもあるのだが。
やれやれと内心で息をつくヘクトールに彼は顔を上げる。
「ヘクトールは、どんな食べ物が好き?」
「ん?」
「小さい頃は誰とどんなことして遊んでた?」
「それは……」
思い付いた時に思い付いたように行動する気がある子とは思っていたが。まさか早々に矛先が向くとは。
少々面食らうヘクトールに彼は構わず続ける。
「その時ヘクトールの国ではどんなことが流行っててヘクトールはそれに乗っちゃうタイプだった?」
「うーん、そうだなあ、」
トロイアのこと含めて知りたいと言われるとなると、断れる道がなくなってしまうではないか。彼という少年はこういう不意打ちを繰り出してくるから油断がならない。
これはそういう切り口の授業だと考えて話した方が良さそうだ。ヘクトールは目を輝かせて回答を待つ彼のためにくるりと思考を巡らせ話を組み立てる。
「そうだなあ。まず食べ物の話となるとまずトロイアの基本気候からになるんですがね、」