ヘクトールとぐだ男の短編まとめ3   作:なまきいろ

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睡魔には勝てなくていい

 今日の図書室はなんというか殺伐としていた。

 世界全てが焼けている中、どこから提示されているのかも分からない締め切りに迫られ作家たちが鬼気としてペンを走らせていた。

 邪魔をする気は毛頭ないが、この空気の中でのんきに勉強をする度胸は流石にない。

 だから必要な資料だけ抜き出し空いている部屋で勉強をしようと思ったわけだが、

 「ごめん藤丸君!システムバグっちゃってる!すぐに直すからちょっと待ってて!」

 使った空き部屋に閉じこめられてしまった。

 爆破で滅茶苦茶になってしまったカルデアを生き残った一握りだけでどうにか回しているのだ。そんなこともある。騒いでどうにかなるわけでもないし騒げば逆に集中力が阻害されて出るのが遅くなる可能性もある。それに本当にどうにもならなかったら後ろに控えるヘクトールか誰かサーヴァントがドアごと壊してくれるだろう。「了解」の一言と共に彼は待つことにする。

 ドクターも本業じゃないのにすごいなあ。何度だって彼は様々なシーンでつくづくにそう思う。

 そんな彼らに再びひとつ通信が入る。

 「うーん、これは時間がかかるやつだなあ。一時間くらい。のんびり手でも繋いで待っていてくれたまえよ」

 なんの話やら……。

 万能の天才のことだ。ちょっと茶化して気を紛らわせてくれているのだろうが……。

 「…………了解」

 「うん?」

 なんだかなあ。という顔をするヘクトールの手にあたたかな感触が。「なんで?」の一言に尽きる。

 「マスター。そこは律儀に言うとおりにしなくてもいいんですよ?」

 「でもだうぃんちちゃんがつないれろっていうし」

 「さてはマスター限界ですね?」

 口振りが覚束なってきている彼に確認を取れば緩慢に首を振られる。が、どう見ても限界だ。半分まで落ちた瞳が完全に死んでいる。首が揺らめき座っていない。おそらくもうしばらくしたら立ってもいられなくなるだろう。

 慌ただしく走り回り合間にも訓練だ勉強だと詰めこむ生活が続いているのだ。このようなふとした空きが出来た瞬間に一気に疲労が押し寄せても不思議ではない。

 「ま、待つ以外出来ないんだ。開くまで寝ててもいいんじゃないか?」

 「でもみんなはたらいて……ねることたえるしごともできないなんて……」

 「そんな仕事ありゃしないよ。眠い時は5分でも寝たほうが身体にも頭にもいい。ほらこっちで座って横になって。オジサンの固い膝しかないのは申し訳ないですがね」

 「…………………………………………ぅゅ」

 強制的に横に倒せば1分と経たずに意識が落ちる。最早眠ったというより気絶したに近い。

 それでも掴んだまま離れない手は握ったまま空いてるもう片方で髪を梳かすように頭を撫でる。

 寝顔がとても幼くあどけない。

 

 こんな子供が世界を救うために戦っている。

 どうなっているんだ人類史。

 だから焼かれた。

 ごもっとも。

 

 「ごめんねお待たせ。……って、藤丸君寝ちゃった?」

 「ちゃんと部屋まで送るんでお構い無く」

 暇をもて余して巡る思考がドアの開く音と通信の声で打ち切られる。

 もう走り出してどうしようもない事案にぶつくさ文句を募らせてもしょうがない。すぐさま切り替えて眠ったままの少年を抱き上げる。それでも目を覚まさないとなると余程疲労が溜まっていたようだ。なんとか己の疲労具合も把握出来るようにしてやらねば土壇場で倒れて惨事になりかねない。課題は山積みだ。

 「送ってくれるねはありがたいけど、起きないのをいいことにイタズラなんてしちゃ駄目だぜ?」

 「するわけないでしょうよ」

 そんなこちらの気苦労を察している上で茶化しにくる天才に呆れた息を大げさに吐く。

 「こんなガキに手ぇ出すなんて、どう考えても世の終わりでしょうよ」

 ……………………その心情が、後のヘクトールに斬首台の上に自ら赴くような重みになっていくことを、この時はまだ言った本人すらも知らなかったのだ。

 

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