今日レイシフト行きたくないな……。
それが起き抜け第一によぎった思考であった。
そしてやる気がなければ身体もついてこないもので。どうにも重くて上手く動いてくれない。このままうずくまってもう一度寝てしまいたい。
しかしそうもいかないのが現状というものだ。レイシフトには多大な費用と労力がかかり状況は常に待ったなしなのだ。やる気がないからはいそうですかで代わりの人を用意してもらえるわけではないのだ。むしろ代わりの代わりの代わりの代わりである自分しかいないから今なのだ。そんな自分でもなんとか成り立つようにフル回転支援してもらっている今なのだ。甘えていられる要素などどこにもない。
軋む心身を必死に奮い立たせてベッドから這い出てレイシフト用のスーツにだらだらと身を包む。
どこまでもやる気を出してくれない己の脳と身体が憎らしい。
たかだか5分しかない管制室までの道が酷く長い。足が重い。
しかし事態が流れてしまえば気分も身体も乗ってくれるハズだから。そういう風に人は出来ているハズだから。命がかかればやる気がないなんて言っていられなくなるのだから。
止まらなければ自分はそれで……。
だというのに
「中止」
「延期」
「無理なら無理って最初から言いな?」
「司令官作戦組み直して」
「ぅええええええ!?」
管制室に着いた途端に同じく召集をかけられた全員が冷めた瞳で口々に告げてくる。
「オレそんなにやる気ないように見えた!?大丈夫だよ!?やれるよ!?」
「はいはい。そういうのいいから」
「今すぐ医務室にサンソン殿を。出陣がないのなら私の電力を回して構いません」
「こういう時は馴染みの食事がいいよね。確かお米の在庫は……やっぱり藤太呼んだほうが」
「いや藤丸君の主治医は僕なんだから診るのは僕、」
「だーからてめえは作戦の立て直しがあるだろうが」
そんな即座に切り捨てられるほどかったるそうに見えたのか!?
慌てて取り繕おうとする彼には目もくれずに話は進行していく。
場はすっかり解散ムードだし牛若は早々に霊体化しブーディカはおそらく食堂へと足が向かっている。慌てて彼に駆け寄ろうとしたロマニはプロトクー・フーリンに首根を掴まれ、ダヴィンチや数名と奥へと消えていき
「ねえヘクトール!ちゃんとやるから!やれるから!」
「そんなナリでよく言うよ。駄目なもんは駄目なの。聞き分けなさい」
「ヘクトール!」
何がなんだか分からないまま担ぎ出され、暴れるもままならないまま医務室に連行された。
その3時間後。
「マスターマシになったー?薬効いてるー?おかゆ食べれるー?」
「……………………うん」
朗らかな笑顔と共にやってきたヘクトールに彼はのろのろと身を起こす。
眉間に皺が寄り目は虚ろであったが顔色は朝よりかはいい。余裕を持って3日くらい寝かせておけばいいというあたりだろうか。管制室での緊急調整でもそれくらいの見積りであったし。きっと明日にはまた万全になったからいけると元気にごねだすだろう。しかし長期の作戦において正念場以外での短期な無茶は命取りでしかないのだ。尚も不服そうな顔でいる彼を流すようにへらりとヘクトールは笑い続ける。
「まあそう拗ねなさんな。まだ手遅れじゃないんだから休んでおきな。ほらあーん」
「…………あー、ん」
「……………………ふーふーする?」
「……いや、ちょうどいい」
「ふ、ふぅん……?何かおかずいる?」
「……いや、そこまでは」
「う、うん……」
機嫌、悪いんだよな……?
持ってきたおかゆを差し出されるまま口を開く彼にヘクトールの笑顔がわずかに固まる。
やはりどこぞを睨み付けるように眉間に皺は寄っているし目は合わせてくれないし、機嫌は悪いように見えるのだが。まあやる気満々で管制室に訪れたのに医務室に押し込まれたのだからそれで仕方ないとも思うのだが。
解説を求めるようにサンソンに目を向ければ穏やかに言葉が返ってくる。
「自分に熱があると分かってないまま連れてこられてパニックになっていたので。今は熱冷ましと一緒に飲ませた安定剤が強く効いていて半覚醒状態なのかと」
「10になる前のガキじゃないんだから……」
元から己の身体の機微に無頓着な性格なのか気付けないほど思い詰めているのか両方か。
何にせよ、どこを切り取っても危うい子供が世界を背負わされている現状がどこまでも笑えない。危うく盛大に吐き出しかけるため息を寸で飲み込む。
そのあたりは言葉にせずとも同意なのか。サンソンもまた全ては表に出さずただ穏やかに曖昧な顔をするばかりだ。
「折角だ。嫌がっていないなら最後まで食べさせてあげたらいい。なんなら子守唄に添い寝もつけるかい?」
「流石にこのベッドじゃ狭すぎるデショ。ほらマスターあーん」
「あーーー……」
そういう冗談も言うんデスネ……。
生真面目そうな風貌のフランス男の意外な一面にヘクトールは再び笑顔を引きつらせ、おそらくほとんど聞こえちゃいないだろう彼は虚ろな瞳のまま与えられるがままに口を開いていた。