ま~~~~~~あ、嫌な予感しかしない。
シミュレーションルームに貼られた『おでんあります』の文字にヘクトールのドアを開く手が止まる。
絶対に関われば関わっただけ疲れるだけのそれが待ち構えているとしか思えない。
今日は諦めて部屋に戻ろう。
そんな気分が脳に一瞬で大多数を占めるほど広がっていく。
が、こうも思う。
ちょっと覗くくらいなら。マスターがどんな状態かを確認するくらいなら……。と。
そのちょっとだけで災難がヘクトールの足を掴むには十分なのだと重々に理解していながら。
そして
「賑やかだねえ」
シミュレーター内に広がる縁日具合にヘクトールは言葉をこぼす。
並ぶ屋台たちの中央を陣取っているのはやはりおでん屋台。そこを基点に騒ぎは拡張されて屋台も拡張されていったのだろう。そのような雰囲気を感じる。
そしてそこで和気あいあいとしている面子を見るに、既に騒動は一段落して完全に落ち着いている状態なのだろう。覗くタイミングが良かったことに安堵する。
……何故ヘクトールは見てもいないのに騒動があったと思っているのか。
まあカルデアがそういう場所だから。としか言いようがない。
「ヘクトールもおでん食べに来たの?」
「いやあ、ちょっと通りかかりましてねえ」
全体の空気を把握しようと眺めるヘクトールにいつも通りに巻き込まれていたであろうマスターの彼が寄ってくる。手にはおでんがたくさん盛られた器が。完全に満喫モードのようだ。
「今回はどのような騒ぎで?」
「んんぅ…………えぇと、まずシャルルマーニュが食堂でおでんを初めて食べるって言って、それにエミヤや沖田ちゃんが『それはゆゆしき事態だ』と目の色変えて、そこからは……えぇと、本当に、色々と、色々と……あって、まあなんとか上手くまとまって今はこんな感じ」
「なるほどねえ」
よく理解した。分からなくていいということが。
カオスな馬鹿騒ぎに慣れている彼がここまで言語化に困難しているのなら余程だろう。むしろ知らないほうがいいまである。
しかし現在はこうして皆で和やかに縁日をしているのだから結果オーライというやつだろう。ならば心配する必要ももうないのだから長居は不要なわけだが
「せっかくだからヘクトールも食べていきなよおでん。皆で頑張った成果だからさ」
「うーん、どうしようかねえ」
だからこそその頑張った結果だけいただくのは失礼な気もするのだが。
どうしたもんかと曖昧に言葉と表情を濁すヘクトールに彼はくすりと笑って自身が持つ器の中の大根を箸で一口大に割く。
「まあまあとりあえず食べてみて決めてくださいよ」
その恐らくトップクラスに苦労したであろう彼が自信満々の笑みで差し出すそれを無下にするわけにはいかなく
「それじゃあ少しはありがたくご頂戴いたしますかね」
求めるように柔らかく味の染みた大根を口の中へと迎え入れた。
一方屋台では
「あれー。シャルさっきマスター呼びに行くって席立ってなかったー?マスターはー?」
「うーん……。なんか今はお邪魔そうだったから」
「…………ああ、まあ今はそっとしておくのが無難であろうな」
おでんの器を手にちょんと肩を落としてカウンターに座るシャルルマーニュの言葉に屋台主側に立つエミヤが言わんとすることを視認し頷きそっと玉子をおまけした。