イルミネーションで華やぐ街並みを片隅で眺めながら彼は肉まんを口に運ぶ。
なんてことはないコンビニ肉まんであるが彼にとっては十二分に美味なジューシーさであった。
何より温かい。それが一番素晴らしかった。寒空の下で人を待つにあたり、これ以上に頼もしい相棒はいなかった。腹の中から暖めてもらえるのはとても嬉しいことであった。
本来であるなら彼は寒い日は無理せずおとなしく家に引きこもるタイプなのだ。暖房高めにこたつを入れてぬくぬくと時折様子を見にやってくる親が置いていくみかんやりんごをふたりで食べるのだ。そんなゆったりとした時間を至高と思うタイプなのだ。
しかし完全な引きこもり気質というわけでもない。たまには外にでも出ようかという話にもなる。外でちょっと贅沢な食事でもしようかという話にもなる。今日である。
寒空の下で白い息を吐きながら肉まんを味わい、きらめくイルミネーションと行き交う人々を眺める時間。平和そのものである光景がたまらなく愛しいのだ。
……自分が戦って手にした現在だなんて自惚れは、とてもじゃないけど思うことは出来ない。けれどそれでも駆けて駆けて駆けて駆けて駆け抜けて良かったとは心から深々思っている。
「飲み物は必要かい?」
「ヒョッ!あったか!」
背後から気配なく現れ頬に缶コーヒーをあてられ彼の身体は小さく跳ねる。振り返った先にいたヘクトールのいたずらっぽい笑みに彼も笑って缶コーヒーを受け取り蓋を開ける。こちらも大変幸せになれる温かさだった。
「これから食事なのに大丈夫?食べられる?」
「問題ない。この間友達と行った野菜しゃぶしゃぶ食べ放題で店の新記録を出した」
「そいつは頼もしい」
脂身が強くなければ年相応の胃容量をしているのだ。と得意気にしている彼はいつもより少年のようで高揚しているのがよく分かる。それだけで今日は外に出て良かったと思えるほどに。
「だがせっかくだ。食事にするにはまだ早いし少し散歩しないか?年末だけの華やかさを楽しまなきゃ損だ」
「ですな。堪能出来るものは堪能しなきゃもったいない」
あっという間に過ぎる年の瀬をまた新たに迎える新年を彩る世界を片隅で眺めるだけで終わるなんてもったいない。一ヶ所で全てを見尽くせるほど小さな世界ではないのだ。全てでなくても多くを堪能していこう。本日の時間はたっぷりあるのだから。
そうと決まればすぐに行こう。彼は急いで残りの肉まんとコーヒーを片付け近場のゴミ箱それぞれに缶とごみを捨て、ふたり並んでイルミネーションを歩く雑踏のひとつなるべく脚を進めた。