ゴールドシチーがトレーナーとイチャつく話   作:大大魔王

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ゴールドシチーがトレーナーと付き合ってる噂が流れたこと良いことに彼女面するけどなんだかんだでバレて拗れて最終的には両想いだったことを確認する話

シチーが作った手作り弁当食べたい。


ゴールドシチーと彼女面

トレーナーがチームを持った。

アタシと二人三脚で駆け抜けた3年間。結果としてはトゥインクルシリーズを優勝、モデルとしても成功していると言って良い部類だ。

普段、アタシが注目されることが多かったけどモデル、ゴールドシチーを導いた男としてトレーナーにスポットが当たることも多くなった。

そんなトレーナーにトレセン学園がチームを持つことを提案してくるのは当然のことだったと思う。

アイツはアタシに集中したいから断るつもりだったらしいけどアタシがチームを持つことを薦めた。

忘れがちだけどアイツは新人トレーナー……3年経ったら新人ではないのかもしれないけど、そんなアイツが次のステップに進めるなら担当としてアタシは背中を押してやろうと思ったんだ。

 

アイツがチームを持つことを決心してから半年。チームとして纏まってからは約1か月ほど、アタシたちは上手いことやれていた。

 

「シチー先輩。トレーニング機器って片付けるのここで良いんですか?」

「ん、そこで合ってる」

 

後輩と一緒に機器を片付けながら約半年を振り返る。

チームの募集をかけた瞬間に入りたいって子が殺到してトレーナーが卒倒しそうになってたのは今でも覚えてる。なんならその時の写真はスマホの中で眠ってる。

それから選抜レースや面接を重ねて最終的に4人まで絞った。そこにアタシを入れて5人がアイツの持つ今のチームだ。

トレーナーとの付き合いが一番長いアタシがリーダーみたいな立ち位置で初めてのチームで四苦八苦するアイツとメンバーの皆の橋渡し役をしてるって感じ。

 

「そういえばシチー先輩!この後、チームの皆で喫茶店行こうって話になってるんですけど先輩もどうですか?」

「今日は……予定もないしアタシも参加させてもらおっかな」

「やった!」

 

 

____________

 

 

「そういえばトレーナーって新人時代ってどんな感じだったんですか?」

 

5人揃ってする話といったらここにはいない奴、つまりはトレーナーの話だった。

アタシの時と違ってマンツーマンでやってるわけじゃないからトレーナーの人柄ってのを気にしてるんだ。

当然、質問されるのはアタシなわけで。今も4つの視線がアタシを捉えている。

 

「別に今と全然変わんない。暑苦しくてしつこくて鬱陶しい」

「へー、あっそれじゃあ先輩を担当にしてた時も」

「めっっっちゃしつこかった。スカウトの時なんかモデルの撮影現場まで乗り込んできて」

 

それは落としたアタシの携帯を渡すためだったけど……。

そんな事情を知らない後輩たちから黄色い悲鳴があがる。

 

「じゃあじゃあ!あの噂って本当なんですか?」

 

黒い髪を姫カットにした後輩からキラキラ瞳を輝かせながらの質問。でも、その噂ってのをアタシは知らない。

 

「なんの噂?」

「先輩とトレーナーが付き合ってるんじゃないかっていう噂ですよ!」

 

はぁ?そんな噂があんの?

初めて聞いたけど悪い気分はしないかな。

アタシたちは付き合ってはいないけど仲が良いってのは間違いないと思う。

休日が重なったら一緒に出掛けることも多いし、最近アイツが着る服とか使う香水はアタシが選んだものばかり。

そう思ったら付き合ってるって勘違いされてもしょうがないのか。アタシだって他のウマ娘が同じことしてたら付き合ってんのかな?って思うし。

あーでも否定しないと面倒なことになりそう。ただ、全力で否定したらしたでアイツの面子が潰れそうで。

良い感じに仲は良いけど付き合ってはないって伝える言葉は……

 

「ふーん、そんな噂あんだ。……ノーコメントで」

 

そんな言葉が浮かんでくるほどアタシの頭の出来は良くなかった。

でも、トレーナーだって責任あるだろ。アイツの顔を見るとよく目が合うし!それってアタシのことをよく見てるってことだよね。

こんな噂が流れたのはアタシのせいだけじゃない……はず。

 

「えっなんでノーコメントなんですか?答えてくださいよぉ」

「このバカ。シチー先輩はトレセンの学生なのにトレーナーと付き合ってますなんて正面から肯定できるわけないでしょ」

「でも、否定もしないってことは……」

 

ヤバい。

なんか後輩たちが変な感じに察してる。

 

「いや、違うからねアタシが言いたいのは」

「良いんです。良いんです。私たちはお2人の事を応援していますから。な!お前ら!」

「「「うん」」」

 

結局、この日は否定できなかった。

あとで誤解を少しづつ解いていくしかないか。

 

 

____________

 

 

「なぁシチー。最近、シチーと一緒にいると変な目で見られるんだが」

 

隣を歩くトレーナーにそう言われたのはあれか3日後のこと。

あれからアタシは誤解を解けないでいた。

っていうのも……

 

「ね、あの2人また一緒にいるよ」

「噂は本当だったんだー」

 

コソコソとアタシたちを見て噂話をする子を見てため息を吐いた。

あれから噂の収集をつけるどころか逆に大きく広まって、もはや学園の中で知らないのはトレーナーぐらいになっていた。

 

「……ごめん」

「なんでシチーが謝ってるんだ?」

「とりあえず、ごめん」

「ん?なにがあっても許すから気に病むんじゃないぞ」

 

絶対になんでアタシが謝ってるか分かってないと思うけど許すあたりコイツらしいわ。

とりあえず人の噂も75日って言うしアタシから余計なことしなければ噂がこれ以上、おおきくなるなんてことはないはず。

今、目新しい話題がアタシたちってだけで他に話題になるような出来事が起こったら、こんな噂すぐにでも払拭できるだろ。

 

「そういえばシチー、話は変わるけどこの前選んでもらった服、友達からも好評だったよ。ありがとうな」

「ああ、あれね」

 

けっこう前に服見てた時に見繕ってやったやつのことを言ってんだ。

あれは確かにトレーナーに似合ってたし誰からでも好評でしょそりゃ。

 

「そういえばアンタ、夏服って買ったの?」

「去年に買ったやつを着るつもりなんだが」

「はぁぁ、別にそれは悪くないんだけどさぁ」

 

男物の服なんて特に去年のモノでも着回したりは余裕で出来るだろうけど。服だって摩耗するしトレーナーの場合、何着も持ってないはず。

 

「今週末、アンタ特に予定なかったよね」

「そうだな。近いうちに目立ったレースもないからな」

「だったらアンタの夏服を見に行くから日曜10時に校門前集合ね」

「えーなんか悪いな。シチーだってせっかくの休日をゆっくり過ごしたいんじゃないか?」

 

全く、この男は……。

 

「あのね。アンタはアタシのトレーナーってだけじゃないチームみんなのトレーナーなんだよ。そんなアンタが私生活でもしっかりした恰好をしてないとあの子たちも舐められることになると思うんだけど」

「……行かせて頂きます」

「分かれば良いよ。価格帯は安いところで選ぶから安心しなって」

 

アタシだけじゃなくてチーム皆に差し入れ、それも結構値が張るのをよくしてるから財布は心許ないのは知ってる。

今度、行くのは学園近くのあの店にしよう。あそこら辺って学園所属のウマ娘もよく来る場所だけど、まぁ大丈夫でしょ。デートってわけじゃないんだから。

 

 

それからもアタシとトレーナーの仲を勘違いする奴は後を絶えなかった。噂は嫌でも耳に入るし観察されるし何かやるたびに歓声が沸き上がるからすぐ分かるんだ。

 

例えば食事の時

特に昼食はほとんどトレーナーと食べてんだけどアイツは割と食い意地を張ってる上にガツガツ食べるから口の周りが汚れることが多い。

 

「ねぇ口の横、ソース付いてるから拭きなよ」

「おっ、すまんすまん」

「ああ、違う逆。そこでもなくて。……ああ!!もういいから動くな!!」

 

設置されてるペーパーナプキンで口元を拭ってやった。

こんなことが今回だけじゃなくて毎回あるんだからやってらんない。もっとしっかりして欲しいわ。

それに

 

「アンタまたブロッコリー残してない?」

「……気付かれたか」

 

マズイものを見られたみたいな表情をしてるけど良い大人が嫌いな野菜を残すなんてことコッチが恥ずかしくなるから止めて欲しい。

どうせアタシが何言っても適当に理由つけて食べないだろうから使ってたフォークでブロッコリーを指してトレーナーの口元に近づける。

 

「食え」

「あのシチーさん。本当にブロッコリーは絶妙に苦手でな。別に食べれないわけではないんだぞ」

「なら猶更食え。今すぐに」

「……はい」

 

諦めた表情でブロッコリーを口に含んだ瞬間、周りのウマ娘がざわついた。

 

 

例えば、トレーニング終了時

トレーニングでヘトヘトになったチームメンバーを気遣ってスポーツドリンクやらタオルやらを用意するトレーナーの額には汗がにじんでいる。

例えウマ娘のように走っていなくても炎天下の中、立っているだけでも体力を使う。だからこそ、自分の体調管理も徹底しなくちゃいけないんだけど……。

見る限り何もやってないなコイツ。はぁぁ、こんなことだろうと思った。

アタシは鞄の中に入れておいた水筒を取り出した。

 

「ほら、これ飲んどきなよ。熱中症になるよ」

「ああ、ありがとうシチー。……美味いなこれ」

「当たり前だろ」

 

なんたってアタシが作ったスポーツドリンクなんだから。

トレーナーは本当に我儘で市販されてるスポーツドリンクは舌に合わないってぼやいてたのを覚えてたからわざわざアイツ好みの味付けで作ってきてやった。

それに

 

「汗も拭きなよ。ほら、これ使って」

「でも、それ君のハンカチだろ?汗臭くもなるだろうし遠慮しとくよ」

「もう顔出せ!」

 

変な所で遠慮するんだからコイツは。

問答をしても埒が明かないから無理矢理、ハンカチで顔を拭う。

 

「これで多少は気分よくなったでしょ」

「すまんな。ハンカチはこっちで洗濯しとく」

「変な気を回さなくて良いから」

 

その後も洗濯するしないでずっと揉めてたらメンバーの一人が

 

「イチャイチャするのはいいけど疲れてない時にやってほしかった」

 

ってぼやいていた。

 

 

そして、あの噂があるって知ってから2か月。

 

「減るどころか増えてんだけど……」

 

それなりに良い感じに話題が切り替わりそうな出来事はいくつもあったはずなのに切り替わるどころか一挙手一投足を見逃さないとする奴が増えてるような気がする。

トレーニングの見学者も倍増したし。

 

「なんの話?」

 

目の前で呑気にアイスを食べるジョーダンも噂自体は知っている。

 

「噂の話。根も葉もないってのにおさまらなくて困ってんの」

「噂ってシチーとトレーナーが付き合ってるってやつ?」

「そうだけど」

「……根も葉もないってマジで言ってんのか」

 

何を言ってんだろうジョーダンは。

アタシたちが付き合ってるって事実はないってのに。

 

「本当に根も葉もないってならスマホの壁紙見せてみ」

「は?それで何が分かんの?」

「いいから」

 

ジョーダンが何が言いたいのかよく分かんないけど言われた通りにスマホの壁紙を表示させる。

写真はレストランで撮ってもらったトレーナーとの2ショット写真。

モデル仲間にオススメされて行ったレストランでの写真で店の雰囲気も良かったし料理も美味しかった。今度、またトレーナーと行くつもりだ。

 

「……これで付き合ってないって言えんの?」

「いやいや、この程度なら付き合ってなくてもするでしょ」

 

例えば父親だったり親友だったり。

スマホの壁紙が2ショット写真だからって付き合ってるって認定するのは安直すぎない?

 

「じゃあさ、トレーナーよりイケメンでセンスの良い男と仲良くなったらソイツと2人で写真撮って壁紙もそれにすんの?」

「は?ありえないんだけど。ていうかトレーナーだって確かにイケメンではないけど好きな人は好きになるような顔でアタシは悪くないと思うし最近はセンスも良く「はいはい、分かった。あたしが悪かったから」」

「……まだ言いたいことあんだけど」

「だから分かったから。ていうかシチーって自分ではトレーナーのこと悪く言ったりすんのに他人が言うと滅茶苦茶怒るよな」

 

そりゃ世話になってんだから悪く言われたら怒るのは当たり前。

アタシもアイツのことはちょっとは悪く言うことあるかもしれないけど、それは愛?があるというか本心じゃないというか。

 

「まぁシチーとトレーナーがやってることは外野のあたしたちから見たらバカップルがイチャイチャしてるようにしか見えねーって話」

「アタシは別に……」

「シチーがどうしようが勝手だと思うけど本気で噂の収拾つけたいなら、それこそ今まで通りベッタリするのは止めいたほうが良いんじゃね?」

 

ベッタリしてるつもりなんてない。

トレーナーは自分のことは無頓着だから代わりにアタシが面倒を見てるって感じ。

ウマ娘としてレースでここまで活躍できたのは間違いなくアイツのお陰だから恩返しの意味も込めてやってるんだ。

トレーナーはアタシがいなかったらダメになると思うし、主に体調方面で。

それが付き合ってるように見えるんならもう勝手に思っとけって感じかな。噂がどうなろうとアイツの世話をやめるつもりなんて一切ないんだから。

 

 

 

あと、正直に言うと『付き合ってる』『バカップル』って言われるのは悪い気……ううん。嬉しかったんだ。

 

 

 

 

 

もう噂なんか気にしなくなったアタシはそれまで以上に世話を焼くようになった。休日には家事をしにトレーナーの部屋に行ったし最近は苦手な早起きまでして弁当も作ってやってる。

今では噂じゃなくてもう学園公認のカップルみたいな状態になってた。ただこれでも、そんな話になってることを知らないトレーナーはさすがに鈍すぎると思う。

マネジにも一応、今の状態を確認したけど『大丈夫』とのことだった。ま、アタシはモデルでアイドルじゃないから恋愛はそもそも自由なんだけどね。

正直、アタシ自身もカップルって言葉を受け入れつつあるのは事実だ。嫌な気はしないし。

ま、あのトレーナーの面倒を見れるのなんてアタシぐらいでしょ。

このままいけば将来、トレーナーとも……なんて弁当用の卵焼きを焼きながらバカな妄想をするのが最近の日課になっていた。

 

 

 

 

「……トレーナーさんたづなさんと朝帰りしたらしいよ」

「馬鹿ッシチー先輩に聞かれたらどうすんのよ」

 

早朝から一転、アタシの調子は絶不調になった。

なんでもアイツがたづなさんと夕方から出かけて帰って来たのは次の日の朝。それも仲良さげな雰囲気で帰ってきたんだって。

そのせいで学園の雰囲気もといチーム内の雰囲気が最悪になってた。

仲良しカップルとして応援してたら片方が前触れもなく浮気したら変な空気にもなる。

 

「シ、シチー先輩。気にすることないですよ。朝帰りって言ったって浮気が確定したわけじゃありませんし」

 

後輩からの慰めの言葉も今のアタシからしたらどう受け取ったら良いか分かんない。だってアタシとトレーナーは付き合っていない。そもそも好き同士であるか確認も取れてない。

どう考えてもトレーナーに悪影響を及ぼしかねない噂だったのにアタシは……自分の気分が良いからって、都合が良いからって放置した。

 

「おー皆揃ってるな」

 

間が悪いことにトレーナーがチームの部屋に現れた。

どうせ今日のメニューを伝えに来たんだろうけどタイミングが最悪だ。

チームの皆もどう声をかけて良いか分からず固まってる。

 

「おっどうした?なんかあったのか?」

 

なんかあったんだよバカ。

いや、バカなのはアタシか。

 

「……トレーナーさん」

 

初めに沈黙を破ったのは茶色いボブカットのいつもは口数が少ない後輩。重々しい雰囲気でトレーナーに近づく。

 

「たづなさんと朝帰りしたって話、本当なんですか?」

「あーやっぱり見られてたのか」

 

事情を知らないトレーナーは当然のことだけど悪びれもせずに事実を明かした。

それを見て息を飲む後輩たち。アタシとトレーナーを交互に見て口をパクパクさせている。

 

「昨日、たづなさんとレースを見に行ったんだがその後にウマ娘についての語り合いが白熱してしまってな。気が付いたら朝帰りになってたってわけだ」

 

……ひとまず男女の仲ってわけじゃなくって安心した。アタシの気持ちが伝播したのか部屋の雰囲気も少し柔らかくなった。

ただ、それで金縛りが解けたみたいに他の娘たちがトレーナーに詰め寄り口々に文句を言い始めた。

やばっ止めないと。

 

「トレーナーさん!何もなかったしても朝帰りなんて良くないと思います!」

「そうですよ!シチー先輩のことも考えてあげてください」

「彼女がいるのに他の女性と朝帰りとか最低ですよ」

 

ああ、言ってしまった。

トレーナーもポカンとした表情になってる。

そりゃそんな表情にもなるだろうね。噂の存在自体知らないんだから。

 

「……彼女?俺に彼女なんていないぞ?」

「……それってどういうことなんですか?」

「本当に最低ですよ」

 

あーもう最悪。

様子見してた子もトレーナーを囲んで怒ってる。

あの子たちからしたらトレーナーは彼女がいるのに他の女と朝帰りした挙句、保身のために彼女なんていなかったことにしてすっとぼける男だ。

でも、トレーナーはそんな男じゃない。

アタシが……。アタシが噂に良い気になって。いつでも『勘違いだ』の一言で誤解は解けたはずなのに。

ここは覚悟を決めないとね。

 

「……違うから」

 

小声だけどはっきりと聞こえる声量で皆に聞こえるように言った。

ヒートアップしてた後輩たちも被害者だと思ってるアタシの言葉を聞き取るために静かになる。

 

「アタシとトレーナーは付き合ってなんかないから……」

「シチー先輩、トレーナーさんを庇う必要なんて」

 

傍から見たら彼氏を守るためにウソに乗っかる可哀想な彼女に見えたんだろう。

 

「本当に違うんだ。アタシたちは付き合ってない」

「でもどちらも噂を否定しなかったじゃないですか」

「トレーナーはそもそも鈍いから噂なんか知らなかったから否定しようがないしアタシは……」

 

噂に乗っかってトレーナーの彼女面してた女。

そう言いかけてトレーナーを見つめる。これを言ってアイツに失望されないか心配だったから。いや、心配だなんて烏滸がましいよね。もし本当に彼女がいたとしたら、それこそ仮にたづなさんとそんな仲になっていたのなら。

アタシはそんな2人の仲を邪魔する最低最悪の女だ。

嬉しかったからってそんなことして良い理由なんてなかったのに。

トレーナーに失望されようと嫌われようと受け止めるしかない。それぐらいのことをアタシはやったんだ。

 

「アタシは……噂が本当なら良いなって!放置してたら本当のことになんないかなって思って誤解を解かなかったんだ!」

 

今度は大きな声でそれこそ学園全体に伝わるような声で。

本当に悪いのは誰かを知らせないと。

 

「頭の中じゃトレーナーのためだとか色々理由つけてたけど結局は自分のためにやってたんだ!彼女面すんのが楽しくて幸せで嬉しくて堪らなかったから!トレーナーは少しも悪くない!責めるならアタシを責めろ!」

 

そう言い放って待つこと数分。誰も声を上げなかった。

いきなりのことで理解するまでに時間がかかってるのか、それとも被害者だと思ってたアタシが実は一番悪くて呆れかえって言葉が出ないのか分からない。でも、アタシを見つめる幾つもの視線、その中でもトレーナーの視線に耐え切れなくなったアタシは部屋を飛び出した。

 

「シチー!待て!」

 

トレーナーの制止を振り切って走る。途中までアイツも追って来たみたいだけどウマ娘の全力に追いつけるわけがない。

 

 

それからはもう訳も分からず走った。とにかく走った。

目的地もなくてどうしたら良いかも分からずにアタシは走った。

そんでもって辿り着いたのは

 

「はぁはぁ、なんで屋上なんだよ……」

 

体力が尽きて呼吸も乱れて行きついたのは学園の屋上。学園から、ていうかトレーナーから逃げたくて走ったのによりにもよって学園に戻って来るなんて我ながらなんとも女々しい話だった。

でも、かなり走ったしさすがにアタシの場所が分かるなんてことは……

 

「見つけたぞシチー」

「……なんで分かんだよ」

 

目の前にいるトレーナーはワイシャツ姿であちこちが泥とか葉っぱとかで汚れてる。きっとアタシが逃げ出した直後からずっと走ってたんだろ。

こんなアタシでも必死になって探してくれるなんてアイツらしい。

 

「なんで追いかけて来たんだよ」

「俺は君のトレーナーだからな。あんな顔で部屋を飛び出して行った子を1人にしておけるわけないじゃないか」

 

その言葉に一瞬、嬉しくなって顔を上げそうになるけど慌てて目を伏せる。

今のアタシにコイツの顔を見る資格なんてない。

 

「知ってんでしょアタシがやったこと」

「……噂を放置してたってことか?」

「そう。自分の知らない所で付き合ってるってことにされてたなんて気持ち悪いでしょ。アタシはそれを故意に放置してたんだよ」

「そんなこと気にしてないし、チームの皆も勝手に噂に振り回されてたって責任を感じて一緒に探してくれてたんだぞ。だから一度、部屋に戻って落ち着いて話さないか?」

 

優しい。本当に優しい。

トレーナーはもちろんチームの皆も。アタシは本当に人に恵まれてるなっていつも思う。

ただ、だからこそ甘えようとする自分自身がいることを許せなかった。

 

「……嫌だ」

「今、なんて?」

「嫌だって言ったんだよ。こんな気持ち悪いウマ娘なんてチームから外れて担当契約も打ち切ったら良いじゃん。今なら誰も文句言わないだろ!」

 

本当はチームにいたいしトレーナーとの関係も一生続けていたい。でも、だからって許されるわけないじゃん。

もしアタシがトレーナーの立場なら全力で怒ってると思う。でもアイツは優しいから傷つけられなくて怒ってないだけなんだ。

自分でやったことにはケジメはつけないといけない。

 

「それじゃ噂が噂じゃなかったら良いんだな?」

「へ?」

 

訳の分からないことを言われてアタシは初めて顔を上げてトレーナーの顔を見た。その顔はアタシが大事なレースに挑む前にするような真剣で優しい顔。何かを心に決めた時の顔だった。

 

「だから広まってる話が事実ならシチーも気に病む必要はないって話だ」

「でも、事実じゃないじゃん。だからアタシも……」

「見てろ!」

 

そう言ったトレーナーは屋上のグラウンドがよく見える場所に移動する。

この時間帯なら練習してるウマ娘やそれに付き添うトレーナーなんかで結構な人数が活動してるはずだけど何をするつもり?

 

「俺はァ!!シチーがァ!!大大大大好きだァァ!!」

 

大声で、それこそ学園全体に響き渡りそうな声でトレーナーは叫んだ。

そこでアタシはやっとコイツが言いたかったことが分かった。アタシが逃げ出したのは噂がウソだと知っていて放置したから。その話自体が事実ならアタシの負い目もなくなるんじゃないかって考えたんだ。

本当にこのバカは!

 

「ちょ、やめなって!聞かれたらどうすんだよ」

「聞かせるためにやってるんだ」

「そこまでアンタが犠牲になることないんだって!今回のこともアタシが悪いんだからさ!」

 

アタシが悪者になって終わりで良いんだよ。

アンタが悪者になる必要なんてこれっぽっちもないんだ。それに気持ちを偽る必要だってない。

ただトレーナーに恋した痛い女が噂に舞い上がってやらかしましたってだけの話なんだから。

こんなアタシにそこまでやってくれる必要はない。

 

「だから、これが俺の本心なんだ!」

「……本心って」

「噂のことなんだけどな俺も実は最近になってからだけど知ってたんだ」

「は?」

 

それからつらつらとトレーナーは噂のことを知ってからの経緯を話し出した。

要約するとトレーナーも初めは噂をどうにかしようとしてたらしいけどアタシとの関係が心地良くって否定しないまま過ごしてたら噂が大きくなってどうしようもなくなったと。加えてトレーナーはトレーナーでアタシが噂のことを知らないって思ってたらしい。

だから後輩に詰め寄られた時も惚けた態度を取って後から誤解を解くつもりでしたって話だった。

 

「じゃなに?アタシたちは同じ内容を同じように考えて悩んでたってこと?」

「あはは、そうだな」

「ただのバカじゃん」

 

こんなの走り損じゃん。

勝手に責任感抱いて勝手に暴走したアタシはバカだしボロボロになるまで追いかけて来たトレーナーもバカだ。

アタシたちは似た者同士だったってこと。

それなら……

 

「それでさっきの話。ほんとなわけ?」

 

これは、これだけは聞いておかないといけない。

トレーナーが宣言したアタシのことが好きだって話。

 

「そうだ。そうだよ。我ながら大胆なことをやったな……」

 

恥ずかしそうに顔を赤らめるトレーナーを見てアタシは吹き出す。

 

「アンタ、恥ずかしがるなら最初からやんなきゃ良かったのに」

「だがこれが本心だ。シチーの方こそ俺に失望してないか?」

「まぁ見てなよ」

 

否定も肯定もせずアタシはさっきトレーナーが宣言した位置に立つ。

見下ろすとさっきのトレーナーの宣言で何事かと屋上を見上げてる連中がかなりいた。

ちょうどいいや。

アタシはトレーナーより大きな、これ以上ないってぐらいの声量で宣言した。

 

「アタシは!!ゴールドシチーは!!トレーナーのことを世界で一番!!愛してる!!」

 

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