お久しぶりです。異動になった先が滅茶苦茶忙しすぎて更新ができない状況にありました。少しづつではありますが余裕もやっと出来てきたのでこれから細々とまた更新していきます。
1/15追記
まさかの日間ランキングトップ10入りしたようです。いつも読んで下さる皆さまのお陰です。ありがとうございます。
「それでアイツが」
トレセン学園のカフェテリア。その隅っこの席であたし、トーセンジョーダンは目の前にいるゴールドシチーに相槌を打ちながらカフェオレを口に含んだ。
いつもは混み合うカフェテリアだけど昼どころかおやつの時間も通り越しそうな時間帯だから人はまばらになってる。
「その時にアイツがしつこくスカウトしてくるからさぁ」
「あー、うん」
適当に相槌を一回。
別にシチーの奴を軽く見てるとか気になることがあるとかじゃない。
理由は他にちゃんとある。
「……ジョーダン? ちゃんと聞いてる?」
それは……
「聞いてるし。トレーナーさんにしつこく迫られてシチーが渋々折れて、そんで契約したけど毎日暑苦しくて仕方ないって話っしょ」
「なんだ聞いてんじゃん」
聞いてない。
本当は一ッ言も聞いてない。なのになんで話が内容が分かるのかってーと……。
この話が通算10回目になるからだ。
初めはあたしだって真面目な悩みだって思ったからあたしなりにアドバイスしようとマジになってた聞いてたつもり。
そしたら……。
『いつもいつもシチーシチーってうるさくってさ』
『アイツ本当にアタシのことが好きすぎて困ってんだけど』
『この前、2人で温泉旅行行ったんだけどさ』
3回目ぐらいでさすがのあたしも『あ……これ相談じゃなくて惚気だわ』って気づいた。てか温泉旅行に関しては愚痴でもなんでもなく単純な惚気だったしな。
毎回よく話のネタが尽きねーなって思って聞いてっけどスカウトの話が毎回出てくんのはやっぱり一番嬉しい話だったからって思う。
まぁ気難しい友人に春が来たって話だから祝福すべきなんだよね。
「それで、この前あったことなんだけどさ」
その言葉を聞いてあたしは触っていた携帯の電源をオフにする。話に集中するためだ。
この手の話のややこしい所は正直、他人にはどうでも良い話でもちゃんと聞かねーと怒られるってとこ。
ま、どーせ今回も相談に見せかけた惚気話……
「アイツに女ができたかもしれない」
じゃなかった。
繰り返される惚気のせいで勘違いしそうになるけどシチーとそのトレーナーさんは別に彼氏彼女って関係じゃない。
だから、もし担当トレーナーが女作ろうと関係ないだろって思わんこともないけど。
「んで、女ができたってどういうことなん?」
ひとまずシチーの調子に合わせる。
下手に突っ込んだら話長くなりそうだし。
「これ。見てみ」
短くでも不機嫌にシチーが携帯の画面をあたしに見せる。その前に一瞬見えたトレーナーとの2ショット待ち受けに何も言わないのは友達の優しさだと思って欲しい。
いやいや、それよりも画面に映ってるのは
「……ウマ娘?」
遠くから撮影した写真を無理矢理拡大したせいでよくは見えんけど、どうにも知らないウマ娘? がトレーナーさんとカラオケに入ろうとしている場面だった。
「そう、それにこれだけじゃなくて。これとかこれも」
シチーはその後も次々にウマ娘とトレーナーが歩いている写真が何十枚単位で出て来た。明らかに隠し撮りされた写真を見て『ストーカーじゃん』っていう言葉をグッと堪えたあたしは偉いと思う。
今はそれよりも
「このウマ娘ってライトハローさんじゃね?」
なんか服装とか髪型で見覚えあんなーって思ったらライトハローさんだった。ついこの前にグランドライブを企画して成功させた発起人。あたしもシチーもライブに参加したし知らないはずはなかった。
「アイツ最近ライトハローさんと仲が良いみたいで。カラオケとかも行くし飲み屋とかにも行ってるみたい」
「単純に遊びに行ってるだけじゃね?大人の付き合い? ってやつ目くじら立てることじゃ」
「……2人だけで? 何度も行ってるのに? 完全黒だろ」
「ああ、うん怪しいわ! めっちゃ怪しい! シチーの言う通りだわ」
あ、ダメだわ。地雷だわこれ。シチーの顔がヤバいことになってし。
フォローはマジで無理! すまんシチーのトレーナーさん。あたしだって自分の命が惜しい。
「はぁぁぁ、アイツさ。アタシのことが好きだって綺麗だって言ってんのにこんなことやってたわけ。正直、次同じ事したら突撃しようと思ってんだけど」
「……突撃?」
「そ、現場取り押さえて言い逃れできない状況を作ってやる」
「……待て待て待て待て。ちょっと待てし」
は!? 修羅場じゃん! それ!!
悲惨すぎるって。いや本当に浮気してんなら止める必要なんかねーよ。でもさトレーナーさんもライトハローさんも悪くないわけでさ。それこそ大人の付き合いしてるかもしれないわけでさ。
そもそも好きとか綺麗ってのも(レースに対するシチーの考え方が)好きとか(走ってる姿が)綺麗って感じっしょ! いや、それでも口説き文句っぽいけどさ。
「……は? なんか問題でもあんの?」
まーた機嫌が悪くなった。
担当トレーナーを持ってから良い意味で気性が柔らかくなったとは思ってたんだけど逆にトレーナーが関わる事には気性難を発揮するようになってんだけど。
「問題はない! 問題はないに決まってんじゃん。でもさ……」
どうやってシチーの暴走を止めっかなー。
もうあたしが行っちゃえって背中押したら突撃しそうな勢いだし。
万年赤点のあたしが必死に考えて出て来た言葉が。
「あ、あれじゃんライトハローさんとはただの遊びの関係かもしんないじゃん。本気なのはシチーだけど遊びで付き合ってるだけなんだって」
いや、これだとただの最低の二股ヤロ―じゃね?というかヤバい例え話でもシチーのトレーナーさんを悪く言おうもんなら……。
「は? アイツがそんな軽い奴だって言ってんの?」
ほらー機嫌がどん底まで悪くなってし。
あー、面倒臭いってもう! 自分は割と暑苦しいとかバカとか悪口言う癖にあたしが忖度して同じようなこと言ったらガチギレすんの止めて欲しいだけど!
「た、例えばの話じゃん。怒んなし」
苦笑いしながらシチーを宥める。
どーすっかなーマジ。
シチーに調子合せてたら最悪、ライトハローさんとの刃傷沙汰に発展しそーだし否定したら否定したで機嫌がやべーぐらいに悪くなるし……。
あー、あたしがなんでこんなことで悩んでいるんだろう。
……もういっか。なるようになるだろ。
「……てかさ、シチーとトレーナーさんって付き合ってんの?」
「はぁぁ!? アイツとアタシはそんな関係じゃないってーか。いや仲が悪いわけではないんだけど。いや、むしろ恋人関係を超えてるっていうか」
要は付き合ってないってことをシチーはブツブツ呟いてた。
いや、シチーが言いたいことも分かんよ?
雑誌に何回もすっぱ抜かれてるような関係だってことも知ってるし最近、トレーナーの自室に押しかけてることも知ってる。それこそお泊りもしてるっぽいし。
所謂、トレーナー以上恋人未満だってこと。
「でも、付き合ってないわけっしょ?」
「それは……そーだけど。暗黙の了解みたいなのがあんだろ」
「まぁあたしもねーわって思わなくもねぇけど付き合ってないならトレーナーが別の女と何処に行こうと文句言えなくね?」
さすがのシチーも正論の前には何も言えなくなったみたいで下を俯いた。
あー、さすがに言い過ぎた感じ? トレーナーが関係するとジェットコースターみたいに情緒が不安定になっからなー。
……さすがに悪いし助け舟でも出してやるか。
「だからさライトハローさんと付き合う前に囲んどけって言ってんの! あたしは」
「いや、でもライトハローさんと仲良さそうだし」
本ッ当にコイツは!
「どう考えても無理矢理付き合わされてだけじゃん! あんなシチー第一の人が他の女に靡くかよ」
惚気のネタが尽きない原因はシチーだけじゃなくてトレーナーさんの方にもある。だって毎週のように休日にデートしてるし。普通、大切な教え子だからって毎週のように遊ぶのはそれ以上の感情があるからって分かりそうなもんだけど。
この鈍感ウマ娘はそんなことも気付けないんだからトップモデルの名折れだわ。
とにかく背中を押して押して押しまくってさっさと付き合わせてこの地獄から抜けるしかないし!
そう、あたしが決心した時
「シチー!! 探したんだぞ!」
カフェテリアのドアが壊れるぐらいの勢いでシチーのトレーナーさんが入って来た。
「……なんだよ」
口調だけは不機嫌になってっけど口元が緩んでることに気づけシチー。普段のクールなイメージだいぶ壊れてんぞー。
「ライトハローさんとは君が想像しているような関係じゃないんだ!」
「……いや、ウソじゃん。この写真とかどう説明するわけ? 仲良さそうに2人でカラオケ行ってるわけだけど」
もうあたし抜きにして痴話喧嘩が始まったわけだけど……。
てか、あたしに相談する前にライトハローさんとのこと問い詰めてたんじゃん。相談した意味って何よ。
「信じてくれシチー!! どんな時だって君が1番なんだ!」
「……証拠。証拠見せてくれなきゃ信じられるわけないだろ」
なんならさ喧嘩を止める気もあったわけよあたしは。取っ組み合いにでもなったらヤベーし。
本当に2人の信頼関係ってのを心配してたワケ。
それがどうよ。
これって喧嘩のふりしたイチャつきじゃねーか!!
だって見てみ! シチーの顔を!
もうなんか期待した顔で赤くなってっし! アンタがブチギレたらこんなもんじゃないってのは知ってんだからね!
「……証拠って、僕が出来るのはこれぐらいしか」
そう言ってシチーの耳元で囁いてるけどあたしはアホらしすぎて耳をシャットアウトした。愛だのなんだのは聞こえてないし。
「……バカ!!」
顔を真っ赤にしてトレーナーさんの背中を叩くシチーを見てアホらしくなったあたしは椅子で項垂れる。
あー、このバカップルはさっさと籍でも入れてくれたら落ち着くんかな? さっさとこの惚気地獄から解放して欲しいわ。付き合わされる身にもなって欲しいだけど。
「おーい、ジョーダン! こんな所で偶然だな……って何かあったのか? ゴールドシチーさんたちは?」
「さぁ? いつもの夫婦喧嘩だから放っておけば良いっしょ。 それよりもだいぶストレス溜まってっからスイパラ付き合ってくんない? もちろんトレーナーの奢りで」
タイミング良く、あたしのトレーナーが現れてくれたしもういる意味もないよね。てか途中から蚊帳の外だったし。
「えぇ……奢りか? まぁ良いけど夜までは付き合えないからな。その後に用事もあるし」
「用事ってなんなん? トレーナも今日は休みっしょ」
「いやライトハローさんとの飲み会が」
「……は?」
あたしにも相談が必要かもしれない。