ゴールドシチーがトレーナーとイチャつく話   作:大大魔王

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ゴールドシチーとバレンタイン

2月14日、バレンタインデー。

想い人あるいは友達、お世話になった人に想いを伝える乙女たちのイベント。乙女がひしめくトレセン学園大いに活気が湧くイベントだ。

その中の一人であるアタシも本当はどうでも良いんだけどチョコ作りに勤しんでいた。

というのも……

 

 

 

「1週間後はバレンタインデーかー」

 

トレーナー室でぼやくトレーナーを思わず見た。

コイツでもそんなこと気にすんの?

いつもレースのことばっかりで季節のイベントとか全く興味ないって感じだけど。

 

「なに?アンタ、チョコ欲しいわけ」

 

ま、欲しいならあげても良いけど。

一応、お世話になってる人には間違いないわけだし……。

 

「そうじゃなくてな。この前のトレーナー定例会議で言われたんだが、この時期って浮かれて暴走する娘が多くて生徒会と教師陣だけだと取り締まる側の手が足らないからって理由で俺たちトレーナー陣も手伝うことが決まったんだ」

 

あー確かに暴走する子は多くなってる気はする。

憧れの先輩に送りたくてとかトレーナーの好みを知りたくてとか理由は色々だけど。去年もバレンタインが原因で校舎の一部の壁が崩壊する事故が起こってたはず。アタシは仕事行ってたから見てはないんだけどね。

 

「取り締まるって言ったってどうすりゃ良いんだよ。ウマ娘に力で敵うわけでもないのに」

「どうでも良いんだけど怪我だけはしないでよね。トレーニングに差し支えても困るし」

「ああ、分かってる。分かってるんだけど……憂鬱だなぁ……」

 

暑苦しいが代名詞みたいなトレーナーがここまで気落ちするのをアタシは初めて見た。

子犬みたいな顔をするせいで構ってやりたくなってきた。

その顔は反則でしょ。

当日はアタシもファンの子たちに囲まれて忙しいかもしれないから取り締まりを手伝うわけにはいかないから。なにか、コイツのモチベが上がるようなことは……。

ああ、一つあったわ。

 

「だったらアタシが手作りのチョコあげようか?それだったらモチベになるっしょ?」

「それは本当か!」

 

声デカすぎ。鼓膜が破けるかと思った。

まぁ、それだけアタシのチョコに喰いついてきてるってことだから悪い気はしないんだけどさ。

 

「ま、まぁ良いんだけどね。それじゃあ渡すのは14日の夜、トレーナー室で良い?」

「おう!シチーからのチョコか!いやー楽しみだなー」

 

もうこれ以上にないってぐらいトレーナーは喜んだ。

さっきまでは落ち込んでたのに分かりやすい奴。

手作りするなんて初めてだけど普段からトレーナーにはマジ世話になってし、これぐらいはね。

どうせアタシ以外からは貰えないだろうし。

チョコレートなんて余裕っしょ!

 

 

____________

 

 

「完っ全に舐めてたわ。チョコ作り」

 

目の前にあるチョコだったものを見つめてアタシは寮のキッチンで呟いた。

もうね7日のアタシにガチ説教してやりたい気分。チョコ作り舐めるなよーって。

前に通販サイトでポチッたレシピ本を見ながら材料を買ってる時がピークだった気がする。アイツのチョコを渡されたときの顔を想像して浮かれてた自分に忠告してやりたいけど、もう遅い。

 

「……ていうか冷静に考えたらアタシの腕じゃ無理って分かるっしょ」

 

作ろうとしたのはハート形の装飾が可愛いチョコケーキ。この本の中で一番、可愛くて目立っていたから作ろうとしたんだけど……。

3連敗した今のアタシになら分かる。ド素人が助言もなしに手を出して良いもんじゃないってことぐらいは。

あー、なんでこんなん作ろうしたかな。もっと簡単なやつなら失敗せずに済んだんじゃないの?

でも、アイツが喜ぶ顔を思い浮かべたら自然とこれを作りたいって思ったんだ。暑苦しい顔してるくせに甘い物好きだし。意外と食い意地も張ってるし。

出来ることなら作ってやりたいけど、もう材料が残り少ないな。

作れたとして一番、簡単そうなトリュフぐらいしか。いや、もう一度、材料を買いに行って再挑戦しようか。

こんなとこで妥協なんてしたくねーし。

 

「おーおーやってんじゃんシチー」

 

財布を取りに行こうとしたらジョーダンがやって来た。確か、ジョーダンもトレーナーに渡すって言ってたけど市販品で済ませてたはず。

ともかく今は材料をどうにかしないと。

 

「なに?アタシ忙しいんだけど」

「ピリピリすんなって。苦戦してんだろうシチーを応援に……なんなんこれ?」

「……チョコレートケーキだったもの」

「まーたそんな難しいもんを……。って無理無理!こんなん。シチー、チョコ手作りするなんて今日が初めてっしょ」

 

レシピ本をパラパラめくるジョーダンは「こんなんプロがやるやつじゃね!?」と騒いでた。

んなことアタシも分かってるけど、もう退けない所まできてる。

 

「んで、なんでこんな難しそうなもん作ろうと思ったん?」

「それは……」

 

アイツが喜ぶと思ったから。

本当は初めから無理そうってのは薄々分かってはいたけど、その度にアイツの笑顔がチラついて止めることができなかった。

認めたくはないけどアタシも空気に流されて暴走してたんだ。

 

「てか、トレーナー用のチョコっしょ。こんな手の込んだ物作らなくてもいーんじゃね?」

「ねぇアタシ、トレーナー用とは一言も言ってないんだけど」

 

トレーナーにチョコを作るって話は誰にもしてなかった。単純に恥ずかしいってのもあるけどファンの子に知られてトレーナーが絡まれたりしても大変だと思ったからだ。

学園のファンの子って良い子しかいないけど甘ったるい空気で包まれる時期だし万が一ってこともあるし。

 

「いや簡単しょ。去年までは何もやってなかったのに今年は作ってるし。去年と今年の違いってトレーナーがいるかいないかの違いだけだかんね」

「アイツじゃないかもしれないじゃん」

 

……今日のジョーダンはなんか妙に鋭い。

言う通り、去年と今年の違いなんてアイツがいるかいないかぐらいしかないんだけど。でも、市販品だけどこれまでにも渡したことはあった。それもマネジとか世話になってる人限定だけど。

家族以外で男にそれも手作りをってなるとトレーナーが初めてだ。

 

「はいはい、そういうことにしとくわ。じゃあこっちで勝手に想像して話すけどシチーんとこのトレーナーって気持ちが込められてさえいれば何でも喜ぶんじゃねーの?こんなガッチガチのケーキとかじゃなくてもさ」

「そんなこと分かってんだよ……」

「あと、単純に重い。これ以上にないってくらい重い。あたしが男側だったらドン引きもんだわ」

「は?なにそれ」

 

強がっては見せたけど確かにこんなの貰っても困……らなそうなんだけどアイツ。むしろ喜び勇んでパクパク食べそう。てか、そう思ったから、これを作ろうと思ったワケで。

 

「ま、何が言いたいかってーと自分の実力以上のモノを作ろうとしてシチーが困るのはトレーナー側も不本意じゃねーの?ってこと。簡単なものでも喜んでくれんだから、そっち作って気持ち良く渡すのがwinwinってやつじゃんか」

「……サンキュ、ジョーダン。参考にするわ。トレーナーのじゃないけどね」

「はいはい、まぁ頑張れ」

 

 

_________

 

 

バレンタイン当日。

アタシは学園の中を歩きながら「ハッピーバレンタイン!」と挨拶してくれるファンの子たちと会話をしていた。

鞄の中にはアイツに渡すためのチョコレートが1つ。結局、ケーキは諦めて作ったのはただ溶かして固めただけのハート型チョコレート。それに勢いで書いた感謝の気持ちを綴ったメッセージカードも1枚。

あとは夜まで待つだけなんだけど緊張してきたせいで落ち着かない。気を紛らわせるためにもアタシは学園の様子を見て回ることにした。

 

「聞いてたよりも平和じゃん」

 

やっぱりトレーナーまで動員して見回りを強化しただけのことはあって確実に去年よりも騒ぎは小さそうだった。

まぁ見回りって言っても大騒ぎさえしなければ注意されないみたいで皆、楽しそうにチョコの受け渡しをしてるし教師や担当トレーナーに渡している子もいた。

 

「うお!?本当に俺宛?ありがとう嬉しいよ!」

 

歩いていたら聞き慣れた声、トレーナーの声が不意に聞こえて来た。声の場所は、ちょうど廊下の突き当りを左に曲がったところ。近い。

せっかくだから声をかけてやろうって小走りで行ったらトレーナーの姿と……知らないウマ娘がいた。

特に理由はないけどアタシは咄嗟に身を隠した。

 

「ハッピーバレンタイン!トレーナーさん!この前はありがとうございました!」

「いやいや君のためになったのなら光栄だよ」

 

どうやらチョコレートの受け渡し現場に遭遇したみたいだった。人目がある場所だし雰囲気で“そういう”チョコじゃないってことは分かる。

ま、おおかた担当がまだいない娘にアドバイスをしてお礼にチョコもらってところでしょ。全く、お節介なんだから。でもアタシのチョコ以外モチベーションなんてないって嘆いてたし良かったじゃんか。

 

そのウマ娘と別れた後もアタシは面白そうだったしトレーナーの後ろをバレないように付いて行くことにした。

ほんと暇だし。今日は挨拶してくれるファンの子と話す以外の予定は特にねーし。

そう思ってトレーナーを観察してたけど面白いことは何一つない。基本的には真面目にでもどこか気だるげに仕事をこなしていた。

ああ、でも1つ問題があったわ。

 

「アイツ、めちゃくちゃチョコもらうじゃん」

 

見始めてから今で計4個のチョコを貰ってた。

そういえば右手に大きめの紙袋を持ってるし、アタシが見てない所でもっと貰ってたのかもしれない。

渡された全てのチョコがいわゆる義理チョコで委員会の手伝いをしてくれたからとか専属トレーナーに引き合わせてくれたからとか。

アタシの知らない所で色々な娘にお節介かけてたらしい。

トレーナーもトレーナーでデレデレしてるし腹立つ。今からでもアイツのとこ行って蹴ってやろうか。

 

「す、すみません!」

 

そうこうしてる内にまた次の娘がアイツの前に現れた。

はいはい今度は何のお礼?教えてもらったトレーニング法でタイム更新した?それともシューズ選んでもらった?

 

「ちょ、ちょ、ちょっとよろしいでしょうか」

 

その娘は明らかに様子がこれまでと違ってた。

場所は誰も人が通らないような所だし顔は赤いし1人だし。上手く言葉には言い表せないんだけど甘酸っぱい空気が流れていた。

 

「こ、これ作って来たので食べてください!あ、あと手紙も一緒に入ってますので読んで頂ければ!!」

 

可愛らしくラッピングされた袋にピンク色の封筒がハートのシールで封をされて添えられていた。

そこでアタシは逆方向に駆け出した。

これ以上、聞いてたらあの娘に悪いってのもあるけどアタシ自身も見ていたくなかった。

 

 

____________

 

 

その夜、アタシは約束した通りトレーナー室の前に立っていた。

ただ、約束のチョコレートを渡すだけ、それだけなのに……あの時の光景が目に焼き付いて部屋に入れずにいた。

ああ!門限も近いってのにウダウダやってらんない!

アタシは意を決して扉を開けた。

 

「おお!シチー来てくれたか!」

 

目の前にはいつもの定位置に座ったトレーナー。その手にはさっき渡されてた手紙と開封されたチョコレートの箱が置かれてた。

中身がここからでも見えるんだけど正直、アタシのより数倍、出来が良い星型のブラウニーが並んでる。

 

「へぇ、アタシ以外にも沢山もらったみたいじゃん。良かったね」

 

余計なこと言いそうって自分でも分かってたからさっさと渡して帰るつもりだったのに気付いたら思ったことがそのまま口に出てた。

 

「そうなんだ。有難いことに8個も貰えたんだ。この子なんか感謝の手紙までくれてさ。感無量だよ!」

 

で、コイツはコイツで何、楽しそうにチョコ開けてるわけ?

なんなん?別にチョコ貰えるならアタシじゃなくても良かったの?誰から貰っても喜ぶんじゃん。

あんなに悩んでたアタシがバカみたい。

 

「へー手紙も貰えて。そりゃ上機嫌にもなるよね。アタシのなんていらないんじゃないの?本命のチョコも貰ったわけだしさ!」

 

鞄の中にある不格好なチョコレートを強く握る。

こっちはアンタのこと考えて何時間も悩んで失敗して、それでも喜んで欲しいから作ってきたってのに!

 

「シチー?聞いてくれ「っるさいな!アタシ帰るから!」」

 

振り返ってもう寮に帰ろうとしたけど部屋を出る寸前でトレーナーに腕を掴まれた。

……なんだよ。

 

「シチー、まず俺の話を聞いて欲しい」

「……離せよ」

「いや、離さない。本当に嫌なら手を振りほどいて行けば良い」

 

人間の力なんてアタシが本気を出せば一瞬で振りほどけるけどアタシはその場に留まった。

悔しいけど言い訳でもなんでも良いからコイツの話を聞きたいって思ってしまったんだ。

 

「今日一日中、なにを考えて過ごしてたと思う?」

「若い子にチョコ貰えてうれしーとかでしょ……」

「いいや違う。シチー、君の事だけしか考えてなかった」

 

アタシの腕を掴むトレーナーの力が強くなる。

 

「仕事をしてる時も取り締まってる時も他の子からチョコレートを貰ってる時も君のことで頭が一杯だったんだ」

「……」

「大の大人がシチーから貰えるチョコレートの形とか味を一々、想像してはニヤニヤしてたんだ。笑えるだろ」

 

なんか言ってやろって思ってた。

なんか文句の一つでも言って逃げかえってやろうって。自分でもどうかと思うけど、それぐらいアタシはイラついてたんだ。

でも、トレーナーの言葉を聞いてるうちにイライラがどっかに消えて残ったのは嬉しいって気持ち。

我ながらチョロ過ぎじゃねーか。

 

「笑えるってかキモイ」

「ああ、そうだな確かにキモイ」

「そんなにアタシのチョコレート欲しかった?」

「今日、世界が終わるとして最後に何が食べたいですか?って聞かれたらシチーのチョコレートって答えるぐらいには」

 

あーキモイ。

訳分かんない例えを使ってくるところとか。しつこすぎるところとか前々から思ってたけどキモイ。

でも、それで嬉しくなるアタシが一番キモかった。

だから、

 

「ん」

 

鞄の中からチョコレートを無理矢理取り出してトレーナーに押し付ける。

 

「……シチー」

「チョコレート。欲しかったんしょ?いらないの?」

「……ああ!ああ!ありがとう」

 

今日一番のトレーナーの笑顔を見たアタシはふと思った。

コイツ、想像よりも良い笑顔してるなって。

 

「……ねぇトレーナー」

 

だから、アタシも笑顔でこう言ったんだ。

 

「ハッピーバレンタイン!」

 

 

 

 

 

ちなみに後でメッセージカードを渡してないことに気が付いたけど渡さなくて良かった。……いや、マジで。

 




メッセージカードの内容をご覧になりたい方はpixivに投稿されてますので、そちらをご覧になって下さい。
出来れば本文に差し込みたかったんですけど蛇足になりそうなおで別個に分けました。
次回は1時間後です
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