ゴールドシチーがトレーナーとイチャつく話   作:大大魔王

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ゴールドシチーは曇らせれば曇らせるほど美しくなる……。


ゴールドシチーと別れ話

「シチーって別れ話されたら絶対、面倒臭くなるタイプだよね」

「は?突然なに?」

 

ジョーダンと食堂で昼食をとってたら失礼なことを言われたから少し強めに返してやった。

アタシが面倒臭い?ありえない。

 

「いやー、友達がさ。浮気されて好きピと別れたんだけど。修羅場かってくらい、ちょー荒れて。そんでその時、シチーの顔が浮かんだから」

「……理由が適当すぎんだろ」

「いやでも、別れ話なんかされたらシチー、絶対に荒れるっしょ」

 

もし、そんな相手がいたとして別れたいなんて言われたらアタシならすっぱりと別れる。

相手の気持ちが離れてるんだからつまんない言い争いをしてるほうが無駄だし。

綺麗に別れてハイお終い。これがベストっしょ。

それをジョーダンに伝えたら。

 

「いやいやいやいや、荒れるに決まってるって」

「あっそ、勝手に言ってれば?アタシ、これからトレーナーと用事あるから先行くわ」

「はいよー。トレーナーに別れ話されても喧嘩せんようになー」

「うっさい!アイツとアタシはそんな関係じゃないし!」

 

 

 

ジョーダンからのからかいから逃げるために予定の1時間早くアタシはトレーナー室へと向かった。

 

「はよー、トレーナー。って言っても誰もいないか」

 

今、アイツは学園の別室で雑誌取材を受けている。

記事の内容は確か……現役人気モデルウマ娘トレーナー、その実績と手腕とはっていう記事だったはず。

これまでアタシと組みで受けることが多かったけどアイツ1人で受けるのは初めてだから昨日なんか緊張でガチガチになっちゃっててアレはウケたなー。

 

「ま、でもこれから1人で取材受けることも増えるかもね……」

 

室内に飾られてるトロフィーの数々をアタシは見つめる。

トレーナーと組んでから数年。色々あったけどアタシは現状に満足していた。もちろん勝ちたい、ううん、勝たないといけないレースはまだまだある。でも、アイツと一緒に歩んでいけばきっと何でも出来るってアタシは思うんだ。

トロフィーの横に飾られてる初めてG1を制したときに撮ったアタシとアイツの2ショット写真。顔を真っ赤にして喜んでいるトレーナーの顔を指でなぞった。

 

「いつも、サンキュ。トレーナー」

 

アイツの前だと素直に言えないから代わりに写真のアンタに言っとくね。

ほんと、感謝してんだアタシ。

 

「って、なにやってんの。アタシは」

 

ヤバい。なんか冷静になってきて急に恥ずかしくなってきた。

こんな所、トレーナーにでも見られたら恥ずかしすぎて死んでしまう。

はー、顔あっつ。

手で顔を扇ぎながら落ち着こうと目の前にあったトレーナーがいつも使ってる椅子に腰かけた。

座った衝撃でフワリとトレーナーの匂いが漂う。それを吸い込んだアタシは不覚にも落ち着いてしまった。

少し汗臭いアイツの匂い。本人の前でなんて絶対に言わないけど嫌いじゃなかった。別に好みの匂いってわけでもないけど、なんていうか包まれてるっていうか要は嗅いでいると安心できるってこと。

昨日なんかもアイツのジャージが出しっぱなしだから、それを……

 

「ああああ!!もうやめよ!このままだと壊れるわ」

 

頭の中から考えてたことを全部、追いやる。

……ま、ちょっとは嗅ぐんだけど。

 

「ん?」

 

そこで気が付いた。匂いに何か混じってる?

別に異臭がするとかそんなんじゃない。嗅ぎ慣れているアタシだから分かった。

この匂いは

 

「女だ」

 

別の女の匂いがする。

微かだったから今まで気が付かなかったけど部屋全体からトレーナー、アタシそして別の女ていうかウマ娘の匂いがした。

いくらトレーナー室だったとしてもここは学園で、もしかしたら間違えて入ったとか色々、理由は考えられる。

普段のアタシなら少し気にはするだろうけど流せるはず。でも、さっきのジョーダンが変な話をしたせいですっごく嫌な予感がした。

 

「あー緊張したー。ってシチーもう来てたのか。約束って1時間後だったよな」

 

都合良くトレーナーが帰って来た。

落ち着け―アタシ。なにもトレーナーと喧嘩したいわけじゃないし。

ただ、誰か来てたって聞くだけから。

冷静に……冷静に……

 

「別に早く来たって良いでしょ?なにかマズイ理由でもあんの?」

「いや、そんなことはないんだ。ただ俺が予定の時間を勘違いしてたのかと思っただけだよ」

 

ああ!もうアタシのバカ!

コイツに突っかかっても意味ないじゃん。

今度こそ落ち着いて……

 

「ていうかさ。今日、トレーナー室に誰か来た?」

「ああ、取材の人が来たってたづなさんが教えに来てくれたぞ」

 

違う。たづなさんの匂いじゃなかった。

もしかして誤魔化そうとしてんの?

 

「じゃなくて、他に誰か来た?」

「他に……?っあ!はいはい来てた。別に大した用事じゃなかったけどな」

 

大した用事じゃないってのはウソじゃない。それに疚しいこともなさそう。

長年、組んでるアタシになら分かる。

トレーナーはウソをつく時、左手で頭を触る癖があるけど今はそんな素振りすら見せてない。

 

「そーなん。そんなら良かったけど用事って?」

 

ああ、勘ぐって損した。ジョーダンが変なこと言うから疑心暗鬼になったじゃん。あとで文句言ってやらないと。

これで心の中に蠢いてた黒い靄は

 

「担当して欲しいっていうウマ娘がきてたんだ」

 

晴れなかった。

 

 

____________

 

 

今日の朝、トレーナーにぜひ担当して欲しいっていう娘がアタシの不在中に直談判しに来てたらしい。

恐らく、この匂いもその娘のものだろうね。

ウマ娘は本格化を迎えたら選抜レースに出場して、そこでトレーナーのお眼鏡にかなえば契約成立ってのが普通の流れだけど優秀なトレーナーに直談判しにいく娘も珍しくない。

目の前にいるアタシのトレーナーも契約した時はただの暑苦しい駆け出しトレーナーだったけど今やアタシをいくつかの重賞制覇に導いた敏腕トレーナーとして有名になってる。

今日の取材が良い例だ。

 

「それでどうすんの?引き受けるわけ?」

 

契約破棄。担当切り替え。

考えるだけで心がズキズキ痛くなる言葉がアタシの頭の中で壊れたラジオみたいにリピートされる。

日和んな!アタシ!

もしも、そんなしょーもない話を切り出してきたらキッパリと別れてやったらいいだけじゃんか!

 

「いや断ったよ。チームとして複数担当持つことも許されませんかとも聞かれたけど今はシチーのことだけに集中したいしね」

 

その言葉を聞いてアタシはホッと胸を撫で下ろした。

いや、なにホッとしてんの?別に担当トレーナーがこれまでと同じってだけだし。

てか、アタシだけに集中したいだなんてアタシの事好きすぎないトレーナー。ちょっとキモイんだけど。

こんなトレーナーと付き合っていけるのなんてアタシだけだろうし、その娘も良かったんじゃない?

 

「ああ、でも他のトレーナーと契約できるまでは俺が面倒みるってことになったから」

 

目の前が真っ暗になった。

 

 

 

 

翌日、アタシは例のウマ娘とトレーナーが話している姿を、たまたま……そう!たまたま見かけたから物陰から見ていた。

長い綺麗な黒髪で可愛らしくって清楚って感じがする。それに素直で優しそう。

アタシとは正反対な子だ。

アイツの好みってあんな娘なんかな?……楽しそうだしそうかも。

そーだよねこんなウマ娘より、ああいう子の方が……

 

「……シチー?どしたん?こんなとこで」

「別に」

 

本当に間が悪いことに話しかけたきたジョーダンを無視するわけにもいかないから適当にあしらおうとしたけど。

 

「うわっ怖ぇ顔。……本当に大丈夫なん?なんか見てたみたいだけどって、あれシチーんとこのトレーナーじゃね?」

 

最悪。

一番、気付かれたくなかった奴に気づかれた。

 

「ふーん、トレーナーいたんだ。知らなかった」

「いや、その言い訳は厳しいっしょ。てか隣に知らない子いんじゃん。あの子どっかで見覚えが……あっ」

 

なにか知ってるらしいジョーダンにアタシはすぐに詰め寄った。

 

「なに!なんか知ってんの!」

「ちょ、ちょ落ち着けし!あの子、最近有名になってる新入生の子じゃんか。選抜レースで10バ身以上、差をつけたっていう。3冠も夢じゃないってトレーナーたちが争奪戦してるらしいけど」

 

そんな子がトレーナーに直談判しに来てたってわけね。

正直、ジョーダンの話を聞いてアタシは最初、すっごく嬉しかった。そんな将来を託されるほどの有望な娘が直談判しに来るってことはアイツが認められてるってことだ。

でも、喜べない自分がいることにも、すぐに気が付いて最低な気分になった。

どんだけ捻くれてんだよアタシ。

 

「あれ?もしかしてシチー、トレーナーが取られるかもって思ってたん?だから、あんな怖い顔で睨んでたん?」

「そんな怖い顔してないし。てか、気にしてもないし。良いんじゃないの担当したいなら担当すれば?アタシを捨てるなら捨てたら良いじゃん!」

 

担当はしない。アタシだけに集中するって言葉を聞いてるはずなのにアタシはどうにも、あの2人だけの空間に別の誰かが入り込む想像をしてしまって心がグチャグチャになってた。

 

「あー、もしかして本気にしてんの?」

「は?だから気にしてないって言ってんじゃん」

「だったら良いんだけさ。シチーんとこのトレーナーがシチー以外のウマ娘を担当するわけないじゃんね。いや、複数持ちありえなさそー」

「なんで?他にも担当持つトレーナーもいんじゃん」

 

トレーナーとほぼ関わり合いのないジョーダンがここまで断言する理由がアタシには分からない。

それに担当を複数持つってのも珍しくないどころかスタンダードだ。

 

「へ?なんで……って、シチーは知らんで当然か。てか言っていいんだっけこれ」

「……なんか知ってるなら教えて」

 

少し言い淀むジョーダンを見て、ああアタシに言い辛いことがあるんだなってすぐ悟った。

目頭が熱くなったけど分からないようにわざと下を向く。

 

「……別に良いけどあたしが言ったってって秘密にしなきゃダメだかんね」

 

こんなの傲慢で最低な感情かもしれないけどアイツのことは全部知りたい。

もし1つでも隠し事があるなら、それがアタシにとってそれが不都合なことでも全部、知っておきたい。

 

「はー、簡単に言うとアンタのとこのトレーナー。アンタのことが好きすぎてヤバいって話」

「は?アタシ?……好き?」

 

だから、初めジョーダンが何を言っているのか理解できなかった。だってアタシにとって都合の良すぎる言葉だったから。

でも、アタシの耳がおかしくなったんじゃないならトレーナーがアタシの事を好きすぎるからって言ったの?

 

「そうだよ。どこに行ってもシチーがシチーがーってアンタのことしか喋らんの。今日は走り方が綺麗だったとかタイムが少し縮んだーとか。もはや、惚気よあれは。聞かされてるほうからしたらさ、たまらんて」

「……はは、はははは!」

「……シチー?壊れたん?」

 

なんかジョーダンの話に出てくるトレーナーが簡単に想像できて今まで抱えたグチャグチャなんかどっかに吹き飛んだ。

そうだ。アイツはそういう奴なんだ。

暑苦しくて鬱陶しくて真面目で。アタシのことしか見てなくて口を開けば一言目には

「シチー」って出てくる。

ウマ娘、ゴールドシチー。それしか眼中にない。

それがアイツだった。

なんで心配なんかしてたんだろアタシ。ほんと、あほらし。

心の中では呆れかえってたけど隣で心配するジョーダンを無視してアタシはしばらく笑い続けた。

 

 

____________

 

「シチー、聞いてくれ!この前、面倒見るって言ってくれた子の担当が決まったんだ!」

 

後日、トレーナー室に行ってみたら開口一番、嬉しそうにアタシに報告してきた。

へー、あの子がね。結局、遠くから顔を見ただけで絡みもしなかったけど良かったじゃん。

 

「ああ、本当に良かったよ。トレーナーの方はまだ駆け出しなんだけど中々熱い奴でな!」

 

本当に楽しそうに語るトレーナーにアタシは無性に腹が立ってきた。

アタシがしばらく悩んでたってのにコイツは……。

もちろん、こっちが勝手に変な妄想して取り乱してただけなんだけど、こうも無邪気に話されると、なんかこう……復讐?してやりたくなった。

てか、ちょうど良いネタをジョーダンから仕入れたばっかじゃん。

 

「そういやアンタ。学園でアタシのことばっかり話してるらしいじゃん」

「ゴッ!?」

 

話が途切れて緑茶を口にした時を見計らって言ってやったらトレーナーは案の定、むせかえった。

ざまーみろ。

 

「い、いやー俺はシチーのトレーナーだからな、そりゃ少しぐらいはするさ。でもいつもってわけじゃないんだぞ。本当に」

 

トレーナーはそう言って左手で頭を触る。

ウソのサインだ。

アタシは思わず笑ってしまった。いつも予想外の行動をするコイツが今日は思ったように動くから。

 

「ぷっ。絶対にウソじゃん。アンタ、気付いてないかもしれないけどウソつくとき左手で頭を触る癖あんの知ってた?」

「へっ!?あっ、そんな癖あったのかウソだろ!」

 

真っ赤になって動揺するトレーナーを見てもう許してやっても良いかなって少し思ったけど、まだダメ。

許してやるもんか。

 

「ねぇどんなこと言ってんのか教えてよ」

「いやぁ、さすがにそれは勘弁してくれないか」

「は?もしかしてアタシに言えないようなことでも話したん?」

「それは違うぞ!」

「だったらさ言ってみ。ほら」

 

トレーナーは赤くなってしばらく下を俯いてるかと思ったらポツリ、ポツリと話し始めた。

 

「例えば、例えばなんだけどな、この前のG2レース1位取れたけど、それとは別に自己ベスト更新しただろ?それの自慢とか……?」

「で、他にもあるっしょ」

 

まだだ。

アタシはこれを聞きたいんじゃない。いや、ベストタイム更新の話も重要だけど!もっと踏み込んだ話をアタシは聞きたいんだ。

 

「あとは、シチーって走るときのフォームはもちろん綺麗なんだけど精神性?って言ったら良いのかな?それも美しいんだ。この前だって転んで泥まみれになっても自分の納得のいくまでトレーニング続けてたろ?」

「へぇ、それで?」

 

トレーナーは口が回って来たみたいでさっきよりも軽快にアタシのことを褒めだした。

 

「まぁ精神面だけじゃなくて整った健康的な体ってのも大切なポイントだと思うんだ。特に俺は太ももから骨盤あたりまでのラインが最高だと思ってて!ああ、そこが好きなポイントってだけで全部完璧だと思ってるぞ!」

「へ、へぇ」

 

ん?んん?

トレーナー、あんた恥じらいはどこ行ったん?もう自分から恥ずかしいこと話しちゃってるんですけど。てか、トレーナーすごいこと言ってない。アタシの身体のラインがどうのって……。

 

「まだまだあるぞ!仕草というかふとした瞬間に出る反応も最高でな。この前、自分が出てる雑誌を見てが小さくガッツポーズしてただろ。マネージャーさんに聞いてみたら仕事が大成功したときのやつなんだってな!俺はそれを見て「ちょ、ちょ、タンマ!」」

 

え、え?なにコイツ?全く止まらないんですけど。

いや、そこじゃなくて、アタシのことどんだけ見てんの?

小さくガッツポーズをしたとかアタシさえ忘れてたんだけど。

ちょっと待って、もしかして。

 

「アンタ、もしかして今話してたこと。学園の中でも言ってるん?」

「え、そうだけど?」

「―っ!?アンタなに考えてんの!!!」

 

そんな恥ずかしいことをペラペラ学園中に話してたってことでしょ!?

ほんっと最低!デリカシーない!

そりゃジョーダンだってあんな呆れ顔で話すに決まってんじゃん!

 

「い、いやちゃんとシチーのプライバシーのことは考えてだな。話す内容は選別してるんだ」

「そういうことじゃないでしょ!」

「……はい」

 

もう恥ずかしい。ほんとに恥ずかしい。

明日からどんな顔して学園で過ごせば良いかわかんないし!

ぜったい変な噂とかも立てられてんじゃん!アタシたちが付き合ってるとか噂でもされたらマジ迷惑なんですけど!!

 

「なぁ、シチー。つかぬことを聞くようで悪いんだが今って怒ってる……のか?」

「は!?見たら分かるでしょ!怒ってんの!」

「いや、でも笑ってるし……どうなのかなと」

 

は?笑ってるわけないじゃん!

そう思って鞄から手鏡を取り出して見たアタシは

 

これ以上ないってほど幸せそうに笑ってた。

 

「怒り過ぎて笑ってるだけだし!てか反省してんの?」

 

色々、言ってやりたいことはあるし今日は1日中説教で確定したわけだけど。

とりあえず、これだけは最初にトレーナーに言っておきたい。

 

「アンタ!アタシのこと好きすぎるでしょ!」

 

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