シチーって恋に関してはアクセル踏むまでは時間かかりそうだけど踏んだ瞬間、相手を仕留めるまで一切ブレーキ踏まなさそう。
トレーナーの私生活は滅茶苦茶だ。
そう気が付いたのはこの前、トレーナー室で備品と間違えてアイツ宛に送られてきた荷物を見たときだった。
ダンボールの中には大量のカップラーメン、それとサプリの数々。
「アンタ、これ災害にでも備えようとしてんの?」
って冗談混じりに聞いてみたら
「いや、俺の1か月分の食事だぞ」
……中々洒落にならない返答だった。
その時は誇張しただけで毎食カップラーメンはないでしょって思いたかったんだけど色々、思い返してみるとアイツが一人で食事するときって毎回カップラーメンだったような気がする。
ヤバい。
アタシは本能的にそう感じた。
アイツはトレーナーとしては、その……トレセンの中で最高のトレーナーだと思ってる。モデルと2足の草鞋を許してくれるような奴なんてアイツだけだろうし。
でも、アイツはいつもシチーシチーってアタシのことばっかで自分のことは全く顧みない。徹夜でトレーニング案をまとめるなんてザラだし休日もトレーナー教本とか読んでるらしくて仕事をやってるらしい。
そこがアタシにとっては唯一の不満だった。
こっちに向ける10分のいや100分の1だけでも良いから自分のことを気にして欲しい。
翌日、そのことをジョーダンに相談したら意外な答えが返ってきた。
「当たり前じゃね?」
当たり前って……。
もしかしてトレセン学園ってブラック企業も真っ青になるぐらいの黒い環境ってこと?
いや!
「当たり前はねーだろ」
アタシは否定する。
そもそも、そんな環境が平常ならトレセンからトレーナーが一人残らず消えてると思う。でも、それこそ高齢のトレーナーもいるワケで。
皆が皆、毎食がカップラーメンになるような生活が送ってるとは思えない。
「あたしらを担当してるような若いトレーナーは自己管理、特に食生活に気を付けるのは難しいって話」
「あたし“ら”ってジョーダンのトレーナーも?」
ジョーダンのトレーナーはアイツの一つ上の先輩だって聞いたことがある。アイツともそこそこ仲は良かったはず
「そ、トレーニング方針も手探りだからなにをやるにも時間がかかんだって。あたしのとこもそんな感じだったから最近は週一で一緒に食事するようにしてっし」
意外。
ジョーダンは悪い奴じゃないし気遣いもできるんだけど担当の健康状態を気にして食事をしに行くほどだなんて。
ちょっと見直したわ。
「へーあんたが。で、例えばどこ行ってんの?」
「んー最近だとこの前できたファーストフード店とか?」
「おい」
それはジョーダンが行きたかっただけで別にトレーナーの健康を気遣ってって話じゃないだろ。感動返せ。
それにしてもアタシもトレーナーの健康を考えて何かするべきなのかもしれない。
例えばジョーダンみたいにどこかに食べに行くとか?
ただ、一緒に食事行くとしてもトレーナーのことだからアタシ好みの場所しか選ばなそう。
それなら手料理振舞う?料理なんて数えるほどしかしたことないケド、あんな食生活をするよりはマシでしょ。
あー、でもアイツ、アタシの負担になりそうなことを極端に嫌うしな。
誘うこともできないってなると……。
「俺の家で料理がしたい?」
「そ、仕事で料理をする必要があって、いいでしょ?」
思いついたのは仕事で料理をする機会があるから練習がてら料理させろってお願いすることだった。正直、無理矢理すぎるし冷静に考えたら無茶苦茶なこと言ってっケド、トレーナーは押しに弱いことをアタシは知っている。
「いいでしょ?って、だいたいマズイんじゃないか?いくら仕事のためとはいえ男の家に上がるのは。マネージャーさんだって許可してくれないだろ」
「マネジには事前に連絡とってっから。ウソだと思うなら連絡してみなよ」
すぐさまスマホを取り出してマネジに連絡をするトレーナーを見てアタシは薄く笑う。
その断り方も想定済み。だから昨日わざわざマネジに許可もとったんだ。少しも反対されなかったし『まぁがんばんなさい』って応援もしてくれたから隙は無い。
「……はい、それでは失礼します。おいウソだろ。どうなってんだよ。仮にもモデルでトレセンの生徒だぞ」
「アタシは別にアイドルってわけじゃないから。そこらへんは緩いんだって」
「そういえば寮に調理部屋ってあっただろ!あそこじゃダメなのか?」
絶対言われると思った。
確かにウチの寮に調理ができる部屋はあるし初めはそこで作ってから持って行くことも考えないわけじゃなかった。でも、せっかく作るんだから出来立てを食べて欲しい。
「ダメ。あそこはもう1か月先まで予約で埋まってるから」
「1か月先まで!?そんなに人気なのか……」
もちろんウソ。いや、訂正。ウソかどうかは確認さえしてないから分からない。
調べられたら一発アウトだけどトレーナーも深くは調べないだろうし大丈夫っしょ。
「ってことで次の週末に行くから」
「週末!?え、それは……」
「なに?ダメなの?」
「いやー、その、な」
妙に歯切れが悪い。
トレーナーは押しに弱いから押せば折れることの方が多い。これまでだってそうだったんだから今回もって思ったんだけど……。
アタシに見られたらマズイものでもあるわけ?
「とにかく!呼べそうになったら1回、連絡するからそれで良いか?」
「は?それで練習する時間なくなったらどうすんの?」
そんな仕事ないから時間もなにもないんだケド。
その後もあーだこーだと理由をつけて断ろうとするから、とりあえず今の所は従ったフリをして週末に買ったもの持参で直接乗り込んでやるつもり。
アンタには悪いけど食生活とかのことを考えたら今すぐにでも改善しないと。
レースだけじゃなくてモデルの仕事も支えてくれるアンタを今度はアタシが支える番だ。
週末
アタシはさっきスーパーで買ってきたものを両手にぶら下げてトレーナーが住んでいる寮のインターホンを押す。
『はーい、今出まーす』って軽い感じの声がして扉が開いた。出て来たのはいつものスーツ姿じゃなくて上下ジャージ姿のトレーナー。
「よっす」
「……へ?」
一瞬、フリーズしたかと思ったら突然、勢いよく扉を閉めようとするからアタシは扉に足を差し込んで阻止する。
「ちょ、なんで閉めんだよ!」
「そりゃ指導してる担当が突然来たからな!呼べそうになったら連絡入れるって言っただろ!」
「それじゃあ間に合わないから直接、来たんだってのッ!」
腕に思いきり力を入れたら簡単に扉が開いた。
ウマ娘に力比べで勝てるわけがないだろ。
「ご、後生だから少し待ってくれ」
「はいはい大丈夫だから。誰か部屋に上がってるわけでもないんでしょ」
玄関先の靴はトレーナーがいつも履いているものだけ。誰か先客がいるってワケじゃないんだから入っても大丈夫でしょ。
縋りつくトレーナーを避けて部屋に入る。廊下を抜けてリビングに入ると
「……なるほどね」
ここまでアタシを拒否した理由が分かった。
床が辛うじて見えるぐらいゴミが放置された部屋。空気の入れ替えをしてないみたいで埃っぽいしキッチンのシンクには洗い物がたまってる。
配達が来た時のために最低限、玄関と廊下は綺麗にしてたみたいだけど他人からは見えない部分は最低最悪だった。
「すまんシチー。その……幻滅しただろ」
珍しくシュンとしてるアンタの姿を見て驚いたけどアタシは少し笑って軽く背中を叩いた。
「バーカ。アンタの面倒を見るために今日は来たんだから幻滅もなにもないんだっつーの」
「え?仕事の練習のためなんじゃ?」
「あーあれ。なくなったから」
部屋に来る取っ掛かりが欲しいからウソをついてたんだから今更、取り繕うこともないし。
それよりも……
「ほら、掃除と料理するから着替えて出てって」
「そ、それなら俺も」
「いいから。喫茶店にでも行ってゆっくりしてきなよ」
自分の食べる物があんなことになってんだから部屋も酷いことになってんだろうなって思って掃除道具も購入済み。このときのためにエアグルーヴ先輩から掃除のやり方なんかも教えてもらってるから大丈夫だろ。
それからも手伝おうとするトレーナーを追い出してから掃除用に持ってきた体操服に着替え両手にはゴム手袋をはめて掃除を開始した。
「ふう、とりあえずこんなもん?」
額に噴き出る汗をぬぐいながら綺麗になった部屋を見る。
初めはどうなることかと思ったけど予めトレーナーが雑誌類をまとめていたり一部、掃除をしていたお陰で予定よりも早く終わった。
時刻は夕刻のちょっと前。この分なら夕食を作るのも間に合いそう。
掃除は完了したから戻って来いってアイツにメッセージを送って台所に向かおうとした時、縛り忘れてた雑誌の山を倒してしまった。
「やっば、やっちゃった」
やることが若干、増えたけど軽傷ですんで良かった。
これぐらいなら縛っても20分で……。
「ん?」
組紐を手に持ちながらアタシは雑誌の山に違和感を感じた。雑誌はレース関係の物から漫画雑誌まで色々あったけど、その中の一群が理由なんてないけど気になって引っ張り出す。
「え、これって……」
現れた物を見て1秒でアタシは後悔した。
本の内容は所謂、成人男性向けってか18歳以上しか読んじゃいけないタイプのモノ。
アタシは顔が熱くなるのを感じながら目を逸らした。
「ま、まぁアイツも大人の男だし、こういうの持ってたってね」
何も違法なことなんてしてないしトレーナーも一人の男なんだし騒ぐつもりなんてない。
アタシがいずれ来ること分かってたんだから隠すなり処分するなりしなよとは思うけど、そもそも突然来たのはアタシの方なんだし。
ここは中身を見ないように捨ててあげるのが優しさか。
そう思いつつもアタシは恐る恐る本の表紙を見た。
「こ、これって!!」
「ただいまー」
「お帰り。ご飯できてるから、さっさと手洗いなよ」
それから大体、2時間後にトレーナーが帰って来た。それを見越したように出来上がったハンバーグとサラダをアタシは器に盛りつける。
「おー!!すごいな!!自分の部屋じゃないみたいだ。ありがとうな」
「はいはい、お礼は良いからさっさと椅子に座って」
さっさと椅子に座らせて一緒に食事をとる。
ハンバーグは我ながら上手く出来てトレーナーからも好評だ。『最高のハンバーグ』だの『シチーは世界一のお嫁さんになる』だのよくもまぁ出てくるなって思うぐらいの誉め言葉の数々。
いつもなら暑苦しいだとか鬱陶しいだとかで反論するんだけど今は別の事で頭が占めていてただ頷くだけだった。んで、食事を食べ終えて食器を洗い終えたアタシは今日、ずっと気になってことを切り出した。
「トレーナー。そういえば聞きたいことあんだけど」
「おーなんだ?」
ゆったりした姿勢で椅子に座るトレーナーの目の前に今日見つけた成人向け雑誌を綺麗に並べる。
「これのことなんだけどさ」
「は!?え?え?え!」
飛び跳ねるみたいに立ち上がったトレーナーは少しづつ後ずさりを始めるから落ち着いて椅子をあごで指しながら
「座りなよ」
「いや、これはだなシチー……」
「座りなよ」
「せ、説明させてくれ」
「いいから座りなって」
別に怒ってるワケじゃない。だから言葉にも怒気は含まれてないってのにビビってたみたいだけど三回言ったらトレーナーはようやく座った。でも、悪戯がバレたときの子どもみたいに怯えている。
「まず見つけて処分するつもりだったんだけど……」
「ほんっとすまん!全部捨てたつもりだったんだが」
「……これ以外もあったのかよ。いや、そうじゃなくて」
アタシは表紙に映ってる娘を指差す。
「これ、同じ見た目の娘ばっかりだけど」
「あのですねシチーさんこれは」
机に並べられた本の中の娘。全員が別人だから容姿はバラバラだったけど共通点っていうか雑誌が打ち出しているテーマに似た物があった。
「1個1個表紙読んでいこうか?えーと『金髪ギャルの読者モデルと「シチー!いや、ゴールドシチーさん!勘弁してもらえないでしょうか!!」
共通しているテーマは金髪、モデル、ギャルそれに加えて皆、健康的な脚がアピールポイントの1つって娘が多い。
アンタの身の回りの女で1人、これに共通している人というかウマ娘をアタシは知っている。
「これ全部、誰かに似ているような気がすんだけど」
「すみませんでしたぁぁ」
「いや怒ってもないのに何してんの?」
勢い良く土下座をするトレーナーを椅子に座らせる。
本当にアタシは怒ってはいない。ていうか納得している。
アンタがアタシに惚れ込んでることなんて、これまでの3年間で分かりきってた。アタシの走りは勿論、ルックスにも惚れてるって視線で気が付いてる。
だから、雑誌を見つけた時も多少は驚いたけど納得?安心感?の方が強かった。これが別の女、例えばジョーダンの特徴にピッタリ当てはまるやつとかだったら怒ったかもしれないケド。
とにかく説教というよりもトレーナーをからかって遊びたいからアタシは雑誌を突き付けていた。こんな機会滅多にないし、部屋を片付けた駄賃替わりってことで。
「アンタさ、こういう見た目の娘が好みなんだ」
「あははは、いやぁそのぉ」
「誤魔化すな」
「はい、好みです」
上がりそうになる口角を抑えながら『いっそのこと殺してくれ……』と小声で呟くトレーナーに質問を続ける。
「んで、どういうところが好きなの?」
「……好みか?」
「そ、好きなポイントってもんがあるでしょ。教えてよ」
赤くなって俯くトレーナーは言葉を選ぶように話し出した。
「一番、好きなのは走ってるときなんだ」
「……走ってる時?」
「そうだ。君が走ってる時、ターフに揺れる君の綺麗な髪や尻尾にいつも目を奪われる」
あれ?もしかしてアタシの話してる?
いや、なんでアタシ?好きなポイントを話せって言ったはずなんだけど。
「レースのときなんて、本当はトレーナーとしてはいけないことなんだが君に目を奪われて、君しか見えなくなって」
「……ストップ」
きっとアタシの顔は赤い。だって、からかうだけのつもりだったのにトレーナーがこんなこと言い出すなんて思ってもみなかったし!
とにかく止めないと!
「モデルをしているクールな君も泥まみれ汗まみれで周りと競う君も『これがゴールドシチーだ!』っていつも堂々してて綺麗だし憧れるし尊敬もしてる」
「だから、ストップだって……」
どんだけ止めてもトレーナーは止まらない。その瞳はいつもトレーニングしてるときみたいな、いやそれ以上の熱が籠ってた。
「それにいつも周りをよく見てるところなんかもさすがだと思う。あと、なんだかんだで優しいし」
「分かった!分かったから!アタシが悪かったから1回止まって!」
もう逆にアタシにとっての拷問みたいになってきたから肩を掴んで強制的に話を止める。これ以上、聞いてたらどうになっちゃいそう。
さすがのトレーナーも自分の世界から帰って来たみたいでポカンとしていた。
「どうした、まだまだあるんだが」
「……どんだけアタシのこと好きなんだよ」
「なんか言ったか?」
「なんも言ってない!」
はーあっつ。汗までかいちゃってるし。
顔を手で扇ぎながらトレーナーの顔を見る。
アンタの私生活がここまで滅茶苦茶になった理由がようやく分かった。ワーカーホリックってわけでもないし、アタシがレースに勝つためってのも近いけど少し違う。
この男はアタシ、ゴールドシチーっていうウマ娘が好きで好きで堪らないんだ。だから、自分のことなんて一切、省みないし無茶だって平気でする。
誰かが面倒をみてあげないと、私生活を支えてあげないときっと破綻する。それが出来るのは絶対アタシだけだ。
「……シチー、その色々とごめんな」
「ごめんってなにが?」
「部屋の事もそうだけど……本のこともだ。気持ち悪いだろ?シチーが希望するなら担当を変えてくれたって」
ッ!?言うに事を欠いてこの男は!
「は?信じらんない!アンタそんな無責任なこと言うんだ。最低!」
「で、でもこんな自分と特徴が合致するような本を持つような男がトレーナーなんてシチーも嫌だろ」
「そんなことアタシが一言でも言ったか!」
「言ってないけど……」
いつも変なところでは鋭いのに、こういう時は鈍い。鈍すぎる。
感情任せに机を叩いて立ち上がる。
「だったら勝手にアタシの心の中を想像して担当を辞めようとすんな!」
「……すまん」
「謝るぐらいだったら最初から言うな!」
分かってる。
きっと一般常識に照らし合わせたらアンタの言ってることのほうが正しい。でも、アタシたちの関係を一般常識っていう枠にはめないで欲しかった。てか、アタシがどんなことを想ってるか感じてるか3年間で分かってくれてると思ってた。
どんな想いで毎日、アンタと接してるか分かってるもんだって……。
「そもそも今回のことだってアンタを心配してやったんだ!アンタの生活がヤバそうだったから病気になんないかなって心配してさ!」
「そうなのか……?それは迷惑をかけてしまったな」
「迷惑?思ってるわけないだろッ!」
頭で考えるより先に言葉が口から溢れ出す。
止める気なんてさらさらない。
「それに!こんなもん見つけたって少しも気持ち悪いなんて思わないから!」
「気持ち悪く……ないのか?」
「アタシに似てなかったら怒ったかもしれないケド!気持ち悪いなんて思うか!」
「……なんでだ」
もうなんでこんなに鈍いんだ!
「アタシがアンタのことを好きだからだよッ!!」
言ってやった……。
言ってやった。言ってやった!言ってやった!!
自分から言うにしたってシチュエーションとかムードとかちゃんと考えてたけど、どうでもいい!このバカには真っ向から言ってやんないと伝わらない。
「好きって」
「ライクじゃなくてラブだからな!」
逃げ道なんて徹底的に潰してやる。
こっちが日和って少しでも曖昧な言い方なんてしたら後で勘違いされるのが目に見えてる。
アンタが逃げるってならコッチは地獄の果てまででも追ってやる。
「ラブ……。ラブかぁ」
一瞬の沈黙。
こっから、どうしよう。こんだけはっきりと伝えたんだしさすがにアタシの気持ちは伝わったはずだけど見切り発車すぎてどうしたら良いか分からなくなった。
「……俺も」
聞こえるか聞こえないかぐらいの声でトレーナーが呟く。顔をアタシと同じぐらい赤くして俯きながら
もうほとんど答えみたいなもんだけどアタシは聞こえないフリをして
「なんて?なに言ってんのか聞こえないんだけど」
「俺もって言ったんだ」
正直、心の中じゃガッツポーズしてたし飛びつきたい衝動に駆られるけどここは我慢。だってまだ、ちゃんと言葉にしてもらってない。
ここまで焦らされた責任取ってもらわないと割に合わない。
「俺もってなにが?」
「その……わかるだろ」
分かるケド。分かってやんない。
アタシだって何度、アンタに察してよって思ってきたと思ってんの?今度はアンタがアタシと同じ思いをする番だ。
「……す……きだ」
「はっきり言ってくれないと分かんない」
「俺も好きだ!」
やった……
やった!やった!
やっっっと、その言葉をトレーナーから言わせてやった。
今のアタシはとんでもなく気持ち悪い顔をしてるだろうからそっぽを向いて片手をトレーナーに差し出す。
「ど、どうした?シチー?」
「……合鍵」
「えっ?」
「ここの合鍵が欲しいんだけど……」
両想いってことが分かったんだし、これからは毎日……は無理でも毎週はアンタの部屋に来て世話を焼いてあげる。
関係が進展するんだから今まで以上に二人三脚で頑張っていかないといけないワケだし。だから別に彼女になった証が欲しいわけじゃないから。
手に乗せられる軽いけどアタシにとっては重い金属の感触を確かめながらアタシ、ゴールドシチーは明日からの毎日に思いを馳せて笑った。