一族を皆殺しにされて復讐を誓っていた蛇娘に執着される話 作:ジョク・カノサ
「済まないな、早速こんなことをさせて」
「気にしてない」
食事を終えてしばらく休息を取った後、クィにはしてもらいたいことがあった。
「難儀していたんだ。死体というのは存外に重いからな」
クィを追っていた三人の死体の処理。流石に小屋の前で野晒しにしておく訳にはいかない。適当に森の奥へと捨てる予定だったが、俺一人では少し面倒だった。
「アンタは信用ならない。でも、これくらいはやる」
クィは食事と休息である程度は回復したように見えた。冷ややかに受け答えをしながらも並んだ死体へと近づいていく。
「……アンタ、強いんだろ。どいつも一撃で死んでる。何が私には勝てない、だ」
「暗闇があってこそだと言っただろう。それに君に勝てないのは事実だ」
「どうだか」
胡散臭いモノを見る目で俺を見た後、クィは三体の内の一人に手を伸ばす。伸ばした先にはもう動くことの無い呆けた表情がある。
「……」
だが、そこで動きが止まる。
「死体は苦手か」
「……違う」
「憂さ晴らしがしたいというのなら一人にするが」
「っそんなこと……」
クィは俺を睨み言い返そうとしたが、途中で言葉を止めて俯いてしまった。
「おかしなことじゃない。こいつらのせいで君は理不尽な目に遭った。咎める気は──」
「しない!」
そう言い切り、クィは死体を両手で死体を掴み自らの下半身へと載せていく。そうして三体全てを乗せ終えた後、不機嫌さの増した様子で森の奥へと進み始めた。
「一体なら俺でも運べるが」
「私だけで良い!」
三体の死体を載せた状態でもクィはするすると前へ進んでいく。やはり亜人の基礎的な能力は高い。
そうしてしばらく無言で森の中を進んだ後、俺達は死体を捨てた。
「埋める必要も無いだろう。森の動物が処理してくれる」
下半身から乱雑に投げ飛ばされ死体は糸の切れた人形のように力無く地面へと落ち、没し始めた日の光がそれを照らす。
「……」
物言わぬ肉の塊である筈のそれを見るクィの瞳には、確かに憎悪が宿っている。
☆
「手狭で済まない」
「……謝ってばっかだなアンタ。それとも私の図体がデカいって嫌味か?」
「そんな意図は無い」
「世話になってるのは私なのに、そうまで気を使われるとかえって不気味だ」
日が落ち、夕食を済ませば就寝の時間だ。強がっているがクィはまだ本調子ではないだろう。少しでも身体を休めたい筈だ。
昼間より冷えた空気の中、射し込んだ月明かりを反射しているのかクィの下半身が小さく輝く。
「襲ってきたら遠慮なく反撃する。言っとくけど、私は夜目が利くからな」
元々、この小屋は一人用で雑事に使う幾つかの小さな部屋を除けば寝床を兼ねた居間しかない。自然、就寝の際のお互いの距離は近くなってしまう。そこで居間の右の領域をクィが、左を俺が使うことに決めた。
「少しでも近づくなよ」
クィは大きな下半身を使い俺との壁を隔てた。有効な対処かは別として当然の反応だろうとは思う。
「明日の朝には出て行く。それまでで良い」
「そのことなんだが」
「あ?」
「これからどうするつもりだ?」
ここを出た先でクィはどうするのか。今の内に聞いておきたい話だった。
「逃避行を続け安全な場所を目指すのか」
「……」
「それとも……復讐か」
クィが人間達を恨んでいるのは見て取れる。その矛先を向けるのあればあの王国になるだろう。
それからしばらく返事は無かった。獣が居るのか、微かに遠吠えが聞こえた。
「私の一族は私以外、全員死んだ」
「……」
「いきなりだった。訳も分からず死に物狂いでアイツらから逃げた。その先で行き場の無くなった私を受け入れてくれる亜人達が居た。……その人達もアイツらに殺された」
唐突で理不尽な仕打ち。それに対して怒りを忘れ、ただ平穏な暮らしを望む。それが困難なのは人間も亜人も変わらない。
「やり返したい……!」
クィの目はずっと、そう訴えかけていた。
「なら、俺にも出来ることがある」
「……?」
「少し時間をくれないか。数日の間で良い、ここに滞在してくれ。君に用意したいモノがある」
「……」
「きっと役に立つ筈だ」
「……私を匿ってくれた亜人達はみんな、復讐を否定した。アンタは……しないのか」
「君にはその権利がある。俺は何かを言える立場じゃない」
「そう、か。……分かった。何日かはここに居る」
クィの表情は見えない。蛇の半身が身じろぐ音がした。
「ありがとう」
☆
壁にもたれ掛かり、膝を立てて目を閉じる。あの日からこうすることでしか眠れない。
『……や、やめて、殺さないで』
浅い眠りは夢を生まない。ただ、過去が繰り返される。
『本当に……これが正しいことなのか?』
血に濡れた亜人達。愚かな男の選択とその末路。
『裏切者が』
無い筈の左手が痛む。安堵すら感じる俺への罰。
『ありがとう』
止めてくれ。それを君に言われる資格は、俺には無い。