人里
「おっはー」
「紫か?悪いな、今はまだ2時で眠いんだ。俺は寝る」
「…ヘカーティアよ、ヘカーティア。わかる?」
「ヘカーティアか…ん?」
ヘカーティア!?と思いっきり起き上がったら、俺の顔を覗き込んでたヘカーティアと俺の頭が鈍い音を頭の中で繰り広げるが為にぶつかる。また、寝床に伏せる。あんまりだ。少し痛い。自業自得と言われればそこまで。ヘカーティアは痛がる素振りもないが。
「私をあんな奴と見間違えるなんて、失礼しちゃうわよん」
「申し訳なく思いますよ神様」
「それで良いのよ」
「で、何すんだ?」
「でって…何も?友人の家を訪ねただけよ。ピースちゃんの所も訪ねたいんだけど、深夜の2時だからね」
「今の俺は一応人間だ。すまんが、遊ぶなら他を当たれ」
「そうねぇ…仙界にでも行って、貴方とたまに居る華扇って人にご挨拶しようかしら」
「どんなふうに?」
「貴方のお嫁さん」
「…香霖堂って店の店主に言っとけ。面白い反応が返ってくるぞ。あいつは」
「冗談よ。私がそんなことするわけないじゃない」
やりそうだから言ったんだが、伝わってないらしい。と言うより、最近は紅魔館に行っても門前払いが多くなった気がする。自分のやったことを振り返ったら当たり前ではあるんだが、それでもノーレッジさんとは仲が良い…方、だとは思う。なぜ拒絶されるのか。
「とにかく、今の時期ならどーせ紫も『眠れない〜』とか言って起きてるからそっちに」
「眠れないわね〜…」
「…噂話をすれば何とやら、か」
「そうねぇ。私の目の前に現れて来るなんて、良い度胸してるわ」
「何よ、前回のことはもう終わったことじゃない。彼がムカついてるならわかるけどね?」
「お前なんぞにムカつく暇があるならの話だがな紫さん」
「うぐっ」グサッ
「そうね、相手にするだけ意味がないわ。私と彼が暮らす愛の巣から」
「愛の巣?」
「心配するな。お前と同じだ」
「心外ね、私は貴方を思って追い出そうとしてるのに」
「二人だけの空間になってるわね…」
「心配するな。お前らの本を入れ替えて『入れ替わってる!?』とかにはしないから」
「え、嫌よ」
「私も」
「それなら尚更だな。帰れ」
「嫌よ」
「私も」
「…はぁ。この時間だと提灯しか点けれないんだが」
「それでもないよりはマシよ」
「スキマから電気を通したって」
「断る」
悪い話だ。断らせてもらう。俺だってまだ慧音先生に追い出されたくない。得体の知れない謎のカラクリだって言われたくない。もう少し、せめて後200年くらいは安心して人里を歩きたいのだ。つーか待て、電気って何だおい。外の世界のものか?
「ここは灯りがあるな。失礼するぞー」
「おい嘘だろ」
「侵入者?」
「私が退治してあげるわ」
「そう、行ってらっしゃい」
「待ってるわねー」
「うわ、何だお前!?ちょ、天子だよ!八雲紫、聞いてんのか!?」
「…おい、天人が来たぞ」
「空の上の人ね。八雲紫と面識があるみたいだし、任せておけば?」
「夜中に提灯点けると誰か来るんだよ。全く…テメーまさか妖怪じゃないだろうな?招き猫が憑依してるとかじゃ」
「それはないわよ」
「痛い痛い!悪かったわよ!侵入した私が悪かったって!」
「そう。じゃあ出て行きなさい」
「嫌よ」
「ふんっ!」ボギィッ
「がっぁあ!?」
「もうやめて…俺の胃が…」
「大丈夫!?私の体温で抑えられるかしら?」
「ごめん、嘘」
「あらそうなの?」
「チョークスリーパーは不味い!死ぬ!死ぬって!!」
「うるせえ!」バゴッ
「ごはぁっ!?」
「…さて、これでようやく三人に戻ったわね」
三人に戻った?あたかも最初からいるように振る舞う貴様は何なんだ。アレか?寄生虫か?パラサイトなのか?全て自分のものとして頂いていっちゃうのか!?許さんぞ。それはともかくヘカーティアはなぜ帰らん。一人消えるだけで嬉しいんだが。
「お前ら帰れよ」
「嫌よ」
「右に同じく」
「…ほいっと」
「あら、その本は」
「二人とも同一人物にしてやるよ」
「スキマ回収術」
「私のは持ってても良いわよん。そうしないと不公平だもの」
「…返す」
「え、なんで」
「とにかく、私は帰るつもりないから」
「…あら、もうそろそろ日が昇る頃ね。それじゃあ私はこの辺で。そろそろピースちゃんも起きて来る頃だし」
「おう、行ってら」
「私は寝かしつけない限り帰らないわよ」
「ほー。所で、これは何でしょう?」スッ
「…本ね。しかも私の…ん?」
「寝ちまえ八雲紫」
「そうね。その本に書かれたらおしまいねぇ」バタンッ
「さて、人里もそろそろ活性化するだろうから…返さねえとな」グワッ
「あ、紫さ…大嶽丸さんですか。失礼ですが、紫様は」
「寝てる。いつまでも居座るモンだからつい寝かした。ほれ、返すよ」
「あ、ありがとうございます」
「良いってことよ。んじゃまた会う日まで」
「わかりました」
…スキマって便利だなぁ。とか思ってると、何だかとても不思議な予感がする。家の前に人がいて、それが俺を呼ぶ気がする。腕を組み、髪が白く、歴史の教師をしてそうな、お隣の寺子屋を住処としている妖怪…慧音じゃん。慧音じゃねーか。
「出てこい干酢都ぉ!!」
「今すぐに!」
「何で日が昇る前あんなにうるさかったんだ!この大馬鹿者が!」ゴツンッ
「おぅ!?」ドカンッ
「全く!提灯を点けてるじゃ…死体!?」
「あ、天人忘れてた」
天人さん、扱いに困るんで多分二度と出てこないんじゃないですかね。