「ん? 何でしょう……この……?」
ギンガは、ぴーしー大陸に到着して早々、何か違和感を覚えていた。
ぴーしー大陸は平和であった。街は栄え、行く人々には活気がある。
しかし、ギンガにとってはそれこそが違和感だった。
(まるで……可もなく不可もない『普通の国』ですね。普通すぎる、と言うべきか)
ギンガは、プラネテューヌのことは言うまでもなく、他三国についても国家機密を除いたほぼ全てを知り尽くしている。
しかし、ぴーしー大陸においてギンガが知るのは地理のみ。ぴーしー大陸の女神の統治に関しては、ギンガですらあまり知らないのだ。
「まぁ、女神候補生様にお会いすれば、色々と知ることができるでしょう」
ぴーしー大陸の女神候補生に会うことに心浮かせながら、ギンガは軽快な足取りで教会へ向かった。
*
「お初にお目にかかります。私、プラネテューヌの女神補佐官ギンガと申します。よろしくお願い致します」
ぴーしー大陸の教会に着いて早々、女神候補生らしき少女に跪き、挨拶をするギンガ。
女神特有の"尊さ"とやらを感知できるギンガは、向こうから言われるまでもなく女神候補生がどの人物か理解していた。
(どーしよ、あんりー……)
ギンガに跪かれながらも、ギンガに聞こえないぐらいの小声で隣の「あんりー」と呼ぶ少女に助けを求めるこのピンク髪の少女こそ、ぴーしー大陸の女神候補生『マホ』。
(どうしようって何よ、マホ)
その横に立つ先程「あんりー」と呼ばれた銀髪の少女の名前は『アンリ』。
ぴーしー大陸の教会員で、マホの親友兼お目付役といったところであり、本人はまだ否定しているが次の教祖候補と言われている。
(……見てアレ。顔の良さだけで宇宙作れそうな人が来るなんて思わなかったんだけど。やばだよ。やばたにえん……!)
(そんなこと言ったって、あなたはこの国の女神候補生なのよ? ちゃんと対応しなさいよ)
(えー、なんか怖い。あんりーやってよ)
(どうしてそうなるのよ!)
女神の内緒話は聞かないと決めているギンガは、本来ギンガの聴覚では耳に入るはずの二人の会話をあえてシャットアウトしていた。
「……えっと、ぴ、ぴーしー大陸の女神候補生、マ、マホです!」
「教会員のアンリです。よろしくお願いします」
緊張のあまり声がうわずったマホと、そんなマホを見て冷静になったのか、そつなく挨拶をこなしたアンリ。
結局、アンリはマホに助け舟を出そうと、客人であるギンガへの対応を自分がしてあげるのだった。
「さて、挨拶も済んだところで、早速本題に入りましょうか。プラネテューヌとぴーしー大陸の国交の開始、そしてプラネテューヌ側からのシェアクリスタルに関する技術提供……でしたね?」
「はい」
「お分かりいただいてるとは思いますが、私は今この場では国交の前段階、つまりただのご挨拶で伺ったので、私には調書にサインをする権限がありません。その権限があるのは、女神ネプテューヌ様ですので」
「わかってます」
「しかし、イストワール……プラネテューヌ教会の教祖から、既に渡して良いと許可されているデータだけは今この場でお渡しします」
「良いんですか……?」
「ええ、勿論。女神様は助け合いですから」
ギンガは屈託のない笑顔でそう言った。
自身が仕えている女神ではなくとも、女神のために何かをしてあげたいというギンガの心情には一切の嘘偽りはなく、たったこれだけのやり取りでギンガはマホとアンリからの信頼を得ることができていた。
「……あの、見て欲しいものがあるんだけ……ですけど」
「言葉遣いなど、直さなくて構いませんよ。マホ様は自然体のままで良いのです。私はこういう性分なので気にすることはありません」
「え、いーの? じゃあさ! ギンガさんに見てほしいものがあるんだけど!」
緊張も紛れたことやギンガの言葉もあり、マホはさっきまでとは大違いな明るい様子を見せ始めた。
「ギンガさん……マホを甘やかさないでください。すぐに調子に乗って変なことをするんですから、この前だって……」
「わー! わー! それ言っちゃダメー!」
親友同士の微笑ましいやり取りを見届けた後、ギンガは教会の奥に案内されていく。
「見てほしいものとは……こちらですか?」
奥の部屋に着いたギンガが見せられたものは、灰色に輝く小さなクリスタルだった。
「これは……クリスタル……いえ、まさか、この方は『女神様』ですか?」
「……驚きましたね。まさか見ただけでそれを理解するなんて……」
魂の形を知覚できるギンガは、クリスタルを見ただけでその正体を看破したのだ。
「このクリスタルは、あーしのお姉ちゃん」
「お姉様……」
「あーしのお姉ちゃんは、足りない資源やエネルギーを補うために、自らの生命活動に使うシェアを最低限にするために肉体すらもこのクリスタルに変えて、眠りについちゃってるんだ……」
シェアエネルギーとは、女神の生命活動に欠かせないエネルギーである。そして、シェアエネルギーを用いることで国のインフラなどを賄うこともできる。
しかし、それは文字通り命を削っていることと同意。シェアエネルギーを失いすぎると、女神は肉体を維持することすら困難になってしまう。
「クリスタルそのものになって休眠しているこのお方こそ、ぴーしー大陸の女神様なのですね」
「ええ、『グレイハート』様です」
「……しかし、国が存続していれば自然とシェアは集まるというもの。ぴーしー大陸の国の雰囲気は何も問題は無さそうに見えましたが、何故ここまでシェアが不足してしまっているのですか?」
「『問題はない』、それが問題なんです」
「と、言いますと?」
「ぴーしー大陸は…………」
ギンガは、アンリからぴーしー大陸における女神の統治についてを聞く。
「…………ということなんです」
「……ふむ、なるほど。ぴーしー大陸は、国としての在り方が先にあり女神様も国民もそれに当てはめるだけ、という統治なのですね。女神様のイメージを大事にするために、女神様は顔すらも国民に見せることはない……確かに、国そのものを存続させるためだけのシステムとしては理にかなってはいます。しかし、肝心の女神様がこうなられるのならば、私にとっては良いものとは言い難いですが」
「はい。それが"これまでのぴーしー大陸"です」
「うん、だから実はあーし……お姉ちゃんの顔すらも見たことないんだ。ある日、国のためにこんなクリスタルにまでなったお姉ちゃんを見せられて、お姉ちゃんがこうだから次の女神はあーしだ、って。まだ変身もできないから『候補生』って名乗ってるままなんだけどね」
「マホは、お姉さん……グレイハート様をクリスタルの姿から元に戻すため、教会や国のあり方すらも変えようと、様々な取り組みをしてきたんです。先程ギンガさんが言っていた国の雰囲気も、昔はもっと無機質なものでした。最近はマホの頑張りがあり、少しずつ改善されてきてはいますけど」
「ま、そこらへんの細かいところ全部あんりーがやってくれたんだけどね」
「マホが私に泣きついてくるからでしょ……しかし、ぴーしー大陸のシェアに関する知識だけでは限界があること、そして他の国と交流をしたいというマホの願いから……」
「……今回の件、というわけですね」
「はい」
ギンガはその場で考え込む。
シェアが足りずに身体が弱った守護女神を見たことは多々あれど、肉体を維持できないほどのシェア不足に見舞われた守護女神は見たことがなかった。
しかし、自らのシェアの知識とそれをさらに超える相棒イストワールの情報量があればなんとかなる、とも思っていた。
「……ふむ。難しいことではありますが、不可能ではありません。マホ様が行おうとしているぴーしー大陸の変革ができれば、お姉様を元の姿に戻すことも可能でしょう。私たちも出来るだけサポートはします」
「ありがとうございます」
「ありがとうギンガさん! それと……もう一つ願い、みたいなものがあって」
「願い……とは?」
「他の国の候補生のみんな、いるっしょ? ネプギアちゃんとか、ユニちゃんとか、ロムちゃん、ラムちゃんも。同じ候補生だから……その……友達になりたいな、って」
「それは……良いですね。皆様に伝えておきましょうか?」
「いや、いーよ。あーしが直接行ってから友達になるし」
「ふふ、そうですか」
それからギンガはマホとアンリに案内されながらぴーしー大陸の中心街を練り歩いた。
「……本日はありがとうございました。早いですが、話もまとまりましたので、ここらで失礼しようと思います」
「えー、もう帰っちゃうの? もっとゆっくりしていけばいーじゃん!」
「それも悪くはないのですが、国交文書に早くネプテューヌ様からのサインももらいたいですしね。善は急げ、といいますから」
「それはそーだけどさー」
「……マホ、あんまりギンガさんを困らせないの」
「ちぇー」
「すぐにまた会えますよ。今度は女神様も……」
ギンガが言い終わる直前、ぴーしー大陸の中心街な方向から爆発音が鳴り響いた。
「「「⁉︎」」」
その音に驚いた三人が街の方へ振り向くと先程までの晴天が嘘のように濁った空と、その下で暴れ回るモンスターのようなものの姿が目に入った。
「なに……あれ……」
「あれは……モンスター……なの……?」
初めて見るタイプのモンスターであることと、それが放つ強大で邪悪なエネルギーにたじろぐマホとアンリ。
しかし、ギンガにはその姿に確かな見覚えがあった。
そしてだからこそ、二人以上に驚く様子を見せた。
「馬鹿な……マジェコンヌ……だと……⁉︎」
ぴーしー大陸の中心街にて暴虐の限りを尽くすそのモンスターの姿は、正にギンガがかつて何度も戦った、マジェコンヌの最終形態であった。
「何故奴が……いや、今はそれよりも……マホ様! アンリさん!」
「は、はい!」
「はい」
「あなた方は連れ出せるだけの国民を連れて、プラネテューヌへと退避してください。アンリさんは出せるだけの船の手配をお願いします」
「わかりました。けど、ギンガさんは……? ……っ、まさか!」
「そのまさかです。私はあのバカをしばきに……いえ、奴を足止めします」
「だったら……あーしも戦……」
「マホ様」
マホの言葉を遮ってでも、ギンガはマホを制止した。
「マホ様は、ぴーしー大陸の女神様、人々の心の光です。あなたに何かあれば、ぴーしー大陸は終わってしまいます」
「……マホ、行くわよ」
納得し切らないマホを、ギンガの意を汲んだアンリが強引に連れて行こうとする。
「でも! あんりー!」
「まだ変身もできないあなたが、あんな強そうなモンスターに立ち向かえるの? ギンガさんの言う通り、私たちは私たちにできることをするしかないわ」
「……っ、ギンガさん」
「はい」
「この国の女神としてのお願い。ここは……任せるから……でも、絶対に死なないで!」
「かしこまりました」
マホとアンリは他の教会員を連れ、できる限りの国民を避難させに向かった。
「行ってくれましたか……さて」
ギンガは去っていくマホとアンリを見届けると、街の中心に浮遊するマジェコンヌを見上げる。
「全く、私がここに来たタイミングでこんなことが起こるとは……」
そして、ネプテューヌリングとリミテッドパープルを起動し、マジェコンヌに向かって翔ぶ。
「……お前の真意を聞かせてもらうぞ、マジェコンヌ!」
マホとアンリの関係はトゥルーエンド後のものが近いです。
あらすじにも書いていますが、前々作前作とは違い原作シスターズvsシスターズのシナリオと大幅に違っています。
キャラと一部設定を使った別物として考えてもらうと一番わかりやすいと思います。