紫の星を紡ぐ銀糸S   作:烊々

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03. 予兆の光闇

 

 

 

「ぴ、ぴーしー大陸の女神候補生のマホ、です。こ、この度は、避難民の受け入れなど諸々、本当にあ、ありがとうございます!」

 

 失意を振り切り、勇気を振り絞り、マホは国の代表者である女神として、ネプテューヌとイストワールに感謝の言葉を述べる。

 

「大変だったね。ここまでくれば大丈夫だよ」

「でも、私たちを逃すために、ギンガさんは死……」

「生きてるよ、ギンガは。だって私が死ぬことを許可してないもん」

「えっ」

「だから生きてるし、君のせいじゃない」

 

 ネプテューヌとギンガの間に、信頼という言葉以上の関係性を察したマホは、それ以上ギンガに対しては何も言わないことにした。

 

「避難民の皆さんには、当面の間臨時の避難所で生活してもらうことになります。しかし、人数のキャパシティがあるので、他の国の女神様にも協力してもらうことになるでしょう。連絡はしていますし、皆さん協力してくれると言っていますから」

「ありがとうございます」

「いえいえ、こんな時ギンガさんなら『女神様は助け合い』と言うのでしょうし、勿論私もそう思っていますから」

 

 イストワールとアンリは、早速今後のことなど真面目な話を始める。

 そんなネプテューヌたちを、物陰から覗く候補生が一人。

 

「ネプギアったら、そんな物陰でウズウズしてないで、出てきなよ」

「えっ! あっ、うん……」

 

 ネプテューヌたちにはバレバレだったようで、声をかけられて出てきたのは、プラネテューヌの女神候補生ネプギア。

 

「えっと、女神候補生のネプギアです。よろしくお願いします」

「ネプギア……ちゃん。よ、よろしくお願い……します」

「もー、ネプギアもマホちゃんも、同じ女神候補生なんだから、そんなにかしこまらなくたっていいじゃん」

「そ、そうだよね。あの、マホさ……マホちゃん!」

「はい!」

「こんな時に言うのもアレかもしれないけど、私たち、友達になろうよ! 同じ候補生だし、色々助け合えるかもしれないから」

「……!」

 

 ネプギアの言葉を聞いたマホは、瞳から涙を零した。

 

「えっ、ど、どうしたのマホちゃん⁉︎」

「その……実は、あーしずっと前からネプギアちゃんに会いたいなって、友達になりたいなって思ってて……! 夢だったんだ。ネプギアちゃんみたいに候補生同士で仲良く過ごしたりするのが。だから……こんな時でも、その夢が叶ったのが嬉しくて……ねぇネプギアちゃん。その……『ぎあちー』って呼んでもいい?」

「ぎあちー……?」

「友達ができたら、そんなあだ名を付けたいって思ってたから……ダメ?」

「ううん! 良いよ! ありがとうマホちゃん!」

 

 過去のぴーしー大陸の習わしにより、他者と接することなく生きてきたマホに、この日初めて同じ女神の友達ができた。

 

「良かったね、マホちゃん」

「そうですね。女神様の友情というものは、いつ見ても尊いものです」

「ギンガから見ればそうだよね……って、ギンガ⁉︎」

 

 ネプテューヌの隣に立っていたのは、ぴーしー大陸にてマジェコンヌに自爆特攻を仕掛けたはずのギンガだった。

 

「はい。あなたのギンガです、ネプテューヌ様。帰りが遅くなってしまい申し訳ありませんでした」

「ギン……」

「おおっと、お待ちくださいネプテューヌ様」

 

 抱き付こうとするネプテューヌを、ギンガは急いで制止する。

 

「私今、全身水浸しでございまして。何せぴーしー大陸から泳いで帰ってきたので」

「関係ないもん」

 

 ギンガの制止を振り切り、思い切り抱き付くネプテューヌ。

 

「死んでないとは思ってたけど、あまり心配かけさせないで」

「はい。申し訳ありませんでした、ネプテューヌ様」

「いっぱい撫でないと許さない」

「濡れますよ?」

「いい」

 

 周りそっちのけでイチャつくギンガたちを、気まずそうに眺めるマホと、微笑ましそうな表情で眺めるネプギア。

 

「ねぇぎあちー。アレ何? 相思相愛カップル的なやつ?」

「違うけどもう似たようなものかな」

「ていうかその……ギンガさん?」

「はい」

「失礼かもしれないけど、思いっきり爆散して……ましたよね?」

「ご心配なく、アレは元々そういう技です」

 

 『ギャラクティカエクスプロージョン』は、自らの身体をエネルギーに変えて爆発する技であるが、爆発後に拡散したエネルギーを再構築して肉体を再生できる。つまり、敵への攻撃と離脱の両方を行える技なのである。使用後にしばらく戦闘が行えなくなるという欠点はあるが。

 ギンガはマジェコンヌへの攻撃後、海中にて身体を再構築し、潜水してマジェコンヌから身を隠しながらプラネテューヌまで泳いで帰ってきたのだ。

 

「あの局面ではあの技が最適でしたので。ご心配をおかけして申し訳ありませんでした、マホ様、アンリさん」

 

 謝るギンガの横顔に、タオルを投げつけるイストワール。

 

「へぶっ」

「とりあえず着替えてきたらどうですか? 部屋中が水浸しになりますから」

 

 そう言ったイストワールの表情は、ギンガが生きていた喜びでの笑顔ではありながらも、ギンガが無茶をしたことや生きていることを自分に交信せずに黙っていたことへの憤りも感じられた。

 

「……そうします」

 

 ギンガもそれを察し、素直にイストワールに従う。

 数分後、着替えたギンガが皆の元に戻り、事の詳細を話す。

 

「とりあえず、ギンガさんは何と戦ったのですか?」

「マジェコンヌです」

「マザコングと……? あのおばさんまだ何か悪いこと企んでたってこと?」

「いいえ、違います。奴はマジェコンヌであってマジェコンヌではありません。細かいことは分かりませんが、何者かに身体を乗っ取られていると考えた方がいいでしょう」

「乗っ取られている……って」

「私の攻撃の影響で、一時的に奴を呼び覚まされ、その本人から聞いた情報なので、間違いではないでしょう。その時、奴は私に殺すように言いました。結局私に奴を殺すことはできなかったのですが。情けないものです。あんなやつに情を持ってしまうとは……」

「……そっか」

 

 ネプテューヌは、少しだけ安堵していた。

 ギンガから非情さが失われていたことは、ネプテューヌにとっては好ましいことだった。

 そしてネプテューヌだけでなく、ギンガとマジェコンヌの関係性を知らないマホとアンリを含め、その場にいたもの全てがギンガを咎める気はなかった。

 

「私が与えたダメージの影響で、しばらくは奴も下手に動けはしないはずです……が、敵の正体がわからない以上、私たちは後手に回るしかない現状ですね……」

「何か悪いことをしだした瞬間に、本気でこらしめに行くしかないかぁ。いーすん」

「なんですか?」

「いつでもハイパーシェアクリスタルを使える状況にしておきたいな。アレの管理は今いーすんに任せてるじゃん?」

「ネプテューヌさんがギンガさんとの模擬戦で乱用しますからね。一度ならず何度も」

「わたし悪くないもーん。わたしを昂らせるギンガが悪いかな」

「はい、私のせいです。ネプテューヌ様は悪くありません」

「ギンガさんはそうやってまたネプテューヌさんを甘やかす……ですが、わかりました。ハイパーシェアクリスタルはネプテューヌさんに返しておきますね」

「ありがといーすん!」

 

 それから数週間。

 避難民の受け入れを四大国で分配し、また四大国でぴーしー大陸の復興計画を進行させながら、マジェコンヌの捜索も続けていた。

 しかし、マジェコンヌの目撃情報はどこの国からもなかった。

 

「平和だねー」

「ええ、平和ですね。平和すぎるほどに」

「マザコングが何かしてくると思ってたけど、何もしてこないね」

「私の攻撃の影響を鑑みても、数週間も行動不能になるとは思えないのですが……」

「何か策を練ってるのかなぁ?」

 

 この数週間、マジェコンヌに警戒し続けているギンガとネプテューヌであったが、あまりにも何も起こらないため、ギンガはともかくネプテューヌの気は少し緩み始めていた。

 

「そんでね、このパーツとこのパーツを組み合わせれば、出力が二倍どころか二乗になるってこと!」

「すごいよマホちゃん‼︎」

「と言っても、システムの同調が上手くいかないから、その出力上昇は机上の空論でしょ?」

「もー、あんりーったらロマンがないなぁ」

 

 そんなネプテューヌたちの側で、謎の機械談義で盛り上がっているネプギア、マホ、アンリの三人。

 アンリはともかく、マホはネプギアとの交流を通じてすっかり持ち前の明るさを取り戻していた。

 

「こうなったらさ、あーしたちで作っちゃえば良いんじゃない? そのマジェコンヌ……? ってやつを探知するレーダーみたいなの」

「それ……良いかも。私とマホちゃんとアンリちゃんで協力すれば、上手くできるかもしれない!」

「悪くはないと思うけど、その肝心のマジェコンヌを探知するためのモノはどうするの? 何か特別な周波数を出しているとかなら簡単だけど……」

「そうだよね……あの、ギンガさん」

「どうしましたか、ネプギア様」

「マジェコンヌの痕跡を辿るためのモノって聞いて、何か思い浮かぶものはありますか?」

「ふむ……そういえば……思い当たるものはありますね」

「あるんですか? それは一体?」

「ナスです」

「「「「な、ナス……?」」」」

 

 ギンガの口から出た予想外の言葉に驚く三人と、心底嫌そうな表情をするネプテューヌ。

 

「奴の作るナスは極めて微量ながら魔力を有しており、その魔力はマジェコンヌの魔力に酷似しています。つまり、奴はナスからエネルギーを回収できるのです。おそらく、それが奴がナス栽培を続けていた理由の一つなのでしょう。奴のナスの魔力を感知するレーダーを作れば、奴の居場所を突き止めることができるかもしれませんね」

「なら、早速マジェコンヌ農園のナスを買いに行きましょう!」

 

 

 

(ギンガ……奴は私を殺すことができなかった。となれば、女神どももその保証はない。それではダメなんだ。そもそも私は女神どもの味方などではなかったはずだろう。討つか討たれるか。私たちはそうだったじゃないか。私も……覚悟を決める時か)

 

「随分と大人しくなったな。私に身体を渡さんと抵抗を続けることが無駄だとようやく理解したようだ」

 

『黙れ……』

 

「ふっ……さて、あの男から受けたダメージも回復し、以前よりもこの身体が私の魂に馴染んできた。まさかこんな植物を食べることで私の魔力が回復できるとは思わなかったがな」

 

『……』

 

「下準備も済んだ。そろそろ始めよう。この世界を……破壊する……!」

 

 

 


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